バショウ科 Musaceae は偽茎を形成し、基底鞘が重なり合った葉を持つ木本のように見える多年草。アフリカとアジアの熱帯地方に自生しています。ムセラ属 Musella、バショウ属 Musa、エンセーテ属 Enseteの3つの属を含みます。観葉植物として栽培されることがあります。
本記事ではバショウ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
No.0640 ヒメバショウ Musa coccinea
常緑多年草。葉身は1.8〜2.2m×70〜80cmの長楕円形で、基部は丸く、顕著な非対称性があります。花期は9〜11月。花序は直立し、花序は光沢があります。総苞片は内面がピンク色、外面が緋色で目立つシワがあります。花は1個の苞に6個つき、1列に並びます。雌花の花弁は黄色で、複合花被片(compound tepal)の外側の裂片は角があり、離生花被片(free tepal)は複合花被片に等しく、先端は鋭く、細かく歯があります。果実は果柄に斜めにつき、灰白色でまっすぐ、10~12×約4cm。茎は3〜3.5cm。種子は多数あります。2n=20。中国(広東省・広西チワン族自治区・雲南省西部)、ベトナムに分布し、渓谷や斜面に生息します(Flora of China)。日本を含む各国で温室や露地で観賞用に栽培されます。九州南部では露地で越冬します。
No.0641.a マレーヤマバショウ Musa acuminata
常緑多年草。別名バナナ。偽茎(幹に見える部分)は、完全にあるいは部分的に埋もれた球茎から生じた葉鞘が、緊密に折り重なった層で出来ています。花序はこの幹から水平あるいは斜めに成長します。個々の花は白色から黄味がかった白色で、負の屈地性を示します。雄花と雌花は、両方が単一の花序中にあります。雌花は根本側にあり、果実へと成長します。雄花は先端側の革質の苞の間にある。果実は細く、漿果にあたり、個々の大きさは含まれる種子の数によります。それぞれの果実は15~62個の種子を含みます。それぞれの果房には、平均して161.76±60.62個の果実があり、個々の果実の大きさはおよそ2.4×9cm。野生のものでは、種子は直径およそ5~6mm。種子の形は亜球形あるいは角があり、非常に硬い。胚は非常に小さく、胚珠の先端に位置します。個々の種子は、マレーヤマバショウの可食部にあたるデンプン質の柔組織に包まれます。典型的なものでは、可食部の厚みは種子の大きさのおよそ4倍。本種の野生のものは2n=2x=22の染色体を持つ2倍体であるのに対し、栽培品種はほぼ3倍体(2n=3x=33)で単為結果性であり、可食部が増加した種子のない果実を付けます。こうした有用な栽培品種は、栄養繁殖から得られた自然突然変異を通して形成されました。マレシア植物区系区およびインドシナ半島に分布し、熱帯気候を好みます。果実は野生化ではコウモリ、鳥、リス、ツパイ、ジャコウネコ、ネズミ、ネズミ、サル、類人猿によって食べられ(Marod et al., 2010)、特にコバナフルーツコウモリ Cynopterus sphinx によって種子散布されることはよく分かっています(Tang et al., 2007)。なお、よく連想されるゴリラ・チンパンジーはアフリカにしか生息していないので野生下で食べることはありません。栽培化が行われたのはオーストロネシア人によって7000年前のニューギニアとワラセアで行われたと考えられており、元々は繊維用、建築材料用、または雄芽の食用が目的でしたが、果実を食用するようになり単為結実と種子不稔が進みました。食用バナナはリュウキュウバショウ Musa balbisiana が一部交雑していることもあります。オーストロネシア人が太平洋の島々に移住する過程で広がっていき、インドにも伝わりました。アフリカではマレー系民族の移住したマダガスカルやアフリカ大陸東岸から伝わり、気候が適合していたこともあり、多くの地域でイモノキ(キャッサバ)が伝来するまでは主食となりました。19世紀後半にはアメリカ合衆国のユナイテッド・フルーツ、ドール、デルモンテのような資本が中南米でプランテーション農業を開始し、大量生産が可能になりましたが、「バナナ共和国」と呼ばれるような海外資本に依存した国家を生み出す原因にもなりました。日本の輸入バナナは台湾バナナが主流でしたが、現在では品質や輸送効率の関係から約80%はフィリピン産です。
以下個体は植物園のものであり、純粋な原種であるかは不明です。
No.0641.b サンジャクミバショウ Musa acuminata (AAA Group) ‘Dwarf Cavendish’
