ハイビスカス・ブッソウゲ・フウリンブッソウゲは派手な赤をベースとした色の花をつけるため、熱帯の雰囲気を味わわせてくれる園芸で人気の常緑低木です。ハイビスカスとブッソウゲは時として同じものを指す言葉のように語られることがあります。しかし、これは間違いである場合があります。フヨウ属 Hibiscus の様々な植物を総称している場合と、「ハワイアン・ハイビスカス」や「トロピカル・ハイビスカス」と呼ばれるブッソウゲをベースとしてフヨウ属をかけ合わせた園芸品種群のことを指す場合があります。近年作り出されたハイビスカスと古代に野生化もしているブッソウゲは本来は別のものを指しています。この点は注意しましょう。ハワイアンハイビスカスはハワイで様々な種類が交配された結果生まれたため、個体間の差異が大きく、ブッソウゲやフウリンブッソウゲとの明確な区別は難しいことが多いですが、基本的には花の色で区別されます。葉も少しだけ違う場合があります。ブッソウゲとフウリンブッソウゲは花の形で区別可能です。ブッソウゲの原産地は不明で、日本には琉球には古い時代に、本土には江戸時代にもたらされたとされています。その特徴的な大型の赤い花には新世界のハチドリがやってくるという説と旧世界のタイヨウチョウがやってくるという説がありますが、どちらも実証があります。原産地が不明なので野生下ではどちらだったのかは分かりませんが、どちらにせよ、ブッソウゲの柔軟な適応を示していると言えそうです。本記事ではハイビスカス・ブッソウゲ・フウリンブッソウゲの分類・歴史・送粉生態について解説していきます。
熱帯~亜熱帯を中心に分布する赤い花の原種2種
ブッソウゲ(扶桑花) Hibiscus rosa-sinensis は原産地は不明で、中国またはアフリカまたは新世界熱帯であると考えられている常緑低木です(El Mokni & Iamonico, 2020)。おそらく古代に渡来し、沖縄、九州南部、伊豆諸島南部、小笠原諸島に分布します。日本では観賞用に温室栽培されることがあります。和名の由来は「扶桑花」で、中国で扶桑は本来はムクゲのことで、いくつかあるHibiscus rosa-sinensis の中国名のうち、「扶桑花」と呼ぶ誤用された名前が日本へ伝わり定着しました(常谷,1991)。日本で扶桑に「花」が追加されたわけではありません。
フウリンブッソウゲ(風鈴仏桑華) Hibiscus schizopetalus はケニアおよびタンザニア北部を原産とする常緑低木です(Thomson & Cheek, 2020)。日本では観賞用に温室栽培されることがあります。和名は花が風鈴ようであることに由来します。
アオイ科フヨウ属で、どちらも大きな赤い花を持ち、熱帯~亜熱帯の南国の雰囲気を象徴しています。日本で園芸種として歴史は長く、よく栽培されています。
「ハイビスカス」は2通りの意味あり
しかし、ブッソウゲやフウリンブッソウゲという言葉とともに、「ハイビスカス」という言葉もよく目にすると思います。これらには違いがあるのでしょうか?
ハイビスカスについては生物学的に特定の種類を指す言葉とは限りません。2通りの意味が考えられます。
まず、フヨウ属 Hibiscus の総称としてハイビスカスと呼んでいる場合です。この場合、上述の2種に加えて、フヨウ Hibiscus mutabilis、ムクゲ Hibiscus syriacus、ハマボウ Hibiscus hamabo などを代表に日本国内で見られるだけでもフヨウ属はかなり多種多様で、北半球各地の熱帯・亜熱帯、一部の温帯に分布する海外の種を説明するときにも、ハイビスカスと呼んでいる記述を見かけます。野生種は約250種にも達すると言われます。
次に、「ハワイアン・ハイビスカス」や「トロピカル・ハイビスカス」と呼ばれるブッソウゲをベースとしてフヨウ属をかけ合わせた園芸品種群のことを指していることがあります。フヨウ属の園芸品種の多くはハワイにおいて作られました。1902年にギフォード(W. M. Gifford)が種間交雑によって4品種を作ってから、次いで1909年以来農業試験場で本格的な交配が行われるようになり、ブッソウゲも導入され、5年間で1000種にのぼる園芸品種が作出されました。その後、交配種同士の交雑が繰り返されて現在にいたっています。このことはあまり知られていません。
ハワイアンハイビスカスはその具体的な成立ちが不明でしたが、古い日本の研究では10種のハワイ諸島の自生種、2種のインド洋諸島からの導入種、およびブッソウゲが関与している雑種群であると推定されています(立花,1975)。
近年行われた別の遺伝子を用いた研究でもブッソウゲを元として、Hibiscus denisonii(ハワイ原産)、Hibiscus kokio(ハワイ原産)、Hibiscus genevii(モーリシャス原産)、ユリザキムクゲ Hibiscus liliiflorus(中米原産)、Hibiscus boryanus(モーリシャス・レユニオン原産)、Hibiscus arnottianus(ハワイ原産)、フウリンブッソウゲが複雑にかけ合わさっていることが分かっています(Braglia et al., 2010)。
ブッソウゲの形態が強く反映されている雑種園芸品種は「原種系」と呼ばれることがあります。また、フウリンブッソウゲの形態が強く反映されている雑種園芸品種は「コーラル系」と呼ばれることがあります。
したがって、煩雑に「ハイビスカス」と呼ばれがちですが、古代に野生化もしているブッソウゲやフウリンブッソウゲとは区別されます。意味についてもこの2つをしっかり区別して理解することが大事です。
特に「ハイビスカス=ブッソウゲ」と記述するサイトもありますが、そういうわけではないので注意しましょう。
ハイビスカスとブッソウゲ・フウリンブッソウゲの違いは?
