マツバウンラン・オオマツバウンラン・ツタバウンランの違いは?似た種類の見分け方を解説!派手な花を咲かせるのに自家受粉ばかりだった!?

植物
Nuttallanthus canadensis

マツバウンラン・オオマツバウンラン・ツタバウンランはいずれもオオバコ科に含まれ、可愛らしい青色系統の下唇の中央部が膨らんだ「唇形花(上唇と下唇が別れる花)」をつける草本という点で共通しています。外来種ながら都市部でも頻繁に見られますが、花だけに着目していると迷うことがあるかもしれません。しかし、花の色や、葉の形を観察すれば明確に異なることが分かります。花は非常に目立ちますが意外にも自家受粉の割合が高く、マツバウンラン属では特にほとんどが自家受粉であると考えられています。本記事ではマツバウンラン属とツタバウンラン属の分類・形態・生態について解説していきます。

スポンサーリンク

マツバウンラン・オオマツバウンラン・ツタバウンランとは?

マツバウンラン(松葉海蘭) Nuttallanthus canadensis はアメリカ大陸(カナダ~アルゼンチン)原産で、日本(北関東・北陸地方以西);ロシア・インド・朝鮮に帰化している一年草です(RBG Kew, 2026)。1941年に京都市で初めて採集され(清水ら,2001)、近畿地方~瀬戸内海沿岸の港湾付近に早くから帰化し、1988~2001年にかけて北上しました(神奈川県植物誌調査会,2018)。

オオマツバウンラン(大松葉海蘭) Nuttallanthus texanus は北アメリカ(カナダ・アメリカ合衆国)原産で、日本と南アメリカ北部に帰化している一年草です。国内での分布はマツバウンランとの区別が曖昧だったため不明ですが(神奈川県植物誌調査会,2018)、マツバウンランに似ている可能性があります。

ツタバウンラン(蔦葉海蘭) Cymbalaria muralis は地中海(フランス・スイス・イタリア・オーストリア・旧ユーゴスラビア)原産で、日本を含む世界中で帰化しているつる性多年草です。日本では観賞用に大正年間(1912〜1926年)に入り、ロックガーデン等に植えられたものが逸出野生化して、北海道・本州で道ばたや住宅地の石垣のすき間などに生えています(清水ら,2001)。

いずれもオオバコ科に含まれ、可愛らしい青色系統の下唇の中央部が膨らんだ「唇形花(上唇と下唇が別れる花)」をつける草本という点で共通しています。このような膨らんだ唇形花は「仮面状花冠」や「仮面状花」とも呼ばれます。

他にも形態的には、花冠上唇は2裂し、花冠の基部が伸びて距となっている点も特徴です。

外来種ながら都市部でも頻繁に見られますが、花だけに着目していると迷うことがあるかもしれません。

マツバウンラン・オオマツバウンラン・ツタバウンランの違いは?

大前提として、マツバウンランとオオマツバウンランはマツバウンラン属に含まれますが、ツタバウンランはツタバウンラン属に含まれるという違いがあります。

そのため形態的にも生態的にも大きな違いがあります(神奈川県植物誌調査会,2018)。

マツバウンランとオオマツバウンランでは一年草で、茎は円柱状で、葉は線形で、花は青色であるのに対して、ツタバウンランでは多年草で、茎は糸状で、葉は掌状で、花は紫色であるという違いがあります。

掌状というのは「てのひら状」であるということであり、ツタバウンランでは明らかにてのひらのように広がっていますが、マツバウンランとオオマツバウンランではそうなっておらず、普通のよく見る葉に近いです。

ツタバウンランは石垣のすき間に地上を這って伸びるということに特化しているので、茎が非常に細くなっています。

マツバウンランとオオマツバウンランの違いとしては、マツバウンランでは花冠(距を除く)は長さ6~10mmで、果実は突起が散在しているのに対して、オオマツバウンランでは花冠(距を除く)は長さ10~14mmで、果実は突起が密生しているという点を図鑑は挙げています。

ただこれだけだと少し曖昧にも感じてしまうかもしれません。

他にも見比べてみると、マツバウンランでは茎に1~4(~7)個の花を咲かせるのに対して、オオマツバウンランでは1~13(~30)個の花を咲かせるという違いがあります(Flora of North America Editorial Committee, 2019)。

また、マツバウンランでは下唇の中央部が明らかに白色になるのに対して、オオマツバウンランではやや白味がかるものの青色のままという違いがあります。

実際に写真を見ると思ったよりも大きな違いがあることが分かります。

マツバウンランの花:青色で、中央部が白色。
オオマツバウンランの下部の葉
オオマツバウンランの上部の葉
オオマツバウンランの花:青色で中央部がやや白色がかるがコントラストは少ない。
ツタバウンランの葉と花:葉は掌状で、茎はつる性。花は紫色。

受粉方法は?派手な花に反して自家受粉ばかりだった!?

マツバウンランとオオマツバウンランの受粉方法は?

