プルメリアは南国を象徴するような鮮やかなで大きな花と香りを放つ人気の園芸植物です。しかし、インドソケイという呼称も知られています。プルメリアとインドソケイでは意味が異なる可能性があります。インドソケイというと、日本で最も一般的なある一種類に限定されていますが、プルメリアというと2つの意味が考えられ、インドソケイの別名である場合と、インドソケイ属の総称である場合があります。しかし実際に日本で見られるのはインドソケイとマルバプルメリアの2種のみなので、この2種の総称といっても差し支えないでしょう。インドソケイとマルバプルメリアは葉で区別することが出来ます。プルメリアと言えばハワイというイメージがあるかもしれませんが、実際はアメリカ大陸が原産です。大航海時代にアステカ族に接触したスペイン人経由で世界中に広まり、ハワイでは伝統文化であったレイの材料として19世紀になってから取り入れられたのです。観賞用のみならず、薬用としても利用されます。一方で毒性もあり、乳液に触れるとかぶれる可能性があるので注意が必要です。ところで人気の理由は大きく鮮やかな花といい匂いにありますが、そのどちらもが元々は花にやってくる蛾を騙すために進化したものだったことが研究で分かっています。この記事ではプルメリア・インドソケイの分類・歴史・文化・薬用・毒性・送粉生態について解説していきます。
プルメリアとインドソケイの違いは?
南国を象徴するような鮮やかなで大きな花と香りを放つプルメリアのことを調べていると、「インドソケイ」という呼称も出てきます。プルメリアとインドソケイには違いがあるのでしょうか?
実はプルメリアとインドソケイは別のことを指している可能性があります。
インドソケイといった場合、日本で最も一般的なある一種類に限定されています。
インドソケイ(印度素馨) Plumeria rubra はメキシコ、中央アメリカ、南アメリカ北部に自生し、世界の熱帯地域で栽培され、インドなどでは野生化もしている落葉性半多肉低木です(Rojas-Sandoval, 2020)。原産地では乾燥した沿岸の森林、岩場に生えます。鑑賞用として世界中で人気があり、日本でも栽培されます。
一方、プルメリアといった場合には生物学的には単一の種類を指す言葉ではなく、2つの意味が考えられます。
1つ目は園芸などで単にインドソケイの別名として書かれている場合です。この場合は「プルメリア=インドソケイ」と考えてよいでしょう。
2つ目はキョウチクトウ科インドソケイ属 Plumeria の総称として呼ばれている場合があります。インドソケイ属は勿論、インドソケイも含まれていますが、この他にもオブツサ種とも呼ばれるマルバプルメリア Plumeria obtusa(フロリダキーズ・カリブ諸島南東部・メキシコ~グアテマラ原産)、P. pudica(ベネズエラ~パナマ原産)、P. alba(プエルトリコ~ウィンドワード諸島原産)、P. clusioides(キューバ原産)、P. cubensis(キューバ原産)、P. ekmani(キューバ原産)、P. filifolia(キューバ原産)、P. montana(キューバ原産)、P. tuberculata(バハマ諸島~イスパニョーラ島原産)、P. subsessilis(イスパニョーラ島原産)、P. x stenopetala(イスパニョーラ島原産)が知られています(Perez, 2019)。約10種ほどいますが、分類は葉や樹形に変異が大きく標本に間違いがあったため混乱しており、何種類存在するのかは研究者によって意見が異なります。外見で判別するのはとても難しいものになっています。
しかし、日本を含むアメリカ大陸以外で実際に栽培されているプルメリアの大部分はインドソケイとマルバプルメリア(プルメリア・オブツサ)の2種に限られ、花の色彩の多様性は品種改良によってもたらされたものです。そのため園芸では実質的には2種の総称とも言えるかもしれません。ほとんどの場合、インドソケイの品種がマルバプルメリアの品種よりもよく栽培されています。
インドソケイとマルバプルメリアの違いは?
インドソケイとマルバプルメリアにはどのような違いがあるのでしょうか?
これは葉によって区別することが出来ます(Wu & Raven, 1995)。
インドソケイでは葉身の頂部は鋭形か尖鋭形で、葉上面はつやがなく、緑色であるのに対して、マルバプルメリアでは葉身は頂部が丸く、葉上面はつやがあり、濃い緑色です。
また正確な分類ではないですが、一般的にインドソケイでは花の色が赤や黄色になることもありますが、マルバプルメリアでは花の色は基本的には白色が多いようです。
ただ、ハワイや太平洋岸で一般的に栽培されているマルバプルメリアの個体群に関しては雑種である可能性も指摘されています(Perez, 2019)。
なお、日本の和名と学名の対応として最も信用できるリストである『Ylist』ではベニバナインドソケイ Plumeria rubra、インドソケイ(トガリバインドソケイ)Plumeria rubra ‘Acutifolia’ が掲載されています。花が赤く葉が鋭形の種と、それ以外の花色で葉が尖鋭形のものを品種として扱うという措置のようですが、このような区分は世界的にはなされておらず、不適だと思われます。
プルメリアの利用方法は?
