ケシ科 Papaveraceae は草本で茎や葉は粉白を帯びるものが多く、茎を折ると乳白色または橙黄色の液がでます。葉は互生し、羽状に裂けるかまたは羽状複葉、ときに単純で托葉はありません。花は両性、放射相称または左右相称。萼片は2~4個で離生し、早落性または残存。花弁は通常4個。子房は上位につき、1~8室。側膜胎座。果実は堅果で不裂開か、蒴果で裂片に裂け、または孔を開けて(孔開蒴果)種子を散らすものがあります。北半球の熱帯~亜寒帯にかけて約40属800種が知られます。
本記事ではケシ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
基本情報は神奈川県植物誌調査会(2018)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
- No.1128.a シロアザミゲシ Argemone hispida
- No.1132.a シベリアヒナゲシ Papaver nudicaule
- No.1132.b ナガミヒナゲシ Papaver dubium subsp. dubium
- No.1132.c レコキーナガミヒナゲシ Papaver dubium subsp. lecoqii
- No.1133 クサノオウ Chelidonium majus subsp. asiaticum
- No.1138 タケニグサ Macleaya cordata
- No.1140 コマクサ Dicentra peregrina
- No.1143 ムラサキケマン Corydalis incisa
- No.1143.1 シロヤブケマン Corydalis incisa
- No.1144 ジロボウエンゴサク Corydalis decumbens
- 引用文献
No.1128.a シロアザミゲシ Argemone hispida
多年生(Flora of North America)。茎は30〜60cmで、密に刺状突起があり、ぱりぱりとした質感を持ちます。葉身:表面は葉脈の間にまばらに、あるいは密に刺状突起があり、背軸面(葉下面)は中肋と主脈のほとんどが密に刺状突起で、向軸面(葉上面)はあまり刺状突起ではありません。開花は春~夏、萼は長楕円形で、16〜20×14〜18mm、刺状でヒゲがあります。萼片の角は4〜7mm、刺状で、先端の刺は平らで硬い。花は幅7~10cm、花弁は白色、雄しべは150本以上、花糸は淡黄色、雌しべは3~4個で穂状になります。結実は夏から秋。蒴果は卵形、30〜40×12〜18mm(柄を含む、突起を除く)、突起は密で、表面は不明瞭、最長突起は直立または湾曲し、約5mm。種子は約2.5mm。北アメリカのララミー山脈、ロッキー山脈が原産で、標高1400~2100mの草原、斜面、東部丘陵地帯に生息します。日本では稀に観賞用に栽培されます。
No.1132.a シベリアヒナゲシ Papaver nudicaule
多年草、ただし非耐暑性で日本では秋蒔き1年草(Flora of China)。高さ20~60cm、変化が多い。直根は円柱形、よく伸び、上部は直径2~5mm、漸尖形または紡錘形、根茎は短く、太く、普通、分岐しません。茎はごく短くまたは一見ありません。葉は叢生、すべて根生、葉柄は長さ(1~)5~12cm、基部で広がり、鞘になり、傾いた剛毛があります。葉身は両面ともわずかに粉白色を帯び、卵形~披針形、長さ3~8cm、両面とも密~疎に灰色の剛毛があり、まれに無毛近くになり、羽状浅裂~羽状深裂~羽状全裂、裂片は2~4対、全縁または再び羽状浅裂~羽状深裂。羽片は狭卵形~狭披針形~長楕円形、先は鋭形~鈍形~円形。花期は5~9月。花茎は1本~数本、直立し、円柱形、密またはまばらに、傾いた圧縮された剛毛があります。花は単生、頂生、花茎につき、杯形、直径4~6cm。蕾は普通、垂頭(nutant)、広卵形~球形、直径1.5~2cm、密に褐色の剛毛があります。萼片は2個、早落性、花環状楕円形(corymbiform-elliptic)。