スズメノヒエ・シマスズメノヒエ・タチスズメノヒエ・アメリカスズメノヒエはいずれもイネ科スズメノヒエ属に含まれ、雑草として都市部~農地まで広い範囲で見かけることのある多年草です。小穂は平たく円形~楕円形に近く、これが最も大きな特徴と言えるでしょう。しかしいずれもよく似ており区別に迷います。4種を区別するには小穂の特徴を確認することで一番だと思います。他にも細かい部分に違いがあります。本記事ではスズメノヒエ属の分類・形態について解説していきます。
スズメノヒエ・シマスズメノヒエ・タチスズメノヒエ・アメリカスズメノヒエとは?
スズメノヒエ(雀の稗) Paspalum thunbergii は日本では本州・四国・九州・琉球・小笠原;朝鮮・中国など東アジアに分布し、路傍や荒地に生える多年草です。
シマスズメノヒエ(島雀の稗) Paspalum dilatatum は南アメリカ原産で世界の暖地に帰化し、日本では本州以南に帰化し、路傍や荒地に生える多年草です。
タチスズメノヒエ(立雀の稗) Paspalum urvillei は南アメリカ原産で世界の暖地に帰化し、日本では関東地方以西に帰化し、路傍や荒地に生える多年草です。
アメリカスズメノヒエ(亜米利加雀の稗) Paspalum notatum は熱帯アメリカ原産で世界の暖地に帰化し、日本では各地に帰化し、山地を除き全域に見られる多年草です。牧草として栽培されたものが逸出したとされます。
いずれもイネ科スズメノヒエ属に含まれ、雑草として都市部~農地まで広い範囲で見かけることのある多年草です。
この仲間は「総(ふさ、とも読む)」と呼ばれる総状花序を数本つけ、この総には「小穂」と呼ばれる小さくまとまった更に細かい花序がついており、ここに花(特別に小花と呼ばれる)が咲き、熟すと果実になります。
スズメノヒエ属の小穂は平たく円形~楕円形に近く、これが最も大きな特徴と言えるでしょう。「スズメノヒエ」という和名は「小穂が人の食用にはならず雀の餌にするヒエに似たもの」だということに由来しているとされますが、この大きな小穂を見て名前がついたのかもしれません。
しかし、このスズメノヒエ属には在来のスズメノヒエの他多数の種類が帰化しており、とても良く似ているので区別がつかないという人はいるかもしれません。
スズメノヒエ・シマスズメノヒエ・タチスズメノヒエ・アメリカスズメノヒエの違いは?
4種を区別する場合、小穂を確認するのが一番正確でしょう。
まず、スズメノヒエ・シマスズメノヒエ・タチスズメノヒエでは小穂に光沢がないのに対して、アメリカスズメノヒエでは光沢があるという違いがあります。
残り3種に関しては、スズメノヒエでは小穂が円形~楕円形で、縁には微毛が生えるか無毛であるに対して、シマスズメノヒエとタチスズメノヒエでは小穂が卵形で、縁には長くて白い長毛が生えるという違いがあります。
シマスズメノヒエとタチスズメノヒエに関しては、シマスズメノヒエでは小穂が長さ3~3.5mmで、雌しべの柱頭と雄しべの葯(花粉がついている部分)が黒紫色であるのに対して、タチスズメノヒエでは小穂が長さ2~2.5mmで、雌しべの柱頭が黒紫色で雄しべの葯が黄色であるという違いがあります。
以上で十分区別できると思いますが、更にいくつか参考になる違いもあるので挙げておきます。
スズメノヒエ・シマスズメノヒエ・タチスズメノヒエでは叢生し、長い地下茎や走出枝をもたず、葉舌は膜状であるのに対して、アメリカスズメノヒエでは長い地下茎や走出枝をもち、葉舌は膜状または微毛の列となります。
シマスズメノヒエでは総は3~7個で、稈上部の葉鞘の口にまばらに長毛が生えるか無毛であるのに対して、タチスズメノヒエでは総は10~20個で、稈上部の葉鞘の口に密に長毛が生えます。
他に似た種類はいる?
スズメノヒエ属の仲間は日本では9種知られていますが、上記4種がかなり優占しており、他種は少ないです。
キシュウスズメノヒエ Paspalum distchum はそのうち比較的見られる種類で、アメリカスズメノヒエと同じように長い地下茎や走出枝を持ちますが、湿地に生え、葉鞘口部に長い毛があり、小穂に光沢はなく横幅が狭いため長楕円に近い形になっています。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726