リキュウバイとヤナギザクラの違いは?似た種類の見分け方を解説!千利休と関係があるというのは嘘?花の緑色の部分にはどういう役割がある?

植物
Exochorda racemosa

リキュウバイとヤナギザクラは中国原産で、特にリキュウバイは日本で茶庭や普通の庭で栽培されることが多い種類です。また稀ではありますが、ヤナギザクラも栽培されることもあります。これら2種は葉の鋸歯の具合で確実に見分けることができ、花でも一応見分けがつくようです。リキュウバイは漢字で「利休梅」と書き、いかにも戦国時代に関係してそうですが、実際は明治時代になってからイメージで名付けられました。そんな2種の花は花托が大きく付き出した花盤が特徴的で、中国で行われた研究ではトウヨウミツバチというミツバチが92%も占めており、おそらくミツバチに特化した花に進化した結果発達したようです。果実は24時間以上水に浸かっても発芽能力を失わないという能力を持っており、自然下では水散布植物として生きているようです。本記事ではリキュウバイとヤナギザクラの分類・名前の由来・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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リキュウバイ・ヤナギザクラとは?

リキュウバイ(利休梅) Exochorda racemosa は中国原産で日本では明治時代から庭木として植栽され、原産地では日陰の斜面に生息する落葉低木です(Wu et al., 2003)。

ヤナギザクラ(柳桜) Exochorda serratifolia は中国・朝鮮原産で日本では稀に植栽されます。原産地では雑木林、斜面、川辺に生息する落葉低木です。

どちらもバラ科ヤナギザクラ属で、日本では観賞用にのみ栽培され、自生していません。比較的近年に知られるようになった植物ですが、花が面白いためか、時々見かけることがあります。

同じグループであるため、特に花の形はそっくりで区別に迷うことがあるかもしれません。

リキュウバイとヤナギザクラの違いは?

この2種の違いは葉でも花で一応見分けることができますが、葉の方が確実です(Wu et al., 2003;林,2014)。

まず葉についてはリキュウバイでは全縁のものと鋸歯があるものが入り混じり、鋸歯がある場合、葉先部分にのみ見られます。先端は丸く、両面無毛です。それに対してヤナギザクラは普通は葉の先半分に鋸歯があり、葉先はやや尖り、両面無毛ですが若葉のときは有毛であるという違いがあります。

花についてはリキュウバイでは中央にある花托が大きく付き出した部分である「花盤」が緑色であるのに対して、ヤナギザクラでは緑褐色に見えるという違いがあります。しかしこの差は微妙で、個体差や撮影時の光の具合などで変わってしまうことはあるでしょう。やはり基本的には葉を比べるのが良さそうです。

ヤナギザクラの植栽が稀であることも頭に入れておいたほうが良いでしょう。

リキュウバイの葉上面:全縁で無毛
リキュウバイの葉下面:全縁で無毛
リキュウバイの花:花盤は緑
ヤナギザクラの葉上面:葉の先半分に鋸歯がある|By Salicyna – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=54872157

名前は千利休からとされるが実は全然関係ない!?

リキュウバイは漢字で利休梅と書きます。名前の由来は確かに千利休に由来するとされているものの、その理由は茶道で茶会の席に飾る花であるからとも、茶庭で栽培され千利休の命日頃に咲くからとも言われます。他にも清楚な花であるから千利休が好んだに違いない、といったものなど複数説があります。

このようにあまりにも説が多くなぜか由来がバラバラすぎます!

実は上述の通り、リキュウバイは明治時代になってから日本に入ってきたもので、当然戦国時代から安土桃山時代にかけての商人、茶人である千利休はその頃はいません。

この名前はこの種子を売り広めた種苗業者によって命名されたとされており、その後、切花市場などでもこの名で取り扱われるようになったと言われています(加藤・中村,1971)。

つまりあくまでイメージで明治時代の人がつけたということになります。

歴史を感じたい人にとっては中々聞きたくない事実かもしれませんが、リキュウバイの花の綺麗さを損なうものでもないので、あまり意識しすぎる必要もないとは思います。

花の構造は?

