サトイモ科 Araceae は多年草でときに低木状、藤本状、浮遊性の水草があります。しばしば地下に塊茎または太い地下茎があり、葉柄基部が筒状になって偽茎をつくるものがあります。植物体は多肉で、しゅう酸カルシウムの針状結晶の束で満たされた細胞を有し、口にすると結晶が舌に刺ってえぐい味を感じます。葉は単葉または複葉で、ときに膜質の鞘状葉があり互生し、全縁または羽状、鳥足状に切れます。基部はしばしば鞘状で、茎を包む。葉脈は平行または網状。花は単性または両性で、肉穂花序に多数つき、無柄またはほとんど無柄。花序は基部に仏焔苞があり、花序を包みます。花は3数性または2数性。無花被または小型の花被があります。単性花の場合、雌雄は別の花序、または同じ花序の別の場所に分かれてつきます。雄しべは1~8個。葯は2~4室。子房は柄がなく、1~3室。胚珠は1個または多数。果実はふつう液果状。種子は少数。約115属3,300種があり、主として熱帯~亜熱帯に分布します。日本には14属、約75種があります。APG体系では、近縁とされていたウキクサ科がサトイモ科に統合され、オモダカ目とされています。
本記事ではサトイモ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
基本情報は塚本(1994)、神奈川県植物誌調査会(2018)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
- No.0170 ミズバショウ Lysichiton camtschatcensis
- No.0171 ウキクサ Spirodela polyrhiza
- No.0172 アオウキクサ Lemna aoukikusa
- No.0173 コウキクサ Lemna minor
- No.0176.a オオベニウチワ Anthurium andraeanum
- No.0177.b ササウチワ Spathiphyllum patinii
- No.0178 オランダカイウ Zantedeschia aethiopica
- No.0179 サトイモ Colocasia esculenta
- No.0179.1 サトイモ(コーヒーカップ) Colocasia esculenta ‘Coffee Cups’
- No.0180 クワズイモ Alocasia odora
- No.0189 ムサシアブミ Arisaema ringens
- No.0198 ミミガタテンナンショウ Arisaema limbatum
- No.0203 マムシグサ Arisaema japonicum
- No.0211 オオハンゲ Pinellia tripartita
- 引用文献
No.0170 ミズバショウ Lysichiton camtschatcensis
多年草。高さ1mになります。太い地下茎をもちます。葉は開花時は小さいですが、花後に長さ80~100cm、幅30cmほどの大きな楕円形に成長します。花期は5~7月。雪解け直後に、白色の仏炎苞に包まれた高さ10~30cmの花茎を出して棍棒状の肉穂花序をつけます。花は径3.5~4mmの淡緑色の4弁花で肉穂花序の表面に多数つきます。果実は緑色の液果で、熟すと水に落ちて水流にのって運ばれます。日本(北海道、本州中部以北の日本海側・兵庫県)、千島、樺太、サハリン、カムチャツカ、ウスリー。日本では隔離分布します。山地の湿原やハンノキ林の流水べりなど水湿地にしばしば群生します。なめ口タイプの口吻を持つハエ目が訪花送粉し、ツキノワグマによる動物散布も起こります(千葉・尾関,2017)。
No.0171 ウキクサ Spirodela polyrhiza
浮遊植物。葉状体は広倒卵形、長さ3~10mm、幅2~8mm。各葉状体から3~21本の根が出ます。殖芽を形成して越冬します。北海道、本州、四国、九州、琉球;南アメリカとニュージーランドを除く世界中に分布します。水田や水路などにもっとも普通に見られます。
No.0172 アオウキクサ Lemna aoukikusa
