カキネガラシとイヌカキネガラシはいずれもアブラナ科キバナハタザオ属に含まれ、自然度が高くない都市部のコンクリートの隙間などにも生えることがある外来の雑草です。アブラナ科特有の黄色い花と分裂した葉が他種から区別される大きな特徴でしょう。しかし2種の区別はあまり知られていないかもしれません。2種を区別するには果実の大きさや付き方を確認するのが一番確実です。花や葉にも違いはありますが、少し確認しにくいかもしれません。本記事ではキバナハナザオ属の分類・形態について解説していきます。
カキネガラシ・イヌカキネガラシとは?
カキネガラシ(垣根芥子) Sisymbrium officinale はヨーロッパ原産で、日本では明治末期に入り全国に帰化し、日当たりのよい道ばたや荒れ地などに生える一年草~越年草です。
イヌカキネガラシ(犬垣根芥子) Sisymbrium orientale は地中海沿岸原産で、日本では昭和初期に入り全国に帰化し、市街地の道傍や荒れ地などに生える一年草です。
いずれもアブラナ科キバナハタザオ属に含まれ、自然度が高くない都市部のコンクリートの隙間などにも生えることがある外来の雑草です。和名は枝が横に広がり群生すると生垣の様に見えたことに由来すると言います。
一見、「十字花」と呼ばれるアブラナ科特有の花は黄色く、普通のアブラナやカラシナのようなアブラナ属の仲間にも見えますが、茎葉が茎を抱かず、葉身が分裂していることから区別がつきます。
分類学上は角果(アブラナ科特有の細い果実)の先端が果嘴に覆われていないという違いがありますが、中々この点を確認するのは難しいでしょう。
このように共通点が多く、同属のカキネガラシとイヌカキネガラシは区別点が分からないと感じることはあるかもしれません。
カキネガラシとイヌカキネガラシの違いは?
カキネガラシとイヌカキネガラシの区別するのはよく観察すれば比較的簡単です。
一番確実なのは果実(角果)を見ることで、カキネガラシでは果柄がごく短く、果実が長さ15mm以下で茎に圧着する(茎と平行に並ぶ)のに対して、イヌカキネガラシでは果柄は明らかに存在し、果実は長さ5cm以上で茎からは離れている(茎と鋭角を作る)という違いがあります。
また、花弁(花びら)はイヌカキネガラシの方がカキネガラシより大きいです。
分裂した葉の形は個体変異が大きいため確実な区別方法は無いですが、イヌカキネガラシでは頂部の茎葉の葉身基部が矛形に張り出すという傾向にあるのでこの点も参考になるでしょう。
他に似た種類はいる?
キバナハタザオ属には他にもいくつかの種類が帰化しています。ただし上記2種に比べると稀です。
キバナハタザオ Sisymbrium irio は多年草で茎葉はふつう分裂しません。
ハタザオガラシ Sisymbrium altissimum はイヌカキネガラシと似ていますが、イヌカキネガラシのように頂部の茎葉の葉身基部が矛形に張り出すことはなく、萼片が無毛です。
ホソエガラシ Sisymbrium irio は花後に若い果実が急に伸びて頂点の花を越えて囲むという唯一無二な特徴を示します。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726