シャリンバイ・マルバシャリンバイ・モッコクモドキはいずれもバラ科シャリンバイ属に含まれ、本来は海岸に自生しますが、都市部でも植えられているのを頻繁に見かけます。しかし、シャリンバイ属の分類は種レベルでも複雑な上に、上記の3種類以外にもそれぞれに変種や品種が確認されているため、一般の人には違いを確認するのは難しいでしょう。上記3種類に限れば葉の形と花の色で区別できるとされていますが、変異は連続的な場合があり、明確な区別は難しい場合があります。この他ヒメシャリンバイなど様々な変種・品種が知られています。本記事ではシャリンバイ属の分類・形態について解説していきます。
シャリンバイ・マルバシャリンバイ・モッコクモドキとは?
シャリンバイ(車輪梅) Rhaphiolepis indica var. umbellata は別名タチシャリンバイ。日本の本州・四国・九州・琉球・小笠原;朝鮮・中国・台湾・東南アジアに分布し、海岸近くに生える常緑低木です(神奈川県植物誌調査会,2018)。日本では公園樹・街路樹・庭木として栽培されます。海外の中国やイギリスの研究機関では Rhaphiolepis umbellata の学名が採用されています(Wu et al., 2003; RBG Kew, 2024)。
マルバシャリンバイ(丸葉車輪梅) Rhaphiolepis indica var. umbellata f. ovata はシャリンバイの品種で、海岸近くに生える常緑低木です。日本では公園樹・街路樹・庭木として栽培されます。海外の中国やイギリスの研究機関に従えば Rhaphiolepis umbellata f. ovata の学名になります(Wu et al., 2003; RBG Kew, 2024)。
モッコクモドキ(木斛擬き) Rhaphiolepis indica var. indica は別名ベニバナシャリンバイ(紅花車輪梅)。中国南東部・台湾・ベトナム・カンボジア・ラオス・タイに分布し、斜面・道端・川沿いの藪に生える常緑低木です。日本では公園樹・街路樹・庭木として栽培されます。名前に「モッコク」とありますが、モッコクは関係ありません。
いずれもバラ科シャリンバイ属に含まれ、本来は海岸に自生しますが、都市部でも植えられているのを頻繁に見かけます。
常緑性である葉の下面の側脈が目立ち、網目状になっている点が特徴的で、花期の春(5~6月)になると一斉に5枚の花弁を持つ花が咲いています。また、直径約1cmの球形で黒紫色に熟すナシ状果の果実を10〜11月に付けるのも目立ちます。
しかし、シャリンバイ属の分類は種レベルでも複雑な上に、上記の3種類以外にもそれぞれに変種や品種が確認されているため、一般の人には違いを確認するのは難しいでしょう。
そもそも専門家の間でも日本と海外では考えの違いで学名が異なっており、この点もややこしさに拍車をかけています。
シャリンバイ・マルバシャリンバイ・モッコクモドキの違いは?
今回はシャリンバイ・マルバシャリンバイ・モッコクモドキの3種類について考えてみましょう。
まず3種類は学名からも分かる通り、中国の植物図鑑によると、シャリンバイ・マルバシャリンバイとモッコクモドキに大別できます(Wu et al., 2003; 林,2019)。
具体的にはシャリンバイとマルバシャリンバイでは鋸歯葉と全縁葉の2種類の葉があるのに対して、モッコクモドキでは鋸歯葉の1種類の葉しかないという違いが挙げられています。
また日本の植物図鑑では、シャリンバイとマルバシャリンバイでは花が白色であるのに対して、モッコクモドキでは花がピンク色(薄い紅色)であるとされてます。
ただし、中国の植物図鑑ではモッコクモドキは「白色またはピンク色」と書かれているので、原産地では花が白い変種や品種も存在していると思われます。
また、花がピンク色のものの中にはシャリンバイとモッコクモドキの雑種が混ざっていることをを示唆する記述がある図鑑もあるため、もしかすると日本で植栽されているものは雑種もあるのかもしれません。
シャリンバイとマルバシャリンバイについては「品種」レベルの僅かな違いしかありません。
シャリンバイでは葉が長く樹高が高くなる場合があるのに対して、マルバシャリンバイでは葉が丸く樹高が低いという違いがあります。
この変異は連続的なので明確に区別できない場合があります。
他に似た種類はいる?ヒメシャリンバイとの違いは?
ヒメシャリンバイ(姫車輪梅) Rhaphiolepis indica var. umbellata f. minor (海外では Rhaphiolepis umbellata f. minor)は自生せず園芸個体のみ知られる変種で、指先ほどの小さな葉をつけるなど全体的に小型な矮小変種です(大橋,1988)。花がピンク色の場合があるようです。
ホソバシャリンバイ(細葉車輪梅) Rhaphiolepis indica var. liukiuensis (海外では Rhaphiolepis umbellata var. liukiuensis)は沖縄に分布し、葉が細長いシャリンバイの変種です。
タカサゴシャリンバイ(高砂車輪梅) Rhaphiolepis indica var. tashiroi (海外でも Rhaphiolepis indica var. tashiroi)は別名シマシャリンバイ。日本(小笠原諸島)と台湾に分布し、葉身は狭い楕円形~披針形状楕円形で鈍鋸歯があり、苞は披針形で約7mmです(モッコクモドキは葉身は卵形~長楕円形、まれに倒卵形、または長楕円状披針形でより細かい鈍鋸歯があり、苞は狭い披針形で2~7mm)。
日本国内では同じく公園樹として植栽されていることの多い常緑樹の種類と混同することがあるかもしれません。これらの種類との違いは別記事を御覧ください。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
大橋広好. 1988. 日本産シャリンバイ属植物の分類. 植物研究雑誌 63(1): 1-7. ISSN: 0022-2062, https://doi.org/10.51033/jjapbot.63_1_8107
RBG Kew. 2024. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. 2003. Flora of China. Vol. 9 (Pittosporaceae through Connaraceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723146