アマチャヅル・ヤブガラシ・アマチャ(甘茶)の違いは?似た種類の見分け方を解説!利用方法は?花・果実の構造は?

植物
Gynostemma pentaphyllum

アマチャヅルは日本の山地や藪に生えるつる性多年草ですが、よく混同される種類としてヤブガラシがアマチャ(甘茶)が挙げられるでしょう。アマチャヅルとヤブカラシはいずれも葉が鳥足状複葉で、果実も液果であることから似てますし、アマチャヅルとアマチャも名前が似ています。しかし、これら全ては分類が全く異なり、アマチャヅルとアマチャは利用方法以外全てが異なります。アマチャヅルとヤブカラシも鳥足状複葉の形や毛をよく見れば判別できるでしょう。本記事ではアマチャヅルの分類・利用方法・形態について解説していきます。

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アマチャヅル・ヤブガラシ・アマチャとは?

アマチャヅル(甘茶蔓・絞股藍) Gynostemma pentaphyllum は日本の北海道、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国、マレーシアに分布し、山地や藪に生えるつる性多年草です(林ら,2013;神奈川県植物誌調査会,2018)。

ヤブカラシ(藪枯らし) Cayratia japonica は日本の北海道西南部、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国、インド、マレーシアに広く分布し、藪や畑地に生えるつる性の多年草です。「ヤブガラシ」と呼ばれることもありますが、植物学上の和名は「ヤブカラシ」で、濁点は付きません。

アマチャ(甘茶) Hydrangea serrata var. thunbergii はヤマアジサイ(広義) Hydrangea serrata の葉が小型化した変種であると考えられています(林,2019)。したがって、殆どアジサイそっくりの落葉低木です。日本の本州(関東地方、中部地方)に分布しますが、本来は栽培変種とする説もあります。山地の谷沿いに生えます。

アマチャヅルとヤブカラシはいずれも葉が鳥足状複葉で、果実も黒色に熟す液果であることから似ているかもしれません。

また、アマチャヅルとアマチャ(甘茶)は名前が似ており、知らない人は区別がつかないかもしれません。

アマチャヅル・ヤブガラシ・アマチャの違いは?

しかし、これら3種は分類上は全く異なる種類です。

まず、アマチャヅルはウリ科、ヤブガラシはブドウ科、アマチャはアジサイ科です。この時点で形態に大きな違いがあることが予想されるでしょう。

アマチャヅルとアマチャの違いは数え切れません。むしろ似ているのは名前と利用方法だけです。葉はアマチャヅルでは鳥足状複葉ですが、アマチャでは普通の単葉です。花は分類の通りアマチャではアジサイそっくりです。果実はアマチャヅルは液果ですが、アマチャでは蒴果です。

アマチャヅルとヤブガラシについては確かに葉がよく似ていますが、アマチャヅルでは葉上面に毛があり、小葉柄(小葉が別の小葉と繋がっている細い部分)が短いのに対して、ヤブガラシでは葉上面は無毛で、小葉柄が長く、特に一番上の頂小葉の小葉柄は頂小葉の葉身の1/4以上はあるという違いがあります。

花は全く異なっています。アマチャヅルでは小さな黄緑色の花を総状につけ、合弁花で5裂して先端は尾状にとがるのに対して、ヤブガラシは集散花序を作り開放的な皿状で、花盤と呼ばれる橙色の部分から蜜を出し、離弁花で淡緑色の花弁が4個あるという違いがあります。

果実はやや似ていますが、アマチャヅルでは果実が下垂するのに対して、ヤブガラシは上に突き出している点が違います。

以上で見間違うことはないでしょう。アジサイの違い、ヤブガラシのノブドウとの違いは別記事を御覧ください。

アマチャヅルの葉上面:毛があり、小葉柄が短い
アマチャヅルの葉下面
アマチャヅルの花
アマチャヅルの果実
ヤブガラシの葉:毛がなく、小葉柄が長い
ヤブガラシの花
アマチャの葉:単葉
アマチャの枯れた装飾花

アマチャ(甘茶)とアマチャヅルの利用方法の違いは?

