ハクモクレン・コブシ・シデコブシ・タムシバの違いは?似た種類の見分け方を解説!花が原始的というのは嘘?赤い目立つ種子はなんのために進化した?

植物
Magnolia denudata Desrousseaux, 1792

ハクモクレン・コブシ・シデコブシ・タムシバはいずれもモクレン科モクレン属に含まれ、落葉樹であるため、冬には葉を落とし、4月ごろになるとサクラのように葉を出すより前に白色で大きな花びらからなる離弁花を、1つの枝あたり1つだけ咲かせる点が大きな特徴です。街にも多く、春の訪れを知らせる樹ですが区別が難しい場合があります。花だけの初春の期間でも主に花弁の枚数を見れば判別できますし、それ以降に見られる葉の形でも十分区別できます。花は原始的にも見えますが、甲虫に特化して雌性先熟・熱産生・匂い・花弁の動きなどもあり、実際は様々な機能を持っています。果実は歪な形で熟すと赤い種子を露出し鳥によって散布されます。本記事では花が白く落葉性のモクレン属について解説していきます。

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ハクモクレン・コブシ・シデコブシ・タムシバとは?

ハクモクレン(白木蓮・白木蘭) Magnolia denudata は中国原産で森林に生え、日本では公園や庭などに広く植栽される落葉高木です(神奈川県植物誌調査会,2018)。

コブシ(辛夷) Magnolia kobus は日本の北海道・本州・四国・九州;朝鮮半島に分布し、落葉樹林内で普通に見られ、公園や庭にも広く植栽されている落葉高木です。由来は蕾または果実の形が「拳」のようだからという2説があります。

シデコブシ(四手辛夷) Magnolia stellata は別名ヒメコブシ。日本の本州の中部地方に分布し、公園や庭などに植栽される落葉小低木です。由来は花弁の形が神事に用いる「四手」に似ていることに由来します。

タムシバ(田虫葉) Magnolia salicifolia は別名ニオイコブシ。日本の本州・四国・九州に分布し、日本海側の山地に多く生える落葉高木です。由来は葉にタムシ状の斑点ができるためという説と、葉を噛むと独特の甘味があるため「カムシバ(噛む柴)」の名がつき、これが転じて「タムシバ」となったとする説があります。

いずれもモクレン科モクレン属に含まれ、モクレン属として、葉は楕円形から倒卵形で浅裂せず、果実は袋果が集まる集合果であるという特徴に加えて、4種に限れば落葉樹であるため、冬には葉を落とし、4月ごろになるとサクラのように葉を出す(展葉する)より前に白色で大きな花びらからなる離弁花を、1つの枝あたり1つだけ咲かせる(頂生する)点が大きな特徴です。内部の雄しべと雌しべは螺旋状に生えています。

日本では町中でも植樹されていることも多く、サクラに並んで町の春を訪れを告げる樹木であると言えるでしょう。

しかし、以上の4種は目立つ時期には花しか一見見当たらないので区別に迷うことは多いです。

ハクモクレン・コブシ・シデコブシ・タムシバの違いは?

まず前提としてハクモクレンは中国原産の外来種で、コブシ・シデコブシ・タムシバは在来種なので、野生下でハクモクレンを見かけることはありません。

また、タムシバは日本では稀に公園樹として植栽される程度なので(玉木,2020)、町中で見かける種類はまずハクモクレン・コブシ・シデコブシのいずれかです。

その上で一番見かける花の違いについて考えていきます(神奈川県植物誌調査会,2018)。

シデコブシでは花弁状花被片は細めで10枚以上あるのに対して、ハクモクレン・コブシ・タムシバでは花弁状花被片が9枚以下であるという違いがあります。

花弁状花被片は厳密に言っているだけで、普通に見えている「花びら」のことだと考えていいです。

残り3種に関しては、ハクモクレンでは「花びら」が9枚あり幅広いのに対して、コブシとタムシバでは「花びら」が6枚あり細いという違いがあります。

ハクモクレンの「花びら」が9枚に見えるのは、ハクモクレンの萼片(本来は花弁を支える部分)の3枚が本来の花被片と同じような色と形に変化してしまったことが原因です。コブシとタムシバでは普通の緑色の萼片が3枚小さくあります。先程の花弁状花被片というのはこういう事情があるので回りくどい表現になっています。

