クリスマスローズとレンテンローズはいずれもキンポウゲ科クリスマスローズ属に含まれ、日本では冬の間に花が咲くことから園芸で観賞用に頻繁に栽培されているのを見かけます。品種改良も盛んで大輪の品種や八重咲きの品種もあります。しかし、品種の多様さからか、2種をクリスマスローズ属の学名の「ヘレボルス」と総称することも多く、2種をきちんと区別していない人は多そうです。本来はクリスマスローズとレンテンローズは全く別の種類で、花期や花の色に違いもありますが、それらを見るよりも苞葉を確認するほうが確実に区別できるでしょう。本記事ではクリスマスローズ属の分類について解説していきます。
クリスマスローズ・レンテンローズとは?
クリスマスローズ Helleborus niger は別名ヘレボルス・ニゲル、フユボタン(冬牡丹)、カンシャクヤク(寒芍薬)、雪起こし。ヨーロッパ(オーストリア・ドイツ・イタリア・スイス・ユーゴスラビア)のアルプス山脈原産で、常緑多年草です。日本を含む世界中で観賞用に栽培されます。
ハルザキクリスマスローズ(春咲きクリスマスローズ) Helleborus orientalis は別名ヘレボラス・オリエンタリス、レンテンローズ、ヒメフユボタン(姫冬牡丹)。トルコ・コーカサス・ギリシャ原産で、常緑多年草です。日本を含む世界中で観賞用に栽培されます。標準和名は花期に由来しており、別名のレンテンローズの方は欧米ではキリスト教の四旬節(レント)の頃咲くことに由来しています。
いずれもキンポウゲ科クリスマスローズ属に含まれ、形態的には多くのキンポウゲ科の植物と同様に、花の「花弁」に見える部分が「萼」から構成されており、真の花弁は蜜腺に変化しています。クリスマスローズ属は共通で多年草で、葉は3枚の小葉からなる「三出複葉」です。
また、クリスマスローズ属の中でもクリスマスローズとレンテンローズは根出葉があり、葉と花が異なる茎にあります。
日本では冬の間に花が咲くことから園芸で観賞用に頻繁に栽培されているのを見かけます。品種改良も盛んで大輪の品種もあり、花の色も多様で、八重咲きの品種もあります。
このような品種の多様さからか、2種をクリスマスローズ属の学名の「ヘレボルス」と総称することも多く、2種をきちんと区別していない人は多そうです。
日本の園芸で「クリスマスローズ」として販売されているものはかなりの割合で「レンテンローズ」が紛れていると思われます。
クリスマスローズとレンテンローズの違いは?
本来はクリスマスローズとレンテンローズは全く別の種類です。
その違いとして一番挙げられているのは、花が咲く時期(花期)の違いでしょう。
日本に限ると、クリスマスローズでは花期が1~3月であるのに対して、レンテンローズでは花期が3~4月上旬という違いがあります。
このことからも分かるように「クリスマスローズ」という名前ですが、クリスマスの12月には咲いていません。これは温かい冬が来る地域ではもう少し早く咲くためで、日本ではズレが生じています。
ただ、花期は実際のところ、園芸品種では違いがあるため、あまり当てにならないことも多いと思われます。実際にレンテンローズが2月に咲いているのを私は見たことがあります。
ではどこを見れば正確に2種を区別できるのでしょうか?
実はクリスマスローズとレンテンローズは花の後ろにある「苞」または「苞葉」と呼ばれるもので明確に区別できます(Spencer, 1997)。「苞」は花を包むために特殊化した葉のことを指します。
クリスマスローズでは苞葉が全縁(ギザギザである鋸歯なし)で、分裂していない(1枚に見える)のに対して、レンテンローズでは苞葉に鋸歯があり、分裂しています(複数枚の葉が繋がっているように見える)。
つまり、レンテンローズの方が花の後ろが尖った葉に囲まれているという印象を受けるでしょう。苞葉全体もレンテンローズの方が大きく目立っています。この点を確認すれば間違えることはありません。
他にも、2種の違いとして、花の色を挙げる人が居ます。
確かに原種の萼の色は、クリスマスローズは白色で、レンテンローズは桃色(ピンク色)です。しかし、白色のレンテンローズも存在するため、参考程度で考えるのが良いでしょう。
なお、クリスマスローズとレンテンローズの交雑は稀で難しいとされているものの、クリスマスローズがレンテンローズ以外のクリスマスローズ属の仲間によって交雑させられた雑種も知られています。そのため、苞葉が全縁である点だけでは雑種との区別は難しいことがあるかもしれません。
他にクリスマスローズ属の仲間はいる?
他にもいくつかクリスマスローズ属には仲間が知られており、簡単に区別方法とともに紹介しておきます(Spencer, 1997;横山,2023)。更に詳しく知りたい人は横山(2023)をご覧になることをおすすめします。
コダチクリスマスローズ Helleborus foetidus は別名ヘレボルス・フェチダス。クリスマスローズとレンテンローズと異なり、根出葉はなく、葉と花が同じ茎にあります。花の萼は明らかに小型であまり目立ちません。花や葉にかなり不快な臭いがあります。
アサギフユボタン(浅黄冬牡丹) Helleborus viridis は別名グリーンクリスマスローズ、ヘレボラス・ビリディス。クリスマスローズやレンテンローズと異なり、根出葉はなく、葉と花が同じ茎にあります。葉の鋸歯が目立ち、花の萼は緑色です。
なお、フユボタン(冬牡丹)という和名ですが、ボタン科のボタン Paeonia suffruticosa の冬咲き品種もフユボタンと呼ばれるので混同しないように注意が必要です。
引用文献
Spencer, R. 1997. Ranunculaceae. In: Spencer, R. Horticultural Flora of South-eastern Australia. Volume 2. Flowering plants. Dicotyledons. Part 1. The identification of garden and cultivated plants. University of New South Wales Press, Sydney. ISBN: 9780868403038, https://hortflora.rbg.vic.gov.au/taxon/ad8cd5b4-5340-11e7-b82b-005056b0018f/key
横山直樹. 2023. クリスマスローズ この一冊を読めば原種、交雑種、栽培などすべてがわかる. 誠文堂新光社, 東京. 143pp. ISBN: 9784416623107