ツルソバとヒメツルソバはいずれもタデ科イヌタデ属に含まれ、イヌタデ属の中でも最も身近な多年草で、特にヒメツルソバは都市部の民家の石垣でも極めて一般的に観察できます。イヌタデ属は膨大な種類を含むグループですが、その中でもこの2種は形態的な共通点は多く、つるのように茎が伸び、花序が頭状である点、葉が卵形である点など様々な点で類似しており、区別に迷うことがあるかもしれません。しかし、花の色や葉の毛の生え具合を確認することで簡単に区別することができます。本記事ではツルソバとヒメツルソバの分類について解説していきます。
ツルソバ・ヒメツルソバとは?
ツルソバ(蔓蕎麦) Persicaria chinensis は日本の本州(関東地方南部以西)、四国、九州;中国、朝鮮、東南アジア、南アジアに分布し、暖地の海岸に生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018; RBG Kew, 2023)。
ヒメツルソバ(姫蔓蕎麦) Persicaria capitata は東南アジア、南アジア原産で、日本を含む世界中で観賞用に栽培されたものが野生化し、沿海地の石垣などに生える多年草です。
いずれもタデ科イヌタデ属に含まれ、イヌタデ属の中でも最も身近な多年草で、特にヒメツルソバは都市部の民家の石垣でも極めて一般的に観察できます。這うように茎が伸び、花序が頭状である(丸い塊になっている)のは大きな特徴で可愛らしい印象を受け、人気のある理由でしょう。
タデ科らしく花弁と萼の区別がつかない花被片から構成される花を持っています。
またイヌタデ属は膨大な種類を含むグループですが、その中でもこの2種は形態的な共通点は多く、雌しべの花柱は花の後に落ちる点、花序が頭状である点、葉が卵形である点、茎に逆刺がなく、葉柄に翼がなく、葉の下面に腺点はない点などは全く同じです。
そのため、名前も相まって混同する人がいるかもしれません。
ツルソバとヒメツルソバの違いは?
しかし、この2種類の区別は難しくありません。最も簡単な判別方法は花の色です。
具体的には、ツルソバでは花の色は普通白色であるのに対して、ヒメツルソバは淡紅色~白色という違いがあります。
区別方法はこれだけでも十分ですが、この2種は単に色が違うというだけでなく、他にも明確な違いが存在します。
葉に関しては、ツルソバでは両面無毛であるのに対して、ヒメツルソバでは両面に短毛があるという違いがあります。
茎に関しては、ツルソバでは地を這って2m以上に伸びるのに対して、ヒメツルソバでは大きくても長さ50cmくらいという違いがあります。
これらを比較すれば間違うことはないでしょう。
生息地としても本州ではヒメツルソバでは都市部でも頻繁に見られるのに対して、ツルソバは海岸にたまに見かける事ができる程度です。
しかし、筆者が屋久島に行った際には都市部でもツルソバを頻繁に観察することができ、ツルソバはやはり南方の方が繁殖に適しているのかもしれません。
ツルソバの花にはマレーシアではミツバチ属 Apis、ナミハナアブ属 Eristalis、キンバエ属 Lucilia、トックリバチ属 Eumedes といった種類の昆虫が訪れることが知られています(Wong et al., 2015)。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
Wong, M. M., Lim, C. L., & Wilson, J. J. 2015. DNA barcoding implicates 23 species and four orders as potential pollinators of Chinese knotweed (Persicaria chinensis) in Peninsular Malaysia. Bulletin of Entomological Research 105(4): 515-520. https://doi.org/10.1017/S0007485315000358