ヤブラン・ヒメヤブラン・コヤブランはいずれもクサスギカズラ科ヤブラン属で林内に生える常緑多年草です。園芸でも観賞用に栽培され、花も葉もそっくりであることからよく混同される3種です。その区別は難しいですが、葉の幅と花の数や花茎の長さを記録すればはっきり分かるでしょう。本記事ではヤブラン属の分類について解説していきます。
ヤブラン・ヒメヤブラン・コヤブランとは?
ヤブラン(藪蘭・薮蘭) Liriope muscari は日本の本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球;朝鮮、中国、台湾に分布し、照葉樹やスギ植林の林内に生える常緑多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。花期は8〜10月。
ヒメヤブラン(姫藪蘭) Liriope minor は日本の北海道、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国に分布し、海岸からシイ・カシ帯の草地や土手、疎林の中に生える常緑多年草です。花期は7〜9月。
コヤブラン(小藪蘭) Liriope spicata は別名リュウキュウヤブラン。日本の本州(中部)~鹿児島、屋久島;朝鮮、台湾、中国、インドシナに分布し、山地の林内などに生える常緑多年草です。花期は7~9月。
いずれもキジカクシ科(クサスギカズラ科)ヤブラン属で林内に生える常緑多年草です。園芸でも観賞用に栽培され、花も葉もそっくりであることからよく混同される3種です。コヤブランが「ヤブラン」として販売されていることもよくあります。そのため区別が難しいでしょう。
ヤブラン・ヒメヤブラン・コヤブランの違いは?
これら3種の識別は慣れないとかなり難しいですがきちんと違いが確認されています(Wu & Raven, 2000)。
まず、ヤブランでは匍匐枝がないのに対して、ヒメヤブランとコヤブランでは匍匐枝を出すという違いがあります。
この点は決定的な違いで根本を探せばはっきりするかもしれませんが、中々見つけることができないかもしれません。
他にも花に違いがあります。ヤブラン属はいずれも普通は淡紫色の小さな花を総状に多数つけます。
ヤブランでは花の色が濃くて、1つの花茎は高さ30~50cmとかなり大きく、多数の花が密集しているのに対して、ヒメヤブランとコヤブランでは花の色が薄くて、1つの花茎は高さ20cm以下と小さく、まばらにしかつけないという違いがあります。
これで大別はできるでしょう。
ヒメヤブランとコヤブランに関しては一応植物学的には、ヒメヤブランでは雄しべの葯の長さが1~1.5mmであるのに対して、コヤブランでは2mmであるという違いが挙げられています。
しかし、あまり実用的ではないでしょう。
他の違いとしてはやはり花に違いがあり、ヒメヤブランでは1つの花茎に花を5~12個しかつけないのに対して、コヤブランでは1つの花茎に花を20~200個つけます。
更に葉に関しては、ヒメヤブランでは葉の幅が1.5~3mmしかありませんが、コヤブランでは葉の幅が4~7(~10)mmもあります。
以上2点は決定的な違いです。
ヤブランの品種は?
ヤブランにはいくつか品種が知られています。
フイリヤブラン f. variegata は葉が斑入りの品種です。
シロバナヤブラン f. albiflora は花が白い品種です。
オキナヤブラン f. praealba は芽吹いてくる新葉が白い品種です。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Wu, Z. Y., & Raven, P. H. eds. 2000. Flora of China. Vol. 24 (Flagellariaceae through Marantaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 431pp. ISBN: 9780915279838