イヌツゲ・キンメツゲ・マメツゲ・ツゲの違いは?似た種類の見分け方を解説!花は人から見ると地味なのに昆虫から見ると大人気?種子散布は鳥に頼る?

植物
Ilex crenata var. crenata

イヌツゲは生け垣など庭でよく栽培されるため有名ですが、元々は日本で野生に分布する種類です。その区別は地味ではあるものの、葉が特徴的であるため困ることは少ないですが、多数の園芸品種が存在しており、その区別は少し難しいかもしれません。ここではキンメツゲ・マメツゲを中心にいくつかの園芸品種の区別方法を示します。主に葉の付き方や形で区別できます。なおツゲとは全く異なる植物です。その花には種類・個体数ともに多数の昆虫がやってくるようでかなり人気な様子が伺えます。しかしその理由は研究不足で不明です。種子散布は鳥に頼り、こちらも鳥にとってかなり人気メニューになっているようですが、こちらもどのような鳥が好むか、栄養素はどのようになっているのかなど研究は不足しています。本記事ではイヌツゲの分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

スポンサーリンク

イヌツゲ・キンメツゲ・マメツゲ・ツゲの違いは?

イヌツゲ(犬柘植) Ilex crenata var. crenata は本州(岩手県以南)・四国・九州に分布し、丘陵の二次林から山地まで広く生息する常緑小高木です(林,2014;神奈川県植物誌調査会,2018)。庭や墓地でも栽培され、変種も多数あります。「雄の木」に当たる雄株と「雌の木」に当たる雌株が存在する雌雄異株です。

イヌツゲが含まれるモチノキ科モチノキ属の種類は多いものの、葉が小さいため、沿海地の暖地に多いオオバイヌツゲ Ilex crenata var. crenata f. latifolia や林内に多い稀なツルツゲ Ilex rugosa を除いて区別に迷う種類は居ません。

しかし、いくつか園芸品種があるため区別に困ることがあるようです。その中でも特によく検索されているキンメツゲ(金芽柘植) ‘Kinnmetsuge’、マメツゲ(豆柘植) f. bullata の区別について解説します。

キンメツゲの違いですが、イヌツゲでは若葉は成葉と違いはありませんが、キンメツゲでは若葉が黄色くなっています。この点が最も大きな違いです。しかし、若葉がなくなると区別が難しくなります。

イヌツゲとキンメツゲには他にも違いがあり、イヌツゲでは比較的葉が少なく疎ですが、キンメツゲでは比較的葉が多く外から密に見えます。またイヌツゲでは葉が大きく長楕円形に近いですが、キンメツゲでは小さく円形に近いです。これはおそらく園芸用に目隠しとして利用されるために葉が密に生えるように選抜されたからだと思われます。

またオウゴンツゲ(ゴールデンジェム)‘Golden Gem’と呼ばれる品種もあるようですが、キンメツゲでは成長すると葉色が戻るのに対して、ゴールデンジェムでは成熟するとイエローグリーンになるようです。

一方、マメツゲの違いですが、イヌツゲでは葉は平らか、葉脈の主脈を谷折りに曲がることがある程度ですが、マメツゲでは葉面が上側に丸く反っています。こちらはすぐに分かるでしょう。

この他にもコバノイヌツゲ f. microphylla、葉が線状楕円形のホソバイヌツゲ f. longifolia、亀甲形のキッコウツゲ f. nummularia、果実が黄色いキミノイヌツゲ f. watanabeana など多数の品種があります。

なお、上述のオオバイヌツゲ Ilex crenata var. latifolia はイヌツゲより葉が大きく、葉の先は丸く、鋸歯があり、成葉は赤味ある黄緑色である点で区別がつきます。これは野生種に限られます。

名前の元となったツゲはツゲ科で全く分類が異なり、イヌツゲでは葉は互生で鋸歯がありますが、ツゲでは葉は対生で全縁で葉先は凹むか丸いです。

イヌツゲの葉上面
イヌツゲの葉下面
イヌツゲの樹皮
キンメツゲの葉上面 、やや小さく密に生える
キンメツゲの葉下面
キンメツゲの若葉|『Amazon』より引用・購入可能
マメイヌツゲの葉上面、葉は反る
マメイヌツゲの葉上面、葉は反る
マメイヌツゲの葉下面
マメイヌツゲの葉下面
オウゴンツゲの葉
オウゴンツゲの葉

研究例は少ないが色んな昆虫に大人気?

花期は6〜7月、花は雄株では雄しべだけの雄花、雌株では雌しべだけの雌花が付きます。白色で、4枚から構成され、大きな特徴はヒトが見る限り、少なそうです。

イヌツゲの花

非常に地味で中々目を凝らさないと気づきませんが、無数に花をつけるためか、昆虫にとってはかなり人気なようで、研究ではニホンミツバチやセイヨウミツバチ、ミズイロオナガシジミの記録がありますが(藤原・山口,2020;難波,2020)、実際はヒメアリ、ヒメヒラタアブ、キンバエ属の一種、コアオハナムグリ、コメツキムシ科の一種が訪れている様子をインターネットで確認しました。その報告によると沢山の種類がくるだけでなく、やってくる個体数も多かったようです。この写真でも小さなアザミウマ目の一種が確認できます。しかし、人気の秘密は研究が不足しているので、詳しくは分かりません。これからの研究に期待したいです。

イヌツゲは黒く球形で鳥によって散布される

果実は黒い球形で、種子は鳥によって散布されています(唐沢,1978;藤原・山口,2020)。

東京都東部および千葉県西部の都市化区域で行われた研究では果実食鳥の糞に含まれる種子が調査されています(唐沢,1978)。その結果出現率50%以上で、採集個体50個以上であった8種のうちにイヌツゲは含まれていました。都市部で植栽個体を含む調査なので、森林内でも同様であるかは分かりませんが、確かにイヌツゲの幼木を林内のあちこちで見かけるので、鳥に好まれていることは間違いなさそうです。

ただしこの研究では具体的にどのような鳥が好んでいるのかについては明らかになっていません。別の観察によると、ハト類、ヒヨドリ、ツグミ類が食べる様子が見られているので(叶内,2021)、このような鳥が主体となって果実を食べ種子散布している可能性はあるでしょう。

しかし、黒い球形の果実であることが赤色の果実と違って鳥の好き嫌いにどのような影響があるかは不明です。この点は今後の研究に期待したいです。

キンメツゲの未熟果
イヌツゲの果実

他に似た種類はいる?

ツルツゲはイヌツゲによく似ていますが、林内に稀に生えるのみで、幹は這い、葉には網目状のシワがあります。

イヌツゲがモチノキ属には他にも多数種類がいますが、上述のように葉は大きくあまりに似てません。別記事で確認してみてください。

引用文献

藤原愛弓・山口喜久二. 2020. 宮城学院女子大学における開花植物の季節的推移 ―大学構内におけるミツバチの蜜・花粉源植物の調査―. 生活環境科学研究所研究報告 52: 19-24. ISSN: 1346-6534, https://doi.org/10.20641/00000488

林将之. 2014. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類. 山と溪谷社, 東京. 759pp. ISBN: 9784635070324

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

叶内拓哉. 2021. 野鳥と木の実ハンドブック 増補改訂版. 文一総合出版, 東京. 104pp. ISBN: 9784829981672

唐沢孝一. 1978. 都市における果実食鳥の食性と種子散布に関する研究. 鳥 27(1): 1-20. https://doi.org/10.3838/jjo1915.27.1

出典元

本記事は以下書籍に収録されてたものを大幅に加筆したものです。

error:
タイトルとURLをコピーしました