【種子植物図鑑 #004】マオウ科の種類は?写真一覧

種子植物図鑑
Ephedra distachya

マオウ科 Ephedraceae は一般に低木、時にはつる性植物、稀に小高木。マオウ属のみを含みます。北アメリカ南西部、ヨーロッパ南部、アフリカ北部、アジア南西部・中央部、中国北部、南アメリカ西部に分布し、乾燥地帯に広く生息します。温帯地方では、海岸や砂地の直射日光の当たる場所に生育するものが多いです。中国名は麻黄。エフェドラは、覚せい剤のエフェドリンの名前の由来であり、この植物にはかなりの濃度でエフェドリンが含まれています。頻繁に根茎を使用することによって広がります。茎は緑色で光合成を行います。葉は対生または渦巻き状です。鱗片状の葉は基部で融合して鞘となり、展開後すぐに脱落することが多いです。樹脂管はありません。ほとんどが雌雄異株で、雄胞子葉穂は花粉は1〜10個の渦巻き状で、それぞれが一連の十字形の苞葉からなります。花粉には溝があります。雌胞子葉穂は総苞片が1個の子房の周囲で融合し、渦を巻きます。肉厚の苞は白色(Ephedra frustillata など)または赤色です。1つの子房に1~2個の黄色~黒褐色の種子があるのが一般的です。マオウ科で最も古いものは1億2500万年前の白亜紀初期に生息しており、アルゼンチン、中国、ポルトガル、アメリカのアプティアン階・アルビアン階から記録が知られています。花粉以外の化石記録は白亜紀初期以降消滅しています。分子時計による推定では、白亜紀初期には存在しません。分子時計による推定では、現生種の最後の共通祖先はもっと最近、約3000万年前の新生代古第三紀漸新世初期に生きていたとされています。しかし、花粉の進化の状態から白亜紀後期にはこの共通祖先が存在したという考えもあります。

本記事ではマオウ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。

写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。

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No.0003 シナマオウ Ephedra sinica

草本状の常緑小低木。雌雄異株。草質状の常緑小低木。樹高30~70cm。根茎は木質で厚く屈曲する。茎は細長く分枝してやや扁平で多節。葉は細かい鱗片状で節に対生し、基部は合体し、苞茎して鞘状になります。花は5月頃に咲き、枝先か梢端に小型の花序を付け、雌花は単生し、熟すと紅色肉質になり、堅果は黒褐色で長卵形。雄花は小さな穂状につけ、偽果は肉質で夏に紅熟します。薬用には緑色を帯びた地上茎を用います。中国東北部、モンゴルに分布し、原野、砂地などの乾燥地に生育します。葉を膜質鞘状の小さな鱗片に変化させているのは葉からの水分の蒸散を抑制するためで、茎は葉に代わって光合成を行うようになり、乾燥した地域で生育するのに適応しています。乾燥地帯に生育することから無計画な採集による緑地の減少と砂漠化も深刻な問題になりつつあり、中国政府は内陸部の砂漠化を防ぐために、本種の輸出にも規制措置をとるようになっています。生薬名をマオウ(麻黄)といい漢方処方では、鎮咳薬、去痰薬として知られる葛根湯や麻黄湯などに配剤されています。含有成分はエフェドリンというアルカロイドで長井長義によって1885年により単離されました(齋藤,2012;船山,2013)。長井長義が抽出に用いた「麻黄」が本種シナマオウであるかは不明ですが、長井氏は「支那ヨリ輸入シ本邦漢薬店ニ鬻グ麻黄ヲ取リ」と記述していることから(齋藤,2012)、一旦本種の項目として扱います。エフェドリン及びその誘導体は神経伝達物質であるアドレナリン・ノルアドレナリンに類似構造がある上に本来物質の脳への侵入を防止する血液脳関門を用意に通過することで脳に侵入し中枢神経系に作用します。現代医学では喘息治療薬、鎮咳薬、気管支拡張薬として繁用される重要な医薬品です。一方で、娯楽的使用やドーピング目的での悪用もされます(齋藤,2012)。後にエフェドリンの誘導体としてメタンフェタミン・アンフェタミンが化学合成され、こちらも元々は薬用でしたが、シナプス前細胞の細胞質におけるドーパミン濃度を上昇させることで神経終末からドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンなどを遊離させ中枢神経系を興奮状態にする作用があるため覚醒剤になることが分かっています(齋藤,2012)。第二次世界大戦中のナチス・ドイツによって神経中枢を興奮させる作用が注目され国家ぐるみで推奨され、ヒトラーも用いていたとされます(Ohler, 2015=2018)。日独伊三国同盟を結んでいた大日本帝国でも1941年にメタンフェタミンはヒロポン、アンフェタミンはゼトリンとして販売され、特にヒロポンは有名で名前はギリシア語由来ですが、「疲労をポンととる」などと言われ、日本軍で薬のような扱いで使用されていました(立津ら,1956)。特攻隊が服用してたことでも有名です。戦後も中毒者が多く漫画『はだしのゲン』ではヒロポン中毒になってしまったムスビが象徴的です。1948年に薬事法における劇薬に指定され、1950年に生産中止勧告。1951年に覚醒剤取締法が制定・施行され医療用と研究用に制限されました。しかし、中毒性が高く現代でもシャブ、スピードなどと呼ばれ流通し、社会問題となっています。

シナマオウの樹形
シナマオウの樹形

No.0003.a フタマタマオウ Ephedra distachya subsp. distachya

常緑低木。本種では茎が二股に分かれています。樹高は50cm前後程度。茎には節があり、葉は退化した鱗片葉であり、その節から対生します。雌雄異株。花は黄色い小花です。花期は春。ユーラシア大陸中央部(subsp. distachya は中央・南ヨーロッパ・南西・中央アジア、subsp. helvetica はスイス・フランス・イタリア・スロベニア・オーストリア)の砂漠地から半砂漠地に自生します。急性筋肉痛やリウマチ痛の緩和(チームスターズ・ティーと呼ばれる)、興奮剤、アーユルヴェーダの強心剤に使用されています。ゾロアスター教やヒンドゥー教の聖典『アヴェスタ』や『リグ・ヴェーダ』に記載されている伝説の薬物「ソーマ」と同一視されることもあります。アルカロイドの一種であるエフェドリンを含みます。

フタマタマオウの樹形
フタマタマオウの樹形

引用文献

船山信次. 2013. 毒の科学 毒と人間のかかわり 毒はどのように利用され解明されてきたのか、文化的・歴史的にアプローチする. ナツメ社, 東京. 239pp. ISBN: 9784816354090

Ohler, N. 2015. Der totale Rausch: Drogen im Dritten Reich. KiWi-Taschenbuch, 368pp. ISBN: 9783462050356 [=2018. ヒトラーとドラッグ 第三帝国における薬物依存. 白水社, 310pp. ISBN: 9784560096512]

齋藤繁. 2012. エフェドリンの歴史 ―歴史遺産と現代社会への影響―. 日本醫史學雜誌 58(3): 321-329. http://jsmh.umin.jp/journal/58-3/58-3_321-329.pdf

立津政順・後藤彰夫・藤原豪. 1956. 覚醒剤中毒. 医学書院, 東京. 311pp. https://www.doi.org/10.11501/1375804

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