ショウガ科 Zingiberaceae は多年草。肥厚する地下茎があり、茎は葉鞘に包まれます。葉身は線形~長楕円形で、葉鞘との間に葉舌があります。花序は総状または穂状で苞があります。花は両性で、左右相称。外花被は筒状、内花被は3裂し、基部は筒状であります。雄しべは1個だけ完全でほかは退化し、唇弁およびその付属片となります。雌しべは子房下位。果実は蒴果または液果。熱帯~亜熱帯に約50属1,200種、日本にショウガ属、ハナミョウガ属の2属を産します。栽培種のショウガやハナシュクシャ、ウコンが稀に逸出して採集されています。
本記事ではショウガ科の植物を図鑑風に一挙紹介します。
基本情報は神奈川県植物誌調査会(2018)に基づいています。写真は良いものが撮れ次第入れ替えています。また、同定は筆者が行ったものですが、誤同定があった場合予告なく変更しておりますのでご了承下さい。
No.0645 ハナミョウガ Alpinia japonica
多年草。偽茎の高さ40~60cm。葉は常緑で広披針形、長さ15~40cm、幅5~8cm。5~6月に開花。花序は穂状で、苞は早く落ちます。花は白色、唇弁は白地に赤い条線があり、長さ10mm。果実は赤熟し、径12~18mmの広楕円形。本州(関東地方以西)、四国、九州;中国(中~南部)、台湾に分布し、常緑広葉樹の林床に生育します。
No.0650 ミョウガ Zingiber mioga
多年草。和名は大陸からショウガとともに持ち込まれた際、香りの強い方を「兄香(せのか)」、弱いほうを「妹香(めのか)」と呼び、これが後にショウガ・ミョウガに転訛した説など諸説あります。地下茎は横にはい鱗片葉があります。偽茎は一年生で斜に直立し、高さ40〜100cm、葉身は披針形〜狭長楕円形、長さ20〜30cm、幅3〜6cm、鋭尖頭、基部は短い柄があり、葉鞘は長く互いに重なって偽茎となります。葉舌は、下部の葉では長さ1cm、下部合生し、裂片は卵状披針形、上部の葉では、合生部はほとんどなく、裂片は卵形または広卵形。花期は8〜10月。地下茎の先に鱗片葉に被われた長さ5〜7cm、長楕円形の花序を出して淡黄色の花をつけます。苞は狭卵形、鋭尖頭、内部のものは披針形でやわらかい。花は苞の間から次々と出て開き一日でしぼみます。萼は筒状で1方が切れ込み、長さ約2.5cm、花冠は長く伸びて3裂し、裂片は披針形、上側の1個は大きい。唇弁は3裂し側裂片は小さく、中央裂片は大きく舌状。雄しべは1個、約隔の先は長く伸び内に巻いて花柱を包んでいます。本州〜九州の木陰に生え、また栽培されます。生えているのは多くは人の住んだ付近であって、恐らく中国から伝来したものが野生化したとされます(原色日本植物図鑑)。中国で栽培品種化されたミョウガが日本に伝来した時期は不明で、魏志倭人伝に記述があることから3世紀には日本に存在していたことが示唆され、奈良時代には正倉院文書から確実に存在します(吉田,2020)。地面から出た花穂(花茗荷)と弱光下で軟化発育させ薄紅色に着色させた若芽(茗荷竹)が薬味や香味野菜として利用されてます。ミョウガを栽培化した中国では、これを蔬菜として利用していた時期もありましたが、今日では漢方としての利用が主体で、食する地域は限定されています。また、朝鮮半島においても、済州島でわずかに栽培される程度であり、存在自体がほとんど知られておらず、ミョウガを食材として積極的に利用しているのは日本だけです。麺類や冷奴の薬味としてや、天ぷらや酢の物、味噌汁、漬物などの具材として用いられます。みょうがぼち・みょうが饅頭という地方の料理もあります。
No.0651.a ハナショウガ Zingiber zerumbet
多年草。高さ60~120cm。地下茎をもちます。葉は単葉で2列互生状に出て、長さ15~35cm、幅5~8cmの長楕円形~披針形で、裏面に毛がはえます。葉の基部は鞘状に茎を抱いて巻き重なり、これが偽茎となります。花茎は偽茎とは別に伸び、先端に長さ3~10cmで長楕円形の花序をつけます。花序にははじめ緑色で、のちに赤色になる苞が密につき、その間から次々に花が咲きます。花は1本の仮雄ずいが花弁状に発達してめだちます。花冠は白色または淡黄色で、唇弁状に広がる仮雄ずいは白色です。果実は長楕円形の蒴果です。東南アジアとおそらくインドが原産で、インド、スリランカ、中国、東南アジア全域で家庭菜園として栽培され帰化し、北米、オーストラリアでも帰化しています(Datiles & Acevedo-Rodríguez, 2014)。根茎部の形状は通常の食用ショウガとほとんど見分けがつきませんが、ニガショウガというだけあって非常に苦く、ハナショウガのもつ精油構成成分は、食用ショウガのそれとは全く異なります(原島ら,2012)。しかし、アジアの郷土料理に時折使用されています。先住民の間では一般的にはシャンプーやコンディショナーとして用いられます。ハナショウガの精油主成分はゼルンボンといい、精油中の80~90%を占めます。ゼルンボンはがんに関係するEBウイルスの抑制作用、抗炎症作用、生体防御・解毒酵素の誘導作用が発見されています。