これらの特徴のため、ハクモクレンでは隙間なくしっかり花が内部を囲っているのに対して、コブシとタムシバではスカスカに見えます。

残り2種に関しては、コブシでは花被片の先端は鈍頭で、花のすぐ下に小さな葉があるのに対して、タムシバでは花被片の先端はやや鋭頭で、花のすぐ下に小さな葉がないという違いがあります。

「小さな葉」というのは新しい春に向けて、新しく伸ばしかけの葉のことを指しています。

葉は花より更にはっきりとした違いがあります(林,2025)。

ハクモクレン・コブシ・タムシバでは、葉先が突き出るのに対して、シデコブシは葉先が凹むという違いがあります。

残り3種に関しては、タムシバでは普通細長く葉先が不等号(<)状になり、鋭く突き出るのに対して、ハクモクレンやコブシでは倒卵形で葉先が中括弧({)状のようになり、丸く突き出るという違いがあります。

残り2種に関しては、ハクモクレンでは大型で、上面(表面)のシワがなく、下面(裏面)の側脈が目立たず、葉縁は波打たず平面的であるのに対して、コブシでは小型で、上面(表面)のシワが目立ち、下面(裏面)の側脈が目立ち、葉縁は波打ち立体的であるという違いがあります。

ハクモクレンの葉上面:シワはなく大型。
ハクモクレンの葉下面
ハクモクレンの樹皮
ハクモクレンの花芽
ハクモクレンの花側面
ハクモクレンの花の内部
ハクモクレンの未熟果|By Zhangzhugang – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=69913572
コブシの葉上面
コブシの葉下面
コブシの樹皮
コブシの花:花被片は6枚でスカスカな印象。
コブシの未熟果
シデコブシの葉上面:葉先は凹む。
シデコブシの葉下面
シデコブシの樹皮
シデコブシの花|By W.carter – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=117794267
シデコブシの集合果と果実|By Agnieszka Kwiecień, Nova – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=114812476
タムシバの葉|By AfroBrazilian – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=51037553
タムシバの花|By William (Ned) Friedman – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=89159673
タムシバの未熟果|By William (Ned) Friedman – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=89159426

他に似た種類はある?

モクレン属はシモクレン・タイサンボク・オガタマノキなど非常に多くの種類が含まれていますが、落葉性でかつ白色の花を咲かせるものは非常に限られています。

コブシモドキ Magnolia kobus f. pseudokobus はコブシが分布しない四国の徳島県から1個体のみが報告されているだけで、さらにその野外個体は既に絶滅し、 現在では挿し木によるクローンが現地外保存されている品種です(玉木,2021)。元々は Magnolia pseudokobus とされていましたが、最近の研究では3倍体であることが明らかとなり品種扱いに変わりました。

ホオノキ Magnolia obovata は葉の展開後に開花し、葉は枝先にほぼ輪生状につき、長さは20cm以上であることから区別は容易です。

ソトベニハクモクレン Magnolia x soulangeana は別名サラサモクレン、ニシキモクレン、ソトベニハクモクレン。ハクモクレンとシモクレン(花弁の外側が紅紫色の種)の雑種で、花弁は外側ほどピンク~紫色を帯び、内側は白いものが多いです。

ソトベニハクモクレンの花

受粉方法は?「原始的な花」というのは嘘!?