花弁は4個、帯黄色、黄色、橙色、まれに赤色、広楔形または倒卵形、長さ(1.5~)2~3cm、基部に短い爪部があり、縁は波状円鋸歯。雄しべは多数。花糸は黄色まhたはオリーブ色、錐形、長さ6~10mm。葯は黄白色~黄色、まれに帯赤色、長楕円形、長さ1~2mm。子房は倒卵形~狭倒卵形、長さ5~10mm、密に伏した剛毛があります。柱頭は4~8本、放射相称。蒴果は狭倒卵形~倒卵形~倒卵状長楕円形、長さ1~1.7cm、密に伏した白褐色~赤褐色の剛毛があり、わずかに広い4~8の肋があります。柱頭盤(stigma disk)は平ら、明瞭な欠刻状円鋸歯があります。種子は多数、褐色、ほぼ腎形、小さく、条線があり、ハチの巣状の窪みがあります。アフガニスタン、カザフスタン、キルギスタン、中国、韓国、モンゴル、ロシア(シベリアを含む)、タジキスタン、ウズベキスタンに分布し、森林の縁、草原、草原、斜面、牧草地、谷、川の砂利、モレーン、道端に生えます。本種は非常に変異が多く、花弁が黄色または橙色で、子房と蒴果が剛毛に覆われている品種(f. nudicaule、本種と同じ分布)、同じ特徴ですが花弁が白色の品種(f. seticarpum、黒龍江、吉林、内モンゴルから記録される)、花弁は黄色または橙色で子房、蒴果は無毛の変種(var. aquilegioides、甘粛省、河北省、黒竜江省、西湖北省、内モンゴル自治区、寧夏回族自治区、陝西省、山西省、東四川省から記録される)、同じ特徴だが花弁が白い品種 (f. amurense、黒竜江省、吉林省、内モンゴルから記録される)があります。ただし園芸種として育てられる「アイスランドポピー」と呼ばれる栽培植物は、Papaver radicatum を含む他のいくつかの密接に関連した種を含む複雑な起源のものとされます。日本でも観賞用に栽培されます。
No.1132.b ナガミヒナゲシ Papaver dubium subsp. dubium
1年草。ヒナゲシに似ますが果実がより細長いことが和名の由来。葉は1~2回羽状に裂けます。花は4~6月、径3~6cm、橙赤色、柱頭は放射状です。果実は長楕円形、長さ1.5~2.5cm。ヨーロッパ原産の帰化植物。日本では1961年に東京で確認されたのが最初の記録です(吉川,2010)。輸入穀物から種子が検出されており、非意図的な導入であったとみられますが、1990年代から急速に分布域が広がり、現在では北海道から九州まで広い範囲で確認されています。『帰化植物図譜』では「近年北九州の市街地に散発的に見出される…(中略)…群馬県・東京都などからも帰化の報告があるが、まだ全国的にはまれなもの」と記しています。近年、都市近郊に著しく増え、路傍、空き地、家の周りに普通に見られます。subsp. dubium は花弁が重なり合って隙間がなく、乳液は乳白色です(吉川,2010)。
No.1132.c レコキーナガミヒナゲシ Papaver dubium subsp. lecoqii
レコキーナガミヒナゲシは筆者仮称。4枚の花弁の間に隙間があり、茎葉を切ると黄色い乳液が出るPapaver dubium の亜種(吉川,2010)。日本にも両タイプが帰化していますが、国内の図鑑等では区別されていません。subsp. lecoqii のほうが花期が早く、東京近郊ではソメイヨシノと同じころから咲き始めますが、subsp. dubium は2週間ほど遅れて咲き始めるとされます。以下写真は該当すると思われる個体です。
No.1133 クサノオウ Chelidonium majus subsp. asiaticum
越年草。高さ30~80cm。茎を折ると橙黄色の液が出て、基部から葉をつけ、全体粉白を帯びます。葉は1~2回羽状に裂け、小葉には欠刻があります。花は5~7月、葉腋に散形花序をつけます。花弁は4個。子房には2個の胎座があります。北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国(東北部)、サハリンに分布。点在し、草原、林縁、石垣の間などに生えます。
No.1138 タケニグサ Macleaya cordata