No.0653 ウコン Curcuma longa
多年草。別名ターメリック。高さ約1m。根茎は多数、分枝し、オレンジ色~明るい黄色、円柱形、芳香があり、先に塊茎があります。葉柄は長さ20~45cm。葉身は緑色、長楕円形~楕円形、長さ30~45(~90)cm、幅15~18cm、無毛、基部は漸尖、先は短い鋭形。花期は7~10月。花序は偽茎に頂生。花序柄は長さ12~20cm、穂状花序は円柱形、長さ12~18cm、幅4~9cm、稔性の苞は淡緑色、卵形~長楕円形、長さ3~5cm、先は鈍形。頂部の苞(coma brac)は広がり、白色と緑色、ときに赤紫色を帯び、先は鋭形、萼は白色、長さ0.8~1.2cm、微軟毛があり、先は不等形の3歯があります。花冠は淡黄色、筒部は長さ3cm以下、裂片は三角形、長さ1~1.5cm、中裂片が大きく、先は微突形。両側の仮雄しべは唇弁より短い。唇弁は黄色、中央に黄色の帯があり、倒卵形、長さ1.2~2cm。葯は基部に距があります。子房はまばらに毛があります(Flora of China)。インドが原産とされ、紀元前2600年~紀元前2200年にはファルマナで発見されています。以降何世紀にもわたってアジアで使用されており、アーユルヴェーダ(インド・スリランカ発祥の伝統医療)、シッダ医学、伝統的な中国医学、ウナニ、およびオーストロネシアの人々のアニミズムの儀式の重要な植物として扱われてきました。肥大化した濃黄色の根茎は最初は染料として使用され、その後、民間療法で使用されました。インドからヒンドゥー教や仏教とともに東南アジアに広まり、僧侶や僧侶の衣の色として黄色の染料が使われました。黄色の主成分はクルクミンです。紀元前2千年紀にさかのぼるイスラエルのメギドの商人の墓でも発見されており、紀元前7世紀のニネベにあるアッシュールバニパルの図書館に残されたアッシリア人の楔形文字の医学書には染料植物として記載されており、古くから広域で利用されていたことが窺えます。一方、ウコンはヨーロッパ人が接触する前に、タヒチ、ハワイ、イースター島でも発見されており、オーストロネシアの人々がウコンをオセアニアとマダガスカルに広めて使用したことを示す言語的および状況的証拠があります。特にポリネシアとミクロネシアの人々はインドと接触することはありませんでしたが、ウコンを食物と染料の両方に広く使用しています。そのため、インドとは独立した栽培化イベントが発生していた可能性があります。中世ヨーロッパでは、ウコンは「インドのサフラン」と呼ばれていました。実際、現在ではバンコウカ(サフラン)の代用として食品に色彩をつけるために様々な料理に用いられ、カレー、ターメリックライス、パエリアはその代表です。また日本では沢庵の色彩を調整するために用いられます。ウコンの味そのものはマスタードのような素朴な香りと刺激的でわずかに苦い風味を食品に与えているようです。肝機能を改善するとしてドリンクが市販されますが、消化障害の改善はあるとされるものの、二日酔い改善の医学的エビデンスはまだなく、むしろ肝障害を起こす報告が目立っており(日本医師会,2008)、このような目的での利用は今のところあまり信用できません。
引用文献
Datiles, M. J., & Acevedo-Rodríguez, P. 2014. CABI Compendium: Zingiber zerumbet (shampoo ginger). https://doi.org/10.1079/cabicompendium.57539
原島広至・ 北山隆・伊藤美千穂. 2012. 生薬単 語源から覚える植物学・生薬学名単語集 改訂第2版. エヌティーエス, 366pp. ISBN: 9784860433987
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
日本医師会. 2008. いわゆる健康食品・サプリメントによる健康被害症例集. 同文書院, 東京. 183pp. ISBN: 9784810331561
吉田宗弘. 2020. ミョウガ. 食生活研究 41(1): 1-10. ISSN: 0288-0806, https://ku-food-lab.com/wp/wp-content/uploads/2020/11/7600dc2e047b2aaee2a717a838c03d25.pdf