ボダイジュ・オオバボダイジュの違いは?シナノキ・インドボダイジュとの違いは?沢山のハナバチを呼ぶ秘密は匂いにあり!?果実につく苞葉の役割は?

植物
Tilia miqueliana

ボダイジュ・オオバボダイジュはいずれもアオイ科シナノキ属の落葉高木で、それぞれ由来は違うものの、日本の市内で栽培される点が共通しており、葉の形態もよく似ているため、見たことない人は区別がつかないかもしれません。ただ、葉を大きさは勿論、葉柄の長さは顕著な違いがあります。同属の近似種にシナノキがいますが、こちらは葉下面の脈腋の茶色い毛叢や花の形で見分けられるでしょう。インドボダイジュとも名前からよく混同されますが、こちらはクワ科で葉も花の形も全く異なります。本来ガウタマ・シッダールタ(釈迦)が悟りを開いた樹はインドボダイジュでしたが、インドボダイジュが日本では育たないため、寺院で植えるための代用としてこの種類を中国から輸入した結果名前が逆転してしまいました。ボダイジュ・オオバボダイジュの花序は下垂し、花は白い小型のものですが、匂いが強く多くのハナバチを引き寄せるようです。果実は堅果で、果序の付け根には苞葉があり、落下する際に回転し、母樹から遠ざかることで種子散布します。本記事ではボダイジュ・オオバボダイジュの分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ボダイジュ・オオバボダイジュとは?

ボダイジュ Tilia miqueliana は中国に分布する落葉高木です(Wu et al., 2007)。日本では神聖な樹木であるインドボダイジュの代用として寺院を中心に栽培されます。

オオバボダイジュ Tilia mandshurica は日本の北海道、本州の東北地方・北陸地方・関東地方北部に分布し、山地の落葉樹林内に生える落葉高木です(茂木ら,2000)。寒地で公園樹や街路樹として栽培されることもあります。

いずれもアオイ科シナノキ属の落葉高木で、それぞれ由来は違うものの、日本の市内で栽培される点が共通しているでしょう。名前も類似しており、見たことない人は区別がつかないかもしれません。葉がハート形になることもあり、葉柄の付け根から全体に葉脈が広がっていく「掌状脈系」と呼ばれる葉脈の付け方をしている点も共通です。

ボダイジュ・オオバボダイジュとシナノキの違いは?

2種の違いの前に同属にはシナノキという植物もいます。シナノキは日本固有種で、北海道、本州、四国、九州に分布し、山地の尾根筋から渓流にかけて生える落葉高木です。

ボダイジュ・オオバボダイジュとシナノキは何が違うのでしょうか?

まず葉の形がシナノキでは歪んだハート形で葉上面のしわも少ないですが、ボダイジュでは三角形~ハート形で、オオバボダイジュでは葉上面にしわが多いです(林,2019)。

シナノキでは葉下面の脈腋に茶色い毛叢(毛のかたまり)があり、特に葉柄の付け根のものは目立ち、茶色い毛に覆われている様子が確認できます。ボダイジュではこれがなく、オオバボダイジュでは普通ありますが淡褐色に留まります。

花が最も異なっており、シナノキでは雄しべが花弁から明らかに外側に突き出ますが、ボダイジュとオオバボダイジュでは雄しべはそれほど長くなく内側に曲がっています。

シナノキの葉
シナノキの樹皮
シナノキの未熟果

ボダイジュとインドボダイジュの違いは?

インドボダイジュ Ficus religiosa もその名前からボダイジュとよく間違われる種類です。インドボダイジュはインド~東南アジアに分布する半落葉高木です。

インドボダイジュはボダイジュとは分類学的には全く異なります。ボダイジュは上述のようにシナノキ属ですが、インドボダイジュはクワ科イチジク属に含まれます。

そのため多くの点で違いがあります。まず葉に関してはインドボダイジュでは他のイチジク属と同様に厚みがあり、全縁で、尾状に伸びた葉先は非常に長く葉身の1/3以上になることもあるのに対して、ボダイジュおよび他のシナノキ属では葉は薄めで、鋸歯があり、葉先は尾状にはなるもののかなり短いです。

花は更に異なり、インドボダイジュでは多くのイチジク属と同様にまるで果実のような「花嚢」、あるいは「隠頭花序」と呼ばれる特別な花をつけますが、ボダイジュおよび他のシナノキ属は一般的な開放花をつけています。

インドボダイジュは同属のアコウやガジュマルのように「締め殺しの木」になることもありますが、シナノキ属ではそうならないというのも大きいでしょう。

インドボダイジュの葉上面
インドボダイジュの葉下面
インドボダイジュの樹皮

ではなぜこんなにも異なるのに、名前が似ているのでしょうか?