モクレン科の花は大型でふつう螺旋状に配置した多数の雄しべ・雌しべをもち、このような特徴はスイレン科やシキミ科も持っていることからペルム紀の被子植物における原始的な特徴とされることが多いです(東,2004)。実際、近年の分子系統解析でもモクレン類 magnoliids は被子植物の中ではかなり初期に分岐した仲間であることが分かっており、似た花の化石もあることから、これを裏付けているようにも思えます。

一般にこのような単純な白色で大型の花は甲虫類(コガネムシを代表に翅が硬い昆虫)を中心に利用して送粉・受粉することがよく知られています(東,2004)。モクレン科の多くについてもその特徴を持っており、実際に甲虫が中心になって訪花することが分かっています。

このようなことから「被子植物の祖先はモクレン科のような花の形をしていて一番最初は原始的な甲虫が訪れて受粉していた!モクレン科の花はその名残である!」という仮説が強く支持されていました。

しかし現在では、このような特徴は、植物学の観点からモクレン科またはモクレン目の一部における派生形質であるという考えが優勢になってきています(Judd et al., 2008)。つまり被子植物の祖先が元々そういった花の形であったというわけではなく、スイレン科やシキミ科とは独立に進化させた特徴であるというわけです。

更に昆虫学の観点からもモクレン科が生まれた白亜紀前期には現存するほとんどの甲虫のグループが生まれたことが明らかになっています(Hernandez-Vera et al., 2021)。

このようなことからモクレン科の花は多様な甲虫が生まれた後に進化し、裸子植物に寄生していた甲虫が徐々にそこに定着し、花の中で摂食・交尾・避難することで、現在のようなモクレン科の花の多様化を促したと考えられています。

つまりモクレン科の花は名残ではなく、新たに生まれたということです。

モクレン科の花には雌性先熟・熱産生(初春に花弁の日光反射による暖地形成)・匂い・花弁の動きがあることが知られていますが、これらに関しても甲虫のために特別に進化したと考えられています。

モクレン属の上記4種も例外でなく甲虫が中心となって訪花し送粉し受粉すると考えられています。

ハクモクレンは具体的な研究はまだありません。

コブシは花粉を採餌する小さなコウチュウ目のいくつかの種が最も効果的な送粉者である事がわかっています(Ishida, 1996)。報酬のない雌期の花は、報酬のある雄期の花を模倣する「異性間擬態」を行っている可能性があります。

シデコブシは主にコウチュウ目(ハネカクシ科)・アザミウマ目・ハエ目の昆虫が訪花し、送粉されることが知られています(Hirayama et al., 2005; 鈴木ら,2009)。

タムシバはハチ目(マルハナバチ属・ハナバチ類)・コウチュウ目(ケシキスイ科)・ハエ目(オドリバエ科・ハナアブ科)などが送粉者として報告されています(Yasukawa et al., 1992)。

このようにかなり似た花であるにも関わらず、やってくる送粉昆虫が少しずつ違います。これは花の微妙な色や形の違いが関係している可能性もありますが、上述のように花の匂いが影響する可能性も指摘されています(東,2004)。

中国原産のハクモクレンでは炭化水素の一種であるペンタデカンを主成分(80~95%)として強く放出していることが分かっています。

一方日本を中心に分布するコブシはテルペノイドであるリナロール(22%)とそのオキシド類(66%)が主成分、シデコブシは安息香酸メチル(100%)が主成分、タムシバは主成分は1,2-ジメトキシベンゼン(65%)・ベンジルアルコール(17%)・ベンズアルデヒド(10%)などのベンゼノイドが主成分であることが分かっています。

これらの成分と好む昆虫の関係は具体的には研究されていませんが、重要なファクターとなっているのかもしれません。

種子散布方法は?

