ヤナギハナガサ・ダキバアレチハナガサ・アレチハナガサ・ヒメクマツヅラの違いは?似た種類の見分け方を解説!花筒の長さによってやってくる昆虫が違っていた!?果実は重力散布?

植物
Verbena bonariensis

ヤナギハナガサ・ダキバアレチハナガサ・アレチハナガサ・ヒメクマツヅラはいずれもクマツヅラ科クマツヅラ属に含まれ、クマツヅラ属の中では切れ込みがない葉(不分裂葉)を持つグループです。全体的に固い質感で茎に稜があり、密な花序を作り、市街地の道端では頻繁に見られる4種ですが、その区別は長年学者ですらよく分かっていない部分がありました。現在ではかなり区別点がはっきりしてきて、葉が茎を抱くかどうかや、花筒や花穂の長さなどを中心に様々な形態を詳しく観察することが大事であることが分かっています。花はクマツヅラ属の多くと同様に穂状花序でピンク色に近い筒状の花をつけます。ただやってくる訪花昆虫は様々な研究を総合すると、花筒の長い種類(ヤナギハナガサ)ではチョウ、花筒の短い種類(アレチハナガサ)ではミツバチがやってくる傾向にあり、棲み分けが起こっているかもしれません。果実は分離果で、1つの花から4つの分果が作られ、重力散布されるものと思われますが、詳しい研究はありません。本記事ではヤナギハナガサ・ダキバアレチハナガサ・アレチハナガサ・ヒメクマツヅラの分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ヤナギハナガサ・ダキバアレチハナガサ・アレチハナガサ・ヒメクマツヅラとは?

ヤナギハナガサ(柳花笠) Verbena bonariensis は南アメリカ(アルゼンチン、ウルグアイ、チリ)原産で、日本では第二次世界大戦後、東海地方で帰化が知られ、現在では全国的に市街地の道ばたなどに見られるようになった多年草です(清水ら,2001)。

ダキバアレチハナガサ(抱葉荒地花笠) Verbena incompta は南アメリカ原産で、日本では1933年に大阪で採集されて以来帰化が知られ、現在では全国的に日当たりのよい裸地、礫地、草地などに生える多年草です(植村ら,2015)。

アレチハナガサ(荒地花笠) Verbena brasiliensis は南アメリカ原産で、日本では1967年ころから福岡県や神奈川県で見いだされ、現在では関東地方以西の市街地の道ばた、荒地や河川敷に大きな群落を作っている多年草です。

ヒメクマツヅラ(姫熊葛) Verbena litoralis は北アメリカ原産で、第2時世界大戦後に沖縄に帰化し、現在では本州中部以西で河川敷や道ばたに見られる多年草です。

いずれもクマツヅラ科クマツヅラ属に含まれ、クマツヅラ属の中ではクマツヅラやヒメビジョザクラとは異なり、切れ込みがない葉(不分裂葉)を持つグループです。全体的に固い質感で茎に稜があり、葉柄が無い~短く、茎に綺麗に対生する姿は他になく目立ちます。花の形も花筒が長く密な花序を作り、形態はどれもよく似ています。

生育環境についてもいずれも市街地の道端に生えることが多いため、生育環境だけでこれらの4種を判断するのは難しいでしょう。過去には分類学者ですら混同してきた歴史があります。

ヤナギハナガサ・ダキバアレチハナガサ・アレチハナガサ・ヒメクマツヅラの違いは?

これら4種の区別は詳しく観察しないと難しくかなり混乱すると思います。しかしまずは茎につく葉の基部を確認しましょう(神奈川県植物誌調査会,2018)。

葉の基部はヤナギハナガサとダキバアレチハナガサでは多少とも茎を抱くのに対して、アレチハナガサとヒメクマツヅラでは葉の基部はくさび状で茎を抱かないという違いがあります。かなり小さく抱くのでしっかり観察する必要があります。

また、細かいですが、ヤナギハナガサとダキバアレチハナガサでは花序軸の毛が開出するのに対して、アレチハナガサとヒメクマツヅラでは花序軸の毛が斜上するという違いもあります。