マツバウンラン属の青色の仮面状花は小さいながらも見た目が派手なので、虫媒花で他家受粉により繁殖していると考えるかもしれません。

しかし、アメリカ合衆国での研究によると、見た目に反してマツバウンラン属のすべての種で自家和合性があり、自家受粉(同じ花の雄しべの花粉が雌しべにつく受粉)が可能で、閉鎖花と解放花両方を作ることが分かっています(Crawford, 2003; Crawford & Elisens, 2006)。

しかも閉花受粉(cleistogamy)が頻繁に起こり、多くの花が自家受粉を完了してしまいます。閉鎖花ではそのまま、解放花では開花前に受粉することになります。

閉鎖花は地味なのでなかなか見かけることが少ないですが、生活史の初期と後期に形成されています。

そのため非常に目立つ花であるにも関わらず殆どが昆虫による受粉に頼っていないとされています。非常に意外な結果であると言えます。

蜜の量と組成は不明であるが、温室や生育室で栽培された花では蜜は観察されていません。

一応解放花への訪花昆虫は少しだけ存在していて、ミツバチやコハナバチ科の仲間がやってくるという観察もあれば(Wolfe & Sellers, 1997)、チョウやおそらくカメムシ目が訪れるという報告もあります(Crawford, 2003)。

このようにマツバウンラン属は他の遺伝子をわずかしか取り入れないので、遺伝的多様性は低く、種間交雑は起こらず、集団間分化が大きく起こっていることも遺伝子の調査で明らかになっています。これは北アメリカでの地理的隔離(河川・海進・古地理)が原因であったと考えられています。

日本の都市部でマツバウンラン属が繁殖できているのはこのような強い自家受粉戦略が関係していそうです。

ところで、なぜ自家受粉ばかりなのに解放花のような「無駄に見える花」をたくさん咲かせているのでしょうか?

同研究では開放花が閉鎖花より多くの種子をつけることを明らかにしています。つまり開放花はたとえ昆虫による他家受粉をしなくても閉鎖花よりも繁殖効率が良いことを示しています。

このことに加え、環境が変わった場合に備えて、他家受粉の可能性を完全に捨てないという中間択の結果だと解釈できるかもしれません。

ツタバウンランの受粉方法は?

一方、ツタバウンランの紫色の仮面状花ではどうでしょうか?

実はフランスでの研究によるとツタバウンランでも同様で閉花受粉が起こり、自家受粉も発生することが分かっています(Desaegher, 2017; Desaegher et al., 2017)。

その割合については分かっていませんが、マツバウンラン属ほど極端ではなく、他家受粉と自家受粉を両方組み合わせていると考えられています。

ただ、農村部よりも都市部の方が花がやや小さく、花粉数が少ないという傾向があり、都市部のツタバウンランではより自家受粉の傾向が高まっていることも分かっています。

具体的な訪花昆虫としては48.2%が小型のハナハチ(コハナバチ属 Lasioglossum など)、29.6%がマルハナバチ属で、その他僅かに大型ハナバチ・ミツバチ・ハナアブ科が訪れているという結果が出ています。

このようによく似た花ですがマツバウンランとツタバウンランでは受粉の傾向が異なっていると言えるでしょう。

種子散布方法は?

マツバウンラン属の果実は蒴果で、ほぼ球形~長円状卵形、壁は薄く、硬く、熟すと4~5部屋に裂開します。種子は黒色の放射相称のプリズム状で4~7の角があります。

マツバウンラン属は主に重力散布または風散布を行っているとされています(Crawford & Elisens, 2006)。

ツタバウンランの果実は蒴果で、直径5~6mmの球形、長柄によって下垂し、熟すと裂けます。種子は径1mm弱で、黒色~褐色で不規則なしわを持ちます。

ツタバウンランも重力散布として扱われています(Benvenuti et al., 2016)。

引用文献

Benvenuti, S., Malandrin, V., & Pardossi, A. (2016). Germination ecology of wild living walls for sustainable vertical garden in urban environment. Scientia Horticulturae203, 185-191. https://doi.org/10.1016/j.scienta.2016.03.031

Crawford, P. T. (2003). Biosystematics of north American species of Nuttallanthus (Lamiales) [Doctoral dissertation, The University of Oklahoma]. https://www.proquest.com/openview/665d70305b3b2aa318f19aae12ba6adf/1?pq-origsite=gscholar&cbl=18750&diss=y

Crawford, P. T., & Elisens, W. J. (2006). Genetic variation and reproductive system among North American species of Nuttallanthus (Plantaginaceae). American Journal of Botany93(4), 582-591. https://doi.org/10.3732/ajb.93.4.582

Desaegher, J. (2017). Urbanization effects on floral morphology and plant-pollinator relationships [Doctoral dissertation, Paris-Saclay University]. https://theses.hal.science/tel-01665328/

Desaegher, J., Nadot, S., Dajoz, I., & Colas, B. (2017). Buzz in Paris: flower production and plant–pollinator interactions in plants from contrasted urban and rural origins. Genetica145(6), 513-523. https://doi.org/10.1007/s10709-017-9993-7

Flora of North America Editorial Committee (Eds.). (2019). Flora of North America (Vol. 17 Magnoliophyta: Tetrachondraceae to Orbobanchaceae). Oxford University Press. ISBN: 9780190868512, https://floranorthamerica.org/Main_Page

神奈川県植物誌調査会. (2018). 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会. ISBN: 9784991053726, https://flora-kanagawa2.sakura.ne.jp/efloraofkanagawa.html

RBG Kew. (2026). The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants. Plants of the World Onlinehttp://www.ipni.org and https://powo.science.kew.org/

Wolfe, L. M., & Sellers, S. E. (1997). Polymorphic floral traits in Linaria canadensis (Scrophulariaceae). American Midland Naturalist, 138(1), 134-139. https://doi.org/10.2307/2426661

清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. (2001). 日本帰化植物写真図鑑 Plant invader 600種 (改訂). 全国農村教育協会. ISBN: 9784881370858

タイトルとURLをコピーしました