エビスグサ(ケツメイシ)・ハブソウ(ハブ草)・カワラケツメイはいずれもマメ科で、かつては同じ属に分類されていた一年草です。共通点としては葉が1回羽状複葉で、小葉は対生している点と、ほぼ同形で黄色い花弁が5枚ある花を咲かせる点が挙げられるでしょう。3種の中でも特にエビスグサとハブソウはどちらもセンナ属に含まれていて混同されることが多いです。しかし、主に葉の形と花外蜜腺の位置を確認することできちんと区別することができます。エビスグサの種子を乾燥させたものは「決明子(ケツメイシ)」と呼ばれ、下剤になることから「全てを出し切る」という意味で有名な日本の音楽グループの由来になったと言います。「ハブ茶」は元々はハブソウの豆(種子)から作られていましたが、現在ではエビスグサの豆(種子)が利用されているという点はあまり知られていないかもしれません。本記事ではエビスグサ・ハブソウ・カワラケツメイの分類・利用方法について解説していきます。
エビスグサ・ハブソウ・カワラケツメイとは?
エビスグサ(夷草) Senna obtusifolia は熱帯アメリカ原産で、ユーラシア大陸含む熱帯地域を中心に種子を薬用または飲用として利用するため栽培され、日本でも時に逸出して野生化している一年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。種子の生薬名はケツメイシ(決明子)で、有名な日本の音楽グループの由来になっています。
ハブソウ(波布草) Senna occidentalis は熱帯アメリカ原産で、ユーラシア大陸含む熱帯地域を中心に種子を薬用または飲用として利用するため栽培され、日本でも時に逸出して野生化している一年草です。
カワラケツメイ(河原決明) Chamaecrista nomame は日本の本州、四国、九州;朝鮮、中国に分布し、日当たりのよい草原に生える一年草です。
いずれもマメ科で、かつては同じ属に分類されていた一年草です。共通点としては葉が1回羽状複葉で、小葉は対生している点と、ほぼ同形で黄色い花弁が5枚ある花を咲かせる点が挙げられるでしょう。
勿論、果実はマメ科なので豆果で、莢(マメ科特有の果皮)と豆(マメ科特有の種子)から構成されています。
3種の中でも特にエビスグサとハブソウはどちらもセンナ属に含まれていて、極めて類似していることから混同されることの多い2種です。食用や薬用に利用される点も類似しています。
エビスグサ・ハブソウとカワラケツメイの違いは?
まず、エビスグサ・ハブソウとカワラケツメイの間には分類上の違いがあります。
エビスグサとハブソウはセンナ属に含まれるのに対して、カワラケツメイはカワラケツメイ属に含まれています。
そのため、形態上にも違いがあることが予想できるでしょう。
具体的には、センナ属では萼の基部に小苞はなく、豆果は裂開または不裂開で、裂開しても各片はらせん状に丸まらないのに対して、カワラケツメイ属では萼の基部に小苞があり、豆果は2片に裂開し各片はらせん状に丸まるという違いがあります。
ただこれらの特徴は厳密なもので、それよりも葉の形を確認するほうが早いです。
エビスグサとハブソウでは小葉が2~6対と少なく、形は卵形~楕円形であるのに対して、カワラケツメイでは小葉が15対以上つき、形は狭長楕円形であるという違いがあります。要するにカワラケツメイの方が小葉が多く形は細いです。
葉に違いがあることを知っていれば見間違えることはないでしょう。
エビスグサとハブソウの違いは?
エビスグサとハブソウは同じ属の中でもかなり似ている2種類です。
その違いは葉や花外蜜腺(花以外の場所にあるアリを惹き寄せる蜜腺)にあります。
エビスグサでは小葉が倒卵形~倒卵状楕円形で、先は円く、葉軸上に1個の蜜腺があるのに対して、ハブソウでは小葉が卵状~卵状楕円形で先は尖り、葉柄基部に1個の蜜腺があります。
つまりエビスグサには葉の中に蜜腺があるということになります。エビスグサの蜜腺は大きめで、茶色く円錐形をしているため、非常に目立つのでよく確認してみましょう。
なお、日本にはセンナ属は約7種の帰化が確認されていますが、木本が多くここでは省略します。
エビスグサとハブソウの用途の違いは?
エビスグサとハブソウの用途の違いも気になるかもしれません。
ハブソウは日本ではかつて毒虫や毒蛇、特にハブに咬まれたときの民間薬として導入されたために、この名前があります。世界的にも薬用として利用されてきました。「ハブ茶」が有名で、本来はハブソウの豆(種子)で「望江南」と呼ばれる物を炒って、その成分を水で抽出していました。しかし、ハブソウの種子は収穫量が悪いので、エビスグサがとって代わっています。
更にモルディブやインドでは食用にも利用されてきましたが、現在ではエモジンと呼ばれる有毒なアントラキノン誘導体が含まれていることが分かっており(Vashishtha et al., 2009)、「急性HME症候群」と呼ばれる脳症の原因とされ、食用にされることは減っています(Panwar, 2012)。ただし、急性HME症候群の原因が本当にハブソウによるものなのかは諸説あります。
一方、エビスグサは種子を乾燥させたものが「決明子」と呼ばれ利用されます。現在では中国、北朝鮮、インド、タイなどで生産されています。決明子には、便通を良くする緩下作用・目の充血を取る作用・利尿作用があるとされます。
そして、上述のようにエビスグサの種子が「ハブ茶」に代用されるようになっています。現在日本で商業的に販売されているものは、本来「エビスグサ茶」とでも言うべきものであるということは知っておいても良いかもしれません。
世界的には日本よりも早く浸透しており、「キョルミョンジャ茶」と呼ばれ、東アジア(中国、韓国)だけでなく、東南アジア(タイなど)でも飲用されています。
まとめると、ハブソウは現在ではあまり使用されず、エビスグサの方が身近な植物であると言えそうです。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Panwar, R. S. 2012. Disappearance of a deadly disease acute hepatomyoencephalopathy syndrome from Saharanpur. Indian Journal of Medical Research 135(1): 131-132. https://doi.org/10.4103/0971-5916.93436
Vashishtha, V. M., John, T. J., & Kumar, A. 2009. Clinical & pathological features of acute toxicity due to Cassia occidentalis in vertebrates. Indian Journal of Medical Research 130(1): 23-30. https://journals.lww.com/ijmr/Abstract/2009/30010/Clinical___pathological_features_of_acute_toxicity.6.aspx