本記事では以下の雑誌にて公表した「兵庫県におけるワタリコウガイビルの記録」の報文の下書きを掲載します。
引用方法:池田健一・池田篤弥. 2022. 兵庫県におけるワタリコウガイビルの記録. Nature Study 68(5): 6. ISSN: 0466-6089
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ワタリコウガイビルの兵庫県初記録を想定して執筆したものです。
微細な表現などに変更が加わっている可能性はありますが、引用文献などは同様です。より正確なものをお求めな場合は雑誌よりご参照ください。
ワタリコウガイビルの国内分布状況
ワタリコウガイビル Bipalium kewense Moseley, 1878 は東南アジア原産で、汎世界的に分布し現在でも分布域も拡大しているリクウズムシ科の一種です(勝川ら,2007;Justine et al., 2018)、日本では国外外来種であり(勝川,2007)、アメリカなどでは偶発的な接触でイエイヌ、イエネコ、ヒトの体内に入り込む偽寄生を行うことも知られています(早崎,2012)。都道府県別では勝川ら(2007)で東京都周辺地域、小笠原諸島の父島、長崎県、沖縄県(本島だけ)で記録があると整理されており、その他では筆者が確認する限り、和歌山県(久保田ら,2001)、大阪府(石田,2014;貝塚市立自然遊学館,2016;山田ら,2017;2018)で記録を確認できましたが、兵庫県の記録は発見できませんでした。なお、千葉県の記録は萩野(2016)によるとオオミスジコウガイビルに変更されています。
筆者の分布記録
筆者のうち一人は2021年9月18日午前10時頃、兵庫県神戸市西区■■■■町(本誌にて掲載)で民家の庭の水槽の中に静止している本種を撮影しているのでここに報告します。
1ex., 兵庫県神戸市西区■■■■町, 18. IX. 2021. 池田篤弥撮影.
国内の大型コウガイビル類の区別点を記した久保田ら(2001)で、ワタリコウガイビルは「背面の線模様は5本。頚部左右に黒い紋がある、背部正中線上の線模様は頭板に達せず咽頭-生殖器官部で太い。」とされており、本個体でもよく当てはまっていることから本種としました。水槽は日陰にあり、水槽には前日の雨水が溜まっていました。水槽にみられたのは偶然で、湿度が高くなったことから徘徊していたものと思われます。一般にコウガイビル類はカタツムリやナメクジ、ミミズや小型の昆虫などを捕食するとされており(早崎,2012)、本種でもミミズの捕食例が知られています(Ogren, 1995; Justine et al., 2018)。庭の芝にはミミズやチャコウラナメクジが発生しており、これらを餌資源にしていた可能性があります。
ワタリコウガイビルでは分裂片が再生して無性的に増える上に(勝川ら,2007)、外来コウガイビル類はその食性により土壌動物相に影響を与える可能性があることから侵略的外来種とする考えもあり(Justine et al., 2018)、日本でも注視が必要です。
引用文献
萩野康則(2016)千葉県産土壌動物リスト I 有翅昆虫を除く動物群.千葉中央博自然誌研究報告 13(2): 83-141. http://www.chiba-muse.or.jp/NATURAL/publication/journal_13-2_3hagino.pdf
早崎峯夫(2012)偽寄生虫 コウガイビル.日本獣医師会雑誌 65(10): 731-740. http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06510/a4.pdf
Justine, J. L., Winsor, L., Gey, D., Gros, P., & Thévenot, J. (2018) Giant worms chez moi! Hammerhead flatworms (Platyhelminthes, Geoplanidae, Bipalium spp., Diversibipalium spp.) in metropolitan France and overseas French territories. PeerJ 6: e4672. https://doi.org/10.7717/peerj.4672
貝塚市立自然遊学館(2016)寄贈標本.自然遊学館だより 81: 19-25. ISSN: 2185-9817, https://www.city.kaizuka.lg.jp/material/files/group/4/yugakukan-tayori-81n.pdf
川勝正治・西野麻知子・大高明史(2007)プラナリア類の外来種.陸水学雑誌 68(3): 461-469. https://doi.org/10.3739/rikusui.68.461
久保田信・山本清彦・川勝正治(2001)和歌山県で初めて出現した3種のコウガイビル類(扁形動物門、渦虫網、三岐腸目).南紀生物 43(1): 6-10. http://hdl.handle.net/2433/188283
Ogren R.E. (1995) Predation behaviour of land planarians. Hydrobiologia 305: 105-111. https://doi.org/10.1007/BF00036370
山田浩二・岩崎拓・大畠麻里・児嶋格・寺田拓真・和田太一(2017)近木川干潟再生地の経過観察(2014年度).貝塚の自然 18: 1-34.https://www.city.kaizuka.lg.jp/material/files/group/4/kisuiwandokeikakansatu2014.pdf
山田浩二・岩崎拓・大畠麻里・児嶋格・寺田拓真・和田太一(2018) 近木川干潟再生地の経過観察(2015年度).貝塚の自然 19: 1-34.https://www.city.kaizuka.lg.jp/material/files/group/4/kogigawa-kisuiwando-2015.pdf
石田惣(2014)コウガイビルとその分布.Nature Study 60(2): 15-16. http://www.omnh.net/pdf/NS201402_Ishida.pdf