サルスベリとシマサルスベリの違いは?花は偽の花粉を囮にして受粉を成功させていた!?ハチを騙す驚きの戦術!種子は風散布だけじゃない!?(花の生態がわかる写真図鑑 15)

ミソハギ科
Lagerstroemia indica

サルスベリとシマサルスベリは日本ではどちらも植栽されることがあり、都市部でもあちこちで見かける植物です。幹肌がスベスベになることから他種からの区別は容易ですが、2種間は非常に形態が類似しているため、殆ど混同されていると言っても良いかもしれません。しかし、樹高と葉の形態を観察することで区別可能です。特に葉先の鋭さや葉柄の有無は重要な区別点となるでしょう。そんなサルスベリとシマサルスベリの花の基本構造は同じで、雄しべは外側の長く付き出した雄しべと中央の短い雄しべの2種類から構成されます。この2種類の雄しべはかなり特徴的ですが、様々な研究によって中央の雄しべは花粉は不稔(受粉しても種子ができない状態)で、昆虫の餌用に発達し、外側の雄しべのみが受粉に貢献することが分かっています。これはハナバチへの高度な適応です。果実は蒴果で、中の種子は翼を持っており、風によって種子散布を行うことが容易にわかりますが、それだけではなく翼は水を含むことで膨張し、水流散布も行えることが指摘されています。本記事ではサルスベリとシマサルスベリの分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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猿も木から落ちる?ツルツルの幹肌を持つ中国原産の庭木

サルスベリ(百日紅) Lagerstroemia indica は中国南部原産で、原産地では半日陰の土地や肥沃な畑に生える落葉低木~小高木です(茂木ら,2000;Wu et al., 2007)。世界的に栽培され、日本でも江戸時代以前に渡来し、庭木、街路樹、公園樹として広く利用されます。和名は樹皮が薄くはげ落ち、淡い色の木肌が現れ、サルが登れないほどだと形容されたことに由来します。

シマサルスベリ(広義)(島百日紅) Lagerstroemia subcostata は中国、台湾、日本(屋久島、種子島、奄美大島、沖縄)、フィリピンに分布し、林縁や川辺に生える落葉小高木~高木です(Wu et al., 2007)。日本の本土では稀に公園樹や庭木として利用されます。シマサルスベリ(広義)はシマサルスベリ(狭義) Lagerstroemia subcostata var. subcostata と ヤクシマサルスベリ Lagerstroemia subcostata var. fauriei に分けられます。

どちらもミソハギ科サルスベリ属に含まれ、日本ではどちらも植栽されることがあり、幹肌から他種からの区別は容易ですが、非常に形態が類似しているため、殆ど混同されていると言っても良いかもしれません。どちらも樹皮のコルク層がはがれ、幹肌はスベスベになりますし、花の形も殆ど同じです。葉序は枝の左右に2枚ずつ互生するコクサギ型葉序で、しばしば対生に見えることも共通です。

サルスベリとシマサルスベリの違いは?

サルスベリとシマサルスベリ(広義)の違いを見分けるのは確かに少し難しいものの、樹高と葉の形態を観察することで区別可能です(林,2014)。

サルスベリでは樹高が2~10mと低く、葉先は鈍いものが多くやや尖る葉もある程度であるのに対して、シマサルスベリ(広義)では樹高が10~20mと高く、葉先は長くよく尖ります。

また、私が最も注目しているのは葉柄で、サルスベリでは葉柄の長さが0~1mmと殆ど葉柄が無いといえるのに対して、シマサルスベリ(広義)では2~5mmと短めではありますがはっきり確認できます。

一応、花の色についてはサルスベリは原種では赤紫色ですが、シマサルスベリ(広義)は日本で見られるものはほとんど白色とされてます。しかし、花の色が白色のサルスベリの品種であるシロバナサルスベリ Lagerstroemia indica ‘Alba’ が知られており、シマサルスベリ(広義)についても国外では変異があるとされているため、色は同定の根拠にせず、やはり葉を確認するのが望ましいでしょう。

