「ヒマワリが太陽を向く」というのは嘘?なぜロシアとウクライナで国花になった?

植物
Helianthus annuus

ヒマワリは太陽を向くと言われ、元気で明るいイメージがあり、現在では日本でも馴染みが深い植物です。北アメリカ原産で種類は多数ありますが、日本で見られるヒマワリ属の種類は限られています。ヒトとヒマワリの歴史は紀元前2600年ほどまで遡り、メキシコでアメリカ先住民によって種(厳密には果実)を採るために栽培化されたと考えられており、西欧では評価されるまで時間がかかりましたが、ロシアを中心とした東欧ではロシア正教会が行う断食の期間でもヒマワリの果実を食べることが許可されたため、早くから盛んに栽培されました。その結果、ロシアとウクライナでは国花となっています。そんなヒマワリの花(厳密には頭花)には名前の由来の通り、「ヒマワリが太陽を向く」というイメージが深く染み付いています。しかし、本当は花が咲くまでの若いヒマワリでだけ見られる現象であることはご存知でしょうか?花が咲いてからは東向きに固定されてしまいます。これは花のためというより、光合成のために重要な役割があるためだと考えられています。果実は痩果で、ペットの餌というイメージが先行し、自然界での役割は日本人には殆ど知られていませんが、本来毛が生えていて「引っ付き虫」としてアメリカバイソンのような動物によって運ばれていたようです。本記事ではヒマワリの分類・歴史・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ヒマワリに似た種類は日本にいる?

ヒマワリ(向日葵) Helianthus annuus は北アメリカ原産の一年草で(神奈川県植物誌調査会,2018)、日本では栽培植物として知られ、その美しく晴れやかな姿から様々な創作の題材として用いられており、知らない人はまず、いないでしょう。

同属には北アメリカでは沢山の種類があり、識別も困難と言われるようですが、国内の近縁種としては葉が細いイトバヒマワリ H. angustifolius、全体が白い綿毛に包まれるシロタエヒマワリ H. argophyllus、ヒマワリより小型のヒメヒマワリ H. debilis subsp. cucumerifolius など限られています。

ヒマワリの頭花
ヒマワリの葉上面
ヒマワリの頭花
ヒメヒマワリの葉上面
ヒメヒマワリの葉下面
ヒメヒマワリの頭花
シロタエヒマワリの全形
シロタエヒマワリの葉上面
シロタエヒマワリの葉下面
シロタエヒマワリの頭花
シロタエヒマワリの蕾

ヒマワリの「果実」の意外な生態とは?

ヒマワリの果実(痩果)は脂肪分は豊富でヒトやヒトのペットの食料としてあまりにも有名です。一般的にこの果実を「たね」として呼んでいますが、植物学的には異なります。本当の種は中に含まれている物のことです。

とても身近な存在ですが、その生態学的特性についてはほとんど知ってる人はいないでしょう。原産地である北アメリカでは小鳥や小型哺乳類が食べることがあったようですが、ヒマワリの場合、食べられて種子を遠くに飛ばす、というわけではないようです。その代わり同じく北アメリカに生息するアメリカバイソンの毛に引っ付いて遠くに移動する、いゆいる「引っ付き虫」として働き、生息地を広げていたと考えられています(Harris, 2018=2021)。たしかに痩果の形は平べったく表面積が大きいので動物の体にはつきやすそうです。

ただ、日本のヒマワリの果実を観察しても先端以外は無毛で、つるつるしており、とても動物の体に付きやすそうな構造はしていません。このことについての記述は文献では発見できませんでしたが、品種改良の結果、と考えるのが自然かもしれません。

ヒマワリの果実(俗に「種」と呼ばれるもの)|『Amazon』より引用・購入可能

ヒマワリの歴史は?人気が出るのが遅かった?

ヒトとヒマワリの歴史は紀元前2600年ほどまで遡り、メキシコでアメリカ先住民によって大きな果実を採るために栽培化されたようですが、あまり詳しいことはわかっていません(Wojtaszek & Maier, 2014; Harris, 2018=2021)。その後北米全体で食料、薬、繊維、染色などに用いられるようになっています。

大航海時代以降はヨーロッパ人に伝わりましたが、最初は実用的な用途ではなく、庭を彩る美しい園芸植物として知られていました(Harris, 2018=2021)。世界的には20世紀になってようやく果実に含まれる脂肪分、タンパク質、ビタミンEなどの栄養価が評価され、人気が出ました。

ヒマワリの果実も用途には大きく分けて2つあり、オイルを絞ってひまわり油を生産することと、直接ヒトやペットが食べることです。それぞれの目的で品種改良された果実の特徴は異なっており、ひまわり油を生産する果実では種子が大きく、油分が多く果皮が薄いです。一方食用では逆で油分が少なめで果皮が厚く食べやすいものになっています。

ロシアとウクライナで国花である理由とは?

世界的には広がるのが遅れたヒマワリですが、ロシアやウクライナではヒマワリをもう少し前から重要な植物として扱っていました(Harris, 2018=2021; Pappalardo, 2007)。

ロシアでは西ヨーロッパの西方教会とは異なるキリスト教の一派であるロシア正教会が広く信仰されています。ロシア正教会では聖枝祭という儀式の前にものいみという遊興などを控える期間があり、その中で断食も行われます。その期間は植物ベースの脂肪については摂取が許可されたため、18世紀にはヒマワリの果実は教徒の間で人気が出たのです。

19世紀初頭にはロシア帝国国内でヒマワリからの大規模な油脂抽出技術が開発され、2013年にはヒマワリの果実の生産量はロシア連邦とウクライナで40%を占めています。このようなことからヒマワリはロシアとウクライナの国花となっています。

ヒマワリの「頭花」の構造は?

