マツバギクと耐寒マツバギク(ハナランザン)の違いは?似た種類の見分け方を解説!葉はなぜ「ぶよぶよ」している?ピンクの花に来る昆虫は?果実は湿度が高まると膨張する!?

植物
Lampranthus spectabilis

マツバギクと耐寒マツバギク(ハナランザン)は南アフリカに分布し、日本では園芸種として非常に人気のある2種です。街を歩いていても必ずと言ってもいいほど見かけます。多肉植物であり、ぷにぷにとした葉と、ど派手なピンク色の花はとても日本では見られないような形であり、異国情緒があります。しかし、これらは葉と花が一見非常に似ているためかなり混同されます。海外の文献を確認すると2種の形態的な違いがはっきり明示されており、葉の形と花序を確認すれば区別できます。CAM型光合成を行い、ぶよぶよした多肉質な葉とともに耐熱性・耐塩性を高めています。花は放射状につき、原種ではど派手なピンク色の花弁から構成される花は多くの人の目を惹きます。この花にはハナバチや甲虫、ツリアブなどが訪れるようですが詳しい研究は不足しています。果実は蒴果ですが、他の植物のように乾燥したときではなく、雨に濡れた時に種子を放出するのが特異な点で南アフリカの気候に適応した結果と言えるでしょう。本記事ではマツバギクと耐寒マツバギクの分類・形態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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マツバギク・耐寒マツバギクとは?

マツバギク(松葉菊) Lampranthus spectabilis は南アフリカ共和国ケープ州に分布し、草地に生える小低木です。日本を含む世界中で園芸種として、観賞用に栽培されます。

ハナランザン(花嵐山) Delosperma cooperi は園芸では「耐寒マツバギク(タイカンマツバギク)」と呼ばれます。南アフリカ共和国フリーステイト州とレソトに分布し、乾燥した草地や攪乱地の岩場に生える多年草です。日本を含む世界中で園芸種として、観賞用に栽培されます。普通園芸では「耐寒マツバギク」と表記されますが、日本で最も詳しい和名と学名の対応リストである『Ylist』ではハナランザンとしています。由来は不明ですが花つきと葉の様子からだと思われます。以下はハナランザンと呼んでいきます。

いずれもハマミズナ科で南アフリカに分布し、日本では園芸種として非常に人気のある2種です。街を歩いていても必ずと言ってもいいほど見かけます。多肉植物であり、ぷにぷにとした葉と、ど派手なピンク色の花はとても日本では見られないような形であり、異国情緒があります。

これら2種は葉と花が一見非常に似ているため混同されます。この2種の違いについてきちんと理解して記述してる日本のサイトはどうやら少ないようです。

マツバギク・耐寒マツバギクの違いは?

海外の文献を確認するとマツバギクと耐寒マツバギク(ハナランザン)の形態的な違いがはっきり明示されています(Spencer & Thompson, 1997)。この文献を発見するのにとても時間がかかったので是非御覧ください。

そもそもマツバギクはマツバギク属 Lampranthus であるのに対して、ハナランザンはデロスペルマ属 Delosperma であることから、花は非常に類似しているものの、分類学的には比較的大きな違いがあると考えましょう。

まず、マツバギク(マツバギク属)では葉の表面はざらざらして多少の突起はあるものの目立たないのに対して、ハナランザン(デロスペルマ属)では葉の表面に明らかな粒状の乳状突起があるという違いがあります。

乳状突起というと、分かりにくいかもしれませんが、要するにハナランザンの葉には大きな「ぶつぶつ」があります。これは属を定義する重要な特徴です。

詳細な仕組みは分かりませんが、耐寒性や耐塩性の強い植物は糖や水分を蓄えるために特殊な構造を持つことが多く、ハナランザンでもおそらくこのような「ぶつぶつ」で耐寒性・耐塩性を得ているのでしょう。-29°Cにも耐え、比較的寒い地域でも栽培できるというのも、マツバギクとの違いと言えそうです。

花にも違いがあります。

マツバギクでは花弁がやや疎らで隙間があるのに対して、ハナランザンでは花弁がやや密で隙間が少ないです。しかし、この違いは微妙です。

日本のサイトではマツバギクでは基本的に集散花序が立ち上がって形成することがあるのに対して、ハナランザンでは単生で花序を形成しないという記述もあります。

実際日本での写真を見るとこのような傾向があるようにも見えますが、海外のサイトの記述も見るとハナランザンも集散花序を作ってる場合があるのであまり当てにならそうです。

基本的には葉の形を参考にして是非町中で2種を探してみてください。

マツバギク桃色花型の葉:表面はざらつくが突起はない
マツバギク桃色花型の花:花弁の間の隙間は大きめ
マツバギク白色花型の花:花序を作っている
ハナランザン(耐寒マツバギク)の葉:表面にぶつぶつの突起がある|By Didier Descouens – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=109704871
ハナランザン(耐寒マツバギク)の全形:この個体は花序は作らない
ハナランザン(耐寒マツバギク)の花|By Didier Descouens – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=106300135
ハナランザン(耐寒マツバギク)の果実|By Didier Descouens – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=108341655

光合成は特殊?葉の多肉の役割は?

生理的にはどちらもベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)型光合成を行います(吉村,2021)。

CAM型光合成は一般に、夜間に二酸化炭素(CO2)吸収を行い昼間の蒸散を抑えることができるため、主に陸上の多肉植物が厳しい水分環境にさらされる高温・半乾燥環境において水を確保する生理学的適応と捉えられ、直接土壌からの水分を吸収しにくい場所や塩分濃度の高い土壌に生育するのに有利です。これに加え、組織の多肉化も水分の貯蔵能力を高めるために進化しています。

実際、マツバギクでは600 [mmol/L] の塩化ナトリウム(NaCl)溶液を含む土壌栽培でも育つことが明らかになっており、強い耐塩性があります(近藤ら,2019)。塩味がありプチプチとした食感があるアイスプラント Mesembryanthemum crystallinum もハマミズナ科の近い仲間として知られています。

元々原産地の南アフリカという乾燥した厳しい環境で生息するための適応だったのでしょう。このことが栽培のしやすさにも繋がっていそうです。葉のぷにぷにとした質感が面白いですが、それだけではなく原産地での生活に想いを馳せてみるのも悪くないでしょう。

花の構造は?

