キリ(桐)とジャカランダ(キリモドキ)はいずれも「キリ」という名前がつく落葉高木で、紫色の筒状鐘形の花を咲かせる点からかなり似ており、咲く時期も近いです。キリは日本人にとっては伝統的に神聖な木とみなされ、花や木材が珍重されてきた一方、キリモドキも美しい花ではありますがそのような歴史的な経緯はなく、違いについては知っておきたいところです。キリとキリモドキは分類学上は全く異なる仲間で、葉と果実の形は全く異なっています。花に関しても似てはいますが、よく観察すると花冠の形の違いが分かるでしょう。本記事ではキリとキリモドキの分類・形態について解説していきます。
キリ・ジャカランダ(キリモドキ)とは?
キリ(桐) Paulownia tomentosa は中国東部・朝鮮原産で、日本を含む世界中の温帯で観賞用に栽培される落葉高木です。一部の国で野生化し、日本にも自生があったという説もありますが、古く中国から伝来したものが野生化したと考えられています。シロバナノキリ f. virginea は花冠が白色のものです。
キリは日本では伝統的に神聖な木とみなされ、「桐箱」や「桐箪笥」に代表されるように木材が軽量・防湿・断熱といった特徴を持つことから高級家具の木材(桐材)として知られるほか、「五七桐花紋」や「五三桐花紋」などの桐花紋も有名で、皇室・足利家・豊臣家・内閣総理大臣が紋章としています。
キリモドキ(桐擬き) Jacaranda mimosifolia は別名ジャカランダ。南アメリカ(アルゼンチン・ボリビア・パラグアイ)原産で、世界中で観賞用に栽培され一部の国で野生化する落葉高木です。
いずれも「キリ」という名前がつく落葉高木で、紫色の筒状鐘形の花を咲かせる点からかなり似ています。花期に関しても日本ではキリが5月、キリモドキが5~6月とかなり類似しています。
そのため区別がつかない場合があるかもしれません。日本に古くから伝わるキリと近年になって栽培されているキリモドキの違いは知っておきたいところです。
キリとジャカランダ(キリモドキ)の違いは?
キリとキリモドキは全く異なる仲間です(茂木ら,2003;Nasir, 1979)。
分類学上、キリはキリ科キリ属であるのに対して、キリモドキはノウゼンカズラ科キリモドキ属に含まれます。
そのため形態には大きな違いがあることが予測されるでしょう。
一番わかり易い違いが葉の形です。
キリでは葉身が単葉で浅く3〜5裂して三角状や五角状になるのに対して、キリモドキでは葉身が複葉でシダに似た(1~)2回羽状複葉であるという違いがあります。
これは一目瞭然の違いなので必ず確認しましょう。なお、キリの葉身の基部(葉柄の付け根)には「皿状器官(bowl-shaped organ)」という花外蜜腺(アリを惹き寄せるための蜜を出す部分)の一種があり、この点はキリモドキ以外の他種からも区別できる良い特徴なので確認することをおすすめします(Kobayashi et al., 2008)。
花もかなり似ていますが、よく見ると違いがあります。
キリでは花冠の花筒がどの部分でも太さが変わらずまっすぐであるのに対して、キリモドキでは花冠の花筒の基部が細まった結果、花筒の形が少しS字状に近くなっているという違いがあります。
少し細かいですが写真をよく見てみてください。
また、果実は確認できる期間は限られていますがこちらの形も全く異なります。
どちらも蒴果ではありますが、キリは卵形であるのに対して、キリモドキでは扁平で卵形~楕円形となっています。
他に似た種類はいる?
キリ属は東アジアで7種が知られていますが、普通日本では他種は栽培されていません。ただし、「栽培されているものは中国各地、台湾など原産地を異にするいくつかの系統があるが、分類学的把握は不十分である」という考えもあり(神奈川県植物誌調査会,2018)、もしかしたら他種も混じっているのかもしれません。
タイワンギリ Paulownia kawakamii、ココノエギリ Paulownia fortunei、タカサゴギリ Paulownia x taiwanensis などの7種の区別方法についてはWu & Raven(1998)で確認できます。
キリモドキ属には50種類ほど含まれていますが、普通他種は栽培されていません。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Kobayashi, S., Asai, T., Fujimoto, Y., & Kohshima, S. 2008. Anti-herbivore structures of Paulownia tomentosa: morphology, distribution, chemical constituents and changes during shoot and leaf development. Annals of Botany 101(7): 1035-1047. https://doi.org/10.1093/aob/mcn033
茂木透・高橋秀男・勝山輝男・石井英美. 2003. 樹に咲く花 合弁花・単子葉・裸子植物. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070058
Nasir, Y. J. 1979. Flora of West Pakistan: Vol. 131. Stewart Herbarium, Islamabad. http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=5&taxon_id=10102
Wu, Z. Y. & Raven, P. H. 1998. Flora of China. Vol. 18 (Scrophulariaceae through Gesneriaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 450pp. ISBN: 9780915279555