【種子植物図鑑 #142】ユキノシタ科にはどんな種類がいる?写真一覧

種子植物図鑑
Saxifraga stolonifera

ユキノシタ科 Saxifragaceae は草本。葉は互生または対生、単葉または複葉。夏緑性が多いが常緑のものもあります。托葉はあるものもないものもあります。花序は集散状、ときに総状や円錐状。花は両性または雌性両全性異株や雌雄異株、放射相称または左右相称で、5数性、稀に4数性。萼片は4~5個で、花弁は同数またはありません。雄しべは萼片と同数、または2倍。仮雄しべはありません。心皮および花柱はふつう2個、稀に3個。子房の基部は1室の側膜胎座または2室の中軸胎座となります。果実は蒴果。種子は小さく、多数で、胚乳があります。ユキノシタ科は属内の種は似ていても、属間では似ていない場合が多い。APG体系で大きく再編された科で、旧ユキノシタ科の草本のうち、タコノアシ属 Penthorum は独立したタコノアシ科 Penthoraceae に、ウメバチソウ属 Parnassia はニシキギ科 Celastraceae となりました。世界では北半球の北アメリカ、東アジア、ヒマラヤ地域に多く、南アメリカにも分布します。APG体系で33属640種が知られ、日本には10属約60種があります。本科の訪花昆虫は主にハエ類、特にオドリバエ科とハナアブ科の仲間ですが、ミツバチや孤独性ハナバチ、マルハナバチ、チョウ、アリ、甲虫などもいるとされます(Konarska, 2014)。日本での訪花昆虫の研究として田中(1983)がありますが筆者はまだ未見です。

本記事ではユキノシタ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。

基本情報は神奈川県植物誌調査会(2018)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。

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No.1371 ユキノシタ Saxifraga stolonifera

多年草。糸状の赤く長い走出枝を四方へ伸ばし、先に新芽をつけて増えます。葉や茎には赤褐色の粗い毛があります。花期は5~6月。円錐状の集散花序を直立させ、花茎は高さ20~50cmになります。花は白色の5花弁からなります。5枚の花弁のうち、上側の3個は卵形で長さ約3mm、淡紅色を帯び、濃紅色の斑紋と基部に濃黄色の斑点があります。下側の花弁2個に斑はなく、長さ1~2cmになります。濃黄色の花盤があります。本州、四国、九州;中国に分布。人里付近の日陰、水辺の石垣や岩上などに群生します。有用植物であり、古くから栽培もされます。非対称な花は、ピンク色の葯と、花弁に濃黄色と濃紅色のフラボノイド色素が多様に分布することが特徴で、花弁には受粉昆虫に蜜への道を示す、いわゆるネクターガイドと呼ばれる対照的な斑点を形成しています(Konarska, 2014)。雄しべははじめ花びらとほぼ平行に並んでいます(田中・平野,2000)。しかし成熟し雄性期になると、立ちあがり、前方に移動して花粉を出します。決まった順番で次々に移動して花粉を出していき、花粉を出し終わると、雌性期に移り、雌しべが伸びだします。田中・平野(2000)にはホソヒメヒラタアブが訪れる写真があり、ハナアブ科やハナバチ類が訪れるとされます。

ユキノシタの葉
ユキノシタの葉
ユキノシタの花
ユキノシタの花

No.1372 ハルユキノシタ Saxifraga nipponica

多年草。葉は円形、基部は心形、葉縁は浅く13~17個に裂け、葉柄や葉の両面は白色の腺毛におおわれます。花茎は高さ20~30cm、花期は4~5月。花弁は白く、上側の3花弁は卵形で基部に黄色い斑点があり、下側2花弁に斑はなく、長さ1~2.5cmで先は鋭形になります。濃黄色の花盤があります。本州(関東地方、中部地方、近畿地方)に分布。低地帯~山地帯下部の沢沿いのやや湿った岩上に生育し、ときに群生します。大山の不動尻が日本における分布の東端にあたります。本種は丹沢から飛び離れた北陸地方に分布し、内陸には分布を欠く不連続分布の種で、丹沢のものは日本海側のものより小型です。