ボダイジュというのは漢字で「菩提樹」と書き、菩提はサンスクリット語の音写で仏の悟りの境地を意味します。仏教の開祖、ガウタマ・シッダールタ(釈迦)が悟りを開いた樹であることに由来しますが、本来はその樹はインドボダイジュでした(岩佐,1982;妻鹿,1990;栗田,2008)。

しかし、インドボダイジュは熱帯原産なので日本では育たないため、寺院で植えるための代用として中国から輸入したボダイジュが用いられたのです。そのため和名が逆転してしまうというややこしいことになってしまいました。持ち帰ったのは臨済宗の開祖、栄西であるとする説もあります(栗田,2008)。だとすると、中国では南宋の時代に、日本では平安時代のことになります。

ただなぜ数ある植物の中で「ボダイジュ」を用いたのはよくわからないところです。単に尾状に伸びるなど似た葉が注目されたのかもしれませんが(妻鹿,1990)、少し説得力がなく私の調査では不明です。

ヒンドゥー教でも同様に聖木です(岩佐,1982)。

ボダイジュとオオバボダイジュの違いは?

ボダイジュとオオバボダイジュ(広義)の間にも多くの違いがあります(林,2019)。

まず上述のようにボダイジュは中国原産で寺院を中心に植栽されるのに対して、オオバボダイジュは日本で自生します。そのため自生個体についてはオオバボダイジュの可能性が高いでしょう。しかし、オオバボダイジュも植栽されることがあることから植栽の個体では判別が難しいかもしれません。

形態的な違いとしては、名前の通り葉身の大きさがボダイジュでは5~10cmですが、オオバボダイジュでは7~18cmとかなり大きくなります。

もっと顕著なので葉柄の長さで、ボダイジュでは2~4cmしかないのに対して、オオバボダイジュは4~7cmもあり遠目でも目立つでしょう。これは被りもなく良い違いだと思います。

葉の形はボダイジュでは三角形~ハート形であるのに対して、オオバボダイジュは円形~ハート形です。

また、オオバボダイジュでは葉下面の脈腋に淡褐色の毛叢(毛のかたまり)がありますが、ボダイジュではこれがありません。

花はボダイジュでは黄褐色みが強いのに対して、オオバボダイジュでは普通の白色~淡黄色の場合が多いですが、形態的な差異は少なく種類の判断に利用するには微妙そうです。

なお、マンシュウボダイジュ Tilia mandshurica var. mandshurica という日本の中国地方と大分県;朝鮮半島、中国(東北部)、ロシア(シベリア)に分布する種類も知られていますが、こちらはオオバボダイジュの葉のように葉下面全体に星状毛が生えるものの、オオバボダイジュでは存在する葉下面の脈腋に淡褐色の毛叢が全くありません。

ボダイジュの葉上面
ボダイジュの葉下面
ボダイジュの樹皮
ボダイジュの花
I, KENPEI, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4269306による
オオバボダイジュの葉
Qwert1234 – Qwert1234’s file, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31047918による
オオバボダイジュの花
Qwert1234 – Qwert1234’s file, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31047905による
マンシュウボダイジュの葉上面
マンシュウボダイジュの葉下面
マンシュウボダイジュの樹皮

オオバボダイジュの変種は?

オオバボダイジュ(広義)には2つの変種が知られています。

オオバボダイジュ(狭義) var. maximowicziana は葉下面が全体的に星状毛が密生し白っぽいです。

モイワボダイジュ var. yesoana は葉下面は星状毛がまばらでやや緑色です。

花の構造は?

ボダイジュとオオバボダイジュの花は多くのシナノキ属と同じで集散花序を下垂させ、白色~黄色の小さめの花を多数つけます。花の形自体には特に変わった部分はありませんが、花序の根本に苞葉が付いている点は特殊でしょう。これは果実のときに利用します。

ボダイジュは花期が6月。枝先の葉腋に苞葉をつけ、苞葉の中央近くから集散花序を下垂し、花を3~12(~20)個つけます。集散花序は長さ6~10cm。苞葉は短い柄があり(ときに無柄)、長さ5~8(~12)cmのへら形、先は鈍く、基部が狭い楔形、両面に星状毛があり、裏面に密生します。花は淡黄色、芳香があります。花柄は長さ4~6cm、小花柄は長さ8~12mm。萼片は長さ5~6mm。花弁は萼片より少し長いです。雄しべ5個、仮雄しべ5個。

オオバボダイジュは花期は6~7月。葉柄の基部の側方から長さ6~10cmになる集散花序を垂らし、その先に10数個の淡黄色の花をつけます。花序の軸に狭長楕円形の総苞葉が合着し、総苞葉は、花時の長さは5~8cm、両面に星状毛が密に生え、基部に長さ2~5mmの短い柄があります。萼片は5個あり、長さ6~7mmになる披針形で先はとがり、内面には長い毛が、背面には星状毛が密に生えます。花弁は淡黄色で5個あり、長さ約8mmになる狭長楕円形で先はやや鈍いです。雄しべは長さ約5mmになり、多数あり離生します。花弁の内側に仮雄しべが5個あり、へら形の花弁状で花弁より短いです。子房は5室あって各々に2個の胚珠があり、花柱1個は細く伸び、柱頭は浅く5裂します。

受粉方法は?

