イグサ科 Juncaceae はおもに湿生地に生育する1~多年草で稀に低木状になります。茎は円筒形または2稜形、通常無分枝。葉は2列互生してつき、線形、偏平または円筒形、基部は鞘になり、一方が開くか、完全な筒になります。花は小型、ほぼ同形で披針形の花被片を6枚つけます。雄しべは3~6本。果実は蒴果で種子は3~多数。世界に7属約440種程が知られ、日本には科の中で最も多くの種から構成されるイグサ属とスズメノヤリ属の2属があります。本科の分類には蒴果が必須です。
本記事ではイグサ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
基本情報は神奈川県植物誌調査会(2018)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
No.0678 イグサ Juncus decipiens
多年草。『Ylist』に従いますが、別名イで、この場合最も短い和名の植物とされます。根茎は匍匐し節間は短い。茎は円筒状で直立し、高さ20~100cm。表面は緑色で多数の不明瞭な縦溝があります。花期は6~9月。花穂は30~90個の単生花からなります。花穂軸は一部が下向きにまがるものがあります。花被片は披針形、鋭頭、背部は緑色。雄しべは3。蒴果は褐色で3稜状卵形または楕円形で鈍頭または微凸頭。花被片とほぼ同長、またはやや長い。種子は長さ約0.5mm。鉄錆色。北海道、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国、台湾、北アメリカに分布し、河川敷や湖沼、池などの湿生池、放棄水田などに生えます。日本を含む東アジア産のイグサはヨーロッパに分布の中心をもつ J. effusus の変種 var. decipiens とされていましたが、近年では独立種とされます。両種は全体の大きさ、葉鞘の色、蒴果の部屋の構造等で区分されるといいますが、標本での区別は難しいです。栽培用の品種コヒゲ(小髭: ‘Utilis’)は畳表やござ(敷物の一種)を作る際に用いられます。野生種より花序が小さいのが特徴です。イグサの茎は帽子や枕の素材としても利用されます。
No.0679.a ラセンイ Juncus decipiens ‘Spiralis’
花茎がばねのように巻くイグサの品種。
No.0681 クサイ Juncus tenuis
別名シラネイ。多年草。地下茎は短く匍匐します。茎は円筒形で直立します。最下の苞は葉状、花穂よりも長い。花期は5~9月。花被片は内外ともにほぼ同長、縁は薄膜になります。雄しべは6、蒴果は花被片より短いか同長。種子は倒卵形で表面に粘液があります。北海道、本州、四国、九州、琉球;ユーラシア大陸、アメリカ大陸、オーストラリアに広く分布します。湿った路傍や草地、林縁などに生えます。別名のシラネイは牧野富太郎と高橋不石が横浜市旭区白根町の白根不動尊びんたら池で採集したことによります。
No.0692 スズメノヤリ Luzula capitata
多年草。根茎は短い。茎は高さ10~30cm。根生葉は線形で長さ5~20cm、幅2~4mm。茎葉は2~3個で根生葉よりも小型。ともに葉縁に白毛が多数生えます。花期は4~5月。花穂は頂生する1個(稀に2~3個)の頭花からなります。花被片は長楕円形で背部は褐色、縁は白色膜質。雄しべは6で、花被片の2/3長。葯は線形で、花糸よりも長く、およそ3倍長。蒴果は花被片と同長、約3mm。卵形で褐色または黒褐色。種子は倒卵形で、長さ約1mm。種枕は種子の1/2長。北海道、本州、四国、九州、琉球;朝鮮、中国、カムチャッカ、サハリン、シベリア東部に分布します。県内ではほぼ全域に広く分布し、シイ・カシ帯~ブナ帯の路傍や草地、林縁などに生えます。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726