浮遊植物。葉状体は左右不相称の倒卵状楕円形、長さ2.5~5mm、幅1.5~4mm、葉脈は3本。根鞘基部に翼があり、根端は鋭頭。夏から秋にかけてよく開花結実します。種子で越冬します。北海道、本州、四国、九州に分布します。水田や水路などにもっとも普通に見られます。最近の研究ではナンゴクアオウキクサ L. aequinoctialis の異名にされることがあります。
No.0173 コウキクサ Lemna minor
浮遊植物。葉状体は左右相称に近い広楕円形、長さ2.5~5mm、幅1.5~4mm、葉脈は3本だが不明瞭。根鞘基部に翼がなく、根端は鈍頭。開花は稀。常緑で葉状体のまま越冬します。北海道、本州、四国、九州、琉球;南アメリカを除く全世界に分布します。水田や水路などに生育します。葉状体が薄く下面が赤紫色に着色することがないものをコウキクサ(狭義)L. minor (s.s.)、葉状体にやや厚みがあり下面が赤紫色に着色するものをムラサキコウキクサ L. japonica として区別することがありますが、ムラサキコウキクサには着色が見られない場合もあるので形態による両者の識別は困難であるとされます。
No.0176.a オオベニウチワ Anthurium andraeanum
常緑多年草。着生種。茎は直立し、節間は短い。葉は長さ20~40cm、幅15~20cm、鋭先頭の長心臓形で、革質で光沢があります。葉柄は細いがかたく丈夫で葉身より長い。上部葉腋から葉柄より長い花茎を直立します。仏炎苞は心臓形で長さ10~15cm、革質で、独特のエナメル質光沢があり、朱赤色であります。肉穂花序は長さ6~8cmの円柱状で、多くの場合、上部は淡黄色、基部は白色となるが、変異が多いです。コロンビア、エクアドル原産。日本へは明治時代中ごろに導入されました。
No.0177.b ササウチワ Spathiphyllum patinii
多年草。別名スパティフィラム。高さ30~40cm。葉柄は長さ10~18cm。葉身は長さ12~20cm、長楕円形~披針形、緑色、光沢があり、先は鋭形~尖鋭形。仏炎苞は長さ10~15cm、白色。肉穂花序は長さ3~6cm。花には芳香があります。コロンビア、パナマ原産。
No.0178 オランダカイウ Zantedeschia aethiopica
別名カラー。多年草。ワサビ根状の地下茎をもち、基本形は花茎が約1mで、長さが7~20cmの仏炎苞はほぼ白色で、基部がクリーム色を帯びています。葉は鮮緑色で葉柄が長いですが、変異に富みます。基本種の花期は5月前後ですが、四季咲き性の強いものは、日本では5~6月および10月ごろに集中して咲きます。南アフリカのケープ・トランスパール地方原産で、ヨーロッパへは1761年に、日本へは1843年に入りました。水湿地から山地までに生えます。
No.0179 サトイモ Colocasia esculenta
別名タロイモ。多年草。大きな葉がついた葉柄が地上に生え、草丈は1.2~1.5mほどになります。地中部には食用にされる塊茎(芋)があり、細長いひげ根が生えます。よく育った株は花をつけます。仏焔苞はクリーム色で長さ20cmくらいになり、開花時に芳香があります。日本の農耕文化の初期から栽培されていたとも考えられています。植物体各部の色、栽培立地、栽培法、食用とされる部位の違いになどにより、日本国内でも多くの栽培品種が知られています。畑や樹林の縁などに逸出したものが見られ、湿地に栽培される “ミズイモ”、“タイモ” と呼ばれる系統は溝の周辺などに逸出することがあります。原産地はインドや中国、またはマレー半島などの熱帯アジアと言われていますが、インド東部からインドシナ半島にかけてとの説が有力視されています。少なくとも、紀元前3000年ごろにはインドで栽培されていたとみられています。
No.0179.1 サトイモ(コーヒーカップ) Colocasia esculenta ‘Coffee Cups’
コーヒーカップは濃紫の葉柄を持ち、カップ状に葉がくぼむ窄むサトイモの園芸品種。
No.0180 クワズイモ Alocasia odora
