シキミと八角(スターアニス・トウシキミ)の違いは?似た種類の見分け方を解説!シキミは墓を守りハッカクは命を守る!?

植物
Illicium anisatum

シキミとハッカク(八角・スターアニス・トウシキミ)はいずれもマツブサ科シキミ属に含まれ、常緑で光沢のある葉を持ち、最大の特徴は果実が袋果で、放射状に8個並んだ集合果である点が共通しています。どちらの国内外で非常に重要な植物として扱われていますが、果実は酷似しており、欧米ではシキミをハッカクであると誤解しています。しかし、シキミは毒性がある一方、ハッカクはスパイスや薬になることを考えるとこの間違いは看過されるべきではないでしょう。シキミは日本と朝鮮半島の一部のみに、ハッカクは中国南部とベトナム北部に分布するので、日本で野生個体を見る分にはほぼシキミと考えてよいです。形態的には花の色や形が異なる点が最大の違いで、果実も匂いや形がわずかに異なります。果実の含有成分が異なるため、シキミは墓の獣避けとして、ハッカクはスパイスやタミフルなどの薬として利用されています。更にシキミ属は生態的にも非常に興味深い特徴を持っています。本記事ではシキミ属の分類・形態・生態・利用方法について解説していきます。

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シキミ・ハッカク(トウシキミ)とは?

シキミ(樒) Illicium anisatum は別名ハナノキ。日本の本州(東北地方南部以南)・四国・九州・琉球;朝鮮半島に分布し、山地や丘陵地の雑木林内に生え、仏事や神事に用いられ、しばしば寺院や墓地に植栽されている常緑小高木です(神奈川県植物誌調査会,2018)。日本の『神奈川県植物誌2018』やイギリスの『Plants of the World Online』では中国と台湾に分布するとしていますが(神奈川県植物誌調査会,2018; RBG Kew, 2025)、『Flora of China』には本種は掲載されていません(Wu et al., 2008)。

トウシキミ(唐樒) Illicium verum は別名ハッカクウイキョウ(八角茴香)、ハッカク(八角)、スターアニス(ハッカクとスターアニスは果実のみを指す場合が多い)。中国南部とベトナム北部に分布し、森林に生え、中国南部・インド南部・インドシナ半島で薬用に植栽されている常緑小高木です(Wu et al., 2008)。

いずれもマツブサ科シキミ属に含まれ、常緑で光沢のある葉を持ち、花被片は幅狭く線状長楕円形となっています。

最大の特徴は果実が袋果で、放射状に8個並んだ集合果である点です。トウシキミは通常ハッカクとして流通・販売されていますが、この名前はこの特徴に由来してします。

どちらの国内外で非常に重要な植物として扱われていますが、この2種は極めて類似しており、混同されています。

例えば、ハッカクの学名である「Illicium verum flower」でGoogleで画像検索するとほとんどすべて間違ってシキミを表示する有り様です。欧米ではシキミのことをハッカクであると誤解しているようです。

この勘違いは深刻でNHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公となった植物学者の牧野富太郎も1948年の著書で指摘しており、なんと記載当時学者の間でも欧米では混同され続けていたようです(牧野,1948=2002)。

しかし、シキミは毒性がある一方、ハッカクはスパイスや薬になることを考えるとこの間違いは看過されるべきではないでしょう。

実際にハッカクの果実や粉末にシキミが混入する事件が多発しています(Ginko et al., 2008; Cuenca et al., 2019)。

シキミ・ハッカク(トウシキミ)の違いは?