ハルユキノシタの葉
ハルユキノシタの葉

No.1373.1 イズノシマダイモンジソウ Saxifraga fortunei var. jotanii

多年草。葉は浅く裂け、質厚く、葉身や葉柄に毛が多く、花期は10~1月。花柄や花茎に長腺毛があります。千葉県、伊豆諸島のみに分布します。神奈川県では古く逗子で採集された標本がありますが、その後の調査では確認されておらず、『神RDB06』では絶滅と判定されています。

イズノシマダイモンジソウの葉序
イズノシマダイモンジソウの葉序
イズノシマダイモンジソウの葉
イズノシマダイモンジソウの葉

No.1373.2 ヤクシマダイモンジソウ Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima

ウチワダイモンジソウ Saxifraga fortunei var. obtusocuneata の矮小型の品種。葉の長さ、4~15mm、幅5~16mmとごく小さい。花期は8~10月。九州(屋久島)に分布する日本固有種で、高地の湿った岩上に生えます。

ヤクシマダイモンジソウの葉
ヤクシマダイモンジソウの葉
ヤクシマダイモンジソウの未熟果
ヤクシマダイモンジソウの未熟果

No.1374 ジンジソウ Saxifraga cortusifolia

多年草。葉は7~10裂し、やや掌状になります。葉肉中に針状のシュウ酸塩結晶があります。花期は9~11月。花弁の特徴はハルユキノシタに似て、上側3花弁に黄色の斑点があり、下側2花弁に斑はなく長い。葯の色は橙黄色。黄色の花盤があります。本州(関東以西)、四国、九州に分布。山地の岩壁に生えます。

No.1374.1 ムラサキジンジソウ Saxifraga cortusifolia f. atropurpurea

葉が濃い紫色を帯びるジンジソウの品種。

ムラサキジンジソウの葉
ムラサキジンジソウの葉
ムラサキジンジソウの花
ムラサキジンジソウの花

No.1375 センダイソウ Saxifraga sendaica

多年草(福岡県レッドデータブック2014)。茎は高さ5~15cmで、上部に数枚の葉をつけています。葉は厚くて光沢があり、葉身は卵形~卵円形で長さは12cmに達し、縁には浅い切れ込みがあります。葉柄は長く、基部には托葉があります。花期は10月、散房状の花序で、径7~10cm、花弁は白色で5個、そのうち下側の1~2個がほかより長い。本州(奈良、和歌山)、四国(徳島)、九州(長崎、熊本、宮崎)に分布し、深山の岩場の壁面に生えます。環境省RL絶滅危惧Ⅱ類。

センダイソウの葉
センダイソウの葉
センダイソウの花
センダイソウの花

No.1390 ヤマネコノメソウ Chrysosplenium japonicum

多年草。走出枝はありません。茎の基部で花後にむかごができます。根出葉は円く、縁辺は偏平な鋸歯が7~11個あります。有花茎は高さ10~20cmで、淡黄緑色。茎葉は互生し、長い柄のある円い葉をつけます。花期は3~4月、萼裂片は緑色で開出し、半円形で、花後直立します。雄しべは4~8個。葯は黄色。種子は卵形、長さ0.6~0.7mm、1稜があり、表面は肉眼では平滑に見えますが、顕微鏡で拡大してみると微細な乳頭状突起が見えます。北海道(西南部)、本州、四国、九州;朝鮮、中国(東北)に分布し、低地帯~山地帯下部の湿った樹林内、林縁、水田の畦などに群生します。