リキュウバイとヤナギザクラはどちらも花期はだいたい5~6月で、5枚の白い花弁から構成されます。何よりも特徴的なのは花托が大きく付き出した花盤という部分で、リキュウバイでは緑色、ヤナギザクラでは緑褐色をしています。ここから短めの雄しべが多数出ており、花盤中央からは雌しべが確認できます。特徴的ではあるものの、平らな形をしているため、多くの種類の昆虫を呼び寄せそうな予感がします。

リキュウバイの花

なぜか花にはトウヨウミツバチばかり訪れていた!?

ところが、リキュウバイとヤナギザクラを含むヤナギザクラ属全体について調べた原産地の中国の研究では、種類としてはコウチュウ目、ハエ目、ハチ目、カメムシ目、チョウ目と様々な昆虫が訪れていましたが、割合で見ると、92%がトウヨウミツバチ Apis cerana でした(Fangyou, 1998)。ただし、昆虫による他家受粉に対して7%以上は自家受粉も行っています。

ただ残念ながらなぜトウヨウミツバチばかりなのか?というのは考察されておらず、不明です。

ミツバチがどのように蜜や花粉をとる際、ミツバチ側に惹かれてやってくるのかはまだ確認されていないようですが、やはり緑色の花盤を目印にやってきて、花盤と雌しべの間にある隙間から口を入れて蜜を吸うのだと思われます。このような場合はある程度、口の長さによって蜜が吸える虫が制限されているのかもしれません。

なお、2番目に多かったアサギシジミ Rapala caerulea は3.3%を占めており、数はかなり少ないですが、トウヨウミツバチより長距離を移動するため、異花受粉により貢献しているとされています。しかし、盗蜜をすることが多いチョウがどれほど花粉を運ぶことが多いのか、個人的には少し疑問ですね。やはりミツバチに特化した花、と基本的には考えて良さそうです。

ただし、これらの結果は完全な自然環境下での研究ではなく、中国の植物園内での研究であるという点は考慮に入れる必要もあるでしょう。

果実は蒴果で水によって散布される?

ヤナギザクラ属の果実は蒴果で、倒円錐形、5つの角があり、両側の縫線から裂開します。種子は1~2個入っており、偏平で翼があります。

ヤナギザクラ属の種子は水より軽く、24時間以上水に浸かっても発芽能力を失わないことから、水による種子散布を行っていると考えられています(Fangyou, 1998)。また、風や重力による種子散布も一部では行っている可能性があります。果実の蒴果が破裂すると、種子を排出することができ、こうすることでかなりの距離を移動して新しい土地に定着するのに有効です。

一方で、乾燥した蒴果は鳥類にとって魅力がなく鳥によって散布されることはありません。また、根の吸盤で無性生殖することも考えられ、研究者は1995年に中国でフィールドワークをしたとき、根から新しい枝が出ているのを観察したことがあると言います。

日本で住んでいると、自然状態でのリキュウバイとヤナギザクラを見かけることはないかもしれませんが、果実を見て、自然での生き方を察するもの楽しいと思います。

引用文献

Fangyou, G. 1998. Exochorda: five species or one? : a biosystematic study of the Rosaceous genus Exochorda. Wageningen University, Gelderland. 133pp. ISBN: 9789054858256, https://research.wur.nl/en/publications/exochorda-five-species-or-one-a-biosystematic-study-of-the-rosace

林将之. 2014. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類. 山と溪谷社, 東京. 759pp. ISBN: 9784635070324

加藤要・中村恒雄. 1971. 山渓カラーガイド カラー 花木 1. 山と渓谷社, 東京. 199pp.

Wu, Z. Y., Raven, P. H. & Hong, D. Y. 2003. Flora of China. Vol. 9 (Pittosporaceae through Connaraceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723146

出典元

本記事は以下書籍に収録されてたものを大幅に加筆したものです。

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