ハス科 Nelumbonaceae は多年生の水草。ハス属 Nelumboを含み、北米原産のキバナハス Nelumbo lutea と、アジアに広く分布するハス Nelumbo nucifera を含む唯一の現存する種です。化石種として4つの属、†Nelumbites、†Exnelumbites、†Palonelumbo、†Nelumbagoが知られています。
本記事ではハス科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
No.1317 ハス Nelumbo nucifera
多年草(Flora of China)。葉柄は1~2m、離生します。乳頭突起(papilla)は硬く散在し、光沢があります。葉身は外面が青緑色で円形、直径25〜90cm、紙質で光沢があり、撥水性があり、縁は丸い。花期は6〜8月。花は直径10〜23cmで日本では「蓮華(れんげ)」と呼ばれます。地中の「蓮根(れんこん)」と呼ばれる地下茎から茎を伸ばし、水面に葉を出します。茎には通気のための穴があります。花柄は葉柄より長く、光沢があるか、まばらに棘があります。花弁は厚く、ピンクまたは白色で、楕円形から倒卵形、5〜10×3〜5cm。雄しべは花托よりやや長く、花糸は細く、葯は線形で1~2mm、結合部付属物は楕円形で7mm、湾曲します。花托は直径5〜10cmの球形で、こま状、または日本では蜂の巣に形容され、和名別名をハチスともいいます。果実は「蓮の実」と呼ばれ1.0〜2.0×7〜15cmの長楕円形から卵形で、光沢があり、果皮は厚くて固い。インドとスリランカからインドシナ北部、東アジア(アムール地方まで)、カスピ海の一部、東南アジアのほぼ全域、ニューギニア、オーストラリアの北部と東部に分布する非常に広い分布を持っていますが、この範囲の一部(南インド、スリランカ、東南アジア島嶼部、オーストラレーシア)は歴史的な人為的導入の結果であると考えられています(Zhang et al., 2015)。日本での分布は日本の文献では中国から少なくとも「大賀蓮」のように弥生時代、またはそれ以前にもたらされたとしていますが、中国人研究グループは日本在来としています(Zhang et al., 2015)。湖沼、池、耕作地に生えます。流れの遅い川やデルタ地帯の氾濫原で生育するように適応しています。葉や花はきれいな状態を保たれていますが、これは「ロータス効果」と呼ばれ、表面の乳頭突起とクチクラ外ワックスにより、表面張力を高めており、水滴が汚れの粒子を拾い上げ、表面への水滴の付着を最小限に抑える超疎水性とセルフクリーニング特性を持っているためです(Darmanin & Guittard, 2015)。早朝に開花、正午頃までに閉じる開閉運動を繰り返し、開花後3~4日程度で花弁を落とします。次々と出蕾して咲くので、株全体でみると花期は長い。花には恒温性があり、外気温の影響を受けにくく30~36°Cの間、または35°C前後に保たれていた記録があります(Li & Huang, 2009a)。これにより訪花昆虫に熱を提供することに加え、花粉や胚珠の発育および受精と種子の発育を促進します。基本的には甲虫媒として進化しており、熱とともに大量の花粉と柱頭滲出液を甲虫に報酬として与え受粉しますが、実際はさまざまなミツバチなどのハチ目やハナアブなどのハエ目も訪れ、受粉することも確認されています(Li & Huang, 2009b)。これは進化してきた環境と現在の環境が変わってしまった結果だと考えられています。ただしミツバチは柱頭と接触することはめったにないことから甲虫に大きく依存していることは変わらないようです。花期が終わると次年度の生長のためにデンプンを地下茎に蓄えて蓮根が肥大します(石綱,2009)。秋になると葉は枯れ、休眠し冬越しします。発芽能力が長期間維持されます。毎年数十万個の果実を池の底に落とします。すぐに芽を出し、野生動物に食べられるものもありますが、残りの果実は、池に沈み込んで乾燥するため、長期間休眠状態を保つことができます。洪水状態の間、これらの果実を含む堆積物が撹拌され、休眠中の種子が発芽して新しいコロニーを形成します。栽培は非常に長い歴史(約3000年)を持ち、全草食用になりますが、特に地下茎(蓮根)と果実(蓮の実)を食用とするため栽培されます。蓮根は日本では煮物、酢蓮根、桜蓮根、辛子蓮根、蓮根羹の原料。蓮の実は種子部分を生食する他、中国の蓮蓉餡、蓮蓉包(れんようほう、菓子パンの一種)、糖蓮子(砂糖漬け)の原料になります。蓮華は泥から生え、まっすぐに大きく広がりロータス効果により水を弾く葉の姿が、俗世の欲に塗れず清らかに生きることの象徴のように捉えられ、インダス文明の時にはすでに聖なる花とされ、ヒンドゥー教や仏教では明喩に用いられ、極楽浄土で咲いている花とされます。そのため蓮華座として仏が座っています。また一蓮托生という言葉は善い行いをした者は極楽浄土に往生して、同じ蓮華の上に身を託し生まれ変わるとされることが由来となっています。
引用文献
Darmanin, T., & Guittard, F. 2015. Superhydrophobic and superoleophobic properties in nature. Materials today 18(5): 273-285. https://doi.org/10.1016/j.mattod.2015.01.001
石綱史子. 2009. ハス. 日本緑化工学会誌 35(2): 374. http://www.jsrt.jp/pdf/dokomade/35-2hasu.pdf
Li, J. K., & Huang, S. Q. 2009a. Effective pollinators of Asian sacred lotus (Nelumbo nucifera): contemporary pollinators may not reflect the historical pollination syndrome. Annals of Botany 104(5): 845-851. https://doi.org/10.1093/aob/mcp173
Li, J. K., & Huang, S. Q. 2009b. Flower thermoregulation facilitates fertilization in Asian sacred lotus. Annals of Botany 103(7): 1159-1163. https://doi.org/10.1093/aob/mcp051
Zhang, Y., Lu, X., Zeng, S., Huang, X., Guo, Z., Zheng, Y., … & Zheng, B. 2015. Nutritional composition, physiological functions and processing of lotus (Nelumbo nucifera Gaertn.) seeds: a review. Phytochemistry Reviews 14(3): 321-334. https://doi.org/10.1007/s11101-015-9401-9