なぜモモブトカミキリモドキの「腿」は太いのか?メスを押さえつけるための進化だった!?近縁種にヒントがあることが最新研究で判明!「性的対立」から科学的に考える

動物
Oedemera lucidicollis lucidicollis (Motschulsky, 1866)

皆さんはモモブトカミキリモドキという昆虫をご存知でしょうか?春~初夏頃に花上に集まりカミキリモドキ科の中では本州では一般的によく見られます。この昆虫最大の特徴として後脚が太くなっています。なぜこのようなことになっているのか不思議に思ったことはありませんか?これは「性的対立」という生物学的な葛藤の中でオスがメスを押さえつけるに進化したのではないか?と近縁種のフタイロカミキリモドキの研究から推測できそうです。またフタイロカミキリモドキでは環境の影響で地理的に脚の太さに違いが出ていました。この記事ではモモブトカミキリモドキの後脚の秘密に加えて、カンタリジン・ワールドについても解説していきます。

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花の上でたくさん見られるカミキリモドキ科の普通種

モモブトカミキリモドキ♂(筆者撮影)
モモブトカミキリモドキ♀(筆者撮影)

モモブトカミキリモドキ Oedemera lucidicollis はコウチュウ目カミキリモドキ科で、北海道・本州・四国・九州・千島する昆虫です(森本,2007)。

体色は全身が濃藍色ですが、まれに上面中央が縦に赤褐色を呈する個体がいるようです。

平地では春~初夏頃に花上に集まります(森本,2007)。具体的にはエンレイソウ属(福田,1961)、ハルジオン(Kishi,2022)、ヒキノカサ、ニリンソウ、タカネトンボ(田中,2001)の記録が確認できました。筆者はクサイチゴ Rubus hirsutus の花に大量に発生している様子を観察したことがあります。タカネトンボは特殊ですが、全般的に平らで花粉にアクセスしやすい花を好むようです。

メスは子供を生む卵に使うタンパク質源として花粉を好み、ニリンソウの花ではメスが花粉を食べに来たところ、オスが待ち伏せしている様子も観察されています(田中,2001)。

幼虫はインターネット上では「朽ち木や、枯れたススキで育つ」との記述が確認できますが、文献でそのような記述を筆者は確認していません。ただ、近縁種のキアシカミキリモドキは幼虫は枯れたススキの茎に穿孔するとされてるので(高橋,1992)、類似している可能性があります。

カンタリジン・ワールドの住民

カミキリモドキ科やツチハンミョウ科の仲間はカンタリジンという毒性のある物質を合成することが知られており(Young, 1984)、モモブトカミキリモドキでも例外ではありません。

これらの仲間は他の甲虫に比べ体が柔らかく攻撃を受けた時に体内に溜まったカンタリジンを捕食者に接触しやすくしていると言われています(Young, 1984)。

爬虫類や肉食昆虫がこの物質を激しく嫌うことが確認されており(Young, 1984)、ヒトが触れたときも水ぶくれができることがあります。

更にそれだけにとどまらず、カンタリジンは強力な抗真菌作用を持っているため、卵の間、小胞糸菌 Microsporum、白癬菌 Trichophyton などから身を守っていることも分かっています(Dettner, 1997)。この卵に含まれるカンタリジンは親のメスから与えられます。

メスは自分でもカンタリジンを合成するものの、交尾の際にオスからメスへのプレゼント(婚姻贈呈)としてカンタリジンを受け取ることにより多くのカンタリジンを蓄積しています(橋本,2018)。つまりオス→メス→卵というカンタリジンの流れがあるようです。興味深いですね。

更に驚くことに、同じくカンタリジンを合成するツチハンミョウ科はアカハネムシ科やアリモドキ科の甲虫に捕食されることがあり、彼らはそのカンタリジンを体内に蓄えます(橋本,2018)。このようにカンタリジンの移動が自然界では起きており、このつながりを「カンタリジン・ワールド」と呼びます。カミキリモドキ科ではまだ不明確な部分が多いようですが、同様に捕食されカンタリジンが他の生き物に受け継がれているのかもしれません。

性的二型:オスは腿が太くなっている

この昆虫の最大の外見的特徴はオスのみ、後脚の腿節という部分が太くなっていることです。メスは特に変わりはありません。このような性別によって特徴(形質)が異なる現象を「性的二型」と呼びます。

普段生活している分には特に役に立っているようには見えません。バッタのようにジャンプするわけでもありません。なぜオスだけが脚が太くなっているのでしょうか?

