ラッキョウ・ヤマラッキョウ・イトラッキョウはいずれもヒガンバナ科ネギ属に含まれ、「ラッキョウ」という文字が和名の中に入っているという点で共通しています。ラッキョウはらっきょう漬けとして食用にされ、ヤマラッキョウとイトラッキョウは日本の野生種および園芸種として有名です。鱗茎を持ち、花が紅紫色であるという共通点に加えて、これらは野生化したり、逆に栽培されることがある関係で、混同されることがあります。しかし、花や葉の形をしっかりと観察することではっきりと区別することができます。キイイトラッキョウに関してもイトラッキョウとは現在では別種ですが古い分類のせいで混同されています。花の形は明らかに異なっています。本記事ではラッキョウ・ヤマラッキョウ・イトラッキョウの分類について解説していきます。
ラッキョウ・ヤマラッキョウ・イトラッキョウとは?
ラッキョウ(辣韮) Allium chinense は中国原産で、東アジアで栽培される多年草です。鱗茎を薬用・食用として利用し、日本にいつ渡来したかは不明ですが、確実にニラと区別された証拠があるのは898~901年(平安時代)に僧侶の昌住が編纂した『新撰字鏡』からです(藤井,1985)。日本では元々は薬用で食用としても調理方法は多様でしたが、現在の利用方法の殆どは甘酢漬けした「らっきょう漬け」かもしれません。畑地周辺や市街地に逸出しています。
ヤマラッキョウ(山辣韮) Allium thunbergii は日本の本州(秋田県以南)、四国、九州;朝鮮半島、中国、台湾に分布し、山地の草原、土手などに生える多年草です。白花の品種はシロバナヤマラッキョウ f. albiflorum。
イトラッキョウ(糸辣韮) Allium virgunculae var. virgunculae は日本の長崎県平戸島のみに分布する多年草です。変種関係にあるコシキイトラッキョウ var. koshikiense は鹿児島県甑島に、ヤクシマイトラッキョウ var. yakushimense は鹿児島県屋久島に分布しています。
いずれもヒガンバナ科ネギ属に含まれ、「ラッキョウ」という文字が和名の中に入っているという点で共通しています。
形態的にはネギ属なので、他のヒガンバナ科と違い、花被片は離生、または基部のみ短く合着しているという点が共通しています。
またネギ属の中でも、これら3種は狭卵形の鱗茎(球根の一種、養分を蓄えて厚くなった葉が茎のまわりに多数重なって球状になっているもの)を地中に作る点、葉が広線形である点、花が紅紫色である点などが大きな共通点となっています。
そのため混同し、区別の仕方がわからないという人は多いかもしれません。
ラッキョウ・ヤマラッキョウ・イトラッキョウの違いは?
これら3種は葉と花を観察することで区別することができます(Wu & Raven, 2000;神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、ラッキョウでは花の小花柄が長さ20~30mmと長いのに対して、ヤマラッキョウとイトラッキョウでは小花柄は長さ12~15mmと短いという違いがあります。
「小花柄」というと少し専門用語でわかりにくいかもしれませんが、ここでは花と植物体を繋ぐ細長い部分であると考えて問題ありません。
小花柄の長さの違いによって、外観としてはヤマラッキョウとイトラッキョウの方がより花序はまとまって密に花が咲いているように見えるでしょう。
ヤマラッキョウとイトラッキョウに関しては、ヤマラッキョウでは葉が平たく幅2~4mm、3つの角があるのに対して、イトラッキョウでは葉が円筒形で幅1~2mmと非常に細いという違いがあります。これは名前の通りです。
また、ヤマラッキョウはイトラッキョウより花の数が多いのでイトラッキョウより更に密に咲いているように見えます。
以上で区別できますが、ラッキョウとヤマラッキョウの花が確認できない時があるかもしれません。
その場合でも、ラッキョウの葉では幅1~3mm、3~5つの角があるという違いがあることから判断できると思います。
ラッキョウの他の種類にはない特徴として、葉が夏に枯れ、秋から冬に青く、鱗茎の外皮は薄い膜質であるという点もありますが参考程度で良いと思います。なお、ヤマラッキョウやイトラッキョウは(おそらく食べられるものの)普通食用にしません。おそらく形の類似から名付けられたのだと思います。
ネギやニンニクと同じ仲間の🌸「イトラッキョウ」🌸ですが、こちらは長崎県の
— 咲くやこの花館 (@SakuyaismU) November 17, 2017
平戸島に自生する固有種です。ほそ~いほそ~い花茎と、淡い紫色の花がとても
かわいらしいです😊 #咲くやこの花館 #イトラッキョウ pic.twitter.com/u2sVZv9fBO
イトラッキョウとキイイトラッキョウの違いは?
「イトラッキョウ」とインターネット検索すると『Google検索』は「キイイトラッキョウ(紀伊糸辣韮) Allium kiiense」という別種をサジェストする上に、「キイイトラッキョウがイトラッキョウの一種である」とする古い分類に基づいた記事が多数ヒットします。そのこともあってかキイイトラッキョウをイトラッキョウと紹介している写真も多数ヒットします。しかし、これらは誤りで2009年にはすでに別種として扱われています(Takahashi & Hotta, 2009)。
具体的な違いとしては、イトラッキョウでは花が上向きに開き、内花被片は平らであるのに対して、キイイトラッキョウでは花が垂直または斜め下向きに開き、内花被片は舟形となっているという点が挙げられます。
分布地も、イトラッキョウは長崎県平戸島のみですが、キイイトラッキョウは紀伊半島に分布しています。
変種関係にあるイトラッキョウ・コシキイトラッキョウ・ヤクシマイトラッキョウの形態的な違いについてはマイナーなのでここでは省略します。詳しく知りたい人は論文を参照してください。
他に似た種類はいる?
ネギ属には膨大で食用として身近な種類が多数含まれています。それらの種類については別記事を御覧ください。
引用文献
藤井嘉儀. 1985. ラッキョウの伝来と普及. 鳥取大学農学部研究報告 37: 159-168. https://repository.lib.tottori-u.ac.jp/records/4006
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Takahashi, H., & Hotta, M. 2009. A taxonomic revision of the Allium virgunculae complex (Alliaceae). Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 60(2): 79-86. https://doi.org/10.18942/apg.KJ00005878344
Wu, Z. Y., & Raven, P. H. eds. 2000. Flora of China. Vol. 24 (Flagellariaceae through Marantaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. 431pp. ISBN: 9780915279838