別名チャンパギク。多年草。日当りのよい荒れ地に生えます。茎は中空で白く、折ると濃橙色の液が出ます。葉の下面は白色の細毛を密生します。花は6~8月、白色。葯は線形で黄色。果実は広披針形、偏平で無毛、なかに少数の種子があります。本州、四国、九州;中国、台湾に分布。市街地から山地の道端、崩壊地、草地、林縁に普通に見られます。葉の下面が無毛の一型をケナシチャンパギク f. glabra といい、基本種に混生します。
No.1140 コマクサ Dicentra peregrina
多年草。和名はその花の形が馬(駒)の顔に似ていることに由来します。美しい花と常に砂礫が動き他の植物が生育できないような厳しい環境に生育することから「高山植物の女王」と呼ばれます。高さ5cmほど。葉は根生葉で細かく裂けパセリのように見え、白く粉を帯びます。花期は7~8月。花茎は10~15cmで淡紅色の花を咲かせます。花弁は4個で外側と内側に2個ずつつきます。外側の花弁(外花弁)は下部が大きくふくらんで、先が反り返り、内側の花弁(内花弁)はやや小さく、中央がくびれ、上端は合着しています。この筒の中に雄しべ雌しべが入っています。萼片は2個で早く落ちます。他の植物が生育できないような砂礫地に生えるため、地上部からは想像できないような50~100cmほどの長い根を張ります。タカネスミレなども同様な場所に生育し混生することもありますが、単独の群落をつくることが多い。花が枯れると長さ約1.2cmの細長い楕円形となり、光沢のある黒い種子ができます。千島列島・樺太・カムチャッカ半島・シベリア東部の東北アジアと日本の北海道から中部地方の高山帯の風衝岩屑斜面などの砂礫帯に分布しています。高山帯にはマルハナバチがいて、体温を37℃ほどに保って飛びまわって蜜を集めており、マルハナバチは内花弁の筒につかまり蜜がある外花弁との隙間にぐいと頭を押しこむことで筒が押し曲げられて左右に割れ中から雄しべ雌しべが出てきてハチの腹側に触れることで受粉します(田中・平野,2000)。オオマルハナバチの盗蜜を受けます(須賀,2001)。
No.1143 ムラサキケマン Corydalis incisa
越年草。葉は2回3出複葉、小葉は羽状に裂けます。有花茎は高さ20~50cm。花は4~6月、紅紫色。果実は線状長楕円形、熟して斜め下を向きます。北海道、本州、四国、九州、琉球;中国に分布。林内、田畑の畦、道端などに生えます。
No.1143.1 シロヤブケマン Corydalis incisa
花はやや小ぶりで花冠裂片の先だけが紅紫色をおび、全体は白色に近い一品をシロヤブケマン f. pallescens といいます。
No.1144 ジロボウエンゴサク Corydalis decumbens
多年草。葉は2~3回3出複葉で、小葉は2~3個に深く裂けます。有花茎は高さ5~10cm。花は4~5月、淡紅紫色。果実は線形、少し数珠状にくびれます。本州(関東地方・中部地方以西)、四国、九州;中国、台湾に分布。草原、林縁、石垣の間などに生えます。ヤマエンゴサクとともに、夏は地上部が枯れて、翌春までの長い間を地下で過ごす「春植物」です。白花の一品をシロバナジロボウエンゴサク f. albescens といいます。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
須賀丈. 2001. 中部山岳高山帯におけるマルハナバチ類の訪花ならびにオオマルハナバチによるコマクサの盗蜜の記録. 長野県自然保護研究所紀要 4: 13-22. https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030702021.pdf
田中肇・平野隆久. 2000. 花の顔 実を結ぶための知恵. 山と渓谷社, 東京. 191pp. ISBN: 9784635063043
吉川正人. 2010. ナガミヒナゲシ(Papaver dubium L.). 日本緑化工学会誌 35(4): 556. http://www.jsrt.jp/pdf/dokomade/35-4nagamihinageshi.pdf