アマチャ(甘茶)とアマチャヅルはどちらも名前が類似していますが、これは利用方法の共通点に由来しています。

アマチャでは若葉を、8月下旬に採取し、日干しして乾燥させた物に、水を噴霧し樽などに詰めて24時間発酵させたものを蒸して揉捻し、再度乾燥させ、それを煎じること「甘茶」が作られます。広い意味でのお茶です。

アマチャヅルでは葉または全草を、湯などで抽出することで飲料を作ります。これもまた「甘茶」と呼ぶ場合もありますが、「アマチャ」を使った茶が、本来の甘茶です。

嗜好品としては共通していますが、アマチャでは一度発酵させるのに対して、アマチャヅルではそうではないことは異なります。

また使用目的としてはアマチャでは江戸時代から釈迦の誕生を祝う灌仏会(花祭り)の際に、故事に倣って甘い飲み物として仏像に注ぎかけることが古くから行われてきたという仏教との関わりが強いですが、アマチャヅルでは「絞股藍」と呼ばれてきたように古代から消炎解毒、止咳去痰や慢性気管支炎の民間療法に用いられてきたのみという大きな違いがあります(端田ら,2018)。

ただ、アマチャにも薬効がないわけではなく、民間療法では糖尿病患者の甘味代用や、胃弱・食欲不振・利尿・口臭除去に茶剤として利用され、抗腫瘍作用、抗アレルギー作用、抗菌作用、利胆作用が報告されていると言います。

花の構造は?

アマチャヅルは花期が8〜9月。雌雄異株。葉腋に直径約5mmの小さな黄緑色の花を総状につけます。花冠は5裂して先端は尾状にとがります。萼は小さいです。

ヤブガラシは地下茎を使って、無性生殖によっても増えますが、花を咲かせる場合は花期は6〜8月。集散花序を作り、花は開放的な皿状で、花盤と呼ばれる橙色の部分から蜜を出しています。始めは紅色で後に橙色に変わっていきます。直径は5mmで、淡緑色の花弁は4個あり、雄しべは4個、雌しべは1個あります。雄しべを最初につけた後、性転換して雌しべをつけて、自家受粉を防ぐ「雄性先熟」を行います。

アマチャは花期が6~7月。地味で後に種子をつける「両性花」と、花序の周縁で花弁はなく萼のみから構成され、昆虫へのアピールを増やすのみで種子をつけない「装飾花」で花序が構成されています。装飾花は紫色~紅色を帯び、萼片は円形~広卵形、重なり合います。両性花は青色です。

果実の構造は?

アマチャヅルの果実は液果、直径約7mmの球形で、黒緑色に熟します。萼や花冠の跡が環状に残ります。

ヤブガラシの果実は液果、球形まれにややだるま形をしていて、黒色に熟します。しかし、関東以西に分布する2倍体のものはよく結実しますが、近畿以東に分布し東日本に多い3倍体のものは結実することはありません。そのためヤブカラシの果実は見る機会は少ないかもしれません。

アマチャの果実は蒴果、長さ3〜4mmの卵形〜楕円形で、10〜11月に熟します。種子は楕円形で小さく、両端は突起状の翼となります。

引用文献

林弥栄・門田裕一・平野隆久. 2013. 山溪ハンディ図鑑 1 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社, 東京. 664pp. ISBN: 9784635070195

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

端田寛子・倉若美咲樹・舘花春佳・有田安那・佐々木菜穂・志村二三夫・山崎優子. 2018. 食品添加物の安全性評価の手法に準じたアマチャヅル製品の安全性の検討. 十文字学園女子大学紀要 48(2): 85-97. https://jumonji-u.repo.nii.ac.jp/records/159

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