フヨウ(芙蓉)とサキシマフヨウの違いは?似た種類の見分け方を解説!わずかな花の形の違いは受粉戦略に影響するのか?

植物

フヨウとサキシマフヨウは共にアオイ科フヨウ属で、大きな美しい花を咲かせ、野生化した場合、どちらも攪乱された立地に生育するため判別が難しいです。その区別は葉や星状毛をよく観察することによってできます。また花期や花の色にも少し違いがあります。花の形の微妙な違いは受粉戦略に違いは出るのでしょうか?2種が同所的に花に訪れた動物を調べた日本の長崎県平島で行われた研究ではフヨウには多くの昆虫が訪れましたが、サキシマフヨウは秋だけに咲くため、確認できた個体数がかなり少なく3例のみでしたものでした。残念ながらデータが不足し、明らかな受粉戦略の違いまでは明らかになっていませんが、もしかしたら九州のサキシマフヨウについては非常に僅かな昆虫によって受粉を行っているのかもしれません。果実は蒴果で種子は風散布です。本記事ではフヨウとサキシマフヨウの分類・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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フヨウは栽培種、サキシマフヨウは南方の在来種

フヨウ(芙蓉) Hibiscus mutabilis は中国中部原産で原産地を含む世界中で古くから栽培され、日本では伊豆半島や紀伊半島、四国南部、九州南部、沖縄では野生化している落葉低木です(茂木ら,2000)。

一方、サキシマフヨウ(先島芙蓉) Hibiscus makinoi は長崎県五島列島、鹿児島県甑島から琉球列島、台湾に分布し、人里付近に生息する半常緑低木です(中西ら,2007;Liu et al., 2014)。

どちらもアオイ科フヨウ属で、大きな美しい花を咲かせます。両種とも野生の場合、海岸近くの空き地や道路沿い、放棄畑など攪乱された立地に生育することが多いです(中西ら,2007)。

フヨウに比べるとサキシマフヨウは南方系の野生種なので見る機会が少ないかもしれません。

しかし、九州以南ではどちらも見られるために判断に迷うことはあるでしょう。

フヨウとサキシマフヨウの形態的違いは?

しかしこの2種にはいくつか違いがあります(片野田・大野,1999)。

基本的にはフヨウは元は栽培種、サキシマフヨウは南方の在来種です。フヨウは野生化することもありますが、上述のようにフヨウとサキシマフヨウには分布地の違いがあるので、本州、四国で見られる個体についてはまずフヨウと考えて良いでしょう。

形態的違いですが葉に関しては、フヨウでは葉が大きく、裂片の先が尖り、葉の切れ込みが深くのに対して、サキシマフヨウでは葉が小さく、裂片の先が丸く、葉の切れ込みが浅いという違いがあります。ただ、フヨウの葉には葉ごとに差異があり3裂であまり裂片が尖らず、切れ込みが発達しない場合もあります。この点は5裂や7裂してよく発達した葉にのみ言えますのでご注意ください。

また植物体に関しては、フヨウでは若い茎や葉下面、葉脈、萼片、花柄等に星状毛に混じって腺毛が密生するのに対して、サキシマフヨウでは星状毛が密生するのみで、腺毛はありません。感覚としてはサキシマフヨウの方が葉などのザラザラが強いです。この点が一番確実です。

大きさに関しては、フヨウでは高さ1~3mであるのに対して、サキシマフヨウでは高さ2~6mもあります。大型化している個体についてはサキシマフヨウである可能性が高いでしょう。

以上から少し慣れが必要ですが、2種を見分けることができます。

フヨウの三裂葉上面:3裂で少数派であまり典型的ではない
フヨウの五裂葉|『千草園芸楽天市場店』より引用・購入可能
フヨウの七裂葉上面
フヨウの七裂葉下面
フヨウの花:咲きかけのためかやや色が薄い
フヨウの花
フヨウの果実
サキシマフヨウの葉上面:食害が激しい、星状毛が密生
サキシマフヨウの葉下面
サキシマフヨウの花

他に似た種類はいる?

日本本土ではムクゲともよく似ています。違いについては別記事を御覧ください。

同じフヨウ属の仲間については別記事を御覧ください。

花の色や大きさが微妙に違う?

