ギシギシ・ナガバギシギシ・アレチギシギシ・エゾノギシギシの違いは?スイバとの区別は?似た種類の見分け方を解説、受粉は風に頼っていた?種子散布方法は想像以上に多様だった!?

植物
Rumex obtusifolius

ギシギシ・ナガバギシギシ・アレチギシギシ・エゾノギシギシいずれもタデ科ギシギシ属に含まれ、この中では元々日本にはギシギシのみ分布していましたが、複数の種類が侵入して極めて一般的な雑草になっています。撹乱地を好む点も共通しており、混在していることも多々ある上に花や果実の外観はよく似ており判別はよく比較しないと難しいです。スイバ類とは葉や花の形で区別できます。ギシギシ属は日本で10種類以上が確認されており、正確な同定は図鑑が必要ですが、最も一般的である以上4種に限れば「果実を包む内花被」の形によって区別するのが最も正確な方法であると言えます。花は内花被(花弁)と外花被(萼)の区別がつかず非常に地味で小さいものです。これは花粉を昆虫に頼らず、風媒するからです。受粉すると、内花被が残存したまま肥大し扁平になり、果実(痩果)を包みます。この構造によって風や水によって別の地点に運ばれます。しかしそれだけではなく、内花被のとげ(鋸歯)の存在や「白いこぶ状の突起」の存在は「動物付着散布」や「動物被食散布」の可能性を示唆していますが研究が不足しています。本記事ではギシギシ類の分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ギシギシ・ナガバギシギシ・アレチギシギシ・エゾノギシギシとは?

ギシギシ(羊蹄) Rumex japonicus は日本の北海道、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国に分布し、市街地から人里周辺の荒地、路傍、畑に最も普通な多年草です。

ナガバギシギシ(長葉羊蹄) Rumex crispus はヨーロッパ原産で、ユーラシア大陸を中心に広く帰化し、市街地や人里周辺の荒地や路傍に生える多年草です。

アレチギシギシ(荒地羊蹄) Rumex conglomeratus はヨーロッパ原産で、ユーラシア大陸を中心に広く帰化し、日本では明治時代に渡来し、本州中部にふつうに見られ、市街地から人里周辺の荒地や路傍に生える多年草です。

エゾノギシギシ(蝦夷の羊蹄) Rumex obtusifolius はヨーロッパ原産で、世界中に広く帰化し、日本でも全国に広く帰化し、市街地から人里周辺の荒地や路傍などに生える多年草です。

いずれもタデ科ギシギシ属に含まれ、この中では元々日本にはギシギシのみ分布していましたが、現在ではユーラシア大陸から複数の種類が侵入して極めて一般的な雑草になっています。撹乱地を好む点も共通しており、混在していることも多々ある上に花や果実の外観はよく似ています。そのためよく観察しないと混同されることがあるかもしれません。

ギシギシ類とスイバ類の違いは?

これら4種を考える前に、ギシギシ属にはギシギシ類の他にスイバ Rumex acetosa、ヒメスイバ Rumex acetosella と呼ばれるスイバ類が存在します。スイバ類とはどのような違いがあるのでしょうか?

まず、ギシギシ類では雌雄同株で、スイバ類では雌雄異株という違いがあります。これは言い換えると、ギシギシ類では全ての個体が雄しべと雌しべ両方存在する「両性花」を持っていますが、スイバ類では雄しべのみ存在する「雄花」を持つ個体(雄株)と、雌しべのみを持つ「雌花」の個体(雌株)の2タイプが存在するということです。

このスイバ類の雌株が持つ雌花は非常に赤く、目立つため、スイバ類は遠目でも赤い花序を確認することができます。ギシギシ類がそのようになることはありません。

葉の形態としては、ギシギシ類では葉の基部はくさび形、円形または心形であるのに対して、スイバ類では葉の基部は矢じり形か鉾形という違いがあります。花期以外の時期に参考になるでしょう。

この他、スイバの和名は「酸(す)い葉」とされ、食べると酸っぱいことに由来します。これはシュウ酸に由来するもので、ギシギシ類にも含まれますが、スイバの方がシュウ酸が多いためかより酸っぱいようです。『Youtube』の「あゆみんのざっそうカフェ」というチャンネルでは実際に食べ比べた動画あり、スイバの方が明らかに酸っぱいとコメントしています。したがってこれでも判別できますが、全てのギシギシ類が酸っぱくないのかという点は確かめた人は居なさそうです。

スイバの葉
スイバの雌花

ギシギシ・ナガバギシギシ・アレチギシギシ・エゾノギシギシの違いは?

