イノコヅチ(ヒカゲイノコヅチ)とヒナタイノコヅチはいずれもヒユ科イノコヅチ属に含まれ、日本ではかなり一般的な多年草です。ヒトとの関わりの中で最も大きな特徴は果実が「引っ付き虫」であるということでしょう。林縁を歩いていると衣服引っかかって大変な目にあったことある人は多いかもしれません。この2変種はあまり植物に詳しくないと混同されているかもしれませんが、葉の形に大きな違いがあり、他にも名前の通り生える場所が異なっています。分かってしまえば、この2変種を混同することは少ないでしょう。本記事ではイノコヅチ属の分類について解説していきます。
イノコヅチとヒナタイノコヅチとは?
イノコヅチ(猪の子槌・猪子槌・牛膝) Achyranthes bidentata var. japonica は別名ヒカゲイノコヅチ(日陰猪子槌)。日本の本州、四国、九州に分布し、平地から低山地の樹林内に普通に生える多年草です(神奈川県植物誌調査会,2018)。花期は8〜9月。
ヒナタイノコヅチ(日向猪子槌) Achyranthes bidentata var. fauriei は日本の本州、四国、九州;中国に分布し、路傍、畑、土手などの日当たりの良い所に生える多年草です。花期は8〜9月。なお、最も詳しい学名と和名の対応リストである『Ylist』では上記の学名ですが、『神奈川県植物誌2018』では Achyranthes bidentata var. tomentosa が採用されています。
いずれもヒユ科イノコヅチ属に含まれ、日本ではかなり一般的な多年草です。葉が対生し、花序は穂状であることが同じヒユ科の仲間の中で区別される大きな特徴です。
ヒトとの関わりの中で最も大きな特徴は果実が「引っ付き虫」であるということでしょう。林縁を歩いていると衣服引っかかって大変な目にあったことある人は多いかもしれません。
これらの特徴はイノコヅチとヒナタイノコヅチ両方に共通しているので、区別がつかない人がいるかもしれません。
イノコヅチとヒナタイノコヅチの違いは?
まず、大前提として「イノコヅチ=ヒカゲイノコヅチ」ですので、この点は抑えておきましょう。
イノコヅチとヒナタイノコヅチの間には様々な形態や生態に違いが確認されています。
私が一番分かりやすいと思うのは葉の形です。
イノコヅチでは葉は薄く、葉縁は波うたないのに対して、ヒナタイノコヅチでは葉は厚く、葉縁は波うつという違いがあります。
これは一目瞭然で判断できると思います。
他にも、イノコヅチでは小苞葉の付属体は大きく0.6~1mmであるのに対して、ヒナタイノコヅチでは小苞葉の付属体は小さく0.3~0.5mmという違いがあります。
「小苞葉の付属体」という表現は非常に分かりにくいですが、言い換えると、「引っ付き虫」である果実の尖っている部分の根本にある白く薄く丸みを帯びた板のようなもののことを指しています。
イノコヅチでは果実の服に引っかかる尖っている部分の反対側を見ると、白い板に少し大きめに覆われていることがわかると思います。
とは言え、この部分の確認は植物を研究する上では重要ですが、一般の人は葉の形を見るだけで十分でしょう。
生態としては名前の通り、イノコヅチ(ヒカゲイノコヅチ)では日陰を好み、ヒナタイノコヅチでは日向を好む傾向があります。
この他、ヤナギイノコヅチ Achyranthes longifolia という種類もいますが、葉は披針形で、先は長く尖ります(イノコヅチとヒナタイノコヅチでは葉は楕円形または長楕円形で、先は鈍形または短く尖ります)。
ケイノコヅチ Achyranthes aspera は美大島以南の琉球に分布し、本州や九州の暖地に稀に一時帰化する種類で、葉は倒卵形または倒卵状楕円形、先は円形または鈍形、小苞基部の付属片は全長が針状の中肋に沿着し半円形です(他の種類は沿着しません)。
引用文献
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726