性的対立とはなにか?

この現象を紐解くにはまず「性的対立」という現象を理解しなければなりません。

「性的対立」というのはオスとメスでは子供を沢山作る上で、利害関係が対立しているという現象です(林,2009)。

オスは精子という小さな配偶子を大量に作りますが、一匹あたりの生産コストは非常に少ないです。そのためできるだけ沢山交尾をすることが自分の子供を作ることに繋がります。言い換えると「量」を重視します。

一方、メスは卵という大きな配偶子を少数生産し、1つ作るのに大きなエネルギーを使います。そのためメスにとってはその1つ1つを大事にして子供の生存確率が高くなりそうなオスを慎重に選び交尾します。言い換えると「質」を重視します。

そのため必然的にオスとメスでは交尾を行うか否かという葛藤(コンフリクト)が発生することになります。

これは少し俗っぽいですが、ヒトの男女の恋愛関係にも根源的にはこのような現象が働いていると考えられており、イメージしやすいかもしれません。ただし、ヒトの場合はそもそも昆虫や一般的な哺乳類ほど子供を生みません。また、特に先進国になればなるほど、男性にとっても子供一人当たりにかかる経済的・時間的コストが高いので、単純比較は出来ないことは注意してください。勿論、昆虫・ヒト問わず交尾の傾向には個体差もあります(この個体差も科学的に面白い話題なのですが今回は割愛します)。

オスの脚が太いのはメスを押さえつけるためだった…?

このような「性的対立」は進化の過程で体の一部が変化してしまうほど大きな影響を及ぼすことがあります。このような進化を促す現象のことを「性選択(性淘汰)」と呼びます。性選択が発生する原因としては同性間(オス同士、メス同士)の争いも含まれますが、「性的対立」は異性間の争いが中心ということになります。

本題ですが、モモブトカミキリモドキの場合はどうでしょうか?

モモブトカミキリモドキそのものではないのですが、近縁種のフタイロカミキリモドキ Oedemera sexualis で面白い観察が行われています(Satomi et al., 2019)。この種類はモモブトカミキリモドキより更に後脚が大きく発達しています。

メスのフタイロカミキリモドキは、オスにマウントされると、後脚を用いてダッシュ​​して蹴ることによって、オスを追い払っていたのです。

一方、オスはメスに追い払われそうなところを、肥大化した後脚を使って押さえつけて無理やり交尾しようとしていたのです。

このことはオスの後脚がメスを交尾の時に押さえつけるために進化したということを示唆しています。

フタイロカミキリモドキの交尾
Satomi et al. (2019): Figure 1より引用
モモブトカミキリモドキの交尾
Kishi (2022): FIGURE 1より引用

おそらくモモブトカミキリモドキやフタイロカミキリモドキの祖先でメスがオスを追い払う行動が先に進化したのでしょう。そのような状況であると、強い力で腿節で押さえつけられるオスの方が有利になってきます。こうしてオス全体で腿節が肥大化したと考えられます。

ヒトの感覚では乱暴すぎる、と(特殊なヒトを除いて…)感じるかもしれませんが、昆虫の中にはオスがトゲの付いた交尾器で、メスの交尾機会を減らすためにメスの交尾器を破壊しようとものもいることが分かっています。昆虫に倫理観は適用できませんが、昆虫の中では強引さの度合いはむしろ少ない方なのかもしれません。

モモブトカミキリモドキでだけでなぜ進化したのか

しかし、これでも少し謎が残ります。なぜこのような進化がモモブトカミキリモドキやフタイロカミキリモドキの祖先でだけ起こったのでしょうか?他の近い仲間でも発生してもおかしくないはずです。