マツバギクとハナランザンの花は全く別の属ですがかなりよく似ています。光沢があり、放射状に並び、原種ではど派手なピンク色の花弁から構成される花は多くの人の目を惹きます。

マツバギクは日本での花期は4~5月。花は1~7(~10)個、頂生の集散花序につき、直径(4~)5~6(~7)cm(Webb et al., 1988)。萼は無毛。萼片は長さ8~15mm。花弁は広がり、花弁上面は原種はピンク紫色ですが、赤色、ピンク色、紫色の園芸品種もあります。花弁下面は淡色、中間の縞は無く、長さ15~30mm。雄しべは長さ2~6mm。花糸は白色、基部に毛があります。葯は淡黄色。

ハナランザンは日本での花期は6~9月。花は単生し、花冠は直径3~6cm(Retief & Meyer, 2017)。花弁は原種では鮮やかなピンク~紫色ですが黄色や白の園芸品種もあります。基部はしばしば白色、雄しべはピンク~紫色か白色、葯は黄色。

受粉方法は?

マツバギクとハナランザンはともに自家不和合性があるため、結実には昆虫による他家受粉は不可欠です(Braun, 2016)。

とても目立つピンク色の花にどのような訪花昆虫が来るのかは気になるところですが、残念ながらその具体的な研究はないようです。

ただ、ハナランザンについては『PlantZ Africa』という南アフリカ共和国の研究所のサイトではハナムグリの仲間、ツリアブ科の仲間、ハナバチの仲間が花にやってきている写真が公開されています。

その他、『Google画像検索』でも同様にミツバチ類やハナバチ類が花にやってきている様子が確認できました。

花は全体的に平らであることは甲虫や小型ハナバチ、ハナアブ科など口が短い昆虫への適応と考えられそうですが、口が長いツリアブ科が訪れることは意外かもしれません。全体的な訪花昆虫の比率の調査が行われれば興味深いことが分かるかもしれません。

果実の構造は?

マツバギクとハナランザンの果実はどちらも蒴果です。蒴果は乾いた果実(乾果)の一種で、一つの果実が複数の癒着した袋状果皮からなります。

マツバギクの蒴果は直径約1cm。蒴果は(4~)5(~7)室、竜骨は広がり、散開し、翼があり、室に蓋(屋根)があり、いぼはありません。種子は倒卵形、弱く扁平、しわがあり、粗く、暗色ですが、原産地以外では種子は見られないことがあるようです。

ハナランザンの蒴果は明瞭な翼があり、種子は通常は1mmより短いです。

種子散布方法は?

マツバギク属やデロスペルマ属の蒴果は共通で興味深い種子散布を行います(Parolin, 2001)。

蒴果は熟すと乾いていく点は他の植物の蒴果と同じですが、これらの仲間では果皮が吸湿性があり、湿度が高まると内部を開き、雨に濡れると種子を放出します。これは雨散布(ombrohydrochory, hydrochasty)として知られるもので、かなり特殊方法と言えます。

ただ一度に全ての種子が放出されることはありません。南アフリカのような不規則な雨が多く、雨が散布と発芽で同じようにトリガーとなる地域では、一度に全ての種子を放出せず、別の雨の機会に種子を残しておくことが効果的な散布戦略なようです。

引用文献

Braun, P. 2016. Characterization of reproductive and cytological features of midday flowers (Aizoaceae) for breeding purposes. Dissertation, Leibniz University Hannover. http://dx.doi.org/10.15488/8651

Retief, E. & Meyer, N. L. 2017. Aizoaceae. pp.156-177. In: Retief, E. & Meyer, N. L. Plants of the Free State: Inventory and identification guide (Strelitzia 38). South African National Biodiversity Institute, Pretoria. ISBN: 9781928224150, http://hdl.handle.net/20.500.12143/6592

近藤歩・伊藤彰規・船隈透. 2019. 高塩濃度土壌におけるマツバギクのNaCl集積能. 日本土壌肥料学雑誌 90(2): 138-146. https://doi.org/10.20710/dojo.90.2_138

Parolin, P. 2001. Seed expulsion in fruits of Mesembryanthema (Aizoaceae): a mechanistic approach to study the effect of fruit morphological structures on seed dispersal. Flora 196(4): 313-322. https://doi.org/10.1016/S0367-2530(17)30060-9

Spencer, R., & Thompson, A. 1997. Aizoaceae. In: Spencer, R. Horticultural Flora of South-eastern Australia. Volume 2. Flowering plants. Dicotyledons. Part 1. The identification of garden and cultivated plants. University of New South Wales Press. Sydney. ISBN: 9780868403038, https://hortflora.rbg.vic.gov.au/taxon/4b971937-95ad-4049-8150-572341e3e032

Webb, C. J., Sykes, W. R., & Garnock-Jones, P. J. 1988. Flora of New Zealand. Volume 4: Naturalised Pteridophytes, Gymnosperms, Dicotyledons. Botany Division DSIR, Christchurch. 1365pp. ISBN: 9780477025294

吉村泰幸. 2021. 日本国内に分布するCAM植物及びその生育環境. 日本作物学会紀事 90(3): 277-299. https://doi.org/10.1626/jcs.90.277

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