ギシギシ属は日本には先程のスイバ類を含め、10種類以上が確認されており、正確な同定は図鑑を確認しないと難しいでしょう。しかし、最も都市部でも見られ、遭遇頻度が高いのは冒頭に挙げた4種です。そこでここではこの4種の区別について解説します。正確に全ての種類を区別したい人は大橋ら(2017)や神奈川県植物誌調査会(2018)をご確認ください。

まず、エゾノギシギシでは果実を包む内花被の縁に著しい刺があるのに対して、ギシギシ・ナガバギシギシ・アレチギシギシでは果実を包む内花被の縁は全縁かあっても低鋸歯があるに留まります。

「果実を包む内花被」というのはギシギシ属特有の構造で、花の間にあった内花被が花後も残存し薄く変化したもので、中央部の白いこぶ状の突起が付着している構造のことです。これは遠目でもかなり目立つものです。

残り3種に関しては、アレチギシギシでは花や果実は間隔をおいて輪生状につくので花序はまばらに見え、花序や果序には苞葉がつくのに対して、ギシギシ・ナガバギシギシでは花や果実は輪生状につくものの間隔は狭く全体として大きな円錐花序を形成し、花序や果序には苞葉がないという違いがあります。

ギシギシとナガバギシギシに関しては、ギシギシでは果実を包む内花被の縁に低鋸歯があり先端はやや尖るのに対して、ナガバギシギシでは内花被の縁は全縁で先端は丸いという違いがあります。

この他、葉だけでも区別できる可能性はありますが、茎葉と根出葉での違いなどもあり煩雑になるのでここでは省略します。内花被が存在する時期は限られていますが、できればこの点を確認したいところです。

また、これら4種は同じような環境を好み、混在することから雑種も多く確認されています。結実が少なく、中間的な特徴がある場合は雑種を考慮する必要があるかもしれません。

ギシギシの葉上面
ギシギシの葉下面と茎と蕾
ギシギシの未熟果|By Zhangzhugang – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40103023
ギシギシの果実
ナガバギシギシの茎葉
ナガバギシギシの根出葉
ナガバギシギシの花
ナガバギシギシの果実
ナガバギシギシの果序
アレチギシギシの葉上面
アレチギシギシの葉下面
アレチギシギシの茎
アレチギシギシの花
アレチギシギシの未熟果
エゾノギシギシの果実

花の構造は?

ギシギシ属の花は構造そのものは一般的な花と同様です。しかし、非常に地味な見た目で小さく、特に萼と花弁は見た目上、殆ど区別がつきません。そのため、萼に当たる部分を「外花被」、花弁に当たる部分を「内花被」と呼ぶことが多いです。

ギシギシは花期が6~8月(Wu et al., 2003)、花序は円錐花序、多段に密に輪生します。雌雄同株、両性花と雌花があります。花柄は細く、節は中間の下にあり、節は明瞭。花は外花被3個、内花被3個、雄しべ6個、雌しべ1個からなります。

ナガバギシギシは花期が6〜8月、花は長い総状花序につき、多段に密に輪生します。雌雄同株、両性花と雌花があります。花は外花被3個、内花被3個、雄しべ6個、雌しべ1個からなります。雌しべは3個の花柱があり、柱頭は細かく裂けます。

アレチギシギシは花期が6~7月、花茎は枝別れして節間が長く、節ごとに密生して花を輪生します。小花柄は長さ1~4(~5)mm。花は小さく、内花被は長さ2~3mm、1~1.6(~2)mmです。

エゾノギシギシは花期が6〜8月、花は長い総状花序につき、段の間隔を開けて、多段に輪生します。雌雄同株、両性花と雌花があります。花は花被片(萼)6個、雄しべ6個、雌しべ1個からなります。

受粉方法は?

スイバ類を含むギシギシ属の花は共通で花粉を「風媒」する事が分かっています(我妻ら,1974;Zaller, 2004; CABI, 2021)。実際に日本の研究でも空中花粉が発見されています。また形態的にも、萼と花弁の区別がつかないということは昆虫へのアピールが欠如しており、蜜を分泌しないのは昆虫を惹きつける必要がないこと示しています。

風媒花の中でも「下垂型」に含まれ、下方に花柄が伸びるので、花は垂れ下がったようになり、風によって揺れやすくなっています(内海,2002)。

果実の構造は?

ギシギシ属の果実は共通で痩果です。痩果は果皮が堅い膜質で、熟すと乾燥し、一室に1個の種子をもつものを指します。しかし上述の通り内花被片3個は果時に大きくなり果実を包むため、外からは果実の形を確認することはできません(岩瀬ら,2021)。また、一部の種類では内花被片に「白いこぶ状の突起(tubercles)」が見られ、これも大きな特徴ですが、スイバ類やマダイオウなどこれが存在しない種類もあります。内花被3個に包まれて1個だけ果実(痩果)が入ります。

ギシギシ類の果実の比較|岩瀬ら(2021)および『病害虫・雑草の情報基地』より引用

ギシギシの内花被片3個は広心形、長さ4~5mm×幅5~6mm、全ての内花被片は白いこぶ状の突起をもち、明瞭な網脈があり、基部は心形、縁は不規則な小歯状、先は鋭形、小歯は高さ0.3~0.5mmです。内部の痩果は暗褐色、光沢があり、広卵形、鋭い3稜形、長さ約2.5mm、基部は狭く、先は鋭形になります。

ナガバギシギシの内花被片3個は広卵形、全縁で、先が丸く、中央にこぶ状の突起があります。こぶ状の突起の大きさはばらつきます。内花被の内側はやや凹む程度で、ほぼ平らです。痩果は3稜形、茶褐色です。

アレチギシギシの内花被3個は長卵形、全縁、中央のこぶ状突起も、赤色を帯びることが多いです。痩果はギシギシ類の中で最も小さく、長さ1.5~2mm、幅1~1.6(2)mm、暗褐色です。

エゾノギシギシの内花被3個は卵円形、先がやや長く尖り、縁に長く突き出た突起があり、中央にこぶ状の突起があります。縁の突起は少ないことも多く、こぶ状の突起は赤色になることが多いです。痩果は長さ2~2.7mm、幅1.2~1.7mm、3稜形、褐色~赤褐色です。

種子散布方法は?「風散布」以外にも沢山の方法あり!?