プルメリアはその色と香りのために世界中で観賞用として栽培され、精油(エッセンシャルオイル)は香水にも利用されています。また、供物や宗教的な目的でも栽培されています。更に様々な薬効があるとされ、伝統医学で使用されることがあります(Criley, 2009; Perez, 2019; Bihani, 2021)。
プルメリアと言えばハワイというイメージが日本人にはあるかもしれません。しかし、実際は原産国はアメリカ大陸にあるのです。
最初に栽培を開始したのは、メキシコと中央アメリカの一部の原産国で、色鮮やかなアステカ族に珍重され、tlâlcalôxôchitl(カラスの花)と名付けられていました(Criley, 2009)。
プルメリアの大きな転機は大航海時代であると言えるでしょう。スペインの司祭であるフランシスコ・デ・メンドーサが、1522年に地元の植物の薬効成分とアステカ族がそれらをどのように使用したかを説明する薬草事典を作成したことにより、ヨーロッパ人に知られるようになりました。
その後、スペインの探検家や宣教師によって運ばれ(コロンブス交換)、観賞用として急速に世界の熱帯地域で利用されるようになりました。
1787年にはインドで広く栽培されるようになり、寺院や宗教儀式に関連づけられるようになりました。土から取り除かれた後でも葉や花を咲かせることからインドでは不死の象徴として知られています。インドネシアのバリ島を訪れた際にも、同じような用途で、道端や住宅地に多く植えられています。また、1800年代初頭にパレルモ(シチリア島)に渡来して以来、パレルモの市花となっています。
フランジパニ(frangipani)という別称は16世紀のイタリアでこの花の香りのする香水を発明した名門貴族フランジパニ家の侯爵に由来します。
ハワイでは、プルメリアは墓地の花、景観用、鉢植えとしても使われますが、レイとして最もよく知られています。
レイとはそもそも12世紀頃にやってきたポリネシア人たちによってもたらされたと考えられており、古来より魔除や供物、社会的地位の象徴として用いられた頭・首・肩などにかける装飾品です。
レイはプルメリアが入ってくる前から使用されていましたが、その後19世紀頃に旅行者や移住者によって持ち込まれた植物の一つとしてプルメリアを取り入れたのです。
観光客にはお土産としてかけられますが、本来はお葬式の参列者や結婚式での新郎新婦にかけるもので、お別れを意味したといいます(小磯,2022)。
ハワイのプルメリアの花の香りと色彩の美しさに魅了された観光客は、切り花を持ち帰るようになりました。観光客の増加とともに、プルメリアへの関心も高まり、やがてコレクターはハワイ諸島で新しいプルメリアを探し求めるようになりました。アメリカやオーストラリアの温暖な地域ではプルメリア協会が結成され、コレクターの熱狂的な支持を得ています。2005年には1460万本のプルメリアの花が506,000ドルで販売され、毎年数万本の挿し木がハワイから輸出されています。
薬としては民間医療では葉、樹皮、花の煎じ薬は、皮膚病、性感染症、下痢の治療に用いられ、瀉下薬としても用いられてきました。
毒性はどのくらいある?
非常に重宝される植物である一方で、キョウチクトウ科で共通の乳液を含み、種々のアルカロイドまたは強心配糖体を含み、毒性も持っています。
プルメリアについても薬用成分も含めると、イリドイド、トリテルペノイド、フラボノイド、配糖体、フェノール、アルカロイド、炭水化物、アミノ酸、脂肪酸エステル、スフィンゴ脂質、リグニン、モノグリセリド、クマリンなど、様々な化学成分が分離・確認されています(Bihani, 2021)。
葉や枝を切ったときに出る白い樹液(乳液)は有害で、触れる発疹ができてかぶれることがあるとされます(小磯,2022)。具体的な症例は確認できませんでしたが、意図的に触れるとは避けましょう。
口から摂取はどうでしょうか?
インドソケイの経口摂取での毒性についてはマウスやラットでの実験が行われています(Bihani, 2021)。
アルビノラットとアルビノマウスの6群(各8匹)に、異なる濃度(500、750、1000、1250、1500、2000 [mg/kg BW] )で、生理食塩水に懸濁したインドソケイの葉のメタノール抽出物を経口投与しても、72時間の急性毒性試験では死亡や痙攣、発作、下痢、脱水の増加などの定型的症状は観察されなかったと言います。
このことから、致死量の中央値(LD50)は2000 [mg/kg BW] 以上であるとされています。この他の実験でも毒性症状は確認されていません。
したがって、経口摂取での影響は少ないと考えられますが、ヒトでの症例研究は行われていませんし、明らかにキョウチクトウ科の乳液があり、世界的に食用とする例はないので、やはり意図的には口に含んではいけません。
大きな花序と甘い香りが人気の秘密
花はこの植物で最も人気のある部位でしょう。花期は地域によって大きくことなりますが、全体的に長く、原産地のニカラグアでは年中、コスタリカでは3~7月、日本では6~10月です。沢山の花を含む花序を作り、一つ一つの花も大きく目立ちます。雄しべと雌しべは花の奥に隠されているので、外からは見えません(Haber, 1984)。花冠は5裂し、ピンクから白色で、花の中心は黄色くなっています。朝と夕方にバラ、柑橘類、シナモンなどに例えられる香りを放ち(Joulain, 2008)、この点も人間に好まれる理由です。
甘い香りと派手な花は昆虫に詐欺をするためだった!?