大前提としてシキミは日本のみ分布し、ハッカクはユーラシア大陸のみに分布するので、日本で野外で観察するものは全てシキミです。

ただ、形態だけに着目するとシキミ・ハッカク(トウシキミ)の区別はとても難しい場合があるのも事実です。

一番顕著な違いは花にあります(茂木ら,2000;Wu et al., 2008)。

シキミでは花が直径2〜3cmで、花被片が10〜20枚あり、黄白色であるのに対して、ハッカクでは花が直径0.8~1.2cmで、花被片が7~12枚あり、ピンク色から暗赤色であるという違いがあります。

形態的にはこの違いが一番重要で後はかなり微妙な違いとなっています。

果実に関しては、中国の研究者による文献ではシキミでは匂いと味が弱く、集合果が8個以上になる場合があるのに対して、ハッカクでは特別な匂いと味がして、集合果が8個であるとしています(Wang et al., 2018)。

また、東京都健康安全研究センターによると、シキミではそれぞれの袋果の先端が針のように鋭く尖り、仏事で使われる抹香の香り(ツンとする香り)がするのに対して、ハッカクではそれぞれの袋果の先端が鋭く尖らず、徐々に細くなり、甘い香りがするとしています(東京都健康安全研究センター,2025)。

ただ、匂いは主観的ですし、先端が鋭く尖る点もやや確認しづらく、ほとんど区別がつかないという指摘もあります(Cuenca et al., 2019)。区別には練度が必要かもしれません。

葉ではほぼ区別がつかないと思われますが、電子顕微鏡で確認すると葉下面がシキミでは滑らかなのに対して、ハッカクでは多くの小さい溝があるという違いがあり(Oh et al., 2003)、もしかすると触ってみると違いがあるかもしれませんが、そこまでは筆者は検証できていません。

ハッカクは粉末状にして利用されることが多く、その際シキミが混入することがあり、これを防止するための化学的な区別法も検討されていますが、ここでは省略します。詳しくは Ginko et al. (2008) を御覧ください。

シキミの葉上面
シキミの葉下面
シキミの葉序
シキミの樹皮
シキミの花|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64826875
シキミの未熟果
シキミの花序|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64827047
シキミの果実|By Alpsdake – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=65078781
トウシキミ(ハッカク)の葉|『山科植物資料館』より引用
トウシキミ(ハッカク)の花|『山科植物資料館』より引用
トウシキミ(ハッカク)の果実|By Sanjay Acharya – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64020989
シキミとトウシキミ(ハッカク)の果実の比較:上がシキミで下がトウシキミ(ハッカク)。シキミの方が尖っているが区別は難しい部類。|Cuenca et al. (2019): Figure 1 より引用

シキミとハッカク(トウシキミ)の利用方法の違いは?一方は墓を守り、一方は命を守る!?

シキミとハッカクの果実には共通でシキミ酸やアネトールという成分が含まれますが、シキミではアニサチンという有毒成分のみが含まれており神経毒となる一方、ハッカクではアニサチンを含まず、代わりにエストラゴールと言った香料になる成分やベラニサチンA、B、Cが含まれています(Cuenca et al., 2019)。

このため、シキミはヒトやウシは一切食用不可で(小林ら,2003)、中毒例があり、ニホンジカも食用にしないと考えられています(神奈川県植物誌調査会,2018)。シキミの語源は「悪しき実」であるともされています。

しかし、このことで逆に強い香りで死臭を消したり、害獣を忌避することができ、日本では仏事に広く使われ(平野,1997)、仏前や墓前に供えられ、精油を含んだ葉や樹皮は、抹香や線香の原料として利用されてきました。

一方、ハッカクは果実に芳香があり抗菌物質を含むことから中国で古くからスパイスとして利用され、食用としては宋代(西暦960年~1279年)にまで遡り、薬としては明代(西暦1368年~1644年)にまで遡ることができます(Zou et al, 2023)。

中国では東坡肉、北京ダック、杏仁豆腐などに使用され、日本では豚の角煮に使用されるのが一般的です。豚の角煮は東坡肉に起源があると言います。

更にハッカクの現代で人類に最大の恩恵をもたらしていることとしては、インフルエンザウイルスに効く抗ウイルス薬オセルタミビルの主成分、オセルタミビルリン酸塩を合成するために必要なシキミ酸の原料となっていることが挙げられます。商品名の「タミフル」を言えば分かる人は多いでしょう。

ヒトのインフルエンザのみならず、鳥インフルエンザの治療も行えることから画期的な薬として注目されてきました。

オセルタミビルリン酸塩の合成経路は後に研究が進み全合成する方法も開発されましたが、現在(2023年)でも入手の容易さ、豊富な生産量、経済的メリットからハッカクが主に利用されています。

