イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジ・ハウチワカエデ・コハウチワカエデはいずれもムクロジ科カエデ属に含まれ、晩秋には紅葉・落葉し、日本の秋の風景を代表する落葉高木と言えるでしょう。果実が翼果で1対の「翼」を持っている点や、掌状の葉である点は大きな共通点です。そのため、身近なものの、その違いについてはよく分かっていない人がいるかもしれません。しかし、主に葉の形をしっかり確認すれば分かります。これは紅葉でも同じです。また、翼果の翼と翼の間の角度も種類によって異なるので大きな区別点となるでしょう。本記事ではイロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジ・ハウチワカエデ・コハウチワカエデの分類について解説していきます。
イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジ・ハウチワカエデ・コハウチワカエデとは?
イロハモミジ(伊呂波紅葉) Acer palmatum var. palmatum は日本の本州(福島・福井以西)、四国、九州のおもに太平洋岸;朝鮮、中国(東部)に分布し、丘陵地から山地の落葉広葉樹林に生える落葉高木です(神奈川県植物誌調査会,2018)。日本では観賞用に普通に栽培されます(林,2019)。
オオモミジ(大紅葉) Acer amoenum var. amoenum は日本の北海道、本州(東北地方~北陸地方までの日本海側を除く)、四国、九州;朝鮮に分布し、山地のブナ帯下部の落葉広葉樹林を中心に生える落葉高木です。観賞用に栽培されます。
ヤマモミジ(山紅葉) Acer amoenum var. matsumurae は日本の北海道、本州の主に日本海側に分布する落葉高木です。観賞用に栽培されます。
ハウチワカエデ(羽団扇楓) Acer japonicum は日本の北海道、本州に分布し、山地の落葉広葉樹林に生える落葉高木です。観賞用に時に栽培されます。
コハウチワカエデ(小羽団扇楓) Acer sieboldianum は日本の本州、四国、九州に分布し、山地の落葉広葉樹林に生える落葉高木です。観賞用にやや稀に栽培されます。
いずれもムクロジ科カエデ属に含まれ、晩秋(10~11月)には紅葉・落葉し、日本の秋の風景を代表する落葉高木と言えるでしょう。
形態的にはカエデ属は果実が翼果で1対の「翼」を持っていることが大きな共通点として挙げられます。これは落下する際プロペラ状に回転し、母樹から遠ざかるための適応です。
また全てではありませんが、カエデ属の多くは掌状の切れ込みが多く、細かい鋸歯を持っており、ここで挙げた5種については当てはまっています。
そのため、これらの区別がついていない人は多いかもしれません。身近な植物であるだけに正確に区別してみたいところです。
特にコハウチワカエデを「ハウチワカエデ」であると誤解している例がインターネットでは散見されます。
モミジ(椛)とカエデ(楓)の違いは?
そもそもですが、「モミジ」と「カエデ」に違いはあるのでしょうか?
結論から言うと、どちらもカエデ属に含まれ、科学的な「カエデ」と「モミジ」な定義はありません。
しかし一般的には、モミジは葉の切れ込みが深い(中裂~深裂である)カエデ属の仲間、カエデは葉の切れ込みが浅い(浅裂である)カエデ属の仲間を指しているとされます。
個々の種類の和名もこの法則を踏襲しているものが多いです。
これは語源を考えると分かりやすいです。カエデは「蛙手(かへるで→かえるで)」に由来するので、カエルの足のように切れ込みが深いものを指すのは納得できるでしょう。
一方、モミジは秋に草木が黄色や赤色に変わることを意味する動詞「紅葉づ(もみつ→もみづ)」に由来しています。
ただ、科学的に国内で「モミジ」という和名が与えられているのはイロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジの3種(およびその品種)のみで、他は全てカエデと付きます。実質的はこの3種を呼ぶ場合の名前と言えるでしょう。
イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジとハウチワカエデ・コハウチワカエデの違いは?