花はよく似ていますがいくつか相違点があります。

花期はフヨウでは7〜10月の夏~秋であるのに対して(茂木ら,2000)、サキシマフヨウでは長崎県では少し遅く9月下旬~11月中旬の秋です(中西ら,2007)。しかし、南西諸島では9月~1月と冬にまでかかり非常に長くなっています。花弁はフヨウでは淡紅色または白色であるのに対して(茂木ら,2000)、サキシマフヨウではフヨウよりやや薄い白〜薄紅色となっていることが多いです(中西ら,2007)。研究ではサキシマフヨウの方が花が小さいことも分かっています(中西ら,2006)。

一方、共通点としては2種とも花弁の中央には不明瞭な蜜標(色が濃く、昆虫が訪れるときに目印になる部分)があるということが挙げられます。

また、筒状の雄しべの中央を雌しべが貫き、雌しべを雄しべの上側に配置することにより、自家受粉を防いでいるという点も挙げられます。これはフヨウ属共通です。そのため、他家受粉を行い、動物による受粉が重要となっています(中西ら,2007)。

フヨウの花
サキシマフヨウの花

サキシマフヨウに訪花した昆虫の記録はわずか数例のみ…

このように2種に共通点はあるものの、違いがいくつか見られます。これらの違いによってやってくる動物に違いは生じているのでしょうか?

2種が同所的に花に訪れた動物を調べた日本の長崎県平島で行われた研究では、フヨウでは57例観察され、オオスカシバ Cephonodes hylas という蛾が一番多く、次にコアオハナムグリ Oxycetonia jucunda という甲虫やモンキアゲハ Papilio helenus という蝶が続きました(中西ら,2007)。大きめの虫を幅広く呼んでいるようにも思えます。

一方、サキシマフヨウでは僅か3例で、モンキアゲハとイチモンジセセリ Parnara guttata という2種の蝶と1種の小型のハナバチであるヒメハナバチ属の一種だけでした。

このようにサキシマフヨウにやってくる個体数の数が少ないのは、サキシマフヨウがフヨウと違い秋だけに咲くことが影響していると考えられます。秋には昆虫の活動が低下するからです。

しかし、昆虫の種類という観点では、数が少ないので確証はないですが、それほど大きな違いはないように思えます。

残念ながらデータが不足し、明らかな受粉戦略の違いまでは明らかになっていませんが、もしかしたら九州のサキシマフヨウについては非常に僅かな昆虫によって受粉を行っているのかもしれません。

もっと研究が進めば、花の色、花の大きさ長さ、咲く時期の違いが若干違いを生み出している可能性はまだあると思えます。サキシマフヨウの研究自体が少なく、貴重な結果であるといえます。

この研究は九州での結果ですが、南西諸島ではどのような結果になるのでしょうか?また、サキシマフヨウではフヨウに比べて、花の形態や花色など大きな変異に富んでいることも分かっているので(中西ら,2006)、これも何らかの適応の結果かもしれません。さらなる研究に期待したいですね。

果実は蒴果で種子は風散布

果実はどちらも蒴果です(小林,2007)。

蒴果はフヨウでは長さ約2.5cmの球形で、サキシマフヨウでは1.7~2.2cmの卵形です。果実は5室に分かれていて、フヨウでは内部には種子は長さ約2mmのやや扁平で腎臓形で稜の部分から淡褐色の長い粗毛があります。

この種子は毛を使って風散布されると考えられていますが、毛と種子の大きさから散布力は弱く、遠くまで飛ばないと考えられています。

引用文献

片野田逸朗・大野照好. 1999. 琉球弧・野山の花 from AMAMI 太陽の贈り物. 南方新社, 鹿児島. 221pp. ISBN: 9784931376212

小林正明. 2007. 花からたねへ 種子散布を科学する. 全国農村教育協会, 東京. 247pp. ISBN: 9784881371251

茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花 2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041

大川智史・林将之. 2016. ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄〜八重山の亜熱帯植物図鑑. 文一総合出版, 東京. 487pp. ISBN: 9784829984024

中西弘樹・中西こずえ・岩城太郎. 2006. サキシマフヨウの花の形質と変異、特にフヨウとの比較において. 植物地理・分類研究 54(1): 27-33. ISSN: 0388-6212, http://hdl.handle.net/2297/00050043

中西弘樹・中西こずえ・松田美樹. 2007. サキシマフヨウとフヨウの繁殖特性. 植物地理・分類研究 55(2): 85-90. ISSN: 0388-6212, https://doi.org/10.24517/00053367

出典元

本記事は以下書籍に収録されたものを大幅に加筆したものです。

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