ボタン科 Paeoniaceae は多年草または小型の低木。葉は互生または根生し、大型で3出またはやや羽状の複葉、托葉はありません。花は大型、萼片は3~5個で青緑色、花弁は花弁状で蜜腺はありません。雄しべは多数。北半球にある1属ボタン属のみからなる単型科。外見の類似性からキンポウゲ科に含めれていることもありましたが、従来より異論があり、APG体系ではユキノシタ目に含められました。
本記事ではボタン科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
基本情報は塚本(1994)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
No.1331 シャクヤク Paeonia lactiflora
多年草。高さ50~90cmで根は紡錘状になり、茎は毎春数本が直立し、数枚の葉を互生します(馬場,1996)。下部の葉は2回3出複葉、しばしば2~3裂し、葉脈と葉柄は赤色を帯びます。上部の葉は簡単になります。花期は5~6月。花は大形で白~赤色であり、しばしば翁咲き、八重咲きとなります。中国では紀元前にすでに薬草として栽培され、その後はおもに観賞用に栽培されました。日本での最初の記録は、小野小町の時代(850年代)ですが、これらの記録は本当のシャクヤクであったかは疑問視する説が多く、確実な記述は有名な生花の本である『仙伝抄』(1596~1624年)が最初であるという意見が強い。その後、江戸時代に各所で園芸品種が改良されましたが、比較的あっさりとした花形が好まれていました。明治時代以後には神奈川県立農事試験場で、明治末期からは宮沢文吾氏を中心に品種改良が組織的に行われ、1932年(昭和7)には新品種700品種が発表されました。園芸品種は、全部で約3000品種もあるといわれており、最近ではアメリカを中心に種間雑種も多く作り出されており、さらに品種数は増え続けています。根を乾燥または蒸乾したものを芍薬と称し、薬草として活用されています。中国北部、モンゴル、シベリア東南部、朝鮮半島北部に分布し、標高400~2300mの森、草原に生えます(Flora of China)。
No.1334 ボタン Paeonia suffruticosa
落葉低木。茎は高さ2mに達します。葉は2回3出複葉。頂小葉は長さ約10cm。葉の表面は緑色で無毛で、裏面が淡緑色で白粉を帯びます。葉柄は長さ5~11cmでほぼ無毛です。花期は5月。花は枝先に単生し、径11~17cmと大きく、白、桃、紅、紫色。萼片は5個で緑色。花弁は5枚ですが、八重もあります。雄しべは多数。花盤は紫紅色で杯状の雄ずいを包被します。雌しべは5個で柔毛が密生し、成熟すると裂開します。果期は6月。根皮は鎮痛、消炎、浄血、中風、腹痛などの薬用に使われます。中国陜西省延安一帯に分布し、標高300mの断崖に生えます(Flora of China)。元は薬用として利用されていましたが、盛唐期以降、牡丹の花が「花の王」として他のどの花よりも愛好されるようになりました。『松窓雑録』によれば、玄宗の頃に初めて牡丹が愛でられるようになったものの、当時は「木芍薬」と呼ばれていたと記載されています(Kubo, 2009)。
引用文献
馬場篤. 1996. 薬草500種 栽培から効用まで. 誠文堂新光社. 東京. 167pp. ISBN: 9784416496183
Kubo, T. 2009. The problem of identifying Mudan and the tree peony in early China. Asian Medicine 5(1): 108-145. ISSN: 1573-420X, https://doi.org/10.1163/157342109X568964
塚本洋太郎. 1994. 園芸植物大事典 コンパクト版. 小学館, 東京. 3710pp. ISBN: 9784093051118