ヤマブキとシロヤマブキはいずれもバラ科バラ亜科に含まれ、自生することに加えて観賞用に栽培されているのをあちこちで見かけ、春の訪れを感じさせる樹木です。しかし、シロヤマブキのことを単に「ヤマブキの花弁が白いもの」というように勘違いしている人はいるかもしれません。ヤマブキとシロヤマブキは分類では属レベルで異なっており、その違いは花弁の数や葉の形や付き方などで確認することができるでしょう。フキやキンシバイとは全く異なる仲間です。本記事ではヤマブキ属とシロヤマブキ属の分類・形態について解説していきます。
ヤマブキ・シロヤマブキとは?
ヤマブキ(山吹) Kerria japonica は日本の北海道・本州・四国・九州;中国に分布し、落葉広葉樹林内や林縁などの湿ったところに生える落葉低木です。園芸では観賞用に普通に栽培されています(神奈川県植物誌調査会,2018)。
シロヤマブキ(白山吹) Rhodotypos scandens は日本の中国地方(岡山県・広島県・島根県)・福井県・香川県など局所的に分布し、丘陵~山地の岩場や林縁に生える落葉低木です。野生個体群は『環境省レッドリスト2020』で絶滅危惧IB類(EN)とされ各都道府県ごとのレッドリストにも掲載される希少種ですが、園芸では観賞用に普通に栽培されています。
いずれもバラ科バラ亜科に含まれ、自生もしていますがそれよりも都市部で観賞用に栽培されているのをあちこちで見かけることが多いかもしれません。花期である春の4〜5月になるとあちこちで大きな花弁を持った花が咲いています。「山吹色」という名前の由来にもなっており、赤みを帯びた黄色を表す伝統色として平安時代から使われてきました。
名前は勿論として、葉縁に重鋸歯を持っている点もよく似ています。
「シロヤマブキ」という和名のせいで単にヤマブキの花が白いだけだと勘違いしてしまう人もいるかもしれません。
ヤマブキとシロヤマブキの違いは?
しかし、ヤマブキとシロヤマブキは全くの別種です(Wu et al., 2007; 林,2019)。これはヤマブキがヤマブキ属に含まれ、シロヤマブキがシロヤマブキ属に含まれることからも分かります。
勿論、花の色に違いがあり、ヤマブキでは花弁が黄色であるのに対して、シロヤマブキでは白色であるということになりますが、ヤマブキには稀ですがシロバナヤマブキ Kerria japonica f. albescens という品種も知られています。
そのためこれだけでは区別がつかない場合があります。
ただその場合でもヤマブキでは花弁が5枚であるのに対して、シロヤマブキでは4枚であるという明確な違いがあります。
また更に決定的な違いは葉に現れています。
ヤマブキでは葉表面にシワは多少はあるものの少なめで葉下面には葉脈沿いに毛があるだけなのに対して、シロヤマブキでは葉表面にシワが明らかに多く葉下面には白い毛が多数生えているという違いがあります。
また、ヤマブキでは葉は互生するのに対して、シロヤマブキは対生するという違いもあります。シロヤマブキのように対生するバラ科の樹木は珍しいです。
以上で区別できるでしょう。
ヤマブキの品種は?
ヤマブキには上記のシロバナヤマブキのほか、花が八重咲きのヤエヤマブキ f. plena や、花弁の幅が狭く6~8枚のキクザキヤマブキ f. stellata が知られています。
ヤマブキとフキの違いは?
ヤマブキとフキ(蕗) Petasites japonicus の違いが気になる人もいるかもしれません。ヤマブキの中には「フキ」という別の植物の名前が入っているからです。
しかし、そもそもヤマブキという名前はフキに由来していません。
ヤマブキという和名は山に生えることと枝が少しの風でも揺れることから「山振り」と呼ばれ、これが転訛したという説が有力なようです。
一方、フキの和名の由来には定説がありません。ここではどれも確証がないので省略します。
植物としてもフキはキク科で大型で腎形の葉を持つ点、花は頭花を形成する点、果実は冠毛を持つ点などどれをとっても全く異なります。
ヤマブキとキンシバイの違いは?
ヤマブキとキンシバイ(金糸梅) Hypericum patulum の違いが気になる人もいるかもしれません。
しかし、キンシバイは花は全体としてお椀型になり、葉には鋸歯がなく全縁である点がヤマブキと異なります。
もしかしたらそもそもとしてタイリンキンシバイ(ヒペリカム・ヒドコート)を「キンシバイ」と勘違いしている人も多そうです。普通町中で見かけるのはタイリンキンシバイの方です。タイリンキンシバイとキンシバイの違いは別記事を御覧ください。
引用文献
林将之. 2019. 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類. 山と溪谷社, 東京. 824pp. ISBN: 9784635070447
神奈川県植物誌調査会. 2018. 神奈川県植物誌2018 電子版. 神奈川県植物誌調査会, 小田原. 1803pp. ISBN: 9784991053726
Wu, Z. Y., Raven, P. H. & Hong, D. Y. 2007. Flora of China. Vol. 13 (Clusiaceae through Araliaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis. ISBN: 9781930723597