デイゴ・カイコウズ(アメリカデイゴ)・サンゴシトウの3種はデイゴ属の中では日本で比較的見られる種類で、いずれも観賞用に栽培され、花も赤く三出複葉であることから混同されることがあります。葉はよく似ていますが、小葉の形、刺、葉柄をよく観察することで確実に区別できます。また花は更に大きな違いがあり、デイゴとカイコウズではマメ科にみられる蝶形花が逆さになり旗弁が下に広がった形になっているのに対して、サンゴシトウは旗弁が閉じて、細い形状になっています。またデイゴの雄しべ雄しべは長く、サンゴシトウでは短いです。デイゴは沖縄で愛される植物ですが、意外にもその由来は不明確で少なくとも明治時代にやってきたとされ、古代には自生していなかったというのが有力です。デイゴは日本だけではなく世界的に栽培により原産地と区別がつかないほど分布を広げています。沖縄の県花になったのは、南国沖縄を象徴し観光資源であるからだと説明されています。そんなデイゴ属の花は日本に見られる種類だけでも上述のように三者三様の形をしています。これはそれぞれの生息地に合わせた劇的な進化が起こった結果であると考えられています。本記事では3種の分類・歴史・文化・送粉生態・種子散布について解説していきます。
デイゴ・カイコウズ・サンゴシトウとは?
デイゴ(梯梧) Erythrina variegata は奄美大島~沖縄;インド、スリランカ、東南アジア(バングラデシュ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム)、オーストラリア、太平洋諸島に広く分布し、アフリカと中南米に導入された落葉高木です(Wu et al., 2010)。しかし後述のように自然分布地は不明確で、日本の分布も導入である可能性があります。自然下では砂質土壌の沿岸林に生えます。街路樹や公園樹として植栽されています。
カイコウズ(海紅豆) Erythrina crista-galli は別名アメリカデイゴ(塚本,1994)。ブラジル南東部~アルゼンチン北部原産に分布する落葉高木です。日本では公園樹、庭木にやや稀に栽培されます。どちらが標準和名かは図鑑によってバラバラですが、日本産植物の和名と学名を整理した『Ylist』ではカイコウズが採用されています。漢字は「海紅豆」で、海外から来た赤いマメという意味とされます。
サンゴシトウ(珊瑚刺桐) Erythrina x bidwillii は南米原産のカイコウズと北米原産のヘルバケア E. herbacea がオーストラリアで交配されて作られた園芸種です(茂木ら,2000;土橋,2013)。日本でも栽培されます。漢字は「珊瑚刺桐」で、刺桐はデイゴの中国名で、赤珊瑚のような花の色と形に由来するとされます。
以上3種はマメ科デイゴ属の中では日本で観賞用に栽培され、よく見かける種類です。いずれも三出複葉で赤い花を持ち、カイコウズの別名がアメリカデイゴであることも重なり、本土で暮らしていると違いがよく分かっていないかもしません。
デイゴ・カイコウズ・サンゴシトウの違いは?
しかし、葉の形はよく観察してみるといずれも違っており、花の形は全く異なっています(林,2014)。
まず、葉の小葉はデイゴとサンゴシトウでは菱形~三角形で、先が尖っているのに対して、カイコウズでは明らかに丸く卵形で、先も丸みを帯びています。
ただし、これは栽培されるカイコウズの品種であるマルバデイゴに見られる特徴です。とはいえ日本で普通に調べる分には困らないでしょう。
デイゴとサンゴシトウの小葉については、デイゴでは横幅が縦幅と比べてやや短いか同じくらいで、左右の小葉は全体としては三角形に近く左右非対称の歪んだ形になることが多いのに対して、サンゴシトウでは、横幅が縦幅と比べて短く、全体としては菱形に近く、左右対称に近いことが多いです。また、デイゴの葉柄は緑色ですが、サンゴシトウの葉柄は赤みを帯びています。
またデイゴでは葉柄・葉下面の主脈・枝に刺がある場合がありますが、カイコウズとサンゴシトウでは刺は全くありません。
これだけでも十分区別がつきますが、花はもっと違っています。
デイゴとカイコウズではマメ科にみられる蝶形花が逆さになり旗弁(蝶形花のうち上に一枚だけある幅が広い花びら)が下に広がった形になっているのに対して、サンゴシトウは旗弁が閉じて、細い形状になっています。
デイゴとカイコウズの花については、デイゴでは雄しべと雌しべが葯を除いて赤色で明らかに伸長して、上から横向きに伸びているのに対して、カイコウズでは雄しべと雌しべが葯を除いて白色で明らかに短く、下向きについています。
以上を見比べれば一般的なデイゴ属は確実に区別できるでしょう。
デイゴは本当は沖縄では外来種?
