本記事では以下雑誌にて公開した「奈良県と東京都におけるクサイチゴハケフシの初記録」の本文を掲載します。冊子版およびpdf版をお求めの方は以下のリンクよりご購入下さい。同定・情報の間違いなどは次号以降で修正しますのでご報告下さい。
クサイチゴハケフシとは?
クサイチゴハケフシはキイチゴハモグリダニ Phyllocoptes carilubi Keifer, 1938 あるいはその近縁種によりクサイチゴ Rubus hirsutus Thunb. の葉に形成されたと考えられる虫こぶ(虫えい)で(徳田他,2015)、かねてからインターネット上で報告されていたが、徳田ら(2015)によって初めて文献上で佐賀県から報告され、新称提唱された。正式に新称提唱される以前に同名を称したISSNのない雑誌に記された神奈川県の記録(大浦,2014)があるものの、その後文献上の記録はないものと思われる。
筆者のクサイチゴハケフシの記録
筆者は奈良県と東京都で同虫こぶを確認しているので、ここに報告する。
多数の虫こぶ, 奈良県奈良市中町近畿大学奈良キャンパス, 10. I. 2013, 筆者撮影(図 3).
多数の虫こぶ, 東京都渋谷区代々木神園町代々木公園, 22.III.2020, 筆者撮影(図 4).
虫こぶは注目度が低いためか、専門家以外による文献上の報告は少なく、インターネット上で確認された報告についても貴重だと思われるので、ここでまとめておく。
インターネットで確認された同虫こぶのデータ
- 群馬県(撮影日不明, K. Koizumi) (Koizumi, 2021閲覧)
- 東京都杉並区久我山玉川上水(撮影日不明, hiro1803) (hiro1803,2015投稿)
- 東京都目黒区林試の森公園(2010.11.13., フッカーS) (フッカーS,2015投稿)
- 東京都調布市深大寺元町神代植物公園(2012.06.10., wombat) (wombat,2020最終更新)
- 東京都立川市南地域(2019.12.07., 中野琢磨) (立川市環境対策課・ムシムシ探検隊・立川,2021閲覧)
- 神奈川県愛川町県立あいかわ公園(撮影日不明, 県立あいかわ公園) (県立あいかわ公園, 2020投稿)
- 兵庫県尼崎市椎堂猪名川自然林(2019.11.7., 自然と文化の森協会) (自然と文化の森協会,2019投稿)
- 山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台(2015.01.18., 平家蟹) (平家蟹,2015投稿)
- 地点不明(撮影日不明, クラマ) (クラマ,2015投稿)
これらの記録から少なくとも本州関東~中部地方、九州には分布すると思われ、クサイチゴ自体が普通種であることから、かなり広い地域でみられる可能性が高い。
クサイチゴハケフシの形成者はキイチゴハモグリダニなのか?
同虫こぶは徳田ら(2015)で報告されるまで、少なくともインターネット上ではナガバモミジイチゴ Rubus palmatus Thunb. var. palmatus に寄生したキイチゴハモグリダニによって形成されるキイチゴハケフシと同一視する認識が広まっていた。キイチゴハモグリダニは北米では Rubus vitifolius Cham. & Schltdl. の葉下面の徘徊者として確認されており(Keifer, 1938)、Huang(1971)は R. vitifolius に寄生するハモグリダニとナガバモミジイチゴに寄生するハモグリダニを同じキイチゴハモグリダニとした上で、加害のされ方の違いの要因は今後の研究に委ねるとしている。また、台湾でもオオバライチゴ Rubus croceacanthus H.Lév. 葉下面の徘徊者として確認されている(Huang & Wang, 2009)。その他に国内ではナワシロイチゴ、クマイチゴ、バライチゴにも種不明なフシダニによる虫こぶ(ナワシロイチゴハケフシ、クマイチゴハクボミケフシ、バライチゴハコブケフシ)の形成が確認されている(湯川・桝田,1996)。クサイチゴハケフシ及び上記した虫こぶを形成するフシダニについても分類学的観点からキイチゴハモグリダニと同種であるかの検討が必要であると考えられる。
謝辞
直接お声がけできなかったものの、インターネット上の優れた観察記録により本稿の考察が深まった。引用させていただいたサイトの各撮影者の方々には厚くお礼申し上げる。本虫こぶの情報不足から引用させていただいたが、各記録の文献上の報告権利は各撮影者にあり、撮影状況など含め、正式な記録を行う意思のある方は改めて報告していただきたいと存ずる。
引用文献