稔性種子を作らない3倍体のグループ(AAA)のうち、「キャベンディッシュ」品種群のうちの、丈が小さい品種。丈が小さいため強風に強く栽培に適しています。品種名は第6代デボンシャー公ウィリアム・キャベンディッシュに因み、1834年頃、ウィリアム・キャベンディッシュはインド洋のモーリシャスからバナナを受取り、庭師のジョセフ・パクストンがチャッツワース・ハウスの温室で栽培したものが太平洋に輸出されました。1903年には既にキャベンディッシュの商業生産が開始されていますが、当時の主要な品種だった「グロス・ミチェル」が1950年代にパナマ病(パナマ病菌 Fusarium oxysporum f. sp. cubense によって引き起こされる萎凋病)で荒廃したことにより、キャベンディッシュが主役の座を奪いました。現代日本で流通する多くが「キャベンディッシュ」であると広く知られていますが、「キャベンディッシュ」は品種群の呼称であり、具体的にどの品種であるかについての記述は日本語では皆無です。英語文献では世界で最も広く流通している品種が「ドーワフ・キャベンディッシュ」とされているので(Ploetz et al., 2007)、日本でも同様と考えてよいと思われますが、極一部のサイトに「ジャイアント・キャベンディッシュ」 ‘Giant Cavendish’ であるとする記述もあります。これら樹形によって区別されるのでおそらく果実での判別は不可能です。
No.0641.c アカマレーヤマバショウ Musa acuminata (AAA Group) ‘Red Dacca’
アカマレーヤマバショウ(筆者仮称)は一般名アカバナナ。’Morado’や’Red’など様々な表記がありますが(Ploetz et al., 2007)、『英語版Wikipedia』に従います。稔性種子を作らない3倍体のグループ(AAA)のうち、果実が赤い品種。果実が小さい傾向があり、皮がやや厚く、果肉は黄白色でクリーミー、甘みが強く芳香があります。キャベンディッシュよりもベータカロテンとビタミンCを多く含むとされますが、供給量が少なく高価な傾向にあります。東アフリカ、アジア、南アメリカ、アラブ首長国連邦で生産されます。
No.0642.a チュウキンレン Musella lasiocarpa
多年草。高さ90~150(~180)cm、根茎は水平。偽茎は長さ60cm以下、基部で直径約15cm、基部に葉鞘が宿存します。葉はバナナの葉に似て、パドルのようであり、全長は30~60cm。葉身は革質、粉白色を帯び、狭楕円形、灰緑色、左右対称、長さ50cm×幅20cm以下、基部は類円形、先は鋭形。花期は5~9月。花序は円錐形、偽茎の先に直立し、初めはハスの花にも似て、長さ20~25cm。花は各苞に8~10個。複合花被片は卵状長楕円形。液果は長さ3(~5)cm×幅2cm、味がありません。種子は褐色~黒褐色、へそは白色で大きい。2n = 18(Flora of China)。和名は中国名「地湧金蓮」からで地面から金色のハスの花が湧き出したように見えることから名付けられたとされます。中国原産で、斜面に自生するか、日本・中国など各国で観賞用に庭で栽培されます。薬用でもあり、豚の飼料にも使用されます(Flora of China)。
引用文献
Marod, D., Pinyo, P., Duengkae, P., & Hiroshi, T. 2010. The role of wild banana (Musa acuminata Colla) on wildlife diversity in mixed deciduous forest, Kanchanaburi Province, Western Thailand. Agriculture and Natural Resources 44(1): 35-43. https://li01.tci-thaijo.org/index.php/anres/article/view/244878
Ploetz, R. C., Kepler, A. K., Daniells, J., & Nelson, S. C. 2007. Banana and plantain—an overview with emphasis on Pacific island cultivars. Species Profiles for Pacific Island Agroforestry 1: 21-32. http://www.bananenzeug.ch/wp-content/uploads/2018/06/banana-plantain-overview.pdf
Tang, Z., Sheng, L., Ma, X., Cao, M., Parsons, S., Ma, J., & Zhang, S. 2007. Temporal and spatial patterns of seed dispersal of Musa acuminata by Cynopterus sphinx. Acta Chiropterologica 9(1): 229-235. https://doi.org/10.3161/150811007781694471