ランタナ(シチヘンゲ)・コバノランタナはいずれもクマツヅラ科シチヘンゲ属で、なによりカラフルで派手な花が特徴的な常緑小低木です。日本ではどちらも頻繁に植栽される上に野生化している個体も見かけます。そのためその区別に迷う場合があるかもしれません。しかし、葉・花・枝全てに違いが現れており意識していれば区別は簡単です。ヒメイワダレソウ(リッピア)も似た種類に挙げられますが、こちらは草本でグランドカバーとして使用される種類で、似ているのは花の形だけと言えます。花は唇形花で非常に目立つ色彩で時間が経つと色が変わります。果実は液果が集合果を構成しています。本記事ではシチヘンゲ属の分類・形態について解説していきます。
ランタナ・コバノランタナとは?
シチヘンゲ(七変化) Lantana camara subsp. aculeata は一般名ランタナ。中央アメリカ~南アメリカ北部に分布し、開けた荒廃地や海岸近くに生える常緑小低木です(RBG Kew, 2023)。観賞用に栽培されていたものが世界中の熱帯および亜熱帯地域に帰化しており、世界の侵略的外来種ワースト100に選定されています。日本でも頻繁に庭木や鉢植えとして見られますが、野生化することもあります。
コバノランタナ(小葉のランタナ) Lantana montevidensis は南アメリカ中部に分布する常緑小低木です(RBG Kew, 2023)。日本を含む各国で観賞用に栽培され、稀に野生化します。日本では庭木、鉢植え、公園樹にやや稀に栽培されます。
いずれもクマツヅラ科シチヘンゲ属で、なによりカラフルで派手な花が特徴的でしょう。日本ではどちらも頻繁に植栽される上に野生化している個体も見かけます。そのためその区別に迷う場合があるかもしれません。
ランタナとコバノランタナの違いは?
ランタナとコバノランタナにもはっきりとした違いがあります(林,2019)。
まず、花序に関しては、ランタナでは直径3~5cmとかなり大きく目立つに対して、コバノランタナでは直径3cmほどで名前の通り小さいです。
花色に関しては、ランタナでは黄色またはオレンジ色から日が経つごとに赤色に変化していくのに対して、コバノランタナではピンク色から日が経つことに紫色に変化していきます。ただしこれは原種での特徴です。
葉に関しては、ランタナでは葉身の長さが5~12cm、葉柄の長さが1~2.5cmと長いのに対して、コバノランタナでは葉身の長さが2~4cm、葉柄の長さが0.3~1cmと短いです。
更に枝に関しては、ランタナでは稜があり断面は四角形ですが、コバノランタナでは稜がなく断面は丸いです。
樹形も、ランタナでは直立しますが、コバノランタナではやや匍匐性があり地面に沿います。
これだけ挙げれば間違うことはないでしょう。
なお、ランタナにはトゲナシランタナ subsp. camara という刺が少ない亜種があります。
花の色が黄色のみであるキバナランタナ(レモンランタナ) Lantana x hybrida という雑種も知られています。他種の品種との区別が難しいですが、花冠が時間が経っても一様に黄色いものは本種であると考えられそうです。
ランタナとヒメイワダレソウの違いは?
ランタナ類と似ている種類にはヒメイワダレソウ(リッピア)も挙げられるかもしれません。
ヒメイワダレソウ Phyla nodiflora var. minor はペルー原産で匍匐性の多年草です。Phyla canescens はシノニム(旧学名)です(O’Leary & Múlgura, 2012)。日本ではグランドカバーとして植栽されます。
同じくクマツヅラ科で花も同じ唇形花でかなり似ています。花序が楕円形で、花軸は不明瞭という点も共通しています。
しかし、ランタナとヒメイワダレソウには明確な違いがあり、区別は簡単にできます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
具体的な違いとしては、ランタナでは低木で、茎は直立しているのに対して、ヒメイワダレソウでは草本で、茎は長く這います。
そのため、ランタナは茎は固くなっており明らかに「木」ですが、ヒメイワダレソウは茎は柔らかく一切立ち上がることはありません。そのためグランドカバーに使用されるのです。
また、ランタナでは花序は横に伸び、直径3~5cmとかなり大きく目立ちますが、ヒメイワダレソウでは花序は縦に伸び、長さ1cm以下と小型です。
花の構造は?
花はシチヘンゲ属共通で唇形花で非常に目立つ色彩で時間が経つと色が変わるものが多いです。
ランタナは花期が6~11月。花は多数の唇形花が散形花序に集まってつき、花序が1つの花のように見えます。花序は直径約3cm、周囲の花から順に咲き、花の色が黄色またはオレンジ色から日が経つごとに赤色に変化していきます。園芸品種では他の色彩もあります。個々の花の基部に緑色の苞があります。上唇は小さく、下唇は3裂し、中央裂片と上唇はほぼ同形、花筒部は長さ約1cm。雄しべ、雌しべとも花筒の中にあります。
コバノランタナは花期が5~10月。花は小さい幅1~4cmの密散花序(束生)に密につきます。花序柄は長さ2~8cm。花序の縁の花が初めに開き、続いて内側の花が順次開きます。花は筒状、長さ8~12mm×幅4~8mm、初めはピンク色でのど部が白色または黄色、古くなるとわずかに色が変わり、普通、全体が紫色になります。園芸品種では他の色彩もあります。
果実の構造は?
果実はシチヘンゲ属は共通で液果です。液果は少なくとも果皮の一部が多肉質または多汁質になっている果実です。
ランタナの液果は集合果となります。液果は1つずつ種子を入れ、初め緑色で、熟すと黒色になります。
コバノランタナの液果は集合果となります。液果は1つずつ種子を入れ、直径6~8mm、初め緑色で、熟すと赤紫色~紫色になります。種子は淡色、石状、長さ約4mm。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
O’Leary, N., & Múlgura, M. E. 2012. A Taxonomic Revision of the Genus Phyla (Verbenaceae). Annals of the Missouri Botanical Garden 98(4): 578-596. https://doi.org/10.3417/2009120
RBG Kew. 2023. The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Online. http://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/