ウコギ・コシアブラ・ハリギリ・タカノツメはいずれもウコギ科の落葉樹であるという点が共通しており、花序・花・果実はよく似ており、若葉が食用とされる点も同じです。そのため混同することがあるかもしれません。しかし、葉が複葉か単葉かや、枝の刺を確認すれば区別できます。いずれも散形花序をつけ、花は緑~黄色という共通点があります。果実は液果で球形~広楕円形で熟すと黒紫色になります。本記事ではウコギ・コシアブラ・ハリギリ・タカノツメの分類・形態・利用方法について解説していきます。
ウコギ・コシアブラ・ハリギリ・タカノツメとは?
ウコギ(五加木)は特定の種類の和名ではなくウコギ属の総称ですが、一般的にはヒメウコギ(姫五加木)を指します。ヒメウコギ Eleutherococcus sieboldianus は中国原産の落葉低木です。日本では古い時代に中国から薬用として渡来し、救荒植物として民家の垣根や庭などに植えられていましたが、近年は庭木としてあまり植えられておらず、やぶ、荒れ地、山麓などに野生化したものが見られます。
コシアブラ(漉油・金漆) Chengiopanax sciadophylloides は日本の北海道、本州、四国、九州に分布し、山地の林内に生える落葉高木です(茂木ら,2000)。
タカノツメ(鷹の爪) Evodiopanax innovans は日本の北海道、本州、四国、九州に分布し、山地の尾根や林内、林縁に生える落葉小高木または高木です。
ハリギリ(針桐) Kalopanax septemlobus var. septemlobus は日本の千島(南部)、北海道、本州、四国、九州;サハリン、朝鮮、中国に分布し、照葉樹林からブナ帯までに生える落葉高木です。
いずれもウコギ科の落葉樹であるという点が共通しており、散形花序で花も黄色~緑色でよく似ています。細かいですが、花弁が蕾のとき敷石状という共通点もあります。果実は全て液果です。そのため、混同されることがあるかもしれません。
ウコギ・コシアブラ・ハリギリ・タカノツメの違いは?
しかし、いずれもウコギ科ではあるものの全て属が異なり、植物としてはかなり異なった特徴を持っています(神奈川県植物誌調査会,2018)。
まず、ヒメウコギ・コシアブラ・タカノツメでは葉が掌状複葉であるのに対して、ハリギリでは葉が単葉であるという違いがあります。
掌状複葉というのは、葉柄の先端に数枚の小葉が放射状につき掌状となったものを指し、単葉とは複葉のように小葉に別れない一般的な葉のことを指します。これは一目瞭然です。
掌状複葉であるヒメウコギ・コシアブラ・タカノツメ3種に関しては、ヒメウコギとコシアブラでは五出複葉であるのに対して、タカノツメでは三出複葉です。
複葉が5枚に分かれているか、3枚に分かれているかという違いです。これも一目瞭然でしょう。
ヒメウコギとコシアブラの違いとしては、ヒメウコギでは低木で、幹や枝に刺針があるのに対して、コシアブラでは小高木で、幹や枝に刺針がないという点が挙げられます。
以上でここで挙げた4種は区別できます。ただし、コシアブラ・タカノツメ・ハリギリは日本では1属1種なので迷うことはありませんが、ヒメウコギが含まれるウコギ属は8種も存在します。そのため、ウコギ属を調べる場合は更に細かく見る必要がありますが、ここでは省略します。
ハリギリには葉下面は密生した縮毛があり、高所に生えるケハリギリ var. magnificus も知られています。
新芽でははっきり特徴出ておらず分かりにくいかもしれませんが、枝の刺とともによく確認すれば区別できると思います。
ウコギ・コシアブラ・ハリギリ・タカノツメの利用方法は?
興味深いことに日本ではこれら4種全て春の新芽と若葉が山菜になります。同じウコギ科のタラノキも同様です。昔の人が全てウコギ科であることを知っていたとは思えませんが、何らの植物としての適正が共通していたのかもしれません。
ヒメウコギは塩茹でして若葉を細かく刻んで、炊き上がった直後の飯に混ぜた混ぜご飯の「ウコギ飯」が特に有名で、独特の香りがあります。
コシアブラは若芽は脂肪やタンパク質を多く含むことが知られています。強いコクと香りがあります。
その他、コシアブラ・ハリギリ・タカノツメについては木材としての利用も知られています。
花の構造は?
ウコギ科のここで挙げた4種はいずれも散形花序をつけます。散形花序は花軸の先に柄をもつ花が放射状につくもので、外観としては鞠状になっています。花は緑~黄色という共通点があります。
ヒメウコギは花期が5~6月。雌雄異株ですが中国から日本に渡った株は雌株とされます。短枝の葉の間から短い花柄を出して、緑白色の小さな球状の散形花序を付けます。
コシアブラは花期が8〜9月。本年枝の先端に長い柄のある散形花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つけます。花弁は5個、長さ約1.5mmの狭卵形でそり返ります。雄しべは5個。花柱は短く、浅く2裂します。萼は鐘形。小花柄は長さ4〜7mm。
ハリギリは花期が7〜8月。枝先に球形の散形花序を多数だし、小さな花をつけます。花弁は5個、楕円形で長さ約2mm。雄しべは5個、葯は赤紫色。花柱は2裂します。
タカノツメは花期が5〜6月。雌雄別株。短枝の先に散形花序をだし、小さな黄緑色の花を多数つけます。花柄は長さ2〜5cm、小花柄は長さ7〜10mm。花弁は4個。長さ約2mmの狭卵形。雄花には雄しべ4本と小さな花柱1個があります。雌花には雄しべはなく、花柱は2裂します。
果実の構造は?
果実はウコギ科の多くの種類と同じく、ここで挙げた4種も液果です。液果は少なくとも果皮の一部が多肉質または多汁質になっている果実を指します。
ヒメウコギの液果は直径6~8mmの扁平な球形、赤紫褐色から黒紫色に熟します。しかし、中国から日本に渡った株は雌株なので稀に結果するのみです。
コシアブラの液果は直径4〜5mmのやや扁平な球形で、10〜11月に黒紫色に熟します。先端には花柱が残ります。果実には種子が2個入っています。種子は扁平な半球形。
ハリギリの液果は直径4〜5mmの球形、はじめ赤褐色、のちに黒く熟します。種子は長さ3〜4mm。
タカノツメの液果は長さ5〜6mmの広楕円形で、9〜10月に黒紫色に熟します。中には種子が2〜3個入っています。種子は長さ4〜5mmの長楕円形。表面は赤褐色で、両端は短くとがります。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
茂木透・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・吉山寛・石井英美・崎尾均 ・中川重年. 2000. 樹に咲く花 離弁花2 第2版. 山と溪谷社, 東京. 719pp. ISBN: 9784635070041