デイゴの分布は日本、インド、スリランカ、東南アジア、オーストラリア、太平洋諸島に広く分布しているものの、実際の自然分布地については諸説あります。日本の沖縄などの分布に関しても自生すると明言するサイトもありますが、実際は諸説あるのです。これはなぜなのでしょうか?
日本の文献だけを読んでいても中々分かりませんが、世界で読まれている英語の研究機関の報告には詳しく書いてます。
これによると本来はインドからマレーシアにかけてが原産地ともされるのですが、熱帯地方で非常に長い間栽培されてきたため、元の分布を定義することは困難なのだといいます(Duenas-Lopez, 2022)。
デイゴは多目的種であり、赤い大きな花と多彩な葉の美しさから観賞用、生け垣、フェンス、支柱、緑肥、アグロフォレストリーにおける飼料などを目的にあちこちで栽培されます。
日本の沖縄を代表とした分布についても確実な史料は発見できませんしたが、デイゴの生態を調査した論文では少なくとも明治以前に遡る帰化植物として扱われています(中本・伊澤,2013)。その中ではさらに「デイゴは沖縄への導入時期や由来が明確でない」としています。
これらの事実を合わせると古代から分布していたというのはかなり怪しいかもしれません。
沖縄を代表する植物だけに少し残念な気もしますが、そのような日本の植物や文化は他にもたくさんありますし、今の価値観を大切にすれば良いと思います。
なぜ沖縄の県花になった?
デイゴが沖縄県の県花になったのは1967年に沖縄県民の圧倒的な支持(応募総数75653票の内の66252票を獲得)を得て決まったという経緯があります(中本・伊澤,2013)。
その理由は「深紅の花は、南国沖縄を象徴するのにふさわしく、観光資源として大きな効果があること、また幹材は、漆器の材料として用いられ経済的価値も高い」からだと沖縄県は説明しています。
また、デイゴが見事に咲くと、その年は台風の当たり年で、天災(干魃)に見舞われるとされ(齋藤ら,2019)、その災害を予測する目印にも利用されていたようです。しかし、伝承として存在するものの、実際に予測できるのかは確実な研究はありません。THE BOOMの楽曲『島唄』の歌詞では沖縄戦とかけて「嵐」が歌われています。
一方本土では鹿児島県奄美群島加計呂麻島の諸鈍海岸でもデイゴはみられ、琉球貿易のために植えられたものとされます。その理由はデイゴの真っ赤な花を目指して交易船が入江に入って来たからだと言います。
このことを踏まえると先程は少なくとも明治時代と言いましたが、もう少し日本(琉球)のデイゴの歴史は遡るのかもしれません。この点も研究が不足しています。
花の構造は?
デイゴは花期は日本では3~5月。花はマメ科にみられる蝶形花が逆さになり旗弁(蝶形花のうち上に一枚だけある幅が広い花びら)が下に広がった形で、雄しべと雌しべが葯を除いて赤色で明らかに伸長して、上から横向きに伸びています。
カイコウズは花期は日本では6~9月。花は蝶形花が逆さになり旗弁が下に広がった形で、雄しべと雌しべが葯を除いて白色で明らかに短く、下向きについています。
サンゴシトウは花期は日本では6~9月。旗弁が閉じて、細い形状になっています。
花の色とマメ科としての基本構造こそ同じですが、実際の形は三者三様となっています。この差はなぜ生まれているのでしょうか?