ヒマワリの「花」と呼ばれている部分についても植物学的には誤解があります。ヒマワリはキク科ですので、小さな花(=小花)が合体してできた集まり(=頭状花序、頭花)を作っています。ですので、あの大きな部位は「頭花」と呼ぶのが正しいということになります。このことは単なる用語の問題ではなく後述のように「花の集まり」であるからこその受粉するための戦略を持つことに繋がっています。

ヒマワリの頭花は夏(日本では7月中旬~9月頃)に見られ、とても大きく誰もがすぐに姿を思い描くことができるでしょう。外輪に黄色い花びらをつけた花が「舌状花」で、内側の花びらがない花が「管状花(筒状花)」となっています。

ヒマワリの頭花|『Amazon』より引用・購入可能

ヒマワリは巧みな受粉戦術を持っていた!

こんな大きな頭花にやってくる昆虫が気になるところですが、論文ではミツバチだと記述されています(Wojtaszek & Maier, 2014)。しかし、そもそもミツバチは移入された個体を除いてヒマワリの原産地のアメリカ大陸に分布していません。ですから、元々の自然ではミツバチに似たようなハナバチが受粉の役割を担っていたのかもしれませんね。ただ、人間に長い間栽培される間にミツバチに適応したという可能性もあります(Wojtaszek & Maier, 2014)。

ヒマワリの舌状花の花びらはヒトの目から見ると黄色でしかありませんが、紫外線カメラを通してみると内側半分ほどに色がついていることが確認できます。これは黄色とのコントラストでミツバチを内側の筒状花へと呼び込む効果があると考えられています。

筒状花の方は頭花の外周から内周に向かって成熟して行きます。筒状花一つ一つは先に雄しべが発達し、その後雌しべが発達します。そのため舌状花の花びら側から見ると、雌しべ→雄しべ→蕾、という順番に並んでいます。これもミツバチが訪れたとき受粉しやすくする工夫です。ミツバチは舌状花の花びらに引き寄せられた後、外周の雌しべに蜜を求めて接触します。ミツバチは他の個体のヒマワリの花粉を体につけているので、真っ先に雌しべに他の個体の花粉を受粉させることができます。そして内周に向かっていくと雄しべがあるので自分の花粉を食料として与える代わりに、ミツバチの体につけることができます。この後、ミツバチは飛び去っていくので、自家受粉が起こりません。非常に合理的な構造となっています。

筒状花の長さもミツバチの口の長さにあわせて短いものになっています。

ヒマワリが太陽を追うというのは嘘?

もうひとつの特徴としてヒマワリの頭花といえば名前の由来にもなっている通り、太陽を追いかける性質があると言われます。ただし、これは厳密には異なります。これを行うのは花が咲くまでの若いヒマワリだけです。生長を利用して行う活動であるため小花を咲かせる頃には東を向いたまま固定されてしまいます。若いうちの頭花は朝には東を向き夕方には西を向く、というのを毎日繰り返してます。この活動は小花のためではなく葉のために行っていると考えられており、日光をできるだけ長い間浴びさせ、光合成を促す目的があるようです(Atamian at al., 2016)。しかし、なぜ成熟すると東を向いたまま固定されてしまうのでしょうか?

最近のアメリカの研究でその理由がわかるようになっていきました(Creux et al., 2021)。東に固定することで朝のうちに頭花の温度を上げ、朝活動をし始めて寒がっているミツバチに温かい場所を提供することで受粉を促す目的があるようです。

実際、朝に東向きのヒマワリにやってくるミツバチの数と西向きに強制的に固定したヒマワリにやってくるミツバチの数を比較すると東向きで多く見られました。更に東向きの方がより重い種子を作り、果実の量も多く、花粉も多くなっていました。

ただ、この論文だけを読むと若い時と同じように西を向けば夕方にもミツバチにアピールできそうな気がします。この点について詳しく書いている記述は発見できませんでした。花の向きの変更はあくまで生長を利用する活動であるため、そういった器用なことは出来ないのもしれません。あるいはミツバチが活動を終了する夕方より、活動を始める最初の朝にアピールすることに専念したほうがいい、ということなのかもしれません。

なお、現在世界で生産されるヒマワリは自家受粉で増えるのでミツバチを必要としていません(Atamian at al., 2016; Harris, 2018=2021)。ただし、自家受粉で増えるヒマワリを作るには他家受粉が不可欠なのでミツバチが必要です。

引用文献

Atamian, H. S., Creux, N. M., Brown, E. A., Garner, A. G., Blackman, B. K., & Harmer, S. L. 2016. Circadian regulation of sunflower heliotropism, floral orientation, and pollinator visits. Science 353(6299): 587-590. ISSN: 0036-8075, https://doi.org/10.1126/science.aaf9793

Creux, N. M., Brown, E. A., Garner, A. G., Saeed, S., Scher, C. L., Holalu, S. V., … & Harmer, S. L. 2021. Flower orientation influences floral temperature, pollinator visits and plant fitness. New Phytologist 232(2): 868-879. ISSN: 0028-646X, https://doi.org/10.1111/nph.17627

Harris, S. A. 2018. Sunflowers. Reaktion Books, London. 240pp. ISBN: 9781780239262 [= 2021. ひまわりの文化誌. 原書房, 東京. 280pp. ISBN: 9784562059232]

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Pappalardo, J. 2007. Sunflowers: the secret history; the unauthorized biography of the world’s most beloved weed. Overlook Press, New York. 256pp. ISBN: 9781585679911

Wojtaszek, J. W., & Maier, C. 2014. A microscopic review of the sunflower and honeybee mutualistic relationship. International Journal of AgriScience 4(5): 272-282. ISSN: 2228-6322, https://www.cabdirect.org/cabdirect/abstract/20143217350

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