カエデ属は非常に沢山の種類があり、世界に約130種、日本では28種も知られており、ここで全ての種類の区別点をあげることは不可能ですが、よく知られる5種の区別について考えてみます。
まず、5種はイロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジとハウチワカエデ・コハウチワカエデの2グループに大別できます。
その区別点は上述の葉の切れ込みの深さの違いもありますが、イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジでは葉が5~7裂であるのに対して、ハウチワカエデ・コハウチワカエデでは葉が7~13裂するという違いもあります。
更にイロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジでは葉先が尾状に伸びますが、ハウチワカエデ・コハウチワカエデではそうなっていません。
したがって、この3点を調べれば簡単にどちらのグループか判別できるでしょう。
イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジの違いは?
イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジは、イロハモミジとオオモミジ・ヤマモミジに分けられます。
まず一番に、イロハモミジは葉が荒い重鋸歯であるのに対して、オオモミジ・ヤマモミジでは葉が細かい単鋸歯という違いがあります。
「重鋸歯」とは分かりにくいかもしれませんが、鋸歯に大小があり、大きい鋸歯の縁に更に小さい鋸歯があり、二重になっている状態のことを指します。
外観としては、ヤマモミジの方が葉縁の鋸歯が詰まっているので、より細かくギザギザになっているという印象を受けるかもしれません。
また、果実(分離翼果)に関しては、イロハモミジでは翼と翼の間が145~160°で、翼は短く、果皮が薄いのに対して、オオモミジ・ヤマモミジでは翼と翼の間が120~130°で、翼が長く、果皮が厚いという違いもあります。
更に名前の通り、名前の通りイロハモミジでは葉身が4~7cmであるのに対して、オオモミジ・ヤマモミジでは6~12cmとかなり大きいという違いもあります。ただ変異もあるので、参考程度にしましょう。
野生下では普通イロハモミジよりヤマモミジの方が高標高で生息しています。
なお、栽培されているものは交雑している品種も存在しているため、明確に区別できない個体も混ざっている点は注意が必要です。
次にオオモミジとヤマモミジです。オオモミジとヤマモミジは変種の関係にあるので、おおよそ同じ形をしています。
違いとしては、オオモミジでは鋸歯が細かく、鋸歯による切れ込みが浅いのに対して、ヤマモミジでは鋸歯が荒く、鋸歯による切れ込みが深いという点が挙げられます。
また、上述のようにオオモミジは太平洋側、ヤマモミジは日本海側に分布する傾向にある点も重要です。
しかし、オオモミジとヤマモミジに関しても区別できない中間的な個体が存在することは抑えておきましょう。
この他、それぞれの種類に多くの品種がありますのがここでは省略します。
ハウチワカエデとコハウチワカエデの違いは?
最後にハウチワカエデとコハウチワカエデの違いを考えます。
その違いは名前の通り、ハウチワカエデでは葉は長さ6~13cm、幅7~18cmと大きく、コハウチワカエデでは葉が長さ5~7cm、幅6~9cmと大きいという点が挙げられます。
更に、ハウチワカエデでは葉柄は葉身の半長以下であるのに対して、コハウチワカエデでは葉柄が葉身の半長より長いという違いもあります。これはとても大事な点です。ハウチワカエデの葉の中にはかなり極端に葉柄が短いものもあります。
果実に関しては、ハウチワカエデでは翼と翼の間は70~95°の鈍角に開くのに対して、コハウチワカエデでは翼と翼の間は170~180°でほぼ水平に開くという違いもあります。
この3点を確認すれば、確実に区別できるでしょう。インターネットで「ハウチワカエデ」と検索した個体の葉柄を確認するとかなりコハウチワカエデが混じっているようです。
なお、それぞれの裂片がハウチワカエデでは太めな傾向がありますが、コハウチワカエデの変異が大きいためそれだけでは判別は難しいそうです。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726