ヤナギハナガサとダキバアレチハナガサに関しては、ヤナギハナガサでは茎に髄孔があり(中空)、葉の両縁はほぼ平行で花穂の長さは5~15mm、萼歯は鈍く尖り、花冠筒部が長く、花は穂から高く突き出るのに対して、ダキバアレチハナガサでは茎に髄孔はなく(中実)、葉は中央の幅がもっとも広くなる傾向があり、花穂は50mmに達する長さに伸び、萼歯は鋭く尖り、花冠筒部が短く、花は穂から少ししか突き出ません。

要素が多くどれを見るか迷いますが、花冠筒部の長さが一目瞭然で最も分かりやすいと思います。

アレチハナガサとヒメクマツヅラに関しては、アレチハナガサでは花穂は幅5mm以上で、密につき、萼裂片は先が細く尖るのに対して、ヒメクマツヅラでは花穂は幅3mm以下で、下方の花はまばらにつき、萼裂片は3角形という違いがあります。

この2種は図鑑でも混同されてきた歴史があり、区別はかなり難しく、最も正確には萼裂片を見る必要があります。

ただ、アレチハナガサには変異があるものの、花穂は50mm以上の長さに伸び、茎や花柄に剛毛が多い場合があり、ヒメクマツヅラがこうなることはないので、このような特徴が見られた場合、アレチハナガサだと断定して良いでしょう。

ヤナギハナガサの葉:葉は茎を抱く
ヤナギハナガサの花:花筒は長い
ダキバアレチハナガサの葉:葉は茎を抱く
ダキバアレチハナガサの花:花筒は短い
アレチハナガサの葉:葉は茎を抱かない
アレチハナガサの花穂:まだあまり咲いていない。花穂は長く、茎や花柄に剛毛が多い
アレチハナガサの花
ヒメクマツヅラの葉:葉は茎を抱かない
ヒメクマツヅラの花:花穂は細く短い

花の構造は?

クマツヅラ属の多くは穂状花序でピンク色に近い筒状の花をつけます。

ヤナギハナガサは花期が6~8月。茎の頂に花序を出し、先端の5裂した紫色の、長さ1cmほどの筒状の花を密につけます。花穂は開花に伴って伸長します。花冠筒部が長く、花は穂から高く突き出ます。

ダキバアレチハナガサは花期が6~9月。穂状花序は円柱形で長さ2〜5cm、花冠は淡紫色で萼筒の2倍長、穂状花序から花冠が長く突き出ることはありません。

アレチハナガサは花期が6~8月。茎の頂で盛んに分岐して長さ2〜3cmの穂状花穂を多数つけます。花穂は幅5mm以上で、密につき、花冠は直径3mm、淡青紫色で5裂。ヤナギハナガサに比べて花筒部が短いです。萼裂片は先が細く尖ります。

ヒメクマツヅラは花期が5~10月。茎の上部で多数分岐し、長さ3cmほどの穂状の花序を多数つけます。花穂は幅3mm以下で、下方の花はまばらにつきます。花は直径3mmほどの5裂した筒状で淡青色です。萼裂片は3角形です。

受粉方法は?

ピンク色という目立つ色であることと、筒部が長い花冠を持っていることから、明らかに虫媒花で、その中でも花冠の内部の蜜まで到達することができる比較的口の長い昆虫がやってくることが予想できます。

ヤナギハナガサではイギリスの研究によるとチョウ目とハナアブ科がやってくるという記録があり(Rollings & Goulson, 2019)、アメリカの研究でもセセリチョウ科、ハナアブ科、セイヨウミツバチがカメムシ目を除くと上位3グループとなっています(Palmersheim et al., 2022)。この後にはシロチョウ科と小型ハナバチ類が続きます。

アレチハナガサでは日本の研究によると、セイヨウミツバチが約66%、コハナバチ科が約30%、残りがカリバチ類という記録があります(Arifin & Okamoto, 2022)。