シマサルスベリ(狭義)とヤクシマサルスベリの違いとしては、シマサルスベリ(狭義)は沖縄に分布し、葉が太く、枝などの毛が多いのに対して、ヤクシマサルスベリは屋久島、種子島、奄美大島に分布し、葉が細長く、枝などの毛が少ないといった点が挙げられます。

サルスベリの樹形
サルスベリの樹皮
サルスベリの花
シロバナサルスベリの葉:葉柄は殆ど無い
シロバナサルスベリの花
シマサルスベリの葉上面:僅かだが葉柄がある
シマサルスベリの葉下面
シマサルスベリの樹皮
シマサルスベリの花:色は白色のみであるとされている
シマサルスベリの未熟果
ヤクシマサルスベリの樹形:時期が遅く落葉済みだった(屋久島産)
ヤクシマサルスベリの樹皮(屋久島産)

サルスベリの花の構造は?

サルスベリとシマサルスベリの花の基本構造は同じです(茂木ら,2000;Wu et al., 2007)。

サルスベリは花期が7〜10月で、花序は円錐花序でほぼピラミッド形、長さ7~20cm、微軟毛があり、密に花がつきます。花は直径3〜4cm、ピンク、赤色、白色などがあり、白色の個体はシロバナサルスベリと呼ばれます。花弁は6個でうちわ形、下部は細くて長く、上部は直径約1.3cmのほぼ円形で、ふちはフリル状に縮れて波打ちます。1本の雌しべに加えて、雄しべは32~42個あります。雄しべは外側の6本ある長く付き出した葯が紫色の雄しべと中央の短い雄しべの2種類から構成されます。

シマサルスベリは花期が6~8月で、円錐花序はピラミッド形、長さ7~16cm、灰褐色の軟毛があり、密に花がつきます。花は白色~ピンク色~紫色(日本で見られるものはほとんど白色)です。花弁は6個でうちわ形、長さ0.35~0.6cmの下部を含めて長さ0.7~1.0cm、ふちはフリル状に縮れて波打ちます。雄しべは15~30個あり、雄しべは外側の6本ある長く付き出した雄しべと中央の短い雄しべの2種類から構成されます。

サルスベリの花
シロバナサルスベリの花

サルスベリは囮の雄しべと本命の雄しべを持っていた!?

サルスベリ類には不思議な点があります。なぜ2種類の雄しべが存在するのでしょうか?

この構造の秘密は多数の研究から詳しく調べられて明らかになっています(朝日新聞社,1997;多田,2002;Nepi et al., 2003)。

上述のように外側の6本の雄しべでは葯が紫色で長く、中央の雄しべでは葯が黄色くて短くなっていますが、中央の雄しべは花粉は不稔(受粉しても種子ができない状態)で、昆虫の餌用に発達しているのです。

サルスベリにとっては長い雄しべが本命で、昆虫が中央の雄しべに抱きつくと、外側の雄しべは重みで曲がり昆虫の背中に花粉が自動的に付きます。こうして受粉に必要な花粉を食べ尽くされるのを防いでいると考えられます。

更に成分の観点でも、中央の雄しべでは単糖であるグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)というエネルギー源が多く含まれており、化学的に簡単な構造なのでサルスベリにとっても製造しやすく、昆虫にとっても消化吸収しやすいものとなっています。

一方、外側の雄しべでは二糖類であるスクロース(ショ糖)というエネルギー源が含まれており、化学的にグルコースとフルクトースが合体(化合)したもので、作るのは少し大変ですがより品質の良いエネルギー源と言えます。そのため、花粉の生存率が高かったり、雌しべにたどり着いたときに上手く受粉しやすくなっているのです。

具体的に訪れる昆虫の種類については、これまでの説明から推測されるように花粉を食べる昆虫で、イタリアの研究ではミツバチが多いとされています(Nepi et al., 2003)。実際にやってくる昆虫の種類の比率を調べた日本の研究でも、花粉も食べるハナバチが80%を占めて(横井ら,2008)、蜜だけが目当ての蛾は全く来ません(池ノ上 ・金井,2010)。やはりハナバチに狙いを定めた専門的な受粉戦略であると言うことが出来そうです。

もう1つ気になる点はシロバナサルスベリやシマサルスベリのように花の色に変異がある点があるかもしれません。しかし、このことはまだ研究されておらず、やってくる昆虫に違いがあるのかなどは分かっていません。まだサルスベリには謎が残されていると言えるでしょう。

果実は蒴果で種子は風散布と水流散布を両立していた!?