果実はモクレン属共通で果実は袋果が集まる集合果です。集合果は歪な形をしており、まるで虫瘤(虫癭)のようで、他の植物にはない非常にユニークな形をしていると言えます。

若い集合果はいびつな緑色をしていますが、熟すると徐々に赤くなり、最終的に褐色になった集合果の袋果1つ1つが裂開して真っ赤な種子を露出します。この赤い種子を「果実」と紹介するサイトがありますが、それは間違いですのでご注意ください。

そう勘違いしてしまうのは、この赤い柔らかい種子は更に割ることができ、割ってみると木質で黒く硬い種子が現れるからでしょう。

この構造は「赤い仮種皮(arillate)」と「黒い種皮」からなっているのか、それとも「赤い肉質種皮 (sarcotesta)」と「黒い硬種皮(sclerotesta)」からなっているのかという、長い間対立する仮説がありましたが、現在は後者であることが分かっています(Feng et al., 2024)。

モクレン属の種子は動物被食散布を行います。赤い肉種皮は動物、特に赤色が見える鳥を惹きつける役割があり、黒い硬種皮は鳥に食べられた後、胚が消化されてしまうことを防いでいるのです。これによって遠くに分散され分布を拡大し、母樹との競合を防いでいます。

上記4種でも同様であると考えられています。

ハクモクレンの種子散布はデータがありません。

コブシは種子は主に鳥により散布され、テンによる散布の報告例もあります(玉木,2021)。

シデコブシの種子は散布は鳥もしくは重力散布です(玉木,2016)。

タムシバは種子は鳥や齧歯類により散布されます(玉木,2020)。

引用文献

東浩司. 2004. モクレン科の花の匂いと系統進化. 分類 4(1): 49-61. https://doi.org/10.18942/bunrui.KJ00004649594

Feng, Q., Cai, M., Li, H., & Zhang, X. 2024. How seeds attract and protect: Seed coat development of magnolia. Plants 13(5): 688. https://doi.org/10.3390/plants13050688

林将之. 2025. 樹木の葉 第3版 実物スキャンで見分ける1390種類. 山と溪谷社, 東京. 840pp. ISBN: 9784635070447

Hernandez-Vera, G., Navarrete-Heredia, J. L., & Vazquez-Garcia, J. A. 2021. Beetles as floral visitors in the Magnoliaceae: an evolutionary perspective. Arthropod-Plant Interactions 15(3): 273-283. https://doi.org/10.1007/s11829-021-09819-3

Hirayama, K., Ishida, K., & Tomaru, N. 2005. Effects of pollen shortage and self-pollination on seed production of an endangered tree, Magnolia stellata. Annals of Botany 95(6): 1009-1015. https://doi.org/10.1093/aob/mci107

Ishida, K. 1996. Beetle pollination of Magnolia praecocissima var. borealis. Plant Species Biology 11(2-3): 199-206. https://doi.org/10.1111/j.1442-1984.1996.tb00146.x

Judd, W. S., Campbell, C. S., Kellogg, E. A., Stevens, P. F., Donoghue, & M. J. 2008. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach, 3rd ed. Sinauer Associates Inc., Sunderland. 611pp. ISBN: 9780878934072

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

鈴木節子・石田清・ 戸丸信弘. 2009. シデコブシの雌性繁殖成功と訪花昆虫の関係. 日本生態学講演要旨 56: PB2-647. https://www.esj.ne.jp/meeting/abst/56/PB2-647.html

玉木一郎. 2016. シリーズ: 日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (12) シデコブシ(モクレン科モクレン属). 森林遺伝育種 5(2): 83-87. https://doi.org/10.32135/fgtb.5.2_83

玉木一郎. 2020. 日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (28) タムシバ(モクレン科モクレン属). 森林遺伝育種 9(3): 105-109. https://doi.org/10.32135/fgtb.9.3_105

玉木一郎. 2021. 日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (32) コブシ(モクレン科モクレン属). 森林遺伝育種 10(2): 116-119. https://doi.org/10.32135/fgtb.10.2_116

Yasukawa, S., Kato, H., Yamaoka, R., Tanaka, H., Arai, H., & Kawano, S. 1992. Reproductive and pollination biology of Magnolia and its allied genera (Magnoliaceae). I. Floral volatiles of several Magnolia and Michelia species and their roles in attracting insects. Plant Species Biology 7(2-3): 121-140. https://doi.org/10.1111/j.1442-1984.1992.tb00225.x

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