ワラジムシがムラサキホコリ属変形体を捕食(『Ecological Notes』掲載論文)

動物

本記事では以下雑誌にて公開した「京都府でワラジムシがムラサキホコリ属変形体を捕食」の本文を掲載します。冊子版およびpdf版をお求めの方は以下のリンクよりご購入下さい。同定・情報の間違いなどは次号以降で修正しますのでご報告下さい。

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変形菌は様々な節足動物に捕食される

変形菌は様々な節足動物に捕食され、特に子実体では捕食されると同時に、同時に様々な方法による胞子散布のうちの一つとなっている可能性が指摘されている(萩原ら,1995;杉浦ら,2001;山本,2003;松本・伊沢,2007)。変形菌の子実体から海外ではコウチュウ目、ハエ目、ハチ目、ダニ目、トビムシ目が得られていて、日本の事例でもコウチュウ目、ハエ目、ハチ目、トビムシ目が確認されている(杉浦ら,2001)。特にコウチュウ目の役割は大きいと考えられ(杉浦ら,2001;山本,2003)、変形菌でしか確認されない大顎に胞子の運搬に特化したヒメキノコムシ科も存在しており(林,1989)、実際に野外でも個体数の84%がコウチュウ目を占めていた事例もある(杉浦ら,2001)。

図 9 ムラサキホコリ属変形体を捕食するワラジムシ

一方変形体については言及が少なく(杉浦ら,2001)、セスジムシ科やベニボタル科などの甲虫は変形体捕食者とされており(村山,2004)、軟体動物の腹足類に属するナメクジやマイマイは変形体を食べることがあるとされるが偶発的だとされている(山本,2003)。

このように文献上では確認された動物は6分類群に限られているが、ワラジムシ目について言及しているものは筆者は確認できなかった。

筆者の観察したワラジムシが変形菌を捕食する例

筆者は2014年7月8日21時半頃、京都府舞鶴市長浜高倉神社でワラジムシ Porcellio scaber Latreille, 1804 がムラサキホコリ属の一種 Stemonitis sp. の変形体を捕食しているところを撮影したのでここに報告する(図 9)。夜間のワラジムシが活動が活発な時間帯に捕食していたものと思われる。文献では記録を確認できなかったが、インターネット上では2003年6月19日埼玉県さいたま市見沼区染谷でオカダンゴムシがマメホコリを捕食している様子や(横山,2005投稿)、不明な日時地点でワラジムシがススホコリ Fuligo septica (L.) を捕食している様子(堀,2016投稿)、日時不明東京都調布市深大寺元町深大寺でオカダンゴムシ Armadillidium vulgare (Latreille, 1804) がクダホコリ Tubifera ferruginosa (Batsch) を捕食している様子(役に立たないきのこ,2020投稿)を確認できたことから、状況的にも少なくとも国内ではかなり普通に見られる相互作用だと思われた。

胞子を形成しない変形体の捕食は胞子散布とは異なるものの、変形菌の個体群に影響を与える可能性があり、今後定量的な研究が期待される。

なお京都府での2種の分布であるが、ムラサキホコリ属は京都市で記録があるものの(松本・小林,2000)、ワラジムシに関しては京都市の等脚目を調査した藤田・渡辺(1999)や、目録である齋藤ら(2000)、唐沢(2021閲覧)に記録がなく、初記録の可能性がある。

引用文献

藤田夕希・渡辺弘之. 1999. 陸生等脚類の分布と環境 京都市域を中心に. 森林研究 71: 1-7. ISSN: 1344-4174, https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/192826

萩原博光・山本幸憲・伊沢正名. 1995. 日本変形菌類図鑑. 平凡社, 東京. 163pp. ISBN: 9784582535211

林長閑. 1989. ヒメキノコムシと変形菌. 甲虫ニュース 85: 3-5. ISSN: 0910-8785, https://coleoptera.sakura.ne.jp//ColeoNews/ColeoNews085.pdf

唐沢重考. 2021.2.9.閲覧. 日本産ワラジムシ亜目分布データベース. http://isopoda.sakura.ne.jp/warajimushi/Map/map.php

松本淳・伊沢正名 2007. 粘菌 驚くべき生命力の謎. 誠文堂新光社, 東京. 143pp. ISBN: 9784416207116

松本淳・小林久泰. 2000. 「きのこ」分野調査報告―その2 変形菌類. いのちの森 5 :43-43. https://inochinomori.sakura.ne.jp/report/inochi5.pdf

村山茂樹. 2004. 粘菌変形体捕食者としての吸汁性土壌昆虫. 昆虫と自然 39 (7): 13-16. ISSN: 0023-3218

齋藤暢宏・伊谷行・布村昇. 2000. 日本産等脚目甲殻類目録(予報). 富山市科学文化センター研究報告 23: 11-107. ISSN: 0387-9089, https://repo.tsm.toyama.toyama.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=744&item_no=1&page_id=13&block_id=82

杉浦真治・深沢遊・山崎一夫. 2001. 変形菌子実体上の節足動物群集. 長崎大学熱帯医学研究所共同研究報告集 2001: 184-186. https://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/020316syukai/yousi.pdf

山本幸憲. 2003. 変形菌の生態概要. 高知県の植物 17: 99-136. ISSN: 1349-0974

引用サイト

堀繁久. 2016年8月6日投稿. https://twitter.com/kuma5364/status/761679336621510656

役に立たないきのこ. 2020年5月31日投稿. https://twitter.com/at384/status/1267023154779615233

横山元. 2005年6月16日最終更新. 320. 菌食性の動物/変形菌/ダンゴムシ. http://tititake.sakura.ne.jp/gen1/myceto_html/myceto411.htm

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