これはそれぞれの種類がその環境で花に訪れる動物に合わせて進化した結果だと考えられています。
鳥・コウモリ・ミツバチのためにデイゴの花は咲き?
デイゴの花にはどのような動物が訪れるのでしょうか?
原産地であるインドの研究では9種の鳥類が吸蜜を行っていたことが確認されています(Rangaiah et al., 2004)。
赤色は色覚の関係から昆虫では見える種類が限られており、鳥類は強く惹きつけられることがわかっているので、花の色は鳥の色覚に合わせて進化したものだと考えられます。
また朝に開花し、日中にのみ花蜜を分泌することも分かっています。これらの事実から基本的に昼行性の様々な種類の鳥類によって花粉媒介される鳥媒花であると考えることが出来ます。
他にも水平な花序を持つことや、蜜や雄しべが見えやすい単純な花筒であることは特殊化しておらず、短めの嘴を持った鳥にもやってきやすくするための工夫です。
デイゴのようにスズメ目の仲間(いわゆる小鳥の仲間が多く含まれます)によって送粉する種類は旧世界のデイゴ属では一般的ではあるものの(Bruneau, 1997)、マメ科の中では珍しいことと言えます。
しかし沖縄県での研究ではまた別のことが分かっています(中本・伊澤,2013)。
開花した花の約60%はメジロ Zosterops japonicas に代表される日中の訪花者によって蜜が枯渇させられた一方、残りの40%のうち、30%の花でクビワオオコウモリ Pteropus dasymallus の夜間の訪花によって枯渇させられていたのです。
また、外来種のセイヨウミツバチやシロガシラも花に訪れることが確認されました。
これらの事実はデイゴの柔軟性を示していると言えるでしょう。本来原産地では一部の鳥だけによって受粉を行っていたはずなのに、その導入先の動物に合わせて様々な種類を呼び寄せるポテンシャルがあったのです。
沖縄のデイゴが植栽であるならば新たな送粉関係を構築する高い適応力があると言えそうです。
サンゴシトウの祖先種は新世界でハチドリに適応した!?
サンゴシトウでは旗弁が閉じて、細い形状になっています。これは元々はカイコウズのように蝶形花が逆さになり旗弁が下に広がった形だったのが変化した結果です。なぜこのような形になっているのでしょうか?
この旗弁が閉じて細い形状は親のヘルバケアに由来したものです。実は元々ヘルバケアはノドアカハチドリという鳥によって花粉が運ばれていたのです(Bruneau, 1997)。
ハチドリは細長い嘴と舌をしており、この形に適応したものと考えられます。
更にハチドリがホバリングしている時に吸いやすいようにするため、花序は長い茎の上にあって、葉に保持され、地平に対して垂直に立っています。蜜を好むハチドリのために糖分も増えていると考えられています。
ヘルバケアの祖先は北アメリカに分布を拡大しましたが、ここはユーラシア大陸に分布していない花粉を運ぶのにより効率的なハチドリがいました。
そのため、ハチドリの受粉に適応するため、花の形や花を支える形状が変化し、ハチドリ専門に進化したのです。しかも、この変化はヘルバケアの祖先の他にも別々の地点で同じような進化が起きたので、今回は紹介していませんが、別々の地点で似た花を持つ種類が観察できるようになりました。
このような背景を持って南米、北米、オーストラリアを経た園芸種であるサンゴシトウは赤色の花や園芸に適した性質が評価されて世界各地で栽培されています。ハチドリの居ない中、日本で栽培されているというのは、ドラマを感じさせますね。
カイコウズは新世界でも形が変わらなかった!?
最後にカイコウズの花について考えています。
カイコウズは南アメリカ原産です。ハチドリは分布しているにも関わらずどちらかというと花の形はデイゴに似てきます。これはなぜなのでしょうか?
