本記事では以下の雑誌にて公表した「奈良県におけるアジアカマバチの初記録」の報文の下書きを掲載します。
引用方法:池田健一・澤畠拓夫・三田敏治. 2020. 奈良県におけるアジアカマバチの初記録. Nature Study 66(8): 4. [Ikeda, K., Sawahata, T., & Mita, T. 2020. First record of Gonatopus asiaticus in Nara. Nature Study 66(8): 4.] ISSN: 0466-6089
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アジアカマバチの本州2例目、奈良県初記録を想定して執筆したものです。
微細な表現などに変更が加わっている可能性はありますが、引用文献などは同様です。より正確なものをお求めな場合は雑誌よりご参照ください。
カマバチ科の奈良県の記録状況
カマバチ科は一部の分類群を除きメスの前脚末端がカマと呼ばれる特殊な構造となるハチ目の1グループで、半翅目頸吻群(ウンカ・ヨコバイ類)の外部寄生者として知られる(三田,2016)。
奈良県内では奈良県野生生物目録(奈良県レッドデータブック改訂委員会,2017)によるとカマバチ亜科 Gonatopodinae チョビヒゲカマバチ属 Haplogonatopus のトビイロカマバチ H. apicalis Perkins, 1905 の1種が記録されているに留まる。
筆者の記録
筆者らは2015年8月22日、奈良県近畿大学奈良キャンパス内の北西部に位置するコナラ・クヌギ等を主とした落葉広葉樹林内の散策道脇で、マダニ調査(スウィーピングと旗ずり法)をしていた所、カマバチ亜科カマバチ属 Gonatopus のアジアカマバチ G. asiaticus (Olmi, 1984) を1個体採集したのでここに報告する。
1♀, 奈良県奈良市中町近畿大学奈良キャンパス, 22. VIII. 2015, 合田愛採集, 九州大学農学部昆虫学教室保管.
本種は同属他種からは、鬚式が5/2、中胸盾板は1対の縦隆起縁が見られるほかは平滑、後胸背板域の傾斜はゆるやかといった形態的特徴を持つことで識別できる(三田,2016)。体色には個体変異があるが、本個体は腹部が黒褐色で腹柄側では黄褐色になり、腹柄は黒色、その他が黄褐色となっていた。秋に林道沿いのススキで見られることが多く、ハコネホソウンカ Sogata hakonensis (Matsumura, 1935) に寄生することが知られている(三田,2016)。本調査では林床植生がある環境ではスウィーピング法を行い、無い環境では旗ずり法を行う混合的な手法をとったため、どちらの手法で得られたか不明であるが、歩いて移動していた個体が旗ずり法によって得られた可能性もある。
本種は日本では神奈川県、福岡県、宮崎県、沖縄県から確認されており(Mita, 2009)、本州における報告としては本報告で2例目となる。
末筆ながら、採集と標本提供を行っていただいた合田愛氏にこの場を借りて厚くお礼申し上げる。
引用文献
Mita, Toshiharu (2009) First description of the males of Gonatopus lucens (Olmi) and G. asiaticus (Olmi), with host records from Japan (Hymenoptera: Dryinidae: Gonatopodinae). Esakia 49: 117-120. https://doi.org/10.5109/16154
三田敏治 (2016) カマバチ科.寺山守・須田博久(編)日本産有剣ハチ類図鑑.pp. 415-449.東海大学出版部,平塚.
奈良県レッドデータブック改訂委員会 (2017) 奈良県野生生物目録.くらし創造部景観・環境局景観・自然環境課,奈良.422p.