2005年頃にオセルタミビルの副作用が疑われる事例として、日本で「タミフル」を服用していた2人の患者が、異常行動の結果、事故死(転落死など)したことが報道されたこともあり、マイナスな印象を印象を持つ人もいるかもしれませんが、一般的にはインフルエンザのそのものの症状である、またはリスクはわずかに増加する程度と解釈されて使用制限はあるものの、現在でも使用されています。現在では抗ウイルス薬として唯一というわけではなく、同様の抗ウイルス薬はいくつか開発され続けています。

送粉方法は?タマバエというハエだけがやってきていた!?

シキミ属を含むマツブサ科の大部分はハエの仲間であるタマバエ科によって受粉・送粉されていると考えられています(Luo et al., 2018)。しかし普通の送粉方法とは異なります。

一般的にシキミ属の花は夜に花が開き、新鮮なときに強い臭いを発し、2~3日後、ときには6日後に萎れます。シキミ属は両性花で、最初の夜は機能的に雌花、次の夜に雄花となります。

花被片は開花の初夜には完全に展開せず、タマバエは花に産卵し、生まれた幼虫は虫瘤むしこぶ虫癭ちゅうえい)を形成し、花の分泌物(セスキテルペンなど)を食料としていることが分かっています。

ただし一部のシキミ属の仲間はコウチュウ目が花粉に覆われ、柱頭に接触することで送粉されていた例が知られています。

更にやってくるタマバエ科は1対1対応しており、これは「絶対送粉共生」と呼ばれています。ハッカクでは Resseliella spec. 16 という種類がやってきます。

日本のシキミではこのような観点から研究がなされておらず、注目もされていないので残念ながらよく分かっていません。

なお、葉に虫瘤をつくるシキミタマバエ Illiciomyia yukawai は知られています。

シキミタマバエの虫瘤(シキミハコブフシ)

種子散布方法は?爆発したり有毒なのに食べられたりする!?

非常に特徴的なシキミ属の放射状に8個並んだ集合果は自然界ではどのような役割があるのでしょうか?

実はバロコリー(ballochory、爆発的な果実の裂開による種子散布)という特殊な種子散布方法を取ることが分かっています(Yoshikawa et al., 2018)。

具体的には果実が熟すと、種子は裂け目から露出し、果実の乾燥すると爆発的に裂開して放出されます。この爆発は樹上の果実と落下または収穫された果実の両方で見られます。

これによって単に重力散布をするよりかは生息地を広げることができます。

しかし、研究によるとこの方法での種子散布を行っても、ほとんどが親株の中心から3m以内のトラップで捕獲され、6m離れたトラップで捕獲された種子はごくわずかという結果が出ています。バロコリーによる種子散布はそれほど遠くまで移動させることはできないようです。

ただ、少なくともシキミではこれに加えて更に動物被食散布で種子散布を行っていることが分かってきました。

毒性のあるシキミでこのようなことが起こっていることはとても意外で、大部分の哺乳類は勿論、ヒヨドリなどの鳥でもシキミ種子に見向きもしていませんが、哺乳類のヒメネズミと鳥類のヤマガラという2種はシキミの果実を好んで食べることが確認されています。

これら2種では何らかの理由でアニサチンの毒性を無効にしているのだと思われますが詳しいことはまだ分かっていません。

哺乳類では毒性があり、鳥類では無毒であるという例はアミグダリンやカプサイシンでよく知られており、植物は果実を食べる動物を選択することで種子まで食べてしまったり、好適な環境に運んでくれない動物を除外することがありますが、今回は少し特殊なケースと言えそうです。

シキミ酸・アネトール・エストラゴール・ベラニサチンA、B、Cも果実を食べる動物に何らかの影響を与えていそうですがよく分かっていません。

引用文献

Cuenca, M. C., Agrasot, M. Á. C., Pegueroles, C. M., & Cantó, V. E. 2019. New cases of star anise poisoning: Are we providing enough information?. Neurologia 34(3): 211-213. http://doi.org/10.1016/j.nrleng.2019.02.003

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