ヒゴスミレとエンザンスミレの違いは?2種は環境によって「開放花」と「閉鎖花」は巧みに使い分けていた!

植物
Viola chaerophylloides var. sieboldiana

ヒゴスミレとエンザンスミレは自然度のある程度高い場所に生息するスミレ属の仲間で葉が細かく分かれる点で他のスミレ属の仲間とは大きく異なり特徴的ですが、花の形は殆ど同じで2種の区別は少し難しいです。2種は形態学的には葉がヒゴスミレでは5つに分かれますが、エイザンスミレでは3つに分かれるので区別できます。しかし、それだけではなく、生息環境も対照的に進化しています。ヒゴスミレは山地の日当たりのよい草地に生息するのに対して、エイザンスミレは山地の林下などの半日陰に生息しています。これは棲み分けだと考えられますが、そのことにより生態も変化が起こっています。日向に生息するヒゴスミレは開放花を多く出し、日陰に生息するエイザンスミレは閉鎖花を多く出すようになっていたのです。またやってくる昆虫にも変化がありました。これはその環境に生息する昆虫の個体数の影響を受けたものと考えられます。果実は蒴果で種子は自動散布とアリ散布を行います。本記事ではヒゴスミレとエンザンスミレの分類・生態・送粉生態・種子散布について解説していきます。

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ヒゴスミレとエンザンスミレの違いと棲み分けは?

ヒゴスミレ(肥後菫) Viola chaerophylloides var. sieboldiana は中国、日本(本州宮城県以南〜九州の内陸部)を分布し、山地の日当たりのよい草地や林内などに生息する多年草です(Wu et al., 2007;門田ら,2013)。

エイザンスミレ(叡山菫) Viola eizanensis は日本(本州、四国、九州)に分布し、沢筋の樹林内や林縁にやや普通に生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。

いずれもスミレ科スミレ属に含まれます。

ヒゴスミレとエイザンスミレは似ていますが、ヒゴスミレでは葉が5つに分かれますが、エイザンスミレでは3つに分かれるので区別でき、葉が細かく分かれる点は他のスミレ属の仲間とは大きく異なります(神奈川県植物誌調査会,2018)。エイザンスミレでは葉が3つに別れる分、側方の裂片は小柄の上部で2裂しています。そのためよく観察しないと間違うことがあります。

ヒゴスミレとエイザンスミレは生息域も異なっており、ヒゴスミレは山地の日当たりのよい草地に生息するのに対して、エイザンスミレは山地の林下などの半日陰に生息し対照的です(Toyama & Yahara, 2009;遠山,2020)。ヒゴスミレは個体数もエイザンスミレより少なく、西日本に多いとされています(山田,2010)。春先に中国産と思われる栽培品が市販され、逸出個体が市街地に見られることもあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。

ヒゴスミレの葉上面:5つの小葉が根本でくっついていることに着目する
ヒゴスミレの葉下面
ヒゴスミレの花
エイザンスミレの葉上面:小葉が3つに別れる分、側方の裂片は小柄の上部で2裂していることに注目する|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=68039065
エイザンスミレの花|『日本花キ流通 楽天市場店』より引用・購入可能

花の構造は?

花はヒゴスミレでは4月中旬~5月上旬の春に咲き、白色まれに淡紅色で芳香があります(門田ら,2013)。エイザンスミレも4月中旬~5月上旬に咲き、色は淡紅紫色です。

形は他のスミレ属と大きく変わらず、5枚の花弁から構成され、上の花弁2枚を上弁、両側の2個を側弁、下の1個を唇弁または下弁といいます(清水,2001)。

側弁には種類によって毛が生えることと、生えないことがあるのですが、ヒゴスミレとエイザンスミレでは生えます(門田ら,2013)。また、唇弁は通常ふくらんで後ろにつきだし、距という蜜を入れる部分が作られ(清水,2001)、この形も種類によって様々ですが、ヒゴスミレではエイザンスミレよりは細いものになっています(山田,2010)。

ヒゴスミレの花
ヒゴスミレの花の内部
ヒゴスミレの花の距

スミレ科が「閉鎖花」をつくる理由は?

以上のような普通の花である「開放花」に加えて、スミレ属では「閉鎖花」というものも作ります(田中,1976;清水,2001)。閉鎖花というのは聞き慣れない言葉ですね?

閉鎖花とはスミレ属、キクモ、ホトケノザなどいくつかの分類群で見られるもので、普通の花と同じように蕾のような形をしていますが、花弁は時間が経っても見せることはなく退化してしまっています。

閉鎖花は花の内部で雄しべと雌しべがくっつくことにより自家受粉し、そのまま果実を作ります。これにより昆虫による受粉なしに子供を残すことができます。その代わり、他の個体の遺伝子を取り入れることができないので、環境の変化に弱いというデメリットもあります。スミレ属では普通、初夏以降には樹木の展葉にともなって光が少なくなり、送粉昆虫が少なくなることから閉鎖花を咲かせると考えられています(遠山,2004)。

種類によって「開放花」と「閉鎖花」を作る割合が違っていた!?