これは完全な理由は分かりませんが、生息地にハチドリが少なかったためなど何らかの理由でハチドリだけでなく、デイゴのようにスズメ目の小鳥にも依存したままになったのだと考えられます。
実際にスズメ目の小鳥がやってくることが研究で明らかになっています(Bruneau, 1997)。それだけではなくアンナハチドリ Calypte anna などのハチドリもやってきていることも分かっています。つまりどちらかに特化するのではなく両対応できる中間的な花の形態をしているのだと考えられるかもしれません。
デイゴとは雄しべ、雌しべ、蝶形花の竜骨弁の形が違いますが、このことはこういったことを反映した結果のように思えるかもしれません。
しかし、アルゼンチンとウルグアイで行われた別の研究ではまた別の結果が出ています。確かに4種のハチドリが花に訪れて受粉していたものの、クマバチ類・スズメバチ類・セイヨウミツバチを含むハナバチ類も訪れていたのです(Galetto et al., 2000)。
セイヨウミツバチは本来アメリカ大陸には分布しませんのであまり参考にならないですが、ハチ目が訪れていたことは興味深いでしょう。
カイコウズはデイゴ属の中では原始的だと考えられています。研究者らは元々デイゴ属の祖先は虫媒で、カイコウズは虫媒と鳥媒を兼用する中間段階にあるのではないかと考察しています。
もしかしたら花の形の違いはこのこと関連しているのかもしれません。
果実は豆果で種子散布は海流散布か水流散布?
デイゴ属は全て豆果で莢の中に種子(豆)が入っています。カイコウズでは長さ10~15cm、幅1~2cm、褐色、種子が8~10個入り、種子は栗褐色です。
デイゴとカイコウズの種子散布については詳しく分かっていませんが、デイゴについては浮力のある種子を持つため、海流散布か水流散布を行うと考えられています(Duenas-Lopez, 2022)。実際ハワイでは種子が海岸や潮流に沿って観察されるようですが、ハワイ内で分散は完結しているようであり、あまり遠くへの移動はできないとされています。
引用文献
Bruneau, A. 1997. Evolution and homology of bird pollination syndromes in Erythrina (Leguminosae). American Journal of Botany 84(1): 54-71. ISSN: 0002-9122, https://doi.org/10.2307/2445883
Duenas-Lopez, M. 2022. CABI Compendium: Erythrina variegata (Indian coral tree). https://doi.org/10.1079/cabicompendium.22055
Galetto, L., Bernardello, G., Isele, I. C., Vesprini, J., Speroni, G., & Berduc, A. 2000. Reproductive biology of Erythrina crista-galli (Fabaceae). Annals of the Missouri Botanical Garden 87(2): 127-145. https://doi.org/10.2307/2666157
林将之. 2014. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類. 山と溪谷社, 東京. 759pp. ISBN: 9784635070324
茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花 2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041
中本敦・伊澤雅子. 2013. 沖縄島に植栽されているデイゴの訪花者群集とその日周変化. 保全生態学研究 18(2): 111-119. https://doi.org/10.18960/hozen.18.2_111
Rangaiah, K., Raju, A. S., & Rao, S. P. 2004. Passerine bird-pollination in the Indian coral tree, Erythrina variegata var. orientalis (Fabaceae). Current Science 87(6): 736-739. https://www.jstor.org/stable/24109348
齋藤さやか・中村真也・木村匠・関谷直也. 2019. 沖縄県における台風に関する災害文化 ―鹿児島県・東京都との比較から. 地域安全学会論文集 35: 295-304. https://doi.org/10.11314/jisss.35.295
土橋豊. 2013. 日本で見られる熱帯の花ハンドブック. 文一総合出版, 東京. 176pp. ISBN: 9784829981139
Wu, Z. Y., Raven, P. H., & Hong, D. Y. eds. 2010. Flora of China. Vol. 10 (Fabaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723917
出典元
本記事は以下書籍に収録されてたものを大幅に加筆したものです。