こんなに甘い香りを出して派手な花なのでさぞ、様々な昆虫が花に訪れていると思うかもしれません。
ところが、花に訪れる昆虫はスズメガという口の長い蛾に限られることが分かっています(Haber, 1984)。
まずススメガが活動である夕暮れに良い香りを漂わせることで誘き寄せ、スズメガが好むとされるピンクから白色で注意を惹きます。さらに黄色い部分は蜜標となって、蜜の在り処をスズメガに示し、スズメガが花の奥に体を突っ込むことで受粉が完了します。
驚くべきはこれだけではありません。
この花は蜜を作っていないのです。つまりこれだけスズメガが好むように形を作っているのにも関わらず、スズメガを騙して花粉だけを運んでもらっているのです。
ヒトが大好きなインドソケイの甘い香りや派手な花は昆虫にとっては詐欺であったと思うと、また印象が変わってくるのではないでしょうか?
スズメガがインドソケイに騙される理由
それにしても多くの工夫があるとはいえ、なぜそんなにスズメガは簡単に騙されてくれるのでしょうか?スズメガは昆虫とはいえ、きちんと学習能力があります。花の形や咲いている場所を覚えられたらすぐに来なくなってしまう気がします。
この謎は完全に分かってるわけではないのですが、スズメガは世代が変わることに美味しい花の種類を本能ではなく学習で覚えていると考えられています。この点は人間と同じです。そのため一度はこの花が美味しいかどうか確かめなければなりません。これはインドソケイにとっても重要な機会になります。花が咲いている期間が長いのもそのチャンスを増やすためだと考えられます。
それだけでなく花期が長ければ発生する時期が違う様々な種類のスズメガが訪れるチャンスも増えます。
更に、スズメガは蜜を探すだけではなく交尾相手を探したり、子供を産むための場所を探したりと何かと忙しいので、餌の蜜をいちいち場所で覚えるのは効率が悪いようです。それよりかは匂いで餌を探すほうが、例え騙されるとしても効率が良いのかもしれませんね。
ただ、騙すにしては一度につける花粉の量が少ない(チャンスが少ないはずなのに…)、花が集まりすぎている(形を覚えられやすい…)など、詰めが甘いところも多いのです。蛾を騙し始めたのは進化というスケールの中では割と最近なのかもしれませんね。あるいはまだ秘密が隠されている可能性も捨てきれません。
園芸植物として何気なく楽しんでいる植物ですがこのような進化の驚きを感じながら観察すると楽しいでしょう。
果実は翼果
果実は栽培ではめったに見られませんが、ごく稀に、17.5cm程度の円筒形の莢に包まれた20~60個の翼果をつけます。風に散布されるものと思われます。
引用文献
Bihani, T. 2021. Plumeria rubra L. –A review on its ethnopharmacological, morphological, phytochemical, pharmacological and toxicological studies. Journal of Ethnopharmacology 264: 113291. https://doi.org/10.1016/j.jep.2020.113291
Criley, R. A. 2009. Plumeria rubra: an old ornamental, a new crop. Acta Horticulturae 813: 183-190. https://doi.org/10.17660/ActaHortic.2009.813.23
Joulain, D. 2008. Flower scents from the Pacific. Chemistry & biodiversity 5(6): 896-909. ISSN: 1612-1872, https://doi.org/10.1002/cbdv.200890103
Haber, W. A. 1984. Pollination by deceit in a mass-flowering tropical tree Plumeria rubra L.(Apocynaceae). Biotropica 16(4): 269-275. ISSN: 0006-3606, https://doi.org/10.2307/2387935
小磯良江. 2022. 新しい香水の教科書. マイナビ出版, 東京. 223pp. ISBN: 9784839979256
Perez, B. K. 2019. Morphological and Molecular Approaches to Disentangling the Taxonomy of Plumeria Species (Apocynaceae) (Doctoral dissertation, University of Hawai’i at Manoa). https://www.proquest.com/openview/0354baf8a7e554801440a3bb3d22687f/1?pq-origsite=gscholar&cbl=18750&diss=y
Rojas-Sandoval, 2020. Invasive Species Compendium: Plumeria rubra (red frangipani). https://www.cabi.org/isc/datasheet/42060
Wu, Z. Y., & Raven, P. H. eds. 1995. Flora of China. Vol. 16 (Gentianaceae through Boraginaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 479pp. ISBN: 9780915279333