ギシギシ属の最も一般的な種子散布方法は風に頼る「風散布」ということになります(CABI, 2021)。扁平な内花被片3個は風を受け飛ばされていき、様々な地点に広がっていきます。これは花粉と同じ方法で、昆虫や動物のような運要素に頼らないことで開けた撹乱地では非常に効果的に広がることができるでしょう。またこの扁平な構造は水に浮くにも都合がよく、「水流散布」も行われます。

しかし、単に風散布であるにしては様々な付属物が確認できます。例えばエゾノギシギシを始めとしたいくつかの種類では内花被片に鋸歯が存在します。これはヒトを含む動物(哺乳類・鳥)の毛皮や羽に付着することを可能にし、長距離ができると考えられています(CABI, 2021)。つまり「引っ付き虫」となって「動物付着散布」を行うというわけです。しかし、具体的な動物はよく分かりません。形的にはどうもヒトの服につくのは難しそうだとは思います。

加えて、内花被片につく「白いこぶ状の突起」も多くの種類で確認できますが、無い種類もいます。これはどのような役割があるのでしょうか?風や水に乗るなら軽い方が良いようにも感じます。

こちらはきちんとした研究は発見できませんでした。この役割にはいくつかの考えがあると思います。

まず1つ目は風や水によって流された後、種子は土壌に集積されていきますが、必ずしも生息に都合が良い環境とは限りません。そのため「シードバンク」として地中で発芽可能な時期を待つことがすでに知られています(CABI, 2021)。ある研究ではエゾノギシギシでは21年間埋められた後、83%が発芽可能でした。

そのため、シードバンクとして存在している間に種子に栄養を供給する役割として存在しているのかもしれません。しかし構造的に突起と種子が接しているようには見えないのでこのようなことが可能なのかは不明ですし、そのような構造がないと休眠できないのかは疑問です。

また2つ目としては種子を食べる動物に栄養を与える目的があるのかもしれません。実際に鳥やウシなどの哺乳類に食べられることが知られています(CABI, 2021; Bhandari & Park, 2022)。これは「動物被食散布」ということになります。鳥の場合、他に良い餌がない場合、ギシギシ類の果実を食べることがあるとされています。摂取された種子は消化されにくく、糞を介して拡散が可能であることも分かっています。この事実はこの果実には動物に「美味しい!」と感じさせる部分があると考えるのが自然でしょう。

3つ目は浮力を得るための構造であるということです。白いこぶ状の突起の断面はコルク質にも見えます。もしかしたらこのような構造がある方がかえって種子は浮きやすくなるのかもしれません。

これらいずれか、または複数の役割があると考えられます。しかし、全く検証されていません。非常に沢山の種子散布方法を持っているのかもしれませんが、どれに主に依存しているのかはその種類によって異なっていそうです。

引用文献

Bhandari, G. S., & Park, C. W. 2022. Molecular evidence for natural hybridization between Rumex crispus and R. obtusifolius (Polygonaceae) in Korea. Scientific Reports 12(1): 5423. https://doi.org/10.1038/s41598-022-09292-9

CABI. 2021. CABI Compendium: Rumex obtusifolius (broad-leaved dock). https://doi.org/10.1079/cabicompendium.48064

岩瀬徹・川名興・飯島和子. 2021. 新訂 校庭の雑草. 全国農村教育協会, 東京. 190pp. ISBN: 9784881371992

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩. 2017. 改訂新版 日本の野生植物 4 アオイ科~キョウチクトウ科. 平凡社, 東京. 608pp. ISBN: 9784582535341

内海俊策. 2002. 花はなぜ美しいか 1. 昆虫と受粉. 千葉大学教育学部研究紀要 50: 441-448. ISSN: 1348-2084, https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900026751/

我妻義則・松山隆治・佐藤幹弥・伊藤浩司・水谷民子・藤崎洋子. 1974. ヒメスイバ、ギシギシ花粉症(花粉症). アレルギー 23(3): 245-246. https://doi.org/10.15036/arerugi.23.245_2

Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y., eds. 2003. Flora of China. Vol. 5 (Ulmaceae through Basellaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781935641056

Zaller, J. G. 2004. Ecology and non-chemical control of Rumex crispus and R. obtusifolius (Polygonaceae): a review. Weed research 44(6): 414-432. https://doi.org/10.1111/j.1365-3180.2004.00416.x

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