ボダイジュとオオバボダイジュは花に芳香があり、蜜も多いことからも、他のシナノキ属と同様に明らかに虫媒花です。

ボダイジュには文献ではテツイロヒメカミキリ Ceresium sinicum という甲虫が訪れた記録があります(池田,2016)。また、セイヨウミツバチが訪れた記録もありますが(佐々木,2010)、セイヨウミツバチは外来種ですので自然下では受粉に貢献することはないでしょう。

インターネット上では京都大学総合博物館のデータベースでボダイジュから採集されたドロバチ亜科の一種とムカシハナバチ科の一種の標本があり、『ネコな日々』というブログではキムネクマバチが訪れている写真があります。

オオバボダイジュには文献ではトラマルハナバチ、コマルハナバチなどが頻繁に訪花したとする記録がある他(水井,1993)、セイヨウミツバチが訪れた記録があり、単花蜜として蜂蜜が販売されることもあります(佐々木,2010;真坂ら,2013)。やはり、セイヨウミツバチは外来種ですが、ヒトへの恵みを与えてくれています。

総合すると、カミキリムシは例外的ですが、かなりたくさんの種類のハナバチに好まれているようです。特別な構造がない花なのにそうなっている理由は完全には分かりませんが、やはりその匂いに秘密がありそうです。中国の研究ではフユボダイジュ T. cordata、ボダイジュ、ギンヨウボダイジュ T. tomentosa の花から合計70種類の揮発性成分が検出され、43種類の芳香化合物が特定されています(Bao & Shen, 2022)。これらがハナバチを強く惹きつけるのかもしれません。

果実の構造は?

ボダイジュとオオバボダイジュの果実も多くのシナノキ属と共通で堅果です。堅果は堅く木化した果皮が1個の種子を包み、裂開しない果実を指します。

しかし特殊な点はやはり果序の付け根にある苞葉の存在で、オオバボダイジュでは花が果実になると、最終的に長さは6~10cmにまで伸長します。

ボダイジュの堅果は直径7~8mmの球形、硬く、表面に細かい星状毛が密生します。

オオバボダイジュの堅果は長さ10~15mmになる球状または楕円形で、5個の稜があり、灰白色の短い軟毛が密に生えます。10月頃に熟し、裂開しないで中に1個の種子が入ります。

種子散布方法は?

シナノキ属はその苞葉によって風散布され(Manchester, 1994)、ボダイジュやオオバボダイジュでも同様であると考えられています(Azuma & Yasuda, 1989; 野々田ら,2008)。

ただ、多くの風散布植物のように落下し地面についた後に果実や種子が風を受けて飛んでいく方式とは異なり、シナノキ属では苞葉以下の果序が切り離され、歪んだ苞葉が風の抵抗を受けて回転落下しながらゆっくりと空中で移動し、母樹から遠ざかっていくことになります。

つまりカエデ属、クマシデ属、ツクバネ属、アオギリ属、ユリノキ属などの翼果とよく似た種子散布方法であると言えるでしょう(Johnson, 1988; Azuma & Yasuda, 1989)。これは高木であるからこそ可能な種子散布方法と考えられそうです。

引用文献

Azuma, A., & Yasuda, K. 1989. Flight performance of rotary seeds. Journal of Theoretical Biology 138(1): 23-53. https://doi.org/10.1016/S0022-5193(89)80176-6

Bao, W., & Shen, Y. 2022. Dynamic Changes on Floral Aroma Composition of the Three Species from Tilia at Different Flowering Stages. Horticulturae 8(8): 719. https://doi.org/10.3390/horticulturae8080719

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

池田大. 2016. 兵庫県産テツイロヒメカミキリの追加記録. きべりはむし 38(2): 48. ISSN: 1884-9377, https://www.konchukan.net/pdf/kiberihamushi/Vol38_2/kiberihamushi_38_2_48.pdf

岩佐俊吉. 1982. 熱帯作物点描(VIII)宗教樹木. 熱帯林業 63: 33-36. https://doi.org/10.32205/ttf.0.63_33

Johnson, W. C. 1988. Estimating dispersibility of Acer, Fraxinus and Tilia in fragmented landscapes from patterns of seedling establishment. Landscape Ecology 1: 175-187. https://doi.org/10.1007/BF00162743

栗田亘. 2008. 今月の樹 ボダイジュ. グリーン・パワー 353: 3. ISSN: 0389-0988, https://doi.org/10.11501/12524798

Manchester, S. R. 1994. Inflorescence bracts of fossil and extant Tilia in North America, Europe, and Asia: patterns of morphologic divergence and biogeographic history. American Journal of Botany 81(9): 1176-1185. https://doi.org/10.1002/j.1537-2197.1994.tb15612.x

真坂一彦・佐藤孝弘・棚橋生子. 2013. 養蜂業による樹木蜜源の利用実態 ―北海道における多様性と地域性―. 日本森林学会誌 95(1): 15-22. https://doi.org/10.4005/jjfs.95.15

妻鹿加年雄. 1990. 世界の国花. 保育社, 大阪. 151pp. ISBN: 9784586507917

水井憲雄. 1993. 落葉広葉樹の種子繁殖に関する生態学的研究. 北海道林業試験場研究報告 30: 1-67. ISSN: 0910-3945, https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030500320

茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均 ・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041

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Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2007. Flora of China. Vol. 12 (Hippocastanaceae through Theaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723641

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