一般的なことは分かりましたが、山地の日当たりのよい草地に生息するヒゴスミレではどのようにしているのでしょうか?これはエイザンスミレとともに面白い報告があります(遠山,2004)。

日向に生息するヒゴスミレは開放花を多く出し、日陰に生息するエイザンスミレは閉鎖花を多く出すようになっていたのです。またやってくる昆虫にも違いがありました。ヒゴスミレでは多くの分類群の虫を呼び込むのに対して、エイザンスミレではクロマルハナバチが多かったのです。

これは生息地によって2種の間で生き残る戦略が異なった結果、出た違いだと考えられます。日向に生息するヒゴスミレでは長い間日光がある環境にいるので、開放花を多く出し様々な昆虫にアプローチすることで、他の個体の遺伝子を取り入れた子供を作ろうとします。一方、日陰に生息するエイザンスミレは初夏以降の昆虫による受粉は難しいので、閉鎖花を多く作ることで子供の数を保障します。また、春のうちに花粉を送る効率の良い昆虫であるクロマルハナバチに特化して呼び寄せることによって他の個体の遺伝子を取り入れる機会も確保しているのです。

この報告はまだ正式に論文になっていないようなのでこれ以上の具体的にやってくる昆虫の種類は分かりませんでしたが、ヒゴスミレとエイザンスミレは花の色や距の形も微妙に異なっているので、こういった点もどう関わっているのかというのも気になるところです。そもそも比較的見る機会の多いスミレやタチツボスミレとも違いもあるのでしょうか?まだまだ謎は多いです。

果実は蒴果で種子は自動散布とアリ散布される

ヒゴスミレとエイザンスミレの果実はスミレ属共通で蒴果です。蒴果は果皮の鞘が破れて内部の種子を露出するものです。

スミレ属の蒴果は一般に胞背裂開で、弾力のある3心皮です。心皮は舟形をしていて、竜骨があり、外側が厚くなります。熟すと、蒴果は心皮ごとに裂開して内部の種子を露出し、舟形の心皮の上に無数に種子を乗せている状態になります。種子は球状卵形で、ヒゴスミレとエイザンスミレでは種沈(caruncle、種子の先端にある珠皮起源の付属物)があり、普通平滑です。

スミレ属の種子は2段階の方法で種子散布が行われます。

舟形をして上に無数に種子を乗せている心皮は3層からできていますが、乾燥すると内側の皮の収縮が大きくなり縮まって、舟型の幅が狭くなるため、中の種子が締め付けられ、最後には弾き飛ばされる「自動散布」が行われます(小林,2007)。

こうして弾き出された種子にはスミレ属の多くでは種沈がついており、ヒゴスミレとエイザンスミレでも同様です(Toyama & Yahara, 2009)。種沈には脂肪酸、アミノ酸、糖などのアリの餌が含まれており、「エライオソーム」として働き、種子はアリによって運ばれる「アリ散布」が行われます。

このように2段階の種子散布によって広域に分布を広げているのでしょう。しかし、ヒゴスミレとエイザンスミレで具体的にどのようなアリの種類が種子を運んでいるのか?という点に関する研究は不足しています。

引用文献

門田裕一・永田芳男・畔上能力. 2013. 山に咲く花 増補改訂新版. 山と溪谷社, 東京. 616pp. ISBN: 9784635070218

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

小林正明. 2007. 花からたねへ 種子散布を科学する. 全国農村教育協会, 東京. 247pp. ISBN: 9784881371251

清水建美. 2001. 図説植物用語事典. 八坂書房, 東京. xii, 323pp. ISBN: 9784896944792

田中肇. 1976. 虫媒花と風媒花の観察. ニュー・サイエンス社, 東京. 109pp. ISBN: 9784821600236

遠山弘法. 2004. エイザンスミレとヒゴスミレの光環境、送粉昆虫に対応した資源分配. 日本生態学会大会講演要旨集 51: 230. https://doi.org/10.14848/esj.ESJ51.0.230.0

遠山弘法. 2020. 種、種間、群集における植物多様性研究. 植物地理・分類研究 68(1): 19-30. ISSN: 0388-6212, https://doi.org/10.18942/chiribunrui.0681-03

Toyama, H., & Yahara, T. 2009. Comparative phylogeography of two closely related Viola species occurring in contrasting habitats in the Japanese archipelago. Journal of plant research 122: 389-401. https://doi.org/10.1007/s10265-009-0235-7

山田隆彦. 2010. スミレハンドブック. 文一総合出版, 東京. 104pp. ISBN: 9784829910771

Wu, Z. Y., Raven, P. H. & Hong, D. Y. 2007. Flora of China. Vol. 13 (Clusiaceae through Araliaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723597

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