メナシムカデ類の奇妙に肥大化した最終歩肢の役割は?捕食者にアグレッシブに対抗する秘密兵器だった!?

動物
Cryptops japonicus

メナシムカデ類はオオムカデ目メナシムカデ科メナシムカデ属に含まれる仲間の総称です。この仲間は地中性で普通の人が見かけることは稀な種類ですが奇妙に肥大化した最終歩肢がなによりの特徴で目を惹きます。この最終歩肢の役割に関しては諸説ありましたが、最近の研究では捕食者に対して反撃する手段として用いられている可能性が高いことが示されつつあります。ただ日本のメナシムカデ属の仲間の生態の研究はほとんどないに等しいのが現状です。本記事ではメナシムカデ類の生態について解説していきます。

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メナシムカデとは?

メナシムカデ類はオオムカデ目メナシムカデ科メナシムカデ属 Cryptops に含まれる種類の総称です。

日本ではニホンメナシムカデ Cryptops japonicus、スジメナシムカデ Cryptops striatus、クロメナシムカデ Cryptops nigropictus の3種のみが知られています。これらの区別は青木(2015)に掲載されています。

この仲間はムカデの仲間としては地中性のため地上で徘徊することが少ないことから、なかなか見かけることが少なく、発見が難しく稀な種類と言えるでしょう。私のように土壌動物を日常的に調べているとたまに見かけることがあります。

日本の環境省のレッドデータブックには掲載されていませんが千葉県や埼玉県のような一部の都道府県で絶滅危惧種として扱われています。

この仲間の最大の特徴としては最終歩肢、つまり一番最後の脚が他のムカデ類に比べても特別大きく「鋸歯」と呼ばれる棘だらけになっていることが挙げられます。

「目無し百足」という名前の通り目(複眼)がないことも特徴の一つではありますが、複眼がないことはジムカデ目やアカムカデなどが含まれるオオムカデ目アカムカデ科も同じです。これらは光がない地中生活への適応と考えられるでしょう(青木,2010)。

多くのムカデ類と同様にメナシムカデ類も肉食性です。

ニホンメナシムカデ成体の全形
ニホンメナシムカデ成体の頭部
スジメナシムカデ成体の全形
スジメナシムカデ成体の頭部:第一背板に横の細溝線あり
スジメナシムカデ成体の最終歩肢:奇妙に肥大し「鋸歯」と呼ばれる棘が無数にある

メナシムカデの最終歩肢の役割は?「捕食のため」か「防御のため」か?

私はこのメナシムカデを見かけるたびに「なぜこんな脚の形になっているのだろう?」と疑問に思っていました。

日本ではムカデの研究は遅れており、更に生態の研究はもっと遅れており、日本産のメナシムカデに関する研究はほとんどありません。

しかし海外のメナシムカデ属の仲間では様々な研究が行われていますので、ここで共有します(Lewis, 2010; Kenning at al., 2017)。

メナシムカデの最終歩肢は、始めは捕食のために用いられていると考えられていました。

これは見た目からして脚の内側に鋸歯があることからがっしり掴むことができそうですし、近縁種のオオムカデ属やTheatops属、Plutonium属の仲間は強い筋肉やハサミを持っており、実際に獲物を捉えている様子も観察されています。

しかし、メナシムカデではそのような観察例が1例あるものの、最終的には最終歩肢で捕殺するには至らず逃げられてしまい、他の研究では最終歩肢を使わず頭の大顎で咥えてそのまま食べている記録ばかり残っています。

そのため最近の研究ではメナシムカデの場合、どうやらこのような用途とは異なる可能性が指摘されています。

それは防御のためです。具体的には捕食者に攻撃されたときに反射的に最終歩肢で掴みかかり、更に最終歩肢の内側の鋸歯が摩擦抵抗となって捕食者の体につくようになっているという考えです。

この様子は1例ですが直接観察されており、オオムカデ属の一種に襲われたメナシムカデ属の一種が最終歩肢で反撃し、オオムカデ属の一種の体に脚が残っている様子が観察されてます。

またメナシムカデ属の仲間は標本にするとその衝撃で最終歩肢が外れやすく、外れた歩肢は強く屈曲します。私も実際に最終歩肢のない日本産のメナシムカデの標本を見たことがあります。この事実ももしメナシムカデ属の仲間が捕食用で使用するなら歩肢が簡単に外れてしまっては困るはずなので、防御目的で発達したことを裏付ける根拠となるでしょう。

しかし、具体的にどのような種類の捕食者に対抗するためにこのような最終歩肢が有利なのかというのは今後の研究課題と言えます。

最終歩肢の役割は他にもあった!?

しかし、最終歩肢の内側の鋸歯についてはまだ謎が残されています。

ニュージーランド産のメナシムカデ属の仲間 C. polyodontusC. lamprethus の大型のオスでは、鋸歯は2~4列に並んでいる一方、メスの鋸歯は1列のみで、オスよりも大きいことが分かっています。

この事実は最終歩肢の内側の鋸歯に性的二型があることを示しており、性的二型は通常、性選択(性淘汰)という進化の過程を経て生まれるものです。そのためオスとメスでは何らかの理由でこの鋸歯の用途が異なっていることを示唆しています。

ただ、その具体的な用途の違いはまだよく分かっていません。ある研究者は種の識別の雌雄の識別に利用している可能性を指摘しています。まだメナシムカデ属の交尾行動は観察されていませんが、他のムカデ類の一部では、求愛儀式として触角で異性の最終歩肢を互いに叩いたり撫でたりする「タッピング」を行っており、メナシムカデ類もこれを行っている場合、パートナーの鋸歯の分布に関する情報を収集する方法となるでしょう。

日本産のメナシムカデ類では同様の事例は今のところ確認されていませんが、最終歩肢は進化の過程で攻撃→防衛→交配と様々に変化していくものなのかもしれません。

引用文献

青木淳一. 2010. 土壌動物学 分類・生態・環境との関係を中心に. 北隆館, 東京. 797pp. ISBN: 9784832608375

青木淳一. 2015. 日本産土壌動物 分類のための図解検索 第2版. 東海大学出版部, 秦野. 1969pp. ISBN: 9784486019459

Lewis, J. 2010. On the function of the ultimate legs of Cryptops and Theatops (Chilopoda, Scolopendromorpha). International Journal of Myriapodology 3(2): 145-151. https://doi.org/10.1163/187525410X12578602960542, https://brill.com/view/journals/ijm/3/2/article-p145.xml

Kenning, M., Müller, C. H., & Sombke, A. 2017. The ultimate legs of Chilopoda (Myriapoda): a review on their morphological disparity and functional variability. PeerJ 5: e4023. https://doi.org/10.7717/peerj.4023

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