Huang, K. W., & Wang, C. F. 2009. Eriophyoid mites (Acari: Eriophyoidea) of Taiwan: thirty-seven species from Yangmingshan, including one new genus and twenty-two new species. Zootaxa 1986(1): 1-50. ISSN 1175-5326, https://doi.org/10.11646/zootaxa.1986.1.1
Huang, T. 1971. Records of Ten Eriophyid Mites Associated with Plants in Japan (With 64 Text-figures). Journal of the Faculty of Science, Hokkaido University. Ser. 6, Zoology 18(1): 256-276. ISSN: 0368-2188
Keifer, H.H. 1938. Eriophyid Studies II. Bulletin of the Department of Agriculture, State of California 27(3): 301-323. ISSN: 0096-0691
大浦晴壽. 2014. 横浜自然観察の森で見られる虫こぶ調査. 横浜自然観察の森調査報告 20: 42-53.
徳田誠・中原正登・山﨑工・上赤博文. 2015. 佐賀市金立山における佐賀自然史研究会第 58 回観察会 「植物を操る昆虫たちの不思議: 虫えい探しに出かけよう」 で確認された虫えい. 佐賀自然史研究 20: 25-35. ISSN: 1341-5689
湯川淳一・桝田長. 1996. 日本原色虫えい図鑑. 全国農村教育協会, 東京. 826pp. ISBN: 9784881370612
引用サイト
平家蟹. 2015-01-30投稿. 花盗人の花日記. クサイチゴ. https://hananusubito.blog.fc2.com/blog-entry-6884.html?all
hiro1803. 2015-05-16投稿. 花に心癒されて・・・. クサイチゴの虫こぶ?ガマズミの花・二人静&庭のこぼれ種のマリーゴールド (28). https://plaza.rakuten.co.jp/hiro1803/diary/201505160000/
フッカーS. 2015-10-25投稿. 東京23区内の虫 2. キイチゴハケフシ(キイチゴハモグリダニの虫えい). http://tokyoinsects2.blog.fc2.com/blog-entry-2501.html
県立あいかわ公園. 2020-03-07投稿. あいかわ公園自然観察ガイド. 葉や芽に付く変なもの その2. https://aikawa-park.hatenablog.com/entry/2020/03/07/080000
Koizumi, K. 2021-01-02閲覧. かわ遊び・やま遊びのページ. 奇妙な植物:虫えい(虫こぶ)など・121種. http://www9.wind.ne.jp/matu-ko/omosiro2.htm#%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%81%E3%82%B4%E3%83%8F%E3%82%B1%E3%83%95%E3%82%B7
クラマ. 2015-04-20投稿. 趣味の自然観察, デジカメ持ってお散歩. キイチゴの葉にできる虫こぶ. キイチゴハケフシ. http://shizensanpo.seesaa.net/article/417605299.html
自然と文化の森協会. 2019-12-05投稿. 自然と文化の森協会. 猪名の里の生き物たち95.虫こぶ:クサイチゴハケフシ~キイチゴハモグリダニの虫こぶ~. http://morikyoukai.sblo.jp/article/186884426.html
立川市環境対策課・ムシムシ探検隊・立川. 2021-01-02閲覧. みんなでつくろう!立川いきものデータベース. クサイチゴハケフシ. https://www.ikimono-tachi.jp/mu_wamei.php?sr=photo&ad=asc&of=0&tx=ALL&aks=ALL&wamei=%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%81%E3%82%B4%E3%83%8F%E3%82%B1%E3%83%95%E3%82%B7
wombat. 2020-03-01最終更新. ゆっくり歩こうモンタ~ニュ. 虫こぶ. http://wombat.moo.jp/iroiro/kobu/kobu.html