その本質的理由は完全に分かったわけではありませんが、一般的に、性選択は生物種の個体数が増え、密集してるにつれて、同種オス間でのメスをめぐる競争が激化すると考えられています(Satomi et al., 2019Yamamichi et al., 2020)。メスにとっては選べるオスが沢山増えるからです。私の考えですが、モモブトカミキリモドキは国内では最普通種で個体数も多く、他の近縁種より競争が激しいことが予想されます。モモブトカミキリモドキやフタイロカミキリモドキの祖先の段階でも同様だったため、このような進化が起こったのかもしれません。

また実は同じ種の中でも生息地で利用できる資源によって後脚の太さが変わることも分かっています。

フタイロカミキリモドキは西日本から琉球諸島の南端まで分布していますが、南に行くにつれてオスの後脚が太くなっていたのです(Satomi et al., 2019; 2021)。

南に行くにつれて(緯度が下がるにつれて)気温は上がり、活動するための温度も得やすくなりますし、餌も増えるので、肥大化した後脚を作るためにエネルギーをまわす余力が出来ます。そのため後脚が太くなっていったと考えられます。またこういった環境では個体数が増え、密集することも多く競争も激しそうです。

反対に北に行くにつれて(緯度が上がるにつれて)気温は下がり、活動するための温度も低下し、餌も少なくなります。肥大化した後脚を作るよりもまずは生活することに必死になるでしょう。こういった環境では個体数についても減少し、競争も緩やかになりそうです。

オスとメスの間の競争には環境も大きく関係していると考えてよいのかもしれません。

引用文献

Dettner, K. 1997. Inter-and intraspecific transfer of toxic insect compound cantharidin. pp.115-145. In: Vertical food web interactions. Springer, Berlin, Heidelberg. ISBN: 9783642645280, https://doi.org/10.1007/978-3-642-60725-7_8

福田一郎. 1961. エンレイソウ属植物の訪花昆虫について. 東京女子大学論集 12(1): 23-34. ISSN: 0493-4350, http://id.nii.ac.jp/1632/00024764/

橋本晃生. 2018. カンタリジンを介して昆虫が紡ぐコミュニケーションネットワーク. 昆蟲 ニューシリーズ 21(4): 230-239. ISSN: 1343-8794, https://doi.org/10.20848/kontyu.21.4_230

林岳彦. 2009. 性的対立による進化:その帰結の一つとしての種分化. 日本生態学会誌 59(3): 289-299. ISSN: 0021-5007, https://doi.org/10.18960/seitai.59.3_289

Kishi, S. 2022. Nested structure is dependent on visitor sex in the flower‒visitor networks in Kyoto, Japan. Ecology and evolution 12(3): e8743. ISSN: 2045-7758, https://doi.org/10.1002/ece3.8743

森本桂. 2007. 原色昆虫大圖鑑 第2巻 甲虫篇 新訂. 北隆館, 東京. 754pp. ISBN: 9784832608269

Satomi, D., Koshio, C., Tatsuta, H., Kudo, S. I., & Takami, Y. 2019. Latitudinal variation and coevolutionary diversification of sexually dimorphic traits in the false blister beetle Oedemera sexualis. Ecology and evolution 9(8): 4949-4957. ISSN: 2045-7758, https://doi.org/10.1002/ece3.5101

Satomi, D., Ogasa, W., Takashima, H., Fujimoto, S., Koshio, C., Kudo, S. I., … & Tatsuta, H. 2021. Limits to the exaggeration and diversification of a male sexual trait in the false blister beetle Oedemera sexualis. Entomological Science 24(3): 219-227. ISSN: 1343-8786, https://doi.org/10.1111/ens.12469

高橋寿郎. 1992. 兵庫県のカミキリモドキ(兵庫県甲虫相資料・246). IRATSUME 15-16: 1-14. https://www.konchukan.net/pdf/iratsume/Vol15-16/iratsume_15-16_1-14.pdf

田中肇. 2001. 花と昆虫、不思議なだましあい発見記. 講談社, 東京. 262pp. ISBN: 9784062691437

Yamamichi, M., Kyogoku, D., Iritani, R., Kobayashi, K., Takahashi, Y., Tsurui-Sato, K., … & Kondoh, M. 2020. Intraspecific adaptation load: a mechanism for species coexistence. Trends in Ecology & Evolution 35(10): 897-907. ISSN: 0169-5347, https://doi.org/10.1016/j.tree.2020.05.011

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