ヤマネコノメソウの外観
ヤマネコノメソウの外観

No.1392.a ツボサンゴ Heuchera sanguinea

多年草(Flora of North Ameica)。無茎、てい幹は分枝します。花茎は長さ20~40cm、短いときに長い柄のある腺があります。葉柄は長い柄のある腺があります。葉身は腎形~円形、5~7浅裂し、長さ2~5.5cm、基部は心形、裂片は円く、縁には歯があり、先は鋭形~鈍形、下面には脈上に長い柄のある腺があり、上面は無毛またはまばらに長い柄のある腺があります。花期は3~10月。花序は適度に密から拡散。花托筒は弱く左右相称~放射相称、2.5~2.8mmが分離、暗ピンク色~赤色、広鐘形またはつぼ形、長さ4~8mm、下部に短い柄のある腺があり、上部にまばらに長い柄のある腺があります。萼片は開出し、先端が暗赤色、等長、長さ2~3mm、先は長円形または円形。花弁は開出し、ピンク色またはクリーム色、狭倒披針形、分裂せず、長さ1.2~1.8mm(萼片より短い)、縁は全縁。雄しべは突き出ず、長さ1.5~3mm。花柱は突き出ず、長さ1.5~3mm、1.5~2mm、直径0.1mm。蒴果は卵形、長さ4.5~6mm、嘴は散開し、パピラはありません。種子は暗褐色、楕円形、長さ0.5~0.6mm、鈍い刺があります。北アメリカ南西部とメキシコのチワワ州北部に分布し、湿った日陰のある岩に生えます。日本を含む各国で観賞用に栽培されます。

ツボサンゴの葉
ツボサンゴの葉
ツボサンゴの花
ツボサンゴの花

No.1392.b ミクランサヒューケラ(パレス・パープル) Heuchera micrantha ‘Palace Purple’

学名通り読めばヒューケラ・ミクランサ。多年草(Flora of North Ameica)。無茎、てい幹は分枝します。花茎は長さ6~570cm、短~長の柄のある腺があるかまたは無毛、粘ります。葉柄は無毛またはまばら~密に短~長の柄のある腺があります。葉身は円形~多角形、5~7(~9)浅裂~深裂し、長さ2.5~10cm、基部は心形、裂片は円く、縁には歯があり、先は円形~鈍形、面は無毛または短~長の柄のある腺があり、粘ります。花序は拡散。花托筒は放射相称、分離部分は1.5mm以下、緑白色、しばしば赤色を帯び、倒円錐形~半球形~広こま形~鐘形、長さ1~4.9mm、長い柄のある腺があり、ときに下部に短い柄のある腺があります。萼片は開出~直立に近くなり、先端が緑色または赤色、等長、長さ0.5~1.8mm、先は円形~鋭形~微突形。花弁はしばしばコイル状に巻き、白色または淡ピンク色、倒披針形(爪部は狭い)、分裂せず、長さ1.6~3.3mm(萼片の長さの2~3倍)、縁は全縁。雄しべは突き出し、長さ3mm以下。花柱は突き出し、長さ2mm以下、0.2~4.2mm、直径0.1mm以下。蒴果は卵形、長さ3~8.5mm、嘴は散開し、パピラはありません。種子は黒色、広楕円形(曲がらず)、長さ0.5~0.8mm。5変種があります。日本ではツボサンゴと混同される事が多いですが、ツボサンゴでは萼が赤く雄しべ雌しべが花弁より短いのに対して、本種では乳白色で、雄しべ雌しべは花弁を突き出ています。葉裂片は丸みを帯びていることから Heuchera villosa と区別できます。パレス・パープル ‘Palace Purple’ は葉が紫色の園芸品種です。北アメリカに分布し、石灰岩または蛇紋石由来の土壌にある混合常緑樹林に生える変種が多いです。日本を含む各国で観賞用に栽培されます。

ミクランサヒューケラ(パレス・パープル)の葉
ミクランサヒューケラ(パレス・パープル)の葉
ミクランサヒューケラ(パレス・パープル)の花
ミクランサヒューケラ(パレス・パープル)の花

引用文献

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

Konarska, A. 2014. Micromorphology and anatomy of flowers and nectaries of Saxifraga stolonifera L. Acta Agrobotanica 67(4): 3-12. ISSN: 0065-0951, http://dx.doi.org/10.5586/aa.2014.054

田中肇・平野隆久. 2000. 花の顔 実を結ぶための知恵. 山と渓谷社, 東京. 191pp. ISBN: 9784635063043

田中忠次. 1983. ユキノシタ科植物の訪花昆虫. 富山県生物学会会誌 23: 13-29.

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