ポインセチア・ショウジョウソウ・ショウジョウソウモドキはいずれもトウダイグサ科トウダイグサ属に含まれ、盛んに観賞用に栽培される一方で、野生化することもある仲間です。何より大きな特徴が鮮やかな赤色または白色になって目立つ花弁のような「苞葉」が存在することですが、この特徴は3種で共通であるため、混同されることがあるかもしれません。3種は基本的には色づいた苞葉の範囲や色の種類で判別することができ、葉の形も参考になると思います。「ポインセチアは有毒である」という内容が『日本語版Wikipedia』を筆頭にインターネットでは流布していることがありますが、これは明確なデマで毒性は現在のところ確認されていません。本記事では苞葉に色があるトウダイグサ属の分類・形態・毒性について解説していきます。
ポインセチア・ショウジョウソウ・ショウジョウソウモドキとは?
ショウジョウボク(猩々木) Euphorbia pulcherrima は別名ポインセチア、クリスマスフラワー。中央アメリカ原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培され、亜熱帯~熱帯で逸出し野生化している常緑低木です(RBG Kew, 2024)。日本では観賞用に栽培されるのみです。
ショウジョウソウ(猩々草) Euphorbia cyathophora はアメリカ大陸(アメリカ合衆国~アルゼンチン)原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培され、亜熱帯~熱帯で逸出し野生化している一年草です。日本では奄美群島・大東諸島・琉球諸島・小笠原諸島の畑地や原野に広く野生化しています。
ショウジョウソウモドキ(猩々草擬き) Euphorbia heterophylla は中央アメリカ~南アメリカ(ベネズエラ~アルゼンチン)原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培され、亜熱帯~熱帯で逸出し野生化している一年草です。日本では沖縄に野生化しています。
いずれもトウダイグサ科トウダイグサ属に含まれ、盛んに観賞用に栽培される一方で、野生化することもある仲間です。日本では11~12月頃に一部が鮮やかな赤色または白色になることから「クリスマスフラワー」とも呼ばれ鉢植えとして大変人気があります。
何より大きな特徴が鮮やかな赤色または白色になって目立つ部分があることですが、これはよく誤解されますが花弁ではなく、「苞」または「苞葉」と呼ばれる元々と葉だったものが特殊に変化したものです。花に花弁や萼はありません。
この他、葉は楕円形で大きく幅2cm以上で、杯状花序の腺体は1~2個であることも特徴です。
ポインセチア・ショウゾウソウ・ショウジョウソウモドキの違いは?
3種の区別は比較的簡単です(Wu et al., 2008; 神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、ポインセチアとショウジョウソウ・ショウジョウソウモドキに大別できます。
上述のように3種には苞葉と呼ばれる、花期に花を囲むように色づく葉が確認できますが、ポインセチアでは苞葉全体が一様に明るい赤色(一部の園芸品種では白色や黄色)になるのに対して、ショウジョウソウやショウジョウソウモドキでは苞葉の基部のみが部分的に赤色や白色に色づくという違いがあります。
また、ポインセチアの標準和名である「ショウジョウボク」という名前の通り、ポインセチアは木本ですが、ショウジョウソウとショウジョウソウモドキは基本的には草本で、生長しても部分的に木化する程度です。
この2点から簡単に区別できます。
ショウジョウソウとショウジョウソウモドキに関しては、ショウジョウソウでは葉の中部に湾入があり、花期に苞葉の基部がスポット状に紅色を帯びるのに対して、ショウジョウソウモドキでは葉の中部に湾入はなく、花期に苞葉は紅色にならず基部がやや白みを帯びるという違いがあります。
ただし、図鑑ではなぜかほとんど紹介されていませんが、ショウジョウソウも時期によっては苞葉が白色になることがあるようです。しかし、その場合でも葉がスポット状に色がつく(くっきりと色が分かれる)ことや葉の状態から区別できるでしょう。
Wikipediaの「ポインセチアは有毒である」とするデマに注意
『日本語版Wikipedia』では「全草に有毒成分ホルボールエステル類が含まれ、皮膚炎・水疱などを引き起こす。致死的な毒ではないが、1919年にハワイで子供がポインセチアを食べて死亡した例が報告されている。」という記述があります。植物体を傷つけると乳液を出すので、人体にも毒があると思われるかもしれません。
しかし、『英語版Wikipedia』や学術論文を参照すると全く反対のことが書かれており、基本的には無毒であることが分かっています(Krenzelok, 1996; Evens & Stellpflug, 2012)。
経緯としては、1919年に2歳の子供がポインセチアの葉を食べて死亡したという都市伝説によって広まり、1944年この話が『Poisonous Plants of Hawaii(ハワイの有毒植物)』という図鑑に掲載されてしまいました。
著者は後にこの話は伝聞であり、ポインセチアが有毒であるとは証明されていないことを認めましたが、この植物は致死的な毒があると考えられ続け、1970年米国食品医薬品局は「ポインセチアの葉1枚で子供1人が死亡する可能性がある」と誤って記載したニュースレターを発行し、1980年にはノースカロライナ州のある郡の老人ホームでポインセチアが禁止されたと言います。
しかし実際にアメリカの中毒管理センターがポインセチアを曝露した22,793件の症例を調査したところ、92.4%は毒性を発現せず、3.4%は軽微な症状があるのみでした。
ラットにポインセチアを25 [g/kg] 経口投与した例でも14日間の観察期間中に症状の証拠はなく、その後の剖検でも毒性が認められませんでした。
これらから多くの人にとって無毒となる場合が多いと言えるでしょう。
ただし、天然ゴムラテックスの原料となるパラゴムノキ Hevea brasiliensis と同じ科に属し、2つの共通のアレルゲンタンパク質を共有しているため、免疫が誤作動して、交差反応を起こす可能性が稀ですが指摘されています。
そのため、ゴムにアレルギー反応を持つ人やアトピー性湿疹または他の全身性アトピーの人は避けた方が良いとされています。
更に個人的に付け加えると、継続的に摂取し続けた中長期的な影響は不明であり、乳液というのは何らかの外敵に対抗するために進化したことが殆どなので、わざと食べるのは私は推奨できません。
引用文献
Evens, Z. N., & Stellpflug, S. J. 2012. Holiday plants with toxic misconceptions. Western Journal of Emergency Medicine 13(6): 538-542. https://doi.org/10.5811%2Fwestjem.2012.8.12572
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Krenzelok, E. P., Jacobsen, T. D., & Aronis, J. M. 1996. Poinsettia exposures have good outcomes… just as we thought. The American Journal of Emergency Medicine 14(7): 671-674. https://doi.org/10.1016/S0735-6757(96)90086-8
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2008. Flora of China. Vol. 11 (Oxalidaceae through Aceraceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723733