ウツギ・ヒメウツギ・マルバウツギの違いは?似た種類の見分け方を解説!生け垣の起源はウツギにあり!?

植物
Deutzia gracilis var. gracilis

ウツギ・ヒメウツギ・マルバウツギはいずれもアジサイ科ウツギ属に含まれ、若い枝を除いて枝の中が空洞であることから「空木」と名付けられたと考えられています。日本では田植えの目安として植えられてきた歴史があり、生け垣の起源となったとも言われています。しかしむしろヒメウツギが植栽されることが増えてたことと分類が複雑なことから、3種が極めて混同されているのが現状です。見分けるには葉と花を確認するのが確実でしょう。比較的に明確に区別できるとと思います。本記事ではウツギ属の分類・形態について解説していきます。

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ウツギ・ヒメウツギ・マルバウツギとは?

ウツギ(空木・卯木) Deutzia crenata var. crenata は別名ウノハナ(卯の花)。日本の北海道・本州・四国・九州;中国に分布し、草原・林縁・礫地・川岸などに生え、垣根や田畑の畦などに植栽される落葉低木です。

ヒメウツギ(姫空木) Deutzia gracilis var. gracilis は日本の本州(関東地方以西)・四国・九州に分布し、川沿いの岩場や石灰岩地などやや明るい場所に生え、都市部でも観賞用に植栽される落葉低木です。

マルバウツギ(円葉空木) Deutzia scabra var. scabra は.日本の本州(関東地方以西)・四国・九州に分布し、丘陵の崖地など日当りのよいやや乾燥した斜面に生える落葉低木です。

いずれもアジサイ科ウツギ属に含まれ、若い枝を除いて枝の中が空洞(中空)であることから「空木」と名付けられたと考えられています。

この他、全身に星状毛があり、葉は対生、花は春~初夏に咲き、花弁は白色で5枚、果実は蒴果である点も共通しています。

「卯の花」という別名の通り花は卯月(旧暦4月)に咲き、日本では田植えの目安としてウツギの花が古くから注目されており、野山に自生しているだけでなく、集落や耕作地の周りに植えられていたと考えられています(宮内,2010)。『万葉集』の記録から奈良時代には生け垣として利用されていたことが分かっており、現在の研究では日本では最古の生け垣として利用された植物種であると考えられています。

現代ではややマイナーな植物となっていますが、ヒメウツギでは都市部でも緑地帯などに植えられるのを見かけますし、林内ではいずれの種類も観察できます。

しかしこのような経緯や形態的な類似から、ウツギとヒメウツギは極めて混同されており、マルバウツギも含めて正しく区別方法を理解している人は少ないようです。インターネットでは間違った同定を行っている写真が散見されます。

更に種内変種も多く、分類は非常に細かく別れています。

ウツギ・ヒメウツギ・マルバウツギの違いは?

ウツギ・ヒメウツギ・マルバウツギは葉と花の形から正確に区別することができます(神奈川県植物誌調査会,2018;林,2019)。

まず、葉について考えていきます。

ウツギとヒメウツギでは葉がすべて同形で、有柄で先が尾状に伸びて細長いのに対して、マルバウツギではやや二形あり、花序の下の葉は無柄で基部が円く、全体的な形も円いという違いがあります。

これは「マルバウツギ」という名前の通りで、見れば明らかで困ることは少ないでしょう。花序の下の葉以外の葉は有柄なことはありますが、葉の形には大差がないので問題ないでしょう。

一番困るのがウツギとヒメウツギの違いです。

しかし、ウツギでは葉が厚くざらつき、上面のみ灰緑色であるのに対して、ヒメウツギでは葉が薄くまばらに星状毛がある程度で基本的には無毛で、上面のみ鮮緑色であるという違いがあります。

触ってみるのが一番わかりやすいでしょう。園芸で栽培されているヒメウツギに関しては更に葉脈、特に側脈が白くよく目立っているようです。

花に関しても違いがあります。中でも花糸かし(雄しべの花粉を含んでいる部分である「やく」を支える細長い部分)が重要になっています。

ウツギとヒメウツギでは花糸に歯があるのに対して、マルバウツギでは花糸に歯がないという違いがあります。

「花糸の歯」というのは聞き慣れないですが、ウツギ属の一部の仲間のみが持っている特別な構造で、花粉を含んでいる葯側の花糸の先端に角が丸い歯があります。

更にウツギではこの花糸の歯が花糸に対してほぼ垂直に生えるのに対して、ヒメウツギでは花糸の歯が花糸に対して斜めに生えているという違いがあります。

加えて、ウツギとヒメウツギでは花弁が横~下に開いているのに対して、マルバウツギでは花弁が横に開いているという違いがあります。

花が観察できたら写真を取っておいたら十分この点で区別できると思います。

ウツギの葉:細長く尾状に伸び、厚くざらつき、上面のみ灰緑色。
ウツギの花:雄しべの葯の下の花糸に歯があり、花糸に対してほぼ垂直。
ヒメウツギの葉上面:細長く尾状に伸び、薄くまばらに星状毛がある程度で基本的には無毛で、上面のみ鮮緑色。葉脈も目立つ。
ヒメウツギの葉下面
ヒメウツギの葉序
ヒメウツギの花:雄しべの葯の下の花糸に歯があり、花糸に対して斜めに生える。
ヒメウツギの花序
マルバウツギの葉上面:円い。
マルバウツギの葉下面
マルバウツギの花:花糸に歯はない。横向きに咲き、黄色い蜜腺が目立つ。
マルバウツギの果実

ウツギの変種は?

ウツギ・ヒメウツギ・マルバウツギには多数の変種・品種が含まれますが全ての紹介はここでは省略します。

シロバナヤエウツギ Deutzia crenata f. candidissima は花が白く八重咲きのウツギの品種です。

サラサウツギ Deutzia crenata f. plena は花が白く八重咲きで萼がピンク色がかかるウツギの品種です。

シロバナヤエウツギの葉上面
シロバナヤエウツギの葉下面
シロバナヤエウツギの果実
サラサウツギの葉上面
サラサウツギの葉下面
サラサウツギの花

引用文献

林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

宮内泰之. 2010. 恵泉樹の文化史 (6): ウツギ. 園芸文化 7: 56-61. ISSN: 1882-5044, https://keisen.repo.nii.ac.jp/records/936

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