【種子植物図鑑 #085】ワスレグサ科の種類は?写真一覧

種子植物図鑑
Hemerocallis fulva var. longituba

ワスレグサ科 Asphodelaceae は別名ツルボラン科。葉が線形で、葉の束の間から花茎が立ち上がることが特徴。Asphodeloideae(ツルボラン属 Asphodelus 、シャグマユリ属 Kniphofia やアロエ属 Aloe など約15属)、Xanthorrhoeoideae(オーストラリアのススキノキ属 Xanthorrhoea のみ)、Hemerocallidoideae(キキョウラン属 Dianella 、マオラン属 Phormium やワスレグサ属など、南半球を中心に東アジアとヨーロッパに約20属)の3亜科約35属からなります。日本には、キキョウラン属のキキョウラン D. ensifolia (本州の紀伊半島、四国、九州、琉球、小笠原)とワスレグサ属 Hemerocallis が自生します。APG Ⅲ体系では科名に Xanthorrhoeaceae を用いていましたが、APG Ⅳ体系では Asphodelaceae が用いられています。科名の日本語については、旧Xanthorrhoeaceae はススキノキ科、旧Asphodelaceae はツルボラン科と呼ばれていましたが、ススキノキ属やツルボラン属は日本に自生がなく、なじみの薄い分類群のため、APGⅢ体系以降は日本語では“ワスレグサ科”が提唱されています。

本記事ではワスレグサ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。

基本情報は塚本(1994)、神奈川県植物誌調査会(2018)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。

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No.0519 マオラン Phormium tenax

常緑多年草。別名ニューサイラン(入才蘭、ニュー西蘭)、ニュージーランドアサ。黄色い縦縞が入った葉は細長く先端が尖っていて光沢があり、2mに達します。葉は塊として成長し、その中から花茎が伸び、鮮やかな赤や黄色の花をつけます。ニュージーランドとオーストラリアのノーフォーク島に分布する固有種。太平洋のいくつかの島やオーストラリアでは外来種となっています。低地から川岸、低山地の湿地帯などで見られます。マオリ人がニュージーランドに到達してから、その繊維はマオリの伝統的織物に広く用いられていました。また、ヨーロッパ人の到達後、少なくとも第二次世界大戦前まではロープや帆の材料として用いられていました。

マオランの外観
マオランの外観

No.0520 ノカンゾウ Hemerocallis fulva var. longituba

多年草。葉は細く、緑色。花は7~8月。花茎は高さ50~70cm。6弁花です。ふつう橙赤色で、稀に赤い模様が入らないものもあります。葉は冬に枯れます。葉が細く、花序が2分岐して花茎が細く、花筒が長い点が典型的な特徴ですが、ハマカンゾウと識別し難い個体もあります。花期後に花は子房とともに落下してしまい、結実することは少ないです。本州、四国、九州に分布し、川の土手、田の畦、林縁の草地などに生えます。

ノカンゾウの赤褐色花
ノカンゾウの赤褐色花
ノカンゾウの橙赤色花
ノカンゾウの橙赤色花

No.0521 ヤブカンゾウ Hemerocallis fulva var. kwanso

多年草。葉は幅広く、黄緑色でよく茂ります。花は7~8月、県内での花期は6月末~7月。花茎は高さ50~100cm。橙赤色、重弁花(八重咲き)で雄しべが弁化します。3倍体のため結実しません。北海道、本州、四国、九州;中国に分布します。川の土手、田の畦、庭先に生えます。ヒガンバナなどと同様に古い時代に中国から日本に渡来した史前帰化植物といわれていますが、中国には野生はなく(栽培はされる)、原産地の由来は明らかになっていません。

ヤブカンゾウの花
ヤブカンゾウの花

No.0524 ユウスゲ Hemerocallis citrina var. vespertina

多年草。和名は花が夕方に開き翌日の午前中にしぼみ、葉がスゲに似ていることから。茎の高さは100-150cm。根は黄色いひも状で塊になりません。根生葉は線形で、長さ40-50cm、幅5-15cm、2列に出て扇状に開き上部だけわずかに下垂します。1本の茎の先端が花序が枝分かれして、レモン色のラッパ状の花を上向きに次々と咲かせます。ハマカンゾウと異なり花ではアントシアニンは合成されず、花弁は赤味を帯びません。花弁は6つに深く裂け、やや芳香があります。花被片の長さや幅は個体により色々で、花被片の長さは6.5~7.5cm、花筒の長さは2.5~3cm。雄蕊は花被片より短く、葯は黒紫色、花柱は雄蕊よりやや長い。花期は7~9月。夕方に花を開き、翌日の午前中にしぼみます。蒴果は広楕円形で長さ約20mmで先端がへこみます。種子は長さ約5mm、黒色の卵形で光沢があります。シベリア、中国東北部、朝鮮半島、日本の本州、四国、九州に分布。山地の草原や林縁などのやや乾いた場所に生育します。スズメガ媒花であり、チョウ・ハナバチ媒の花から黄色い花冠、匂いあり、短い雌しべ、長い花筒という特徴に進化したことが分かっています(新田ら,2007)。