成り立ちについてはわかりましたが、形態的にはどのように区別すれば良いのでしょうか?
残念ながらハワイアンハイビスカスにはブッソウゲやフウリンブッソウゲの遺伝子が混じっているため、形も通ずる部分が出てしまうため今のところ完璧な判別方法は確立されていないと思われます。
その上、ハワイアンハイビスカス内でも、どのハワイやインド洋諸島の種類から成立したのかが分からないため、形態が安定せず、混沌とした状態にあります。
しかし、ブッソウゲやフウリンブッソウゲの形態は本来ははっきりしているはずなので、いくらかの傾向は見出すことはできると思われます。
まずブッソウゲやフウリンブッソウゲでは花の色が一様に深紅色であるのに対して、ハワイアンハイビスカスでは花の色は白、桃、紅、黄、橙黄色など様々な色しており、部分的に花冠の色が変わることがあります。
またブッソウゲやフウリンブッソウゲでは葉の鋸歯が明らかで大きめですが、ハワイアンハイビスカスでは葉の鋸歯が大きめのものもありますが、細かく殆どない品種も確認しています。
以上2点でしか現状区別できないと思われます。
ブッソウゲ・フウリンブッソウゲの違いは?
ブッソウゲとフウリンブッソウゲの違いとしては、ブッソウゲでは花は明らかに垂れ下がることはなく、花冠は全体かわずかに切れ込み、広がっているが反り返らず、萼状総包片は8〜15mmであるのに対して、フウリンブッソウゲでは花は垂直に垂れ下がり、花冠は深い羽状中裂で反り返り、萼状総包片は1〜2mmという違いがあります。なお、ハワイアンハイビスカスのコーラル系では斜め下に垂れますが、垂直に垂れ下がることはありません。
この他に混同されやすい種類として、北アメリカ原産のアメリカフヨウ Hibiscus moscheutos も栽培されます。こちらは花冠はピンクまたは白色で普通は基部に暗赤色の斑点がありますが、ない場合もあります。細かい部分では子房と蒴果は光沢があるという特徴も挙げられます。
フヨウ属には萼状総包片(副萼、epicalyx lobe)という萼の下に細い葉のようなものが伸びています。そのため2重の萼があるように見えます。
アメリカフヨウではこの萼状総包片が線状披針形でかなり細く10~14個で多いのに対して、ブッソウゲなどでは萼状総包片が線状披針形ですが太めで6~7個で少ないという違いもあります。
ブッソウゲの原産地は不明?日本にはいつ来た?
ブッソウゲの原産地は分かっていません。
これまでの説としては中国が起源であるとするものや、アフリカまたは新世界の熱帯地方が起源であるとするものが知られています。しかし、ブッソウゲは雑種などの選抜が豊富でハワイアンハイビスカスと混同され、栽培の歴史も複雑であるため、現時点ではその起源は不明なままです。
インド洋諸島にはかつて欧州とインドや東南アジアとを結ぶ航路があり、琉球には1800年代までにおそらく東南アジア経由でもたらされました。現在では沖縄、九州南部、伊豆諸島南部、小笠原諸島に分布するようになっていますが、もともとは自然分布ではないでしょう。
本土では、『徳川実紀』より江戸時代の慶長14年(1609年)に薩摩藩主島津家久が琉球産ブッソウゲを徳川家康に献じたのが最初の記録とされています(磯野,2007)。それ以前の1500年や1544年にも仏桑花の名がありますが、現在のブッソウゲと同じであるかは不明とされています。
本州以北では冬の寒さに耐えられず枯れてしまうので、現代でも庭植えではなく鉢植えでの管理になります。
真紅の花冠が目立つ花の構造は?
花はフヨウ属共通のもので、いずれも種類でも合弁花で、花冠が5裂し、原種では鮮紅色です。蕊柱(ずいちゅう、雄しべと雌しべが合体したもの)を囲み、蕊柱は突き出しています(塚本,1994)。
ブッソウゲでは花期が日本では7~9月で、マレーシアでは一年中咲きます。花弁は広がり隙間なく、反り返ることはありません。やや斜め下に垂れ下がることはありますが、垂直に垂れ下がることはありません。
一方フウリンブッソウゲでは花期が日本では5~10月。花弁はフリル状で深く裂けて反り返り、花柄が長いため、風鈴のように垂直に垂れ下がっており、蕊柱は下を向くことになり、趣深いです。
花に訪れるのはハチドリ?それともタイヨウチョウ?