果実はサルスベリ属共通で蒴果です。

サルスベリの蒴果は直径7mmほどの球形で、熟すと6裂します。種子は長さ4〜5mm、広い翼があります。果期は9~11月です。

シマサルスベリの蒴果は直径6~9mmほどの楕円形で、熟すと6裂します。種子は翼を含めて長さ約4mm、広い翼があります。果期は7~10月です。

種子は「広い翼」の存在から想像できるように、開いた果実から振り落とされた後、風を受けることで長距離を移動します。

しかし、この翼の役割はこれだけではないことが分かっています(Pigg & DeVore, 2005)。

翼は乾燥している時は紙のように薄くなっています。しかし水に漬けておくと、数日後には翼は元の厚さの数倍に膨張し、しっかりとした柔組織からなるパッドになることが観察されているのです。

このような変化はどのような役割があるのでしょうか?

直接の観察例ではありませんが、水で膨張した翼の内部は空洞の存在が確認されています。つまりこの空洞に空気を蓄えて、種子が水に落ちた場合に浮いた状態を維持するための手段として機能している可能性が指摘されています。また、沼地に生える場合、酸素が欠乏した状態で発芽することになりますが、この時、中央の空洞に溜まった空気はシュノーケリング装置としても機能し、苗の酸素を保証する役割が考えられています。

このような適応は元々サルスベリ属の祖先が湿地の縁またはその近くで生息していたと関係していると考えられています。現在ではサルスベリ属は必ずしも水辺に生息しているという訳ではありませんが、今でも水辺に生える個体群も確認されており、そのような環境ではこの機能が効果的に働いていると思われます。

サルスベリ属は風散布と水流散布を巧みに併用することで生息域を増やしてきたようです。

引用文献

朝日新聞社. 1997. 植物の世界4 種子植物. 朝日新聞社, 東京. ISBN: 9784023800106

林将之. 2014. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類. 山と溪谷社, 東京. 759pp. ISBN: 9784635070324

池ノ上利幸・金井弘夫. 2010. 夜間における蛾の訪花活動. 植物研究雑誌 85(4): 246-260. ISSN: 0022-2062, https://doi.org/10.51033/jjapbot.85_4_10230

茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花 2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041

Nepi, M., Guarnieri, M., & Pacini, E. 2003. “Real” and feed pollen of Lagerstroemia indica: ecophysiological differences. Plant Biology 5(3): 311-314. ISSN: 0894-4563​, https://doi.org/10.1055/s-2003-40797

Pigg, K. B., & DeVore, M. L. 2005. Shirleya grahamae gen. et sp. nov. (Lythraceae), Lagerstroemia-like fruits from the middle Miocene Yakima Canyon flora, central Washington State, USA. American journal of botany 92(2): 242-251. https://doi.org/10.3732/ajb.92.2.242

多田多恵子. 2002. したたかな植物たち あの手この手の○秘大作戦. SCC books, 東京. 238pp. ISBN: 9784886479228

Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. 2007. Flora of China. Vol. 13 (Clusiaceae through Araliaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723597

横井智之・波部彰布・香取郁夫・桜谷保之. 2008. 近畿大学奈良キャンパスにおける訪花昆虫群集の多様性. 近畿大学農学部紀要 41: 77-94. ISSN: 0453-8889, http://id.nii.ac.jp/1391/00005214/

出典元

本記事は以下書籍に収録されてたものを大幅に加筆したものです。

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