常緑多年草。サトイモのような塊状ではなく、棒状に伸びる根茎があり、時に分枝しながら地表を少し這い、先端はやや立ち上がります。先端部から数枚の葉をつけます。大きさにはかなりの個体差があって、草丈が人のひざほどのものから、背丈を越えるものまであります。葉は長さが60cmにもなり、全体に楕円形で、波状の鋸歯があります。基部は心形に深く切れ込みますが、葉柄はわずかに盾状に着きます。葉柄は60cm~1mを越え、緑色で、先端へ細くなります。花は葉の陰に初夏から夏に出ます。仏炎苞は基部は筒状で緑、先端は楕円形でそれよりやや大きく、楕円形でやや内に抱える形で立ち、緑から白を帯びます。花穂は筒部からでて黄色味を帯びた白。果実が熟すと仏炎苞は脱落し、果実が目立つようになります。中国南部、台湾からインドシナ、インドなどの熱帯・亜熱帯地域に、日本では四国南部から九州南部を経て琉球列島に分布します。沖縄県や鹿児島県の奄美群島では道路の側、家の庭先、生垣など、普通に自生しているのが見られます。低地の森林では林床を埋めることもあります。シュウ酸カルシウムが多く、食用不可。
No.0189 ムサシアブミ Arisaema ringens
多年草。偽茎は低い。葉は2枚。小葉は3枚で菱状広卵形、長さ8~20cm、幅4~10cm。先は急に尖り、糸状になります。花期は3~5月。花茎は長さ3~10cm。仏焔苞は暗紫色で筒口部の縁に著しい耳があり、舷部は高さ3.5~4.5cmの袋状となり、先端は短い尾状。脈は透明で目立ち、花序付属体は棒状。本州(西部)、四国、九州に分布。シイ・カシ帯の湿った林、竹薮などに生えます。
No.0198 ミミガタテンナンショウ Arisaema limbatum
多年草。偽茎は高さ20~50cm。葉は2枚。小葉は7~11枚で卵状長楕円形~長楕円形。最大の小葉は長さ10~20cm、幅2.5~6cm。最外側の小葉は基部の外側が幅広くなります。花は4~5月。花は葉より早く開きます。花茎は長さ10~20cm。仏焔苞は褐紫色~暗紫色で内側は光沢が著しいです。筒部は長さ4.5~6cm、筒口部は縁に幅1~2cmの著しい耳があります。舷部は長さ8~15cm、基部は立ち、前屈して傾下します。花序付属体は棒状で、やや前に曲がります。関東地方、東北地方、四国に分布。シイ・カシ帯~クリ帯に分布するが東北地方南部ではブナ帯にも見られます。
No.0203 マムシグサ Arisaema japonicum
多年草。偽茎の紫の斑模様がマムシの胴体の模様に似ており、仏炎苞は緑のものや紫のものがあり、葉よりも上に出ます。棒状の付属体を持ちます。四国、九州に分布します。写真は屋久島産。詳細は邑田ら(2018)。
No.0211 オオハンゲ Pinellia tripartita
多年草。高さ20~60cmになります。球茎は偏球形で、径3~5cm、上部から根を出す。葉は1~4個、20~45cmの葉柄があり、カラスビシャクと異なり途中にむかごを付けません。葉身は3深裂し、裂片は広楕円形から楕円形、長さ8~20cm、幅3.5~12cm、先端は少し尾状に伸びます。花は6~8月に咲き、仏炎苞は緑色または帯紫色で、長さ6~10cm。本州(中部地方)~琉球に分布します。林縁や日陰の沢沿いに見られます。岩盤が近くて土壌の浅いところであることが多いです。仏焔苞の内面などが紫黒色になるものをムラサキオオハンゲ f. atropurpurea といいます。
引用文献
千葉悟志・尾関雅章. 2017. 居谷里湿原(長野県大町市)におけるミズバショウの生活史について. 市立大町山岳博物館研究紀要 2: 27-34. https://doi.org/10.34529/oam.2.0_27
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄. 2018. 日本産テンナンショウ属図鑑. 北隆館, 東京. 360pp. ISBN: 9784832610057
塚本洋太郎. 1994. 園芸植物大事典 コンパクト版. 小学館, 東京. 3710pp. ISBN: 9784093051118