ダキバアレチハナガサとヒメクマツヅラの訪花昆虫の研究は発見できませんでした。

以上を総合すると概ね予想通りの結果ですが、ヤナギハナガサとアレチハナガサではやってくる訪花昆虫にかなり違いがあるようです。

これはヤナギハナガサの方が他の種類に比べて明らかに花冠が長いことが原因であると考えられそうです。長い花冠にはそれに見合った口吻を持つチョウの仲間が訪れるのは自然に思えます。ある種の棲み分け(ニッチ分割)になっていると言えそうで、興味深い事実です。

しかし、ヤナギハナガサにハナアブ科が多いのは少し不思議です。ハナアブの仲間は口が短い昆虫として知られています。この事に関しての言及は発見できませんでしたが、もしかしたら花粉なら食べることができるのかもしれません。

また、外来種で都市部でも一般的なセイヨウミツバチが盛んにヤナギハナガサやアレチハナガサの受粉に貢献しているという事実はなぜこれら4種が町中でも頻繁に繁殖できるのか?という理由を部分的に説明していると言えるでしょう。

果実の構造は?

クマツヅラ属の果実は共通で分離果で、4個に裂開し、4分果となります、普通、長楕円形で、種子は各分果に1個入っています。

ヤナギハナガサの果実は4分果。分果は長さ1~1.5mm。

ダキバアレチハナガサの果実は4分果。分果は長さ約1.3(1~1.5)mm、乾くと腹面に不定形の白色の粒(乳頭状突起)が現れます。

アレチハナガサは果期には花穂がのびて円柱形となり、長さ1〜5cmになります。果実は4分果。分果は長さ約1.3(1~1.5)mm、乾くと腹面に不定形の白色の粒(乳頭状突起)が現れます。

ヒメクマツヅラの果実は4分果。果皮は種子の背面と合着し、4個の種子の成熟とともに果皮が縦裂し、宿存した俵形の萼筒内に直接4種子があるように見えます。

種子散布方法は?

種子散布は殆ど研究がないものと思われますが、マルバクマツヅラ Verbena stricta では特別な種子散布方法がないとされていることからも(Wenninger et al., 2016)、これら4種でも同様で重力散布のみに頼っている可能性が高いです。特別な風を受ける構造は見当たりませんが、障壁が少ない都市部では風散布も起こっているかもしれません。

ある文献ではヤナギハナガサにエラオソームがあるとしていますが(Fryirs & Carthey, 2022)、詳細は不明です。乳頭状突起のことをエラオソームと呼んでいるのかもしれませんが、この突起にそのような役割があるかは不明です。

引用文献

Arifin, M., & Okamoto, T. 2022. Floral scent and pollination of the invasive plant Coreopsis lanceolata in Japan. Journal of Pollination Ecology 32: 108-127. https://doi.org/10.26786/1920-7603(2023)740

Fryirs, K., & Carthey, A. 2022. How long do seeds float? The potential role of hydrochory in passive revegetation management. River Research and Applications 38(6): 1139-1153. https://doi.org/10.1002/rra.3989

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Palmersheim, M. C., Schürch, R., O’Rourke, M. E., Slezak, J., & Couvillon, M. J. 2022. If You Grow It, They Will Come: Ornamental Plants Impact the Abundance and Diversity of Pollinators and Other Flower-Visiting Insects in Gardens. Horticulturae 8(11): 1068. https://doi.org/10.3390/horticulturae8111068

Rollings, R., & Goulson, D. 2019. Quantifying the attractiveness of garden flowers for pollinators. Journal of Insect Conservation 23(5-6): 803-817. https://doi.org/10.1007/s10841-019-00177-3

清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 600種 改訂. 全国農村教育協会, 東京. 553pp. ISBN: 9784881370858

植村修二・勝山輝男・清水矩宏・水田光雄・森田弘彦・廣田伸七・池原直樹. 2015. 日本帰化植物写真図鑑 plant invader 500種 第2巻 増補改訂. 全国農村教育協会, 東京. 595pp. ISBN: 9784881371855

Wenninger, A., Kim, T. N., Spiesman, B. J., & Gratton, C. 2016. Contrasting foraging patterns: Testing resource-concentration and dilution effects with pollinators and seed predators. Insects 7(2): 23. https://doi.org/10.3390/insects7020023

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