「Ecological Notes」刊行の意図と本誌について(『Ecological Notes』掲載論文)

生態系

本記事では以下雑誌にて公開した「「Ecological Notes」刊行の意図と本誌について」の本文を掲載します。冊子版およびpdf版をお求めの方は以下のリンクよりご購入下さい。同定・情報の間違いなどは次号以降で修正しますのでご報告下さい。

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現在の生物の分布記録の問題

現在ブログに始まりSNSなど個人発信の時代となりましたが、中には生物について分布記録上重要であるにも関わらず、インターネット上にアップロードされ、引用出来ずに埋もれてしまうものも多くあります(林ら,2020)。また、インターネットではサーバーが無くなったり、投稿者が削除すると簡単にデータは消滅します(池田,2015)。このような事が起こる要因としては雑誌投稿の敷居の高さがあると思われます。執筆方法などの基礎知識が必要であることもありますが、過去の文献が散逸し、特にISSNやISBNが存在しない文献、更にはインターネット上ですら参照できない古い地域誌や影響評価書などのような灰色文献(池田,2015)が存在することにも起因すると思われます。また、ISSNを取得していてもインターネット上で目次の公開がないケースもあります。種の記載では、研究機関に配布されていることや、ISSNやISBNが付加されている媒体で公表されることが条件にされるなど(野田・西川,2013;青木・岡田,2017)、文献の流通性を考慮した規定作りが進んでおり、今後は分布や生態に関しても、種記載ほどの厳密性を求めると敷居が高くなりすぎる可能性はありますが、参照の利便性を高める取り組みが必要だと考えます。このように参照が難しい中、「初記録」という形での報告は語弊が生まれる可能性がありますが、生物に関する情報を過去の記録に囚われず、個人が自由に発信する事は妨げられず、県単位での目録作成を行い、地方自治体や国が率先して生物多様性政策を推し進めている現在では(上野ら,2017;環境省,2020)、むしろ出し惜しみを避け、自由な発信を促し、その内容に関して専門家が正しい情報を提供することで改善していくことが求められると私は考えています。また、例えかなり昔に既記録であったとしても、環境改変が起こり続ける中、現在も生息が確認されるかどうかは有用な情報になると考えられます。

分類群別の雑誌へ投稿し続けることの難しさと不確定情報への扱い

筆者は15年以上に渡って分類群に拘らず、幅広く生物(主に陸上動植物)の撮影を行ってきましたが、地域や分類群で専門誌が細かく別れており、その閉鎖性から(林ら,2020)、投稿するためには沢山の有償の研究会に所属するという必要がありました。また分類群によっては投稿先がないケースもあります。更に撮影記録は不確定性が含まれることや、カラーを多く含むことから全ての研究会で自由に投稿できるというわけではありませんでした。加えて、生態学が発展し、種の行動や相互作用についての研究が盛んであるにも関わらず、比較的細かい具体的な種の行動や相互作用を自由に投稿できる雑誌は分断されている現状です。この点で「ニッチェ・ライフ」誌は先見性のある取り組みをなされており、私も多く投稿させていただいていますが、刊行ペースの点から多数の投稿は難しいという点がありました。

また不確定ながらも新規性のある事例というのもあります。学名未定の種の撮影記録などは一般誌に載せることは難しいですが、研究者そのものが少なく、情報が不足している分類群では将来の記載の役に立つ可能性があります。

「Ecological Notes」への期待

これらの理由から筆者は個人で自由に発信できる媒体として、ISSNを取得し、発信を定期刊行物化することにしました。分布情報・生態学的発見などを掲載予定です。筆者は倫理的観点から採集ではなく撮影を主に行ってきましたが、各報告をどのように解釈するかは各分類群に関心のある人達に委ねようと思います。刊行ペースは不定期です。執筆に際しては注力して文献収集に努めましたが、速報性を重視しています。有用な情報ありましたら、是非ご教示いただきたく思います。民間人として行っている取り組みなので収益化はさせていただこうと思います。研究だけではなく、写真や読み物としても楽しんで頂けると思います。もし、この取り組みに共感いただけましたら、ご支援頂けると幸いです。一つ一つは細かい記録でも積み重ねることで情報が蓄積し、生態系保全に繋がることを願っています。

引用文献

青木孝之・岡田元. 2017. 第 19 回国際植物科学会議 (IBC 2017, Shenzhen) で採択された国際藻類・菌類・植物命名規約 (ICN; 深圳規約) の改正点. 日本菌学会会報 58: 59-66. ISSN: 0029-0289, https://doi.org/10.18962/jjom.jjom.H29-05

林亮太・日比野友亮・田中颯・中島淳・神保宇嗣・熊澤辰徳. 2020.『ニッチェ・ライフ』における生物多様性情報の共有の試み. ニッチェ・ライフ 7: 1-4. ISSN: 2188-0972

池田貴儀. 2015. インターネット時代の灰色文献 灰色文献の定義の変容とピサ宣言を中心に. 情報管理 58(3): 193-203. ISSN: 0021-7298, https://doi.org/10.1241/johokanri.58.193

環境省. 2020. 環境白書/循環型社会白書/生物多様性白書〈令和2年版〉気候変動時代における私たちの役割. 日経印刷, 東京. 393pp. ISBN: 9784865792140

野田泰一・西川輝昭. 2013. 国際動物命名規約の 2012 年 9 月改正. タクサ: 日本動物分類学会誌 34: 71-76. ISSN: 1342-2367, https://doi.org/10.19004/taxa.34.0_71

上野裕介・増澤直・曽根直幸. 2017. 生物多様性政策の新潮流 生物多様性地域戦略を活かした地域づくり. 日本生態学会誌 67(2): 229-237. ISSN: 0021-5007, https://doi.org/10.18960/seitai.67.2_229

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