ユウスゲの花
ユウスゲの花

No.0524.a ススキノキ Xanthorrhoea preissii

常緑低木。別名グラス・ツリー。樹高は1~2m。葉は銀白色で細長くとても堅いです。幅4mm前後、長さは60~100cm程度。花茎はとても長く1m程度。花は白緑色で穂状花序に無数の花を密生させます。穂状花序の長さそのものも1m前後になります。非常に成長の遅い植物です。オーストラリアの原生林は、山火事(ブッシュファイヤー)が多いですが、山火事が起きても、表面が焦げ付くのみで、耐えて生き続けることができます。オーストラリア南西部の乾燥した原生林に見られます。グラス・ツリーは茎に傷をつけると黄色い樹脂が出て、ゴム状となり、現地ではグラスツリー・ガムと呼ばれています。

ススキノキの葉
ススキノキの葉

No.0525.a ハナアロエ Bulbine frutescens

常緑性多年草。別名ブルビネ・フルテスケンス。草株立して、高さは25cm~60cmほどになります。葉は肉厚で細い披針形、長さ約15cm。花期は4〜11月。花茎を長く伸ばして6枚の花弁を持つ星形の小さな花を総状につけます。花弁は橙色、黄色、白色。雄しべには細かい毛が密生しています。花は1日花で、次々と花を咲かせます。耐暑性があります。南アフリカ原産。日本で栽培されます。

ハナアロエの葉
ハナアロエの葉
ハナアロエの花
ハナアロエの花

No.0526 キダチロカイ Aloe arborescens

常緑多年草。別名キダチアロエ。ロカイは中国名の蘆薈 (ろえ) を音で呼んだもの。南アフリカ原産で高さ1~2mで多数分枝し叢生します。葉縁に角質三角形の刺を密につけます。葉は長さ45~60cm、幅5cmで、灰緑色~緑色の剣状長三角形で密につきます。花は、円筒状で長さ4cmで鮮紅色で総状花序をなします。アフリカ南部原産。「医者いらず」の名で民間薬として健胃や便秘薬として、生葉の透明な多肉質部分を食したり、乾燥葉をアロエ茶として飲用したりするほか、水虫、火傷に生葉の汁を外用したりします。胃腸の熱を冷まして炎症を治す薬草のため、胃腸が冷えやすい人や妊婦への服用は禁忌とされています。なお、よく国内で食用されるのはシンロカイ Aloe vera の方が一般的。長い嘴を持つタイヨウチョウという鳥が蜜を求めてやってきて受粉します(Hargreaves et al., 2012)。

キダチロカイの葉
キダチロカイの葉
キダチロカイの花
キダチロカイの花

No.0526.a フヤジョウ Aloe x nobilis

常緑多年草。漢字で不夜城。諸説ありますが、南アフリカ原産のヒロハフヤジョウ(広葉不夜城) Aloe mitriformis と キダチロカイ Aloe arborescens との、またはヒロハフヤジョウとリュウザン(竜山) Aloe brevifolia との人工交配種とされます(Smith & Figueiredo, 2015)。多肉性。茎は直立し、多肉で太く柔らかいです。葉は多肉質で緑色の三角形で、縁に棘状の鋸歯があり、葉の外側にも黄白色の短い棘がまばらにあり、密に螺旋状に互生します。冬には葉がやや赤味を帯びます。数年たった株は、6月頃、葉腋から花茎を出し、紡錘型の花序を作り、オレンジ色で筒状の花を咲かせます。ヒロハフヤジョウとは葉の大きさと花が短く、苞葉が長い点から区別されます。南アフリカでは野生個体が発見されていないため、ヨーロッパで栽培された植物間の交配から生まれたと考えられています。ポルトガルの一部で帰化し、日本でも栽培されます。

フヤジョウの外観
フヤジョウの外観
フヤジョウの葉
フヤジョウの葉

引用文献

Hargreaves, A. L., Harder, L. D., & Johnson, S. D. 2012. Floral traits mediate the vulnerability of aloes to pollen theft and inefficient pollination by bees. Annals of Botany 109(4): 761-772. https://doi.org/10.1093/aob/mcr324

神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726

新田梢・長谷川匡弘・三宅崇・安元暁子・矢原徹一. 2007. キスゲとハマカンゾウの送粉シンドロームに関する花形質の遺伝的基礎を探る. 日本生態学会誌 57(1): 100-106. https://doi.org/10.18960/seitai.57.1_100

Smith, G. F., & Figueiredo, E. 2015. Notes on Aloe × nobilis Haw. (Asphodelaceae: Alooideae). Haseltonia 21: 72-76. https://doi.org/10.2985/026.021.0110

塚本洋太郎. 1994. 園芸植物大事典 コンパクト版. 小学館, 東京. 3710pp. ISBN: 9784093051118

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