この深紅の花にはどのような動物が訪れるのでしょうか?
非常に古い研究では、ブッソウゲおよびフウリンブッソウゲの花には蜜食性のハチドリ科の鳥が訪れると考察されました(Van Der Pijl, 1937)。
下垂し、ハチドリのホバリングによって蜜を吸いやすい形をしているからです。また、赤い花は色覚の関係上、見える昆虫はハナバチように限られており、鳥類が強く惹きつけられることが分かっています。大型であることも昆虫に比べると大型の動物と関連することを示していると言えます。
ハチドリの嘴と舌は細く長めに進化していますが、その長さに対抗するため花筒は細く長くなり、遠くから蜜だけを奪われないように、花柱も伸びていると考えることができます。
現代ではインターネットで「Hibiscus Hummingbird」と画像検索するとブッソウゲに訪れる沢山のハチドリを確認することが出来ます。
しかし、少なくともフウリンブッソウゲについては東アフリカが原産地で、ここにはアメリカ大陸にしか存在しないハチドリはいません。ブッソウゲについてもハチドリしかやってこないのだとしたら、アジアで野生化することはないでしょう。
このことを踏まえて、別の研究で行われた観察によると、アフリカのザンジバル島において、タイヨウチョウ科のヒムネタイヨウチョウ Chalcomitra senegalensis という蜜を専門に食べる鳥がブッソウゲに訪れて花粉を運ぶことが明らかになりました(Prendergast, 1982)。
タイヨウチョウ科もまた蜜食性の鳥類ですが、タイヨウチョウ科は旧世界・オセアニア区の熱帯にのみ分布する鳥のグループです。やはり、鳥の嘴と舌は細く長めに進化しています。
タイヨウチョウはハチドリほど安定していませんが、少しならホバリングすることができるので、その際に垂れ下がった蕊柱の雄しべに触れるようです。したがって、フウリンブッソウゲについても同様である可能性があります。
現代ではこちらもインターネットで「Hibiscus Sunbird」と画像検索するとのブッソウゲに訪れる沢山ハチドリを確認することが出来ます。
結局、ブッソウゲはどちらによって受粉を成功させているのでしょうか?
おそらく、これらのことを踏まえるとブッソウゲは結局どちらでも受粉可能と考えられるでしょう。タイヨウチョウ科とハチドリ科は蜜食性を旧世界と新世界で平行進化させた2グループだと言われています。ブッソウゲはどちらで地域で進化したかは分かりませんが、どちらの地域であっても受粉が可能という柔軟性を持っているということができるでしょう。
フウリンブッソウゲの花には蝶も訪れる?
一方フウリンブッソウゲについてはハチドリがやってくることはないでしょう。『Google画像検索』でも「Hibiscus schizopetalus Hummingbird」と検索しても鳥の写真は確認できませんでした。
しかし、タイヨウチョウについても文献も発見できず、『Google画像検索』で「Hibiscus schizopetalus Sunbird」と検索しても写真は発見できませんでした。
おそらく、フウリンブッソウゲにはタイヨウチョウが訪れると考えるのが普通だと思います。
ただ、原産地以外になってしまいますが、やはり『Google画像検索』やミャンマーの研究での記録を確認すると、蝶が訪れていることが分かりました(Wai & Zin, 2019)。インターネットの写真では丁度翅に花粉がつく様子も確認できます。
全く詳しいことは分かりませんが、ブッソウゲよりも更に下垂を進めたフウリンブッソウゲでは訪れる動物に変化が生じている可能性もあります。こんなに特徴的ですが、自然界では謎がまだまだ残されていると言えます。
果実は蒴果で種子は重力散布と海流散布される?
果実はフヨウ共通で蒴果です。種子は腎形です。
ハイビスカスとブッソウゲの蒴果は卵形、長さ約2.5cm、無毛、先は嘴状です。
フウリンブッソウゲの蒴果は長円状円筒形、長さ4cm×幅1cmです。
ハイビスカス・ブッソウゲ・フウリンブッソウゲは日本では適切な受粉者が居ないので小さな果実を作るものの、その後は落ちるのが通常です。
正常に果実を作った場合、種子散布を行っていると思われますが、これらの種類では詳しいことは分かっていません。しかし、アメリカフヨウや、オオハマボウ Hibiscus tiliaceus、アメリカハマボウ Hibiscus pernambucensis では蒴果から種子が零れ落ち、重力散布されるだけではなく、海流散布も行われることも分かっています(Kudoh et al., 2006; Yamazaki et al., 2023)。そのため、これらの種類でも同様の可能性があります。
引用文献
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出典元
本記事は以下書